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書庫夜の終わりの物語

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夜の終わりの物語

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オレンジ 4 
 
 
映画 【2001年宇宙の旅】は、未来に宇宙旅行にでかけたならば、
タブン、宇宙ってこんな感じかなぁ。ット、頭の中で想い描く以上の、
現実感に満ち溢れた物凄く面白い、トッテモ巧く出来た映画でした。
此の映画を観た後では、その後に制作された空想科学未来的宇宙物映画は、
ヨッポドお気張って製作しなければ、襤褸の滓みたいなタダノ俗物映画になっていた。
 
ッデ、此の晩に、イチコロ女とイッショニ観ました【時計仕掛けのオレンジ】は、
 
【2001年宇宙の旅】よりもですよ、コッチの映画の方が自分にはですね
ワテの軟弱なお頭(オツム:オカシラ:思考能力:適応性:当時は今以上にヨッパライのオツムやった)じゃぁ、
映画の物語の内容に、マッタクついて行かれないほどの、素的な快楽的大衝撃ぉ受けました。
 
其れはですね、ドンヨリト澱み濁った沼底の、汚泥みたいにフヤケタ、ワイのショボイ脳味噌が、
今までのSF映画とはマッタク違った、滅法面白い素的な内容に完全に遣られてしまい、
滅多と大興奮して一気に干上がり、矢鱈とカラカラに為って、キッチリ燃焼状態やねんッ!
 
まぁ要するに、脳味噌、全部丸焦げしそうなほどの衝撃を喰らいました。
 
 
 
 
【あの晩の出来事】
 
 
「ぁんなぁ、お話しぃ判らんとぉ 」
 
ッテ、肩を寄せてきて、ワイの耳元に口を近づけて囁いてきました。
ッデ、其れで自分、割り箸を手に持ったまま、ズゥ〜ット、スクリーンを眺め続けていたのに気づいた。
 
「ぁッ、ぅん、そやな、ぉいもアンマシ判らんと。 それッ 」
 
っと指に挟んだ割り箸の先で、隣に座ってる女の胸元辺りを指しました。
営業用個人誂夜会服(ドレス)前身ごろの胸元辺り、鳩尾したまで大きく切れ下がっていました。
其処から覗く胸の谷間の前で、両手に大事に包むようにしていた物を、ワイに手渡そうとしたので、
 
「蓋ぁ開けてくれ 」
 
「ゥン 」
 
ット、周りの映画を観ている客に遠慮したような囁き返事。
ワイの肩に載せてた頭をお越すと、ポケット瓶のネジ蓋を開ける音がした。
 
「アイタァとぉ 」
 
自分、女が腕を叩いてきても、ポケット瓶を受け取りませんでした。
 
此の時スクリーンの中では、虹色みたいな綺麗な色をした、
先が丸くなって真ん中でグニャリっと曲がった氷菓子(アイスキャンデー)を手に持った若い女が、
賑やかしいカーニバル遊園地の中で歩きながら嘗めている場面に見とれていた。
自分、女がポケット瓶を渡そうと差し出してるのに気づきもしなかった。
『なんやぁァレ、ケッコウ卑猥な形のキャンデェやなぁ 』 ット、心想いしていました。
 
「ぁいたとぉ、なぁ 」 ッテ女の肘で突かれて、
「ぁッ!おぉきになぁ 」 ット生返事。前を観たまま女に手を差し出した。
 
女は、差し出したワイの掌にポケット瓶、ワイの指を曲げて握らせてくれた。
ポケット瓶のウイスキーを、お茶代わりに口に含んだら、女の掌の温もりがする。
優しげなヌルイ暖かさがして、ウイスキーが咽喉を通るとき自分、段々とサッキよりも、
自分は気分良く、ヨッパラッテきているのだと、判りだしました。
 
「美味しかと?」
「上手に作っとるけん美味かとばい 」
「チガウと、お酒ぇ 」 
 
「 ゥン」
 
ッデ、直ぐに幸せは、長続きはせんもんやねん。ッテ、思い知らされました。
今当時の事を偲べば、あの晩あの映画館で、肩を寄せてくる女と隣り合って並んで座り、
仲良く映画をみた出来事が、あの女と一番幸せな気分に囚われていた時やった。
 
