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汽車の

 
  (画像はイメージ・無関係)
 

夕暮れの駅のホーム。
絵師でも描けない刹那き風景だと想いました。
 
人もまばらな寂しきホームに佇めば。
ふたりが握りあう手と手。冷たさな粘る汗ばかりでした。
 
 
屠所に向かうかとな列車が静かにレール軋ませ。
ホームに停まりました。
 
連なった車両の扉がいっせいに音たて開けば。
握りあう手の最後の一握り。
 
 
俯くあなたが離れゝば。
想わずに空(クウ)をつかみかける我の指の間には。
夕焼けからの涼しき風が纏います。

あなたが俯きながら離れ。細き背を見せ乗り込む後姿。

胸の心の中でも頭の意識の中でも。
圧倒する溢るゝもの。確かに溢るゝもの。
 
我の。忸怩たる想いっ切りのなさ。責めてきました。
 

薄暗さな列車の窓辺に手を置けば。あなたが涙濡れした頬載せる。
卑怯なボクの眼を。あなたの哀しみな瞳は覗き込むようにしていました。

ふたりの軌跡を残したいのだろう、最後にあなたは。
ボクの手の甲に爪を立てる。
 

(今の時代について往けずに想い出に耽れば。
 いつまでも忘れがたくにも。我の脳裏に鮮明に浮かぶは。
 あの時のあなたの目。白さなトコロが鮮明にとでした。
 更ける夜に暗き天井見つめ。眠れぬときにも鮮明に。
 ナニかをしていても知らずに想うて。鮮明に。)
 

観れば膚に小さき赤い球が湧き生まれ。
血の一筋があなたの手のひらに堕ちました。

あなたの爪先。限りにと膚に減り込む痛み堪へれば。
心の片隅にて。アヤフヤなるものにて。
溺れそぉなボクを迷いし幻惑させました。
 

我の手の甲。温かき唇にて優しく吸はれました。
血の筋には。紅い舌先が這いました。

夕陽とおなじ口紅の赤が。薄暗さな中でも。赤が。
ボクの手の甲を染めました。
 
 
善きひとを裏切る。互いに快楽ぉ求めあいし逢瀬は。
寸の安らぎもなきだから。高まる胸の時めきが悪さなと。
悪事かと問い詰める。

キツク。キツク。
 
 
確かにと想う背徳感を意識し。無限にと追い求め願いしは。
他ノ者で求めやれぬ隠微なる性にと堕ちましょぅ。
 
深くと嵌る出来事だからと。
 
 
別れの間際まで。あなたの気持ちが判るから。
ボクはモット っと望んでいました。

だけどベルが鳴る。ふたりぉ早く引き裂けと。
 
 
列車が。もぉぅ。先はないと想い知らせるように。
じれったいほど。ユックリとホームを離れゝば。それだけなんでしょうか。
いつまでもとなくも。早くお忘れするんでしょうか。
 
嘘で糊塗しつゝ続いた勘違いはお間違いだったと。
何処かにと。探すことへの忘却のお終い。
 

ボクが動く列車と添い走れば。あなたは窓辺より身ぉのりだし手を伸ばす。
掴もうかと我がのばす指の先。微かに触れました。
 

情けなくもいつまでも。想い切れない最後の触れ合いでした。
 

我は。老境にさしかゝりし今。
閉じる瞼の裏にて観へるのは。哀しみ塗れな涙顔。
 
 
 
いつまでも いつまでも
 
 

   
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