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書庫恋文・想う女(オモウヒト)

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蒼い満月

今夜、あれから三ヶ月。 秋の季節です。

深夜の 明けない暗さの中の寒さが 何時の間にかです。
心が、孤独の想いを 深めます。



酒精が匂う溜め息一つ 寂しさ混じりにでした。
想いを 吹っ切る様に頭上を見上げれば 満月が蒼銀色に 天で。
寒いくらいの空気、肌蹴って開いた襟から 胸に。
剥き出しのうなじが 夜の冷たい優しさに冷やされて 撫でられて。

 きりきりと鳥肌

星たちは、宙で煌めいています。
何も言わないで、黙って煌めいています。

 寂寥が静々と辺りに、いっぱい。
 月光の蒼銀色の光りが 空気に いっぱい。

頬肌刺す 夜に流れる風は 冬がもう直ぐの北風。




午前零時をとっくに過ぎた 夜の繁華街は 
道の両側に 不法駐車の車の並び。遠くの点滅信号まで。
舗道に乗り上げているのも 数台。

「ちぃ〜ふ、はい」 差し出された封が切られたばかりの 煙草包み。
  突き出た一本 白いフイルター 夜目に伺えます。

指先で抜き取り、唇に。前歯が銜えます。
点されたジッポの油炎、油が燃える匂い。
 両手で覆って 顔 近づけます。
額が暖かく、炎が眩しく、手のひらが明るさを包みます
・・・火を大きく吸い込みます。胸に濃密な煙が。

「・・・・ぉおきになぁ」
 息と混ざって吐き出した煙、月光に照らされて、ボンの肩を翳めて逝きました。

「今夜ぁ、冷えますねぇ」
「ぅん、そやなぁ」
「なんかぁ食べてから、行きますかぁ」
「そやなぁ、おまえ。腹減ったんかぁ」
「空いてませんけど、入れといた方がえぇんとぉ違いますかぁ」

言いながら ぼん、顔を上げ、喉首見せて煙を噴き上げた。
蒼い闇夜に、漂いながら流される煙。

二人 眼で追います。

「拉麺やな」
「そないしましょぉ」

行きつけの店にと 脚が勝手に。肩を並べて。

「姐さん、具合。どんなんです」
「一緒やなぁ」
「そぉですかぁ」

普通の肩と逞しい肩の 間隔、少し縮まります。

「ちぃ〜ふぅ、酔ぉてますかぁ」
「酔うかいなぁ、何でや」
「いぃやぁ、何でも無いですわぁ」
「なんや、言うてみぃ」
幅が広いぼんの肩に、右手を回して強く引き寄せて、聴きました。

煙草指に挟んだ左手、喉に・・・

「ぅ、ぁ、えぇ・・・」
「言わんかいぃ!・・・な!ぁ・・」
「げ、ごぉ、ぁ、ぃう、言いますぅ」

暫らく右腕に息を整える 肩の震えが。

「も、もぉ、堪忍してよぉ〜!」
「おまえが、奥歯に物が挟まった様な事 言うからや」
「あ、はい。すいませぇん」
「何や」
「ぁ、はい、・・・実はぁ、・・・身ぃ固めよぉかっと」
「ぉお!えぇ話やんか。もっと早ぁにぃ言わんかい!」
「えぇ、何時言おうか考えてました。そやけどぉ姐さんがぁ・・・」
「・・・・ぅん。そやなぁ、ぅん。・・・」
「・・・すんません」
「ぇぇわいなぁ、何で謝るんや。阿保かぁ」

男二人の道行夜道が、普通じゃ無くなります。
其々の想いの道にと。舗道が月光で冴えた闇青色に。
ぼんが、こちらの肩に。腕を。
 
 お互い、首の後ろに 歩きながらの腕枕。

「和子かぁ」
「ぇ、ぁ、はい」
「和子は、えぇ女や。大事にしたり」
「はい、おおきにです・・・」

「なぁ、わしらの事ぉ。気にしたらあかんで。目出度い事になぁ、遠慮なんかすな。なぁ」
「ぅん。おおきにです」


馴染みのカウンターだけの拉麺屋さん、店帰りの勤め人で繁盛。
狭いカウンターには、色々な客が・・・満席。

「ぁ、チ〜フ。今 帰りかぁ」 

見慣れた背中の男が振り向いて 声をかけてきます。
某倶楽部のマネ〜ジャ。横には最近同棲を始めた女が。

「おはよぉ、帰りやぁ」
「そぉか、どないや」
「ボチボチですわぁ」
「ボチボチかぁ、えぇなぁ」
「○○はんとこわぁ」
「ボチボチやなぁ」
「あんたぁ、早ょ出よぉ」
「ぉ、そおかぁ、チ〜フ。ここ空くでぇ」
「おおきにぃ、なんやぁ、急かせて悪いなぁ」
「ぇえがな、気にしないなやぁ」