映画の上映が終わり、多勢の人さんらと混じって映画館の外、夜の表へと。
朝近い外気は冷たくて肌寒く、未だ明けやらぬ薄暗さで見上げる空には、雨雲が低く垂れ込めてた。
 
「そげん薄着ばしとっと、寒かなかと?」
「よかとぉ着るけん 」
 
袋から裾の長い毛糸の上着を取り出し、肩肌掛けの上から羽織る。
 
「持っとたんなら、着とったらよかとばい 」
「よかとぉぅ・・・・ 」
「ナンや、どげんしたと?」
「ぅちぉ視とって欲しかったけん 」
「そぉかぁ 」
 
 
「ウチまで送るけん、何処ね?」
「○○町の○○喫茶店の近くぅ 」
「近かばい、送るけん乗らんとね 」
 
自分の自転車は、当時流行ったミニチャリ。後ろに人を乗せて走ると、ケッコウ安定せずにハンドル振られます。
オマケに自分、映画を観ながらウイスキー、チビチビ嘗めて歩けないほどではなかったけど、ヨッパラッテました。
チャリの後ろで女が横座りしてたし、もぉぅ蛇行運転しながらやった。
チャリが大きく振られると嬌声を発し、落とされまいとワイの腹辺りに腕を回し、
必死でしがみついてきた。
 
「落ちんようにしとけよ 」
「ぅん、大丈夫ぅ 」
「寒かとやろ?」
 
ッテ問いかけには、返事してきませんでした。
片腕でしがみ付いていたのが、チャリのよろけ方が酷くなったら、両腕で後ろから抱き付いてきた。
 
「そげんしたら腹がきつかけん、緩めんね 」
 
腕の力がさっきよりも、モット強くなった。女の躯の温もりが背中全体に広がった。
 
「ナンや、どげんしたとね?」
「ナンもせんとよ 」
「力ば抜かんかッ!苦しかけんッ!」
 
返事の代わりに、鼻をススル音がして片腕が離れた。
 
「上着ぃ汚したとぉ、ゴメンナサイぃ 」
 
ッデ、再びの両腕抱きつきやった、其れもサッキ以上の力がこもっていました。
後から上着を脱いで背中側を見たら、チョウド女の顔が当たっていた辺りが濡れ模様に為っていました。
自分、女の抱きつき方ぁ、なんだかなぁ・・・・ット。。
 
 
女ぁ、住居近くに着いて、チャリを降りるまで何も言いませんでした。
自分、ナニを喋っていいかも判らずに、タダ黙ってチャリのペダルを漕いでいました。
女、到着してチャリを降りるとき、コッチを見ようともしなかった。
 
「ホナ、またな 」
 
ット、自分、なにか判らんかったけど、心に不安が募り始めてましたけど言いました。
女は顔を俯かせたままで、「ありがとぉぅ 」ッテ、聴こえるかどうかの小声やった。
 
其の時、夜明け近くの茜色が、俯いた女の横顔を覗かせました。
頬が濡れていて、茜色を反射していました。
自分、突然、なんとも言えへん物が胸の中で暴れ始めてる感覚が致しました。
 
「あんなッ! 」
「なにッ!」 背中見せて歩き始めた女、急に振り向いて。
 
今夜二度目の、あの突き刺すような視線でコッチを視てきます。
自分、イチヅな瞳の中で光る、茜色に気圧されてしまいます。
昂りかけた気持ちが参り、代わりに心細さが生まれます。
 
「ぁッぅん、なんもないんや、今夜はゴッツゥ楽しかったさかいな、また礼させてんかぁ 」
「えぇよぉ、ウチもおんなじやさかいにぃ 」
 
ふたりぃ、播州弁が自然に出ました。
此の時ぃ、ふたりの夢が済んで、終わりましたんやろなぁ。
 
 
未だ開店していない喫茶店の横、路地裏に抜ける薄暗い細道を、
肩を窄ませて歩いてゆく女の後姿が、奥のパートの陰に隠れるまで待って、チャリを漕ぎ出した。
 
自分の住処に辿り着くまでの間、チャリをユックリト漕ぎ色々な事を考えました。
普段いい加減なことしか遣ってなかったので、あんなにイッパイ物事を考えたこと、
今まで無かったので、襤褸アパートに着く頃には頭の芯が痺れ、思考が麻痺してた。
万年床に潜り込んでも、なにやら覚醒したような悶々状態。
眠気なんかサッパリ感じないで、気分が如何にも落ちつかなかったのを覚えています。
 
