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忘却桜

   
 
 
 
「お願いします!お願いします!此れをあの人に!」
 
 
必死の形相でした。其の勤労奉仕隊の女学生さんは。
 
駄目だと言っても聴きわけが御座いませんでした。
 
 
 
はたしはね。はたしに縋るような目線で喋る女学生を視ていてね。
其の自分の目線をですよ。逸らし下げるのが怖かったんですよ。
 
 
目線を少し下げると桜の枝がはたしにね。
捧げられるように差し出されてるのは判っていました。
 
モンペ姿の女学生さん。はたしに近づいて来たとき。最初に目に入ってましたからね。
 
 
特攻で死に逝くあの人に。せめて桜の一枝をと。
遠慮したような。本当に小さな小さな一枝の桜でしたよ。
  
未だぁ。幼顔していました。娘さん。
 
 
決してはたしの顔からね。視線を逸らしませんでした。
一瞬の。僅かな瞬きも致しませんでしたよ。
 
其の白目の部分がですねぇ。
今でも忘れられないほどの。綺麗な蒼い白さでした。
黒い瞳はね。綺羅綺羅って輝いていました。
 
 
想わずはたしね。空を仰ぎ視ましたよ。
観ればね。黄砂で雲ってお日様も翳ってますのにねぇ。
 
 
はたしの方はね。圧倒されての必死さでした。
其の視線を如何しても逃げずにぃ って!
 
逃げたら。自分の胸の中のね。
小さいけども僅かに残ってる矜持が何処かにぃ っと。
 
 
 
「どぉした。」
 
はたしの背中に言葉が。
 
「ぁ!班長殿(機付き整備兵) この人が桜の枝を渡したいと。」
「誰に?」
 
「今日。出撃の隊員にです。」
  
「今日ぉぅ・・・・かぁ.。」
 
 
「お願いします!お願いします!」
 
一段甲高くなった声でぇ。懇願していましたよ 
 
 
娘さん。バッタみたいに何度もお辞儀をしながらね。
お辞儀が益々深くなると。背中の防空頭巾が落ちそうでした。
 
 
必死さナ瞳で見つめて乞い願う言葉を吐く其の顔。
視ている此方が苦しくなってくるような。無表情に近いお顔でした。
 
 
突然。 飛行場から少し離れた林の中で半分土に埋まり。
周りの風景に溶け込むように迷彩を施され。高空を飛んでくる。
敵の偵察機から発見されないように秘匿された大きな防空格納庫からね。
出撃前の発動機調整の為にの。耳を聾する轟音が!
 
女学生さん。 お顔が益々にぃ!
 
真っ白になりましたよ。まるで蝋人形の顔かとっ!
もぉぅ!はたしはですよ。堪らんかった。
 
  
「おぃ!便箋持って来い!」 耳元で班長が怒鳴るように。
「はっぁあ?」 同じく怒鳴りながらね。
 
「いぃから持って来い。」
 
自分。訳判らんかったけど。何となくですよぉ。何となくね。
 
 
自分。駆け足で格納庫までいきましたよ。
 
便箋は見付かりませんでした。
だから便箋の代わりにと。整備状況の控えを取る。
帳面の裏の方の頁(ページ)を数枚破り取りました。
 
急いで戻りました。タブン怒られると想いましたけど班長殿。
軽く頷いて受け取ってくれました。
 
 
発動機の音はしなくなってました。
 
代わりに聴こえるのは。遠くの空で雲雀がでしょうかねぇ。
何かぁ。小鳥の囀るのが時折。聴こえてましたよ。
 
長閑さがねぇ。其の場の救いになるようなですよぉ。
そんな雰囲気が辺りに漂ってました。
 
 
 
「此れに何か書きなさい。」
 
近くの桜の木の下でね。自分は立って。班長殿は女学生と並んで座っていました。
 
「はい申し訳ありません。」
 
 
娘さん。屈んでモンペの膝の上でね。チビタ鉛筆を指先で持つ手。
元々滑滑で綺麗だったろうにぃ。大人顔負けの勤労奉仕で酷く荒れていました。
 
まぁぁ。当時はですよぉ。何方も似たようなもんでしたけどねぇ。
 
 
書き終わるのを待つ間に班長殿。
ナニを想ってか地面をね。近くに落ちていた枯れ枝で掘り始めました。
 
班長殿。掘りだした土を手で丸め土饅頭を作りました。
それからね。桜の枝を饅頭に挿し御自分の胸ポケットから白いハンカチ。
 
其の桜の枝が刺さった土をハンカチで包みます。
最後にきつくと結んでいました。
 
 
 
「書きました。」
「ぅん。じゃぁ貸して。」
 
「ぇ!」
 
「半分に折りなさい。」
「はい。」
 
班長殿。半分に折った紙を受け取ると。其れを折り続けて細くしました。
 
「此れぉ枝に結びなさい。」
 
 
女学生さん。見る見るうちに目に涙ッ!
 