ぼんと二人並んで麺、啜りました。
何気に、以前 此処にあいつと 来た事あったなぁっと。
鼻の奥に何かが。
鼻を啜りながらの、麺啜り。

「ちぃ〜ふぅ、式わぁ、しませんねん。その代わり・・・ぃ・・」
「・・・ぅんっ、ぁ、ぁ〜今夜のん、辛いなぁ・・・」
「・・・・ぅん・・」
「ちょっと、ごめんなぁ」

硝子引き戸、背中でゆっくり閉めました。
奥歯で、支那竹(メンマ)噛み締めていました。
呑み込むと、溢れて来そうでした。

想いが。


路往く帰りがけの酔い客、怪訝そうに。此方を。
顔を上げて堪えます。一生懸命に。

「これ」 横に並んだぁぼん、ハンカチを。
「ぁ、ぅん。おおきになぁ・・・」

両目を押さえたら、自然とぉ・・・・

「勘定ぉ済ませてます、送りますわぁ」
「・・・ぅん。そぉしてんかぁ」



夕方から停めていた車は 夜露が屋根に湧いていました。
月が、蒼銀光りが 照らしていました。
ぼんがドアを開けて乗り込むと、漣のように夜露が揺れました。

結露した窓ガラスを指で・・・
露が、指で作られて流れ落ちます。涙みたいな雫が。
下まで流れ落ちる前に 窓ガラスがスルスルとぉ 降りました。

「早くのってください」

ドアを開けると、室内灯が点いてぼんの、何かを抑えたような顔が。

「大丈夫ですねんかぁ」
「大丈夫やで」
「そぉですかぁ、着いたら待ってますからなぁ」
「えぇ、大丈夫やからなぁ、帰りぃ」

深夜の国道は、車が少しだけ。時々すれ違い。
ぼん、慎重なハンドル捌き。

「えらい、ゆっくりな運転 するんやなぁ」
「・・・・ぇえ、安全。一番やさかいにぃ」
「そぉやなぁ」

以前、数ヶ月前。この路、死に物狂いで飛ばしました。
この車で、ぼんから借りたこの車で。

「あん時なぁ車ぁ、おおきにやったなぁ」
「ぇ〜。今頃ですかぁ」・・・・「ぅん、おおきになぁ」・・・
「忘れてましたわぁ」・・・
「そぉやなぁ、忘れたいなぁ・・・・」
「・・・・・・」

病院の裏口、救急患者搬送場所に停車。

「ちぃ〜ふ、待ってます」
「帰りぃ、和子がまってるやろぉ」
「あいつぅ、解かってくれますわぁ」
「そやけど、帰れ・・・・」
「ぇ!ぁ、は、はい。・・・」 
狭くて暗い車内がぼんには少しぃ、でした。


見送れませんでした。
夜空を見上げて、眼に溜まったものが邪魔で。

暗い水の底から 水面隔てて眺める夜空。
あんがい、綺麗に煌めいていました。



でもね、決して好きにはなれへん、綺麗さでした。





                 

過程 (更生)の

人生 温情 (ラブレター)


面会の後、兄貴。房(牢屋)に戻されずに刑務官事務所に。

「何々刑務官、どうしたの」若い上役が。
「はっ。○○号の、何々番が先ほど面会でした。実はぁ・・・・」
あとは聴こえません。ひそひそとしか。

兄貴、両手の手のひら、指先を作業ズボンの脇にくっつけてます。
壁際で、直立不動。っで。

「何々番。こちらに」 

上役の眼の前の、机の椅子に座れと。

「君な、妹さんと二人だけですね」
「はい」
「じゃぁ、お勤めなさい。シッカリト」
「はい」
「早く出るようになさい」
「はい」
「返事はいいから、聞きなさい。慰めはしません、罪は罪ですから。
あなた、此れから。自分の何を守って生きて往きますか。はい、これ」