ケッキョク、マッタク寝付かれないので、何かの折にと秘蔵していた某地方の銘酒を、
睡眠薬代わりにと、冷(ヒヤ)で浴びるほど呑みました。
 
 
「ぁんた、どないしましたんや?」化粧ッケがマッタクない能面顔のママが。
「どないって?」自分。
 
一升瓶六本用の木枠に座り、出前の中華ソバを啜るのを止め、
顔を下から覗き込むママに問い返した。
 
「目の周り、真っ黒ッ!」
 
傍らのステンレス磨き仕上げの鏡面みたいな、
業務用冷蔵庫の扉に映る自分の顔を覗いた。
 
「ママ、大袈裟でっせ 」
「ほぉかぁ、そないな立派な隈観るん、滅多とないわぁ!」
「ママ、日曜やのにドナイしましたんや?」
「ぁんた、ナンデまた、日曜出勤してますんや?コナイな早ぁにぃ 」
 
早いと言っても午後の二時半くらいです。
まぁ、水商売じゃぁ早起きのうちですけどな。
 
「明日(月曜日)の貸しきり宴会の予約の仕込みぃしてますんやでママ、ボケはったんでっか 」
「ぁッ!そぉやったなぁ、慌てッテたさかいチョット忘れしてましたわ 」
「慌ててハッタって、なんですねん?」
「ぅん、チョットなぁ 」
「ママ、ナニ?」
「まッえっかぁ、どぉせ分かることやしな 」
 
だけど、ママ、暫くなんにも喋りませんでした。
自分、冷めかけてる中華ソバを啜りなおします。
 
「あんなぁ、ぁんたなぁ刃傷沙汰やねん 」
「ニンジョォ?ッテ、どっかで切り遭いでっかッ?」
「○○ちゃん、刺されたんやで 」
「ぇッ!なんでッ?」
「サッキやっと播磨署(仮名)から帰してもろうたんやけどな、刑事ハンが心中沙汰やって言いますネン 」
「シッ心中ぅってママっ!あの娘(コ)ぉ独りもんとチャイマすんか!」
「チャイますねん、男がおったそうやねん 」
「男が居ったぁ?」
「同棲してたそぉやで 」
「ナンデ刺されなアカンかったんやろ?」
 
「○○ちゃんが今朝なぁ、朝帰りしたさかいに男ぉが頭に血ぃ昇らせ刺しよったそうやぁ 」
 
突然自分、躯全部から力が抜け堕ちました。持ってた丼、厨房の濡れた土間タイルの上で砕けました。
 
「どないしたんやッ!あんたッ! 」
「ドッどないもしませんがな 」
「真っ青やで顔ッ!」
「ママ、どないなってますねん?」
「なッなにが?」
「○○ちゃんやッ!」
 
「刺し所が悪ぅてなぁアンタ、心臓一突きぃやったそうやで 」
 
眼の前が真っ暗になるってあの時、初めて知りました。
 
 
後でママぁとふたりで、更衣室の○○ちゃん専用のロッカー整理しました。
ロッカーの中には、あの時に手に提げていたのと同じ、神戸の百貨店の名前が印刷された、
紙のショッピング袋が、上の段の棚に載っていました。
 
袋の中の私物の中から、四つに丁寧に折り畳まれた○○ちゃんの実名で署名捺印され、
其れ以外は、なにも書き込みが無い空欄だらけな、古い婚姻届が出てきた。
 
「ママ、コンナン出てきよったわ 」
 
ママは暫く俯いて、ジッと婚姻届を見つめてから顔を上げ、ワイに何かを言いかけたら、
化粧ッケのない白っぽい唇が歪んで、前歯で下唇を噛み嗚咽泣きし出しました。
自分、其れまでナントカ堪えて、我慢していたけど想わずな、誘われ泣きしました。
 
 
 
 
 
 終わり(完結)
 
      

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繁華な飲み屋街の真ん中を、東西に走る魚町通りから南に三筋目が、十二陣屋前町通り。

あの頃の十二陣屋前通りは、片側一車線の対面交通で道往く車両の数も少なかった。
自動車の台数が増えた現在は、交通渋滞の解消の為にと随分前から国道二号線の、
東西に分けた一方通行化が実施され、十二陣屋前通りは西往きの一方通行に為ってしまた。
道路は三車線にと整備し直され、以前とは比べようがないくら通行量は増えています。