震える指先堪えてなんとか。のノ字に結び終えました。
結ぶ間ねぇ。桜の花がね。小さく頷くようにぃ揺れてましたよぉ。
 
 
「寄越しなさい 」
 
 
女学生さん。俯きながら手渡した。
其の手ね。涙で随分と濡れていました。
 
書く間は我慢してたんでしょうねぇ!
 
泣くのを。
 
 
「此れ今からね。操縦席に置いときます。水を与えてね。お名前は?」 
「ぇッ?」
 
「どの隊員の飛行機にですか?」
 
 
もぉぅ!彼女。堪え切れなかったんですよ。嗚咽がね。絞るようにぃ!
 
自分。戦争がぁ~! 怒アホがぁ~!! 心でですよぉ。
 
 
 
搭乗員。風防に手を掛け操縦席に入りかけたら気づきました。
自分。反対側から主翼の上の隊員に指で教えました。
飛行場の近くの大きな桜の木の下。指で示して。
 
若者さん。示した方角に顔を向けると。直ぐに気づいて躯を向けました。
其れから敬礼じゃぁなく。腰を深くと折りましたよぉ。
 
 
はたしぃ。あの時以来。今日の今まで若い者のですねぇ。
あんなにぃ嬉しそうな笑顔ッ!未だにぃ視た事は無いんですよ。
 
 
 
あの時の桜はですね。特攻の最後まで一緒だったんじゃぁ無いんです。
 
若者さん。操縦席で直ぐに枝に結んだ手紙を読み終わりました。
手紙は自分の胸のポケットに。枝はね。はたしに渡すんですよ。
 
 
怒鳴り声で。爆音に負けないようにですよ。
 
これ持って逝ったら自分。罰が当たります。敵艦に思う存分に突入ぅがぁ! 
 
 
自分。此の時まで。毎日のように送り出す特攻隊員にはですよ。
決して涙なんか見せた事がっ!
だけどねぇ。あの時にはぁ。本当にぃ隊員には申し訳なかったですよぉ!
 
 
はたしが急いで翼から飛び降りると。チョーク (車輪止め) 外せの手合図が。
 
機が離陸するまで隊員の顔。桜の木の方角ぅ向いていました。
 
 
 
「この桜。あなたの元で枯れさせてくださいと。手紙で十分だからと。」
 
 
 桜の木の下で見送っていた女学生さんに。枝をお返しいたしました。
受け取った時。無言でした。魂が抜け切ったみたいでした。
 
 
「それと。これもぅ。」
 
 
はたしね。周りを気にしながら素早く彼女の手に握らせました。
当時。帝国海軍が搭乗員に支給していた航空腕時計。
 
 
「自分にはもぉ此れは必要ないですよ。機には時計があるからっと言ってました。」
  
彼女。腕時計を受け取ると直ぐに。耳元にもっていきました。
 
  
「 ぁ! 刻んでる。あのひとのぉぅ  」
 
 
 
 
今の季節になるとぉ。如何にもぉぅ・・・・・!
 
 
 
       

Poupée de France 弐


 
 
(慰めなドール)
 
 
  
透き通る 蒼き硝子の瞳は仏蘭西人形 
 
視つめるは 人の慈しみあう耽美なる営み 
 
 
男と女 深き夜の陰にて同衾せしと
 
 
想いも深くと夜も更ければ 薄暗さな部屋の中
 
明かり届かぬ 西洋衣装箪笥の上にてから眺めまする
 
 
 
褥にて君の主様 愛に組み伏せられして嗚咽堪へしています
 
好(ヨ)き人の広き肩の下 蠢きさへ叶わずにと
 
唇ぉ噛み 息を詰め 吐くコトぉお忘れしかと
 
 
 