兄貴に向けて突き出された、煙草のひしゃげ掛けたパッケージ。

「一本」
「えっ」
「吸いなさい」
「は、はい」

曲がった煙草、咥えたら。横から火が。
上目で観ると、さきほどの刑務官が。
ジッポで。

「さぁ」
「・・・・・ありがとうございます」
「ぅん。妹さん、可愛いな」
「ぇ、あっ、はい」
「ここが、お前の。踏ん張り処だな」
「はい」

暫らく、吸い終わるまで待っててくれました。
何も言わずに。
煙が目に沁みました。
涙が、涙がでした。

若しかしたら、若しかしたらと。
遣り直せるかなと。

胸の中で微かに。心で大きな 微かにでした。

その時には、それで何とか。
次が、どうしようもなくでした。



自分。兄貴の話を聞きながら、どうにもなぁっと。
本当に、きつい酒が。飲みたかったです。



                            

思い遣りの 悪党

泣く男  (ラブレター)



珈琲、飲み干すと兄さん。空缶、暫らく右手で弄んで、握りつぶした。
金属が潰される乾いた 軋む音がした。

自分。部屋から出て行きたかった。想う女の傍にいきたかった。

たとえ、硝子ごしにでも です。
なるべく近くに、傍に。
息で曇る硝子でも、張り付いて。近くに居たかった。

小さな咳。
その後で。ポツリと、言いました。兄貴が。

「おおきになぁ」

自分。胸がでした。
吐きかけた息が、吐けなくなりました。
詰まったまま。堪えました。

何かが 切れかけていました。

「あんたがおらんかったらな、あいつ。なんにも無かったわ」
「 ・・・・何がですか ・・・・ 自分が居らん方がですかぁ」
「勘違いすなや。事故の事とちゃうで」
「あいつな、あいつのな ・・・ 人生変えたん、わしなんや」
「ぃみがぁ・・・・  」
「うん。さっきは悪かったな。殺すやてな。堪忍してくれ」

固めたこぶし。手のひらに爪が、喰い込みます。

「わしぃ。話し方がワルイさかいに。よぉ、人に誤解されるんや」
「ぁ、はぃ。ぇえですよぉ」
「おまえ。あいつが言うてたとうり、優しいやつやな」
「・・・・・」

胸の奥で、そんな事。聴きたくないと。
爪が、益々。自分、気持がいっぱい いっぱい。でした。
必死で堪えてました。

「前にな、あいつに。死んだらえぇ 言われた」
「ぇっ」
「堪えたわぁ。堪らんかった・・・・わしなぁ、前にな。事件抱えてたさかいに、三年で出れるとわな、想わんかったわ。その前の事件の時。色々あったんや」


話はこうです。
兄貴さん。根っからの悪。未成年の頃から、何処かの組の事務所に出入り。
ノミ行為の取立て。地上げの仕上げ(脅しと暴力)。
鉄砲玉モドキが数回。それで、あんがい、組でいい顔に。
他には、何でも。身体で済むなら。

要するに、頭で稼げないから、身体で。
事務所に出入りする、その他大勢の中の、若衆。
悪に打ち込めば込めるほどの、悪党三昧。

ある冬の日。兄妹の二親が。同時にお亡くなりに。

残されるは、兄と妹だけの 二人っきりの家族。
兄貴さん。葬式には出席できず。
刑務所の中。ですから。
葬式。妹と、妹が通う女子高の、担任の先生とで。
何とか。



葬式が終わって、暫らくして。
明け方からも、激しく雪降る日、遠くから来てくれた、妹との面会。

「此処で死んで」 堅い椅子に座るなり、浴びせられました。
透明な壁の向こうから。
言葉に冷たさ込める様な、歯がみするような声。

「出てこんといて」 重ねて。妹 般若の顔。

傍らの、面会の様子を帳面に書き込んでいた刑務官。
想わず強化樹脂の向こうを。
眼に、恨みと。怨嗟を込めた涙を溜めた、何処かの女子高の制服姿の娘。

囚人服の兄貴。何にも言えずに項垂れ、顔を背けたまま。

「謝れ」囁く言葉と同時に、背中を手のひらが押します。
振り向くと、死んだ親父位の歳の、怖い顔の刑務官。
「悪かったら、謝るもんやろ」
「・・・・・」
「さぁ」
「・・・ぅ」