あの頃、深夜の十二陣屋前通りの交通量はそんなに多くはなかった。
近くの魚町や、塩町辺りの繁華街の電飾(ネオン)の灯りが消える頃になると、
通りで客待ちして並んでいた深夜勤めのタクシーが、飲み屋街から家路に着く飲み客や、
水商売で働く者らを乗せ、蜘蛛の仔を散らすように通りを走り去る時間帯が過ぎると、
行き交う車の数が随分と疎らになり暗さも手伝って、夜の街の雰囲気、
昼間の賑わう街の感じとはマッタク違うものに為っていた。

店がハネ(オワリ)、帰りに独りでチャリに乗り、通りを進んで行くと、
あまりにの人ケのなさで、特に寒さが募る冬場などは、
今から独り住居の襤褸アパートに帰るのだと想うと、
なんだかなぁット、酷く心寂しい堕ちこんだ気分に為っていました。



深夜に無灯火のチャリで、目差す映画館に向かって十二陣屋前通りの北側舗道を走り、
ソロソロ映画館が近づいてくるなと想い、次の交差点の赤信号が点滅しているのを無視し、
チャリのハンドルを南にと向け横断歩道を渡った。
横断歩道の真ん中辺りで停まり西側を見ると、暗さで隠れるズット向こう側まで道路が続いてた。
首を巡らし東の方を観た。同じ様に幾つもの交差点が道路の先まで続いていた。
暗闇で観えない遠くの交差点の赤信号が点滅しながら輝くのが観え、
其処から自分の渡ってる交差点の赤信号の点滅まで、光の点滅が連なっていました。

チャリに跨って暫く観ていると、赤の点滅が、何か得たいの知れない物の怪の、
数珠繋ぎになった赤い眼が瞬き閃いているように見えてきた。
遠くの交差点に突然、鋭いヘッドライトの灯りが現れ、
赤の点滅信号灯に沿ってこちらに向かって走ってくる。

早朝配達の朝刊紙を、各地の配達所に運ぶ深夜便の貨物トラック。

ライトが近づくに従って、ジーゼルエンジンの唸り音が高くなり、
ミッションギアを無理やり変換するときに鳴る、金属の歯車が噛み合う、
厭な音も混ざって近づいてきていた。
トラック、急に速度を上げ、警笛叩きつけるような連打で発しチャリの直ぐ後ろを、
警笛音を長く引きずりながら爆走して走り去っていった。

自分、トラックが通過するときの、圧迫された巻き揚げるような風で、チャリごと倒れそうになる。

「ッチ!よぉぅブツケさらさんのやったら、煩そぉに鳴らすな、ダボがッ!」

ット、自分、立ち漕ぎしてチャリを乗り出しながら、毒ヅイタ。


道路脇の灯りが消えた真っ黒なビルの群、夜更けて眺めると、タダノ黒壁の連なりに為ってた。
チャリを漕ぎながら、近くのビルを仰ぎ見ると、黒壁がイッセイニ自分に向かって倒れくると錯覚し。
怯えさせる暗さナ物が、多勢で覆い被さって来るような感覚に囚われる。
街並みは薄暗い街灯だけで、暗さが其処ら中に充満していた。
朝までには未だ遠い、夜の肌寒さが身に染みる黒色な世界だった。

暗闇への怖さが、少しづつ芽生え始めた自分の心が、嫌になりかけていた。




晩い此の時間。

ヤット目差してた映画館に辿り着くと、上映中映画の、場面切り取り絵看板を照らすスポットライトと、
入場券売り場の上方で派手に点滅輝きする、電飾蛍光看板(ネオン)の光で其処だけが、
周囲が暗闇の中では明る過ぎるし眩しくて、なんだか周りの暗闇が逃げ去ってしまった様だった。

辺りが靄みたいな白く輝く空気に包まれ、浮き上がっているようやった。

ッデ、其処の人気のない映画館の前に、居(オ)った。


左腕を下に伸ばし、地元の店やない、神戸辺りの百貨店の名前が、
崩した太いロウマ字で描かれた、洒落た紙のショッピング袋ぉ、手に提げてた。

「ナニしとるんやッ?」
「待っとたとぉ 」
「誰ぉや?」
「誰ぇッテ・・・・」

返事せんで黙り込んで俯きました。

返事を待ってナントナク女を眺めると、薄いショールみたいな上掛けを両肩肌に纏わせていた。

胸の前で交差した、肩掛けショールを合わせ掴みしていた細ッコイ右手首、
頭上から降り注ぐ派手に瞬く蛍光管の光を、虹色輝き反射させるスパンコール散りばめたハンドバックの、
金糸を編みこんだ手提げ紐に通しその白い指の先、ホンマはエナメル塗って赤い色した爪なんやろぅけど、
派手に変色しながら瞬き輝く蛍光管の光を浴び、橙色に見えたりしてる。