黄色き裸豆球電燈の下 
 
朧な薄闇に匂いまするは人の汗の香り
 
隠微は求めても蠢かず 責めもせずにと 
 
 
嫉妬は 人の意識の為せる反逆の炎
 
脳裏にて焔広がりたるは 悲しきな者と 恥が安らぎがと狂う者
 
 
其れは 勝手に求めしとも いつかはお気づき召しましょうかと
 
 
 
いつかはと 幾度もと 限りに心語りなどいたします
 
どなたも ケッシテ お判りなどしてはくれませぬ どなたも っと
 
 
 
秘かに願い 想う言葉語りなどとは 叶はぬ夢な戯言
 
慈しむことなどぉ限りにと望んでも 諦めな心醒めしお人形
 
 
其の 硝子ゆへ瞬かぬ対の盲いた瞳 
 
穴もなき飾りなゆへにて聴こへませぬ 両のふた耳
 
 
されば 言葉は動かぬ唇でもと 
 
どなたにも聴こへませぬ静か喋りいたしましょう
 
 
はたくしは人に非ずして 人の心などぉ虜にせんと作られし物
 
仄か明かりぉ微か受け 冷たき蒼き水晶の如くな輝き致します
 
硝子珠作りの瞬かぬ瞼を授かりし 人の慰め物なお飾り人形
 
 
ドールの小さき対の硝子の瞳 身動ぎもせず見つめ続けるは人の快楽探究ゴト
 
 
柔らか肌かと見まがうかと 動かぬ瀬戸物にて拵えしな白き肌
 
其の身に纏い着飾りたるは 古き王朝時代の仏蘭西貴族風な雅なドレス
 
 
 
「 まさかっ!濡れてまする! 」
 
「 そぉぅさなぁ 」
 
「 はたくしでは御座いませぬ 」
 
 
「 ぅん?」
 
 
「 アリスの目がぁ!」
 
「 ァリスゥ? 誰?」
 
 
問われ 訊かれして 白き腕ぉ伸ばし指さすは 
 
暗き陰な衣装箪笥の上に載りし仏蘭西 お人形
 
 
「 目の錯覚だろぉぅ?」
 
 
其の 指差す先を訝る視線にて捉えるは 女の好(ヨ)き者
 
 
「 ぃぃえ ほらぁ!」
 
 
薄暗さは 人ぉナニかにとお誘い致しまするのでしょぅか?
 
 
 
慈しみあい乱れし枕もと 赤き薄布傘の電球スタンドぉ点灯させざれば 
 
部屋に赤の仄か輝き 微かな音もなく降るように満ちました
 
 
 
硝子の瞳から 幼顔の硬き頬伝い滴る水晶の雫
 
箪笥の上からにて下にと滴る 見つめれば永久(トワ)にかとな刹那の瞬ナ時 
 
電気スタンドの柔らかき 赤の薄明るさに照らされておりまする
 
 
綺羅綺羅と 墜ち逝くるまゝに赤煌めきしておりましょうかと
 
 
赤で透きとおる球 軟らかき真紅の絨毯に落花の如く堕ちまして
 
球は砕けるはずもなきことなれど ふたりの胸の何処かでナニかゞと
 
 
確かにと ナニかゞ壊れましたことでしょう
 
 
 
「 さぁ 」
 
続きぉ っと 灯り消し急かされゝば 黙りな返事でしかたなくと
 
 
 
 
はたくしはお人形 はたくしは作られし物な お人形
 
慰め物なで人を虜にしそこねた 永久(トワ) にと踊らされ続けるお人形
 
 
 
 
冬の早朝 茜の色に空を染め 昇る朝陽にて萌えるかとな視界の朝霧漂う裏庭にて
 
掻き集めるられし落ち葉と 折れた枯れ枝の薪の中にと捨てられし 燃へるお人形
 
 
はたくしは見つめていましょう 其の熱さは求めなくとも焚かれるとき
 
はたくしの心の肌を 黒く焼き焦がし尽くしましょうかと
 
 
 
炎に背を向け家にへと戻るとき 背を嘗める薪の暖かさ 氷の如くな冷たさでした
  
耳にて聴こへなくとも 悲しい悲鳴がイッパイでした
 
 
 
振り返り視れば 昇る慰め物の焼ける煙 漂う朝霧と混ざり合っていました
 
 
熱にて割れ砕ける ドールの硝子目玉の壊れ音 幽かに
 
 
 
 
音は確かに  幽かに
 
 
 
 

ロングッキッス

   
   (画像はイメージ)
 

