|
「お願いします!お願いします!此れをあの人に!」 必死の形相でした。其の勤労奉仕隊の女学生さんは。 駄目だと言っても聴きわけが御座いませんでした。
はたしはね。はたしに縋るような目線で喋る女学生を視ていてね。 其の自分の目線をですよ。逸らし下げるのが怖かったんですよ。 目線を少し下げると桜の枝がはたしにね。 捧げられるように差し出されてるのは判っていました。
モンペ姿の女学生さん。はたしに近づいて来たとき。最初に目に入ってましたからね。
特攻で死に逝くあの人に。せめて桜の一枝をと。 遠慮したような。本当に小さな小さな一枝の桜でしたよ。 未だぁ。幼顔していました。娘さん。 決してはたしの顔からね。視線を逸らしませんでした。 一瞬の。僅かな瞬きも致しませんでしたよ。 其の白目の部分がですねぇ。 今でも忘れられないほどの。綺麗な蒼い白さでした。 黒い瞳はね。綺羅綺羅って輝いていました。 想わずはたしね。空を仰ぎ視ましたよ。
観ればね。黄砂で雲ってお日様も翳ってますのにねぇ。
はたしの方はね。圧倒されての必死さでした。 其の視線を如何しても逃げずにぃ って! 逃げたら。自分の胸の中のね。
小さいけども僅かに残ってる矜持が何処かにぃ っと。
「どぉした。」 はたしの背中に言葉が。 「ぁ!班長殿(機付き整備兵) この人が桜の枝を渡したいと。」 「誰に?」 「今日。出撃の隊員にです。」 「今日ぉぅ・・・・かぁ.。」
「お願いします!お願いします!」 一段甲高くなった声でぇ。懇願していましたよ 娘さん。バッタみたいに何度もお辞儀をしながらね。 お辞儀が益々深くなると。背中の防空頭巾が落ちそうでした。
必死さナ瞳で見つめて乞い願う言葉を吐く其の顔。
視ている此方が苦しくなってくるような。無表情に近いお顔でした。 突然。 飛行場から少し離れた林の中で半分土に埋まり。 周りの風景に溶け込むように迷彩を施され。高空を飛んでくる。 敵の偵察機から発見されないように秘匿された大きな防空格納庫からね。 出撃前の発動機調整の為にの。耳を聾する轟音が! 女学生さん。 お顔が益々にぃ!
真っ白になりましたよ。まるで蝋人形の顔かとっ!
もぉぅ!はたしはですよ。堪らんかった。 「おぃ!便箋持って来い!」 耳元で班長が怒鳴るように。 「はっぁあ?」 同じく怒鳴りながらね。 「いぃから持って来い。」
自分。訳判らんかったけど。何となくですよぉ。何となくね。 自分。駆け足で格納庫までいきましたよ。 便箋は見付かりませんでした。
だから便箋の代わりにと。整備状況の控えを取る。
帳面の裏の方の頁(ページ)を数枚破り取りました。
急いで戻りました。タブン怒られると想いましたけど班長殿。
軽く頷いて受け取ってくれました。
発動機の音はしなくなってました。 代わりに聴こえるのは。遠くの空で雲雀がでしょうかねぇ。 何かぁ。小鳥の囀るのが時折。聴こえてましたよ。 長閑さがねぇ。其の場の救いになるようなですよぉ。 そんな雰囲気が辺りに漂ってました。
「此れに何か書きなさい。」 近くの桜の木の下でね。自分は立って。班長殿は女学生と並んで座っていました。 「はい申し訳ありません。」 娘さん。屈んでモンペの膝の上でね。チビタ鉛筆を指先で持つ手。 元々滑滑で綺麗だったろうにぃ。大人顔負けの勤労奉仕で酷く荒れていました。 まぁぁ。当時はですよぉ。何方も似たようなもんでしたけどねぇ。
書き終わるのを待つ間に班長殿。 ナニを想ってか地面をね。近くに落ちていた枯れ枝で掘り始めました。 班長殿。掘りだした土を手で丸め土饅頭を作りました。
それからね。桜の枝を饅頭に挿し御自分の胸ポケットから白いハンカチ。
其の桜の枝が刺さった土をハンカチで包みます。
最後にきつくと結んでいました。 「書きました。」 「ぅん。じゃぁ貸して。」 「ぇ!」 「半分に折りなさい。」 「はい。」 班長殿。半分に折った紙を受け取ると。其れを折り続けて細くしました。 「此れぉ枝に結びなさい。」 女学生さん。見る見るうちに目に涙ッ! 震える指先堪えてなんとか。のノ字に結び終えました。 結ぶ間ねぇ。桜の花がね。小さく頷くようにぃ揺れてましたよぉ。 「寄越しなさい 」 女学生さん。俯きながら手渡した。 其の手ね。涙で随分と濡れていました。 書く間は我慢してたんでしょうねぇ!
泣くのを。 「此れ今からね。操縦席に置いときます。水を与えてね。お名前は?」 「ぇッ?」 「どの隊員の飛行機にですか?」 もぉぅ!彼女。堪え切れなかったんですよ。嗚咽がね。絞るようにぃ! 自分。戦争がぁ~! 怒アホがぁ~!! 心でですよぉ。 搭乗員。風防に手を掛け操縦席に入りかけたら気づきました。 自分。反対側から主翼の上の隊員に指で教えました。 飛行場の近くの大きな桜の木の下。指で示して。 若者さん。示した方角に顔を向けると。直ぐに気づいて躯を向けました。 其れから敬礼じゃぁなく。腰を深くと折りましたよぉ。 はたしぃ。あの時以来。今日の今まで若い者のですねぇ。
あんなにぃ嬉しそうな笑顔ッ!未だにぃ視た事は無いんですよ。 あの時の桜はですね。特攻の最後まで一緒だったんじゃぁ無いんです。 若者さん。操縦席で直ぐに枝に結んだ手紙を読み終わりました。
手紙は自分の胸のポケットに。枝はね。はたしに渡すんですよ。 怒鳴り声で。爆音に負けないようにですよ。
これ持って逝ったら自分。罰が当たります。敵艦に思う存分に突入ぅがぁ! 自分。此の時まで。毎日のように送り出す特攻隊員にはですよ。 決して涙なんか見せた事がっ!
だけどねぇ。あの時にはぁ。本当にぃ隊員には申し訳なかったですよぉ!
はたしが急いで翼から飛び降りると。チョーク (車輪止め) 外せの手合図が。 機が離陸するまで隊員の顔。桜の木の方角ぅ向いていました。 「この桜。あなたの元で枯れさせてくださいと。手紙で十分だからと。」 桜の木の下で見送っていた女学生さんに。枝をお返しいたしました。
受け取った時。無言でした。魂が抜け切ったみたいでした。 「それと。これもぅ。」 はたしね。周りを気にしながら素早く彼女の手に握らせました。 当時。帝国海軍が搭乗員に支給していた航空腕時計。 「自分にはもぉ此れは必要ないですよ。機には時計があるからっと言ってました。」 彼女。腕時計を受け取ると直ぐに。耳元にもっていきました。 「 ぁ! 刻んでる。あのひとのぉぅ 」 今の季節になるとぉ。如何にもぉぅ・・・・・! |

>
- Yahoo!サービス
>
- Yahoo!ブログ
>
- 練習用