「ぁんなぁ・・・・ 」

上げた顔、酷く想い詰めたような面相やった。

「ぁかんッ!ワイ臭いねん近寄らんといてくれ!」
「ぇッ!ナニィ?クックサイってぇ・・・・!ッ 」
「コンでえぇ、来るなッゆうとるやろッ!」

自分、如何にもなぁ・・・・っと、ツクヅクやった。


必死で見上げるように大きく見開かれた、長い睫毛の上目蓋。
コッチの想いなど考えず遠慮なく突き刺してくる視線。
何かを訴えてくるみたいな瞳は、ネオン反射させて煌いていたけど、
見開かれて剥き出しに為った眼球を覆うように、忽ち綺麗な水が溢れてきた。
紅い唇が少しへの字に為って一文字に結ばれると、目尻が見る見るうちに涙濡れ、

雫がッ!刹那で顔中を歪ませ背中を向けたッ!
ピンヒールの踵、夜の舗道に甲高く響かせるように打ち鳴らし、暗い向こう側目差すように走りだした。

自分、チャリを其の場に音発てて押し倒し追いかけた。

「待ちんか、ナニ走るやッ!」
「アンタなんか好かんッ!ウチぃもぅヨカとおぉ、どげんでんよかッ! 」

自分、急に走るのを止めました、懐かしさで胸が息苦しかったから。
直ぐに気を取り直し、駆け出し追いかけました。

走りながら、「ナッ長崎たいッ!」 逃げる背中にブッツケた。

音が消えました。ヒールの踵が硬い舗道を蹴る甲高い音。

自分、急に逃げる背中が立ち止まったので、慌てて前のめりに為りながらも止まった。
眼の前の背中が丸まって舗道にしゃがみ込み、ショッピング袋を投げ出して蹲った。
途端になんとも言えへんもんが、夜の中で聴こえてきました。
こないにぃ繊細なものかとな、細く尾を引く、か弱そうな啼き声やった。
啼き声はしだいに深く呻くような風に為り、其れがなんだか夜の重たい凄みの様だと。
あの時の自分の心では、そぉぅ感じられました。

あの女ぁ、必死で堪え泣きしてましたんやろなぁ。

丸まって震える背中を見下ろす自分の心、訳も判らずに突然襲ってきた罪悪感に、
此れでもかと蝕まれた途端ッ! 痛み以上の痛さ無い激痛に遣られてしまいます。


「なぁ・・・・泣くなや、済まんけどなイッショニ映画ぁ観ぃひんかぁ?」


周りの暗さナ静かさが、あないに堪えたのは自分、初めてやた。


女の目の周りの化粧が乱れ、頬肌の濡れた跡、時おり通る深夜タクシーのヘッドライトに照らされていました。
自分、そんな女の姿を見るのも初めてでした、何時もは倶楽部で玄人女の顔しか視てなかった。
アンガイ、幼い童女のような顔していた。横顔背け、シキリトハンカチで顔を拭きながら訊いてくる。