午後の太陽。ビル影に重なるように眩しく輝いてた。
 
時々。俯き加減で歩きながら空の太陽。
眩しさをこらへ見上げた。
 
 
自分。此の頃は睡眠不足が当たり前だった。
日頃の不摂生な夜更かしで サッキ目覚めたばかりの躯。
ナンとなくケダルク疲れきっていた。
 
ボロいアパートで 躯を休ませもしないで。
街に出てきたことを後悔していました。
 
魚町(トトマチ)入口の機械仕掛けの信号灯。
赤が青に輝いたので歩きだした。
 

当時。世話になっていた深夜倶楽部。店内改装で営業を暫く休むことになった。
だから。バブルが弾ける前の稼ぎ時には珍しく。平日休日の最初の日だった。
 

横断歩道の向こう側で俯いて佇んでいたのが アイツだと気づいた。
ゼブラの横断舗道を渡らずに。此のまま引き返そうかと想った。
アイツの顔が急に上向いた。視線が此方にと。
 
昔の見慣れた眼の表情じゃぁなかった。
少し変わったような気がした。

だから自分。気づかれたと。
だけど。知らんフリして渡るしかなかった。
 
 
タブン。お互いにそぉすると想った。
 
 
横断歩道の真ん中あたりだった。
アイツが素知らぬ顔してすれ違い其のまま行こうとした。
 
咄嗟にアイツの腕をとってしまった。

「元気にしてたんかぁ。」 ツイ想わずがなでした。

アイツ。チラリとも此方を見ようともしなかった。後悔し掴んだ腕を放した。
何事もなかったかのように背中を見せ。歩いてゆく。
 

再び歩き始めると。知らない人の蔑んだうすら笑いとすれ違った。
背後で信号が変わり同時に何台もの車が動きだす気配を感じた。

突然。後ろの方で急ブレーキの音とクラクションが喚きだした。
直ぐに車の運転手だろう。誰かを怒鳴りつける声がした。
 

振り返りもしなかった。
道路の向こう側。舗道を遠のくアイツの後姿なんか視たくもなかったから。

気晴らしと眠気覚ましに珈琲でも啜ろうと。馴染みの喫茶店に入りかけたら肩を掴まれた。
肩越しに振り返る。ショルダーバックが顔面メッがけて振り下ろされようと。
咄嗟に背中を丸めた。肩甲骨に バックの角が減り込んだ。
 

「あんた!ナンで手ぇお放すんよっ!」
 
「オッ前ぇ・・・・・」 
背中の痛さで声が続かなかった。

「放すんやったらナンで摑まえるんよぉ!アホォォ!」
 

茶店の自動扉の前で。ナンにも応えづに。痛みを堪える為にツッ立っていました。
目の前で両開きの硝子の扉が。開いては閉じてを繰り返してた。
何回目かの開け閉めのあと。茶店のマスターが出てきた。

自分の肩越しに後ろのアイツに声をかけた。
 

「オッ!〇〇チャン久しぶりやなぁ。元気にしてましたんかぁ。」
「ゲンキになんかしとらん!」
「ォッ!元気やがな。コナイナとこでナンやから入って茶ぁでもシバカンかいなぁ。」
 
 
アイツが背中を押したので暗い店の中に入った。
照明落とした暗さに慣れるまで。ふたりとも口を利かなかった。
 

「ホレ。ブルマン。店の奢りや。気ぃよぉ飲んだってかぁ。」
「スミマセンやわぁ○○さんぅ。ゴメンねぇ。」

アイツ少し落ち着いたのか以前のもの言いでした。

「えぇがな。アンタ。随分見ぃひん間(マ)ぁにエライ別嬪ハンにぃなったなぁ。」
 

確かに綺麗になっていた。あの時。別れる前は若さ任せの可愛いさだった。
今。目の前でカップの珈琲啜ってるアイツ。大人の女になっていた。
 

「どぉなん?」
「ドッどぉって?」
「シッカリ生きてましたんかぁ。」

「マッまぁ・・・・」

「アンタぁ。未だ足ぉ洗ってないんかぁ?」
「ぁッあぁ。未だ首までドップリ浸かってる。」

「居るん?」
「ナンがや?」
 
「誰かとイッショに居るん。」
「アホカ!ワイ独りぃや。」
 

それから暫くふたりとも何も喋らなかった。

時々。アイツと自分の珈琲啜る音と。皿にカップを戻す音がしてた。
最近封切られた伊太利亜映画のサラウンド盤。静かに流れてた。
上目づかいにアイツを視ると。アイツもカップの縁越しにコッチを観てた。