突然。背中を怒突かれました。力いっぱい。
「兎も角謝れ!」怒声が。
「にぃちゃん」 無機質硝子に手のひらを当てて。
「悪い事をしたら、謝るんが人やろ!違うか!」
「ぁ。はい」

「なぁ」 静かに、諭されます。

「すまん」
「すまんと違う。ごめんなさい。やろぉ」
「ぇ。あっ、はいぃ・・・・・ごめんなぁ!カンニンなぁ・・ぅ・ぅぁ ごめんなさいなぁ・・」

壁の向こうと、こっちで。泣き声が。
暫らく。


面会の、制限時間いっぱいまで。
小さな窓から、雪が。




                   
夢戻し  (仮題)

想う女の兄貴は 前科者でした。

自分。始めてお兄さんを視たのは、あの日。
街で想う女が、男と腕を組んでいるのを、視た日です。
あの日は、自分。一人で映画を観に出かけました。

自分が視たことも無い男とでした、仲良さそうに歩いていました。
何時も、店で見せる様な顔じゃぁ、なかったです。
本当に、嬉しそうでした。
 
朝の太陽が眩しいふりして、アポロキャップを深めに被り直しました。

心が軋みました。奥歯が。頬が。体が。同じ様にでした。
街往く人たちが、全部の人たちがでした。
自分を見詰めているようでした。
下向く顔。上げれませんでした。


「あの日 お前の後をな。追いかけて行きよったやろ。わしな、お前を殺したる。思うたわ」
「ころす。ですかぁ」
「そぉや」
「・・・・」
「あの日な、出所して初めてあいつと会ったんや」
「シュッショって」
「務所や」
「・・・・」
「三年。喰らってたんや」
「さんねん」
「・・・・・」
「何をしはったんですか」
「・・・・・刺したんや」
「さしっ、ぃったっ」
「ぁあ。やったんや」

窓の外の暗さが、部屋にも。
自分。断りを入れて、部屋を出ました。

無理矢理、出ない小便を 搾り出しました。
トイレの帰りに 暗い廊下の片隅の、自販機。
缶が機械の中で落ちる音。廊下に響きます。

二度。


「これ、どうぞ」
「おおきにな」喉の奥から、堪えるような声でした。

お互いの指 微かに触れました。
何かも。でした。
缶珈琲の、プルトップの開ける金属音。
暖かい音でした。
音は、揃っていました。


黙って、一気に飲み干しました。



       

兄妹

私が話の内容を理解しようがしまいが、婦長の説明は続いていました。
ただ、自分の中の誰かが頷き続けています。

一通り、想う女の治療の状況説明が、言い終わります。
すると婦長は、この部屋は誰も使いませんから、自由にお使いください。
っと言って、部屋から出て行きました。
直ぐに入れ違いに、事務服の中年女が入ってきて、飲み物は何が言いかと問いました。
自分と、部屋に残った男も、何も要らないと。
気まずさを背に、その女も出て行きます。

部屋には男 二人。窓の外わぁ暗闇。
空調の冷房音が密やかに。
部屋は蛍光灯が満たす光、仄白く。
どちらも、話さず黙したまま。
話せば何かが壊れそうでした。

「わしなぁ、あいつの兄貴やねん」突然の話し声でした。

意味が暫らく理解不能。

「なっ、なんです、ぁかっ」
「兄貴や。あいつのな」
「あにきぃ って、ぇっ どなたさん」

自分、心が何処かに行ってましたから、突然何かを言われても、です。

「お前の事な、いつもぉ聴いてたで」
「いつもぉ」
「そぉや。電話でな毎晩な、今日はぁこんな事があった。あの人がぁこうやった、ぁあやった」
「なっ、なんで」
「わしにな、あんたを気に入って欲しかったんやろ」
「お兄さんですか」
「そぉやっ」

嫌でもです。
事故が現実味を持ち始めました。
自分、現実世界の中に、戻ってきました。


多分 このままじゃぁ、済まんわぁ〜って。

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