「ナンバ観るとぉ?」
「洋画やねん 」
「ナンでもよかとよぉ 」

自分、踵を返すようにして映画館の方角に歩き始めました。
背中にぃ、話しかけてきます。

「ぅちな、佐世保産まれとぉ 」
「そぉか、ぉいわ佐世保の沖の島たい 」
「ナンデ此処におると?」
「そげんこと、どげんでんよかと 」

耳を、背中の向こうに向かってソバダテテた。
ピンヒールの音が、何処か遠くへ逝ってしまわへんかと想ったから。

「なぁ、上着ぃ脱ぐとぉ 」
「なんでや?」
「よかけん脱いで 」

女、紙のショッピング袋に手ぇ突っ込んで、何かを弄りながら言いよった。
ナニがかと、判らなかったけど、サッキの後だったので言う事を聞いてやった。

「裏返して持っとットぉ 」

映画館の蛍光電飾の瞬きに、小さな硝子の小瓶が照らされた。
中の琥珀色の液体が揺れる。
自分が広げた上着の内側に、真面目腐った顔して丁寧に噴霧する。

「なんやねんそれ?」
「よか匂いがする香水 」

厭な汚水の臭い、えぇ匂いのコロンを噴霧して、なんとか隠そうとしてくれていた。
眼の前の女が、ストンって感じでしゃがみ、ズボンの前にも噴霧しだす。

「駄目とぉ、無くなったぁ 」
「よか、チョットその瓶の蓋ば開けんか 」
「なんばすとぉ 」

ズボンの後ろポケットから、ウイスキーの小瓶を取り出し、ネジ蓋の封を切った。

「貸さんか 」

女の掌の小瓶ぉ、指先で挟んで摘むとき手肌に指が触れ、チョット心がぁ!
臭い、完全に無くなった訳やなかったけど、随分とましに為りました。

「ウイスキーコロンたいね 」
「美味しか匂いすっとぉ 」

女が、自分の口の中にも吹き付けると、コッチに瓶を向けてきた。

「ぁ〜んせね 」

恥ずかしかったけど、言いなりになりました。
夜の暗さに助けられました、真ッ昼間やったら絶対に出来ないことやった。
口の中以外にも、口の周りの肌に霧が纏わりつく感じがした。
厭な臭いはしなくなり、自分の胸の中には、
酒精噴霧以外の何かに酔った気持ち良さがしてきていた。

空きっ腹。

突然な感じで、腹の中が空っぽの感覚が蘇ってきた。

「飯ぃ食うたんかぁ?」
「よかぁ、食べとぉなかとぉ 」
「なんやそぉか、腹減ったなぁ 」
「ぅん、チョットまつとよ 」

ッテ、再び紙ショッピング袋の中を弄りだし、直ぐに取り出した。

「コレ、食べてくれんねぇ 」
「なんやねん?」

「ぁんなぁ、アンタがよおぅ映画観るって聞いとったけん、オールナイトやったらお腹が空く想うたと 」

「ナンデ今夜観るちゅうて判ったんや?」
「判らんと、じゃけんいっつも持ってきとったとよ 」
「毎週土曜日にか?」
「いけんとぉ?」
「ァカンことないがな 」
「そんなら、映画ぁ観ながら食べてください 」


男はね、ケッコウ、こないな女の遣り口には、コロって参りますネン。
おボコイわいなんか、イチコロでっせ。




オレンジ・3

(仮) 水スマシ

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土曜の夜の深夜零時過ぎに、珍しく客足が途絶えた。

艶消し朱色で漆塗りした重たい入り口扉、吊り下げた小さな金鈴が鳴り開いた。
外の様子を表に窺いにいってたマネージャが、赤煉瓦外壁と扉の横に吊り下げてた、
【十八才未満の方入店お断り】の小さな白木の札差と無垢の真鍮製
【営業中】の札を持って戻ってきた。

「ボン、換えとけッ!」
「ハイ 」

こちらを見向きもしないで投げられ、放物線を描いて飛んできた二つの札を掴み、
直ぐにカウンター奥の天板跳ね上げ、踝まで埋まるかとな赤絨毯フロアーに出ようとしたら、
壁に銀盆(シルバー)用にと誂えた棚に腰が当たり、棚に重なり収まった銀盆、
派手な音を発てる。

「チッ!」 誰かが舌打ち。

聴こえぬフリで直ぐに入り口横のクロークカウンターに入り、
表の看板や階段灯の電源を切る。

【準備中】の札を掴んで左肩で扉を押し、店の外に飛び出した。
朱塗り扉額縁の上辺り、階段上から降り注ぐ表からの薄明かりでも、
ピカピカに輝く真鍮製の鈎に、コレも真鍮製で鈍く輝く地金の上に、
黒の燻し文字で【準備中】と書かれた札を吊り下げる。

薄暗い階段、足元を視ずに面を上げ、地下入り口を視ながら駆け上がった。
舗道の電飾置き看板の電線を手繰って、
ビルの基礎を取り囲む植え込みの中に手を突っ込む。
弄って、基礎埋め込みのコンセントから、差込コンセントを抜くと置き看板の灯りが消えた。
両手で看板持ち上げ、慣れた足取りで階段を駆け降りる。

扉前の踊り場に看板を置き、扉を開けようとしたら内側に開いた。
店内の明かりを背に妓の姐さんたち、営業衣装の夜会服(ドレス)の、
剥き出しの肩肌に、其々の通勤用の私服上着を肩肌に引っ掛けた、
帰り支度で出てくる。