お前へはナンでソナイになぁ。ット胸の中で。
今まで幾度となく想い知った後悔の念が。また湧いてきた。
 

「ぁんたぁ。ナンでウチのことぉ訊かへんのぉ。」
「ナニぉ訊くんや?」

再び静かさが傍に着た。啜る珈琲が苦かった。
ワイ。息苦しさを憶え始めていた。

「あんたぁ。変わらへんわぁ。」
「ナッなんがやねん?」

「鈍感ぅ・・・・」

アイツがあの時。最後に部屋から出て逝く時に言い放った言葉でした。
自分。此処が勝負時やと想いましたから言いました。

「ホンナラ変わってた方が良かったんかっ!」
「ェッ!」
 
「ワイが変わってしまってた方ぉがな。よかったんか!ナァ?」
「・・・・・いぃやぁ。」

「ワイ。イッパイ後悔しましたがな。イッパイ!」

自分。チョット怒鳴り気味でした。店の奥からマスターの咳払が聴こえてきた。
静かさが再び。もぉぅコンナ状況は堪えて欲しかった。

「ウチぃなぁ。結婚してたんやでぇ。」 
「知ってる。」 ケドなぁ・・・・・
 

シテタンヤデ ってどぉゆうことやねん? ット心で。 
マサカァ っとも想いました此の時。

ナンかを訊きたかったけど訊けんかった。
ドンナ風に訊けばよかったんだろぉと。今でも想うことがあります。
 

「何処に行くつもりやったん?」
「ドコニって?」
 
「サッキ歩いてたやんかぁ。」
「久しぶりに映画ぁ観よかぁ想ぉてたわ。」
 
「そぉなん・・・・・そぉぅ。」
 

ぎこちなさの天使が辺りに居座ってるわぁ!
誰かぁドナイかしてくれんかぁ・・・・・・ツクヅクやった。
 

「ぁんなぁ。」 一緒にぃっと言いかけたけど。アイツが急に立ち上がった。

「チョット電話してくる。」
 

店の入り口辺りの公衆電話まで歩いて行く後姿。
あの時のアイツの後姿とダブって見えた。
モットも。着ている物が昔と違って上等やった。
 
仏蘭西映画の秘書役の女優が着るような。タイトなスーツ姿やった。
右肩から提げた茶色のバック。
ブランドなど無関心な自分が観ても。ケッコウな代物だと。
 

「えぇケツぅしてるなぁ○○チャンぅ!」

いつの間にか近寄ってきてたマスター。
銀盆抱くようにして。ツクヅクとした頷きやった。

「エッ!」 釣られて目が遠のくアイツの尻に。
 

前屈みで銀盆に。アイツと自分の空のカップを載せながら。
ワイの耳元に囁くように言ってきた。

「チィフ。逃がしたらアカンでぇ。アナいな娘(コ)ぉ滅多とおらんさかいな。」
「ソッそんなんとチャイますわぁ!」
 
「茶ぁ。冷めてもぉたやろ。淹れかえたろ。」
「もぉぅえぇですわ。出ますさかいにぃ。」
「ナンや。もぉ帰るんかいな。モット居ったらえぇがな。ナッ。」

アイツを見ると受話器を肩に載せ。コッチを観ながら話していた。
開いた手帳にナニやら書きこんでいた。

「そぉや!チョット待っとり。帰ったらアカンで。ナッ帰ったら!」

黒色の前掛けを外しながらでした。
ッデ。店の奥に向かって言いました。

「ぉい。チョット出るさかいな!」
「出るってアンタッ!何処いきますの?」
「チョットやチョット!」

店を飛び出したマスター。飾り窓の外を横切りながら走って行った。
 

「もぉぅあん人ぉ。ドナイしましたんやろねぇ?」

新しいく淹れなおした珈琲を持ってきた奥さんが。

「女将さんぅ。スミマセン。」
「ぃいんよぉ。なぁんも気にせんといてぇ。」
 
「○○ちゃんぅ。綺麗になりはったなぁ!」
「アッうん。そぉですなぁ。」
「そぉですなぁッテ。アンタ他人事みたにぃ言わんときんかぁ。」

女将さん。モット何かを言いたそうだったけど。アイツが席に戻ってきた。
 

「新しゅに淹れてくれたわ。飲もか。」
「すみませんぅ。御馳走になりますぅ。」
「エェんよぉ。ゆっくりしてってなぁ。」

「何処に電話したん。って訊かへんの?」
「関係ないわ。」
「ふぅ・・・・・んぅ。」
 
また暫く互いに黙りこんで珈琲ぉ啜っていました。
 
 