「ボン、お疲れッぇ!」
「ボンやん、ワルサせんとはよ帰るんやで 」
「ボン、えぇコトしぃやぁ 」
「ボン・・・・・ 」

イチイチお疲れさん、おぉきにッ!せえヘンがな、なんヤネン?っと、応じる。

「映画ぁ行くんかぁ?」
「ぇッ? 」
「早仕舞いやさかい観ぃに(オールナイト)ゆくんかぁ? 」
「チョット通してんかぁ、アンタら 」

「ぁ、ゴメンなさいッ!」
「スンマセンッ!」

「アンタら、コナイナ狭いトコ(入り口付近)で示し合わさんときんかぁ 」
「ぁ、イヤッ〇〇さんチャィますわぁ、もぉぅ! 」
「ァホッ! アンタぁこの娘(コ)ぉに恥ぃかかさんときんかッ!」
「ぉ姐さんッ!違いますぅ!」

「チョット、えぇ加減にしぃやぁ、後がつかえてますんやでぇ 」

ッデ、ゾロゾロと連なりながら、女の妓が全員お帰りに。
背中で扉を押し開き、其のまま後ずさりで看板を店内にと。

倶楽部がハネ、後片付けが全部済んで一息つき、就業終わり間際に
ドッカで飯ぃ喰ってそれからやな、お楽しみはっと想い、
厨房から出かけたら、イッツモ優しい先輩から、

「ボン、ホレッ大事なお土産やッ!」ッテ、ヨク押し付けれらてたわ。

エラソウニ先輩風ブンブン吹かせながら、調理場の隅を指差し示すは、
大きめな、黒色ビニール製業務用ゴミ袋。

其のゴミ袋を両手に提げ、地下から表通りの舗道にと。
明かりが落とされた暗い階段、奥歯噛み締めて登ります。
階段上がると、周りのビルの電飾看板で少しは明るい魚町通りの舗道を、
ゴミの集積場に指定された公園まで、チャリのハンダル片手で操作し、
もう片方の手には二つのゴミ袋を提げ、チャリのペダルをやね、

『怒ッァホッ!ウスラ先輩ッ野郎ぉッ目ェがぁ!!ダボッがぁ! 』

ット、悔しさ任せの勢いで漕ぎマクリ、未だ酔い足りず妖しげな酔眼で辺りを見回し、
千鳥歩きでウロツクホロ酔い人サンらぉ、酒臭さが漂うドブ池舗道の水面を、
水スマシしのように素早く交わして駆けます。

ゴミ集積場の山積のゴミ袋群に向け、
自転車で通過しながら手にしたゴミ袋を投げた。

「わッ!痛ッ!!」 コレ、自分の悲鳴
「クッ臭ッあッ!」 コレも

ゴミ袋を勢いよく投げたつもりが、イッペンに二袋もよぉ投げきれず、
一フクロが自分の顔に当たって破け、ペダル漕いでる太腿に落ち、
ペダル漕いでいたので、膝で跳ね上げられ地面に落ち、
ゴミをそこら辺に撒き散らしなが転がった。

コケそうに為ったチャリを急停止させ、
慌てて掌で顔をなでると汚さが尚更顔中にぃッ!
 
食いモン屋の営業用のゴミ袋の中身なんか、タイガイ汚いもんやねん。
二つにへし折って捨てた割り箸なんかで、袋には無数に小さな孔が開いてますねん。
其の孔から、中の残飯ゴミから染み出る汚水なんかが垂れてます。
チャリで走ってきた道路を振り返って観ると、臭わす汚水の雫の跡が、
黒く濡れた小さな点々となって連なり、向こうの街角までぇッテ。

直ぐに集積場の後ろ、公園の汚いトイレに駆け込んで冷たい水で顔を洗います。
口に水を含んでウガイもします、何回も歯茎や歯ぁもススギます。
漸くトイレから出てきて、衣服を改めると衣服には汚水の雫の痕がぁ!

自分、此の晩、ホンマニ情けない想いがイッパイで悲しかった。


ッデ、災難に遭った晩は土曜日で(正確には午前零時を過ぎてたので日曜日)、
映画館はオールナイイト上映中。だから朝まで好きな映画が観れますねん。
自分、日常的に金欠だったあの頃の一番の贅沢が、好きな映画を観ることやった。
今の世みたいな、手軽に映画のビデオが借りられる、レンタルビデオなんかがない時代。
映画を観るなら、街の大きな映画館でしか視れなかった時代。
当時は、映画俳優の高倉さん鶴田さんなど、東映の仁侠映画真っ盛。

ヤクザ映画を観終わって、映画の主人公に為りきった観客さん。
映画館から出てくると、タイガイみなさん肩を怒らせたり、
横に銜える極道の煙草の吸い方を真似した、妙に男気取りした人さんが多かった。

ッデ自分、何故か極道物はアンガイ観ていません。
邦画よりも洋物系が好みやったんですよ、棲んでる世界がお水系やのにねぇ。
観てくれ風体なんかぁ、ケッコウ随分な和風面(醤油ツラ)してますのになぁ?