店の自動扉が完全に開く間もなく。マスターが息を切らせて戻ってきた。
 
「ジッ時間がないさかいな。此れもって早ぉ行ってき!」

少し離れたところに在る。映画館の入場切符が二枚。目の前に突き出された。
マスター息が切れかけてるせいか。切符の端が微妙に震えていた。

「大将ょぉ・・・・・・ナンでぇ?」
「伊太利亜の刑事ちゅう映画が。リバイバル上映されてるんや。次の上映がもぉすぐ始まるんや。」   
 
奥から出てきた女将さん。旦那がナニをしようとしたのか悟ったから言いました。

「アンタら。サッサト往ってきぃ!」 
 

「早ぉ行こぉ。」 

アイツが眼ぉ伏せ。立ち上がりながら言いました。

「ソッそやな。遠慮したら失礼やもんな。」
「おぃ。切符をもっていかんかいなぁ ァホ!」
「アッ。ドッどぉもすんません。頂きますわ。オォキニッ!」

アイツ。店を出がけに振り返り。腰を深く折った。
慌てて自分も同じようにしました。
 

日差しも傾き晩かったけど。外は眩しさがイッパイに満ちていました。
其れよりも自分。モット心が眩しさでイッパイに為っていました。
 
 
 
 
ツヅキマス

 

ふかまど

 
 
 
   
なんかぁサァ。人サンは死んだらぁ。何処かに行ってるんやろかぁ?
 
ッテ。若いコロなら考えもしなかったことを。
コノゴロぉ。想います。
 
 
 
あなたはココに来る前。ナニか悪さぉしてきましたか。
神様。自分はイッパイ人サンの迷惑も考えもしないで勝手をしていました。

あなたは。ご自分がイケナイ人間だったと気づいてましたか。
神様。心が悲しく為るほどイッパイ気づいていました。

あなたはね。気づいてるのにどぉしてなの。
心がイケナイことをイッパイ求めてしまっていました。

あなたは心のせいに為さるのですか。
心は。自分の心は。悲しいほど弱かったので守らなければと。

あなたは。弱い心に弄ばれたと。
いぃえ。自分から心と遊んでしまったんだと想います。
 
あなたはナニを救い求めたことが御座いますか。
イッパイ。イッパイ。手に余るくらい望みました。

なにぉ?
ハイ。いぃかげんな者だったからです。

だぁからね。なにぉ?
 
背負いきれないもので身動きできないようにしたかったからだと想います。
 
嘘つきですね。
自分が?

いぃえ。あなたの心が嘘つくことであなたの心をですよ。
 
神様。どうすればいぃんでしょう。
ぅん?
 
どうすればいぃんでしょう。自分は。
 
 
あなたを永久(トワ)の堂々巡り地獄に堕としましょう。
そぉですか。想い患うことは冥界の淵から墜ちることでもですね。
えぇ。悩み尽きない世界があなたを優しくもてなしてくれるでしょぉ。
 
どこからですか。

そこの窓から堕ちなさい。
神様。窓の中に入るにはどうやって?
 
ほっらぁ、もぉぅ巡ってるじゃぁないの。
 
 
 
「どぉ。モット注ごうか?」
「ぁ。ぅん。少しぃ。」
 
「よく眠ってたよぉ。」
「ゴメンネ。みんなは?」

「帰った。」

「ワルかったね。カンバンなのに。」
「いぃよ。後かたづけしていたから。タクシー呼んだげようかぁ?」
「いぃ。歩いて帰るから」
 
「そぉぅ・・・・」
 
「ママ。ドアが開かないけど。」
「ぇ。あなたはドアからはダメだよ。」
 
「ナンで?」
 
 
「窓からだよ」
 
 
     

認知度

 
 
 
殺してやる。
 
 
ウチぃ。心の底からでした。 アノときはぁ。
 
 
ウチが。クニ(故郷)ぉ出たのは。17の時でした。
あのコロ。クニじゃぁウチの評判は悪かったんです。
 
ウチが中学ぉ卒業して直ぐに働いてたのが。
地元の紡績工場でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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