自分、服が汚水で濡れ汚れ、鼻が曲がるかとな臭さに辟易してしまい、
飯喰う元気も失せたけど、このままじゃぁアマリにも自分が惨めやったので、
セメテ映画だけでも観てやろうと想いました。
臭さ誤魔化しに煙草を咥え、シキリニ吸いまくって煙で臭いを誤魔化そうとしたけど、
如何にもぉぅ、我慢するしかなかった。

イッソノコト、映画を観ながらチビチビ舐めようかと、
ズボンの後ろポケットに忍ばせ用意してきた、
ウイスキーのポケット瓶の中身を、汚れた服に振り撒いて、
臭い消しに使ってやろうかと。

『アカンッ!ソナイナモンに酒つこうたら酒飲み作法の御法度もんやで、
 邪道やッ!ダボがぁ!』

ッテ。チャリ漕ぎながら独り毒づき、映画館のある現在は西行の一方通行になってる、
十二陣屋前通りの北側舗道を、あの時絶対に観たかった【時計仕掛けのオレンジ】
ッが上映されてた映画館目差し、情けなさを堪えてチャリのハンドル握りながら、
乱れた心静めるようにユックリと、チャリのペダル踏んで゙行きました。



オレンジ・2

イメージ 1

   


映画【時計仕掛けのオレンジ】っを、

若いころに、街の映画館で深夜、ヨッパラィながら観ました。

この映画が上映されていたあの時期、
わたしの稼業は水商売で、毎日深夜働きしていた。


勤めていた店はお水系の某ッ倶楽部、其処は夜更けた晩に一夜の何かをと、
胸に淡い期待を潜ませた男たちが、綺麗な姐さん方が夜の笑顔で迎え、
タダノ客だからと、お仕事なんだからとお相手し、お酒を嗜みながら、
楽しく歓談する、其れなりに表向き華やかな処。

当時世話に為っていたのは、某【深夜倶楽部:カメイデッセ・イエマヘン】
時計の針が深夜の午前零時を回ってからも、客に零時以降の酒類提供禁止
の条例を無視し、風営法違反承知で時には明け方近くまで営業していた。

場所は、此処播磨地方でも一番と言われる歓楽街、【魚町】(ウオマチ:通称トトマチ)
ッを抱える某観光都市、市街の真ん中には、後に世界遺産に登録される、
別名、白鷺城と呼ばれる大きな城郭があり、街の何処からでも高く聳えるお城が望めます。

繁華な飲み屋街を大きく南北にと分けるのは、魚町通り(通称・トトマチトオリ)。
其の通りを西にと突き当りまで往きますと、北から南へと流れる川、船場側に。
昔は重要な交通路だった川の流れは、瀬戸内海に面した港まで流れていきます。
船場川の少し手前、通りの左手に貸店舗専用の雑居ビルが御座います。
其のビルの地下一階で、明け方まで隠れ営業していたのが【深夜倶楽部】

当時の魚町、夜ともなれば夜更けからの何かッ!
ぉ、期待し繁華な通りをホロ酔い気分でウロツク、
多勢の男たちで賑わっておりました。

其の頃の自分、マダマダ夜の世界では新参の駆け出し者な、マッタク役立たずな半端者。
そやから見習いの身ぃが貰う賃金、勿体無いようなハナクソほどの僅かな銭やった。


毎日チャリ(自転車)に乗って、勤める店と食材や酒の仕入先へと通い、
タダ万年床で寝るだけの棲家、建ったのが戦後間もなくの焼け野原に建てられた、
見るからに安普請なのが判る、襤褸アパートへの往復。
毎日が喰うて寝るだけで精一杯、タマの店の休みに何処かに出かけ、
遊んで無駄金使うことなんか、トテモトテモ! 
だから、ホンマニ金には随分と不自由してた。

気安く自由に使えるほどの身銭も、よぉぅ稼げへん器量ナシのショボイ若造やった。




オレンジ・1

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