リニア中央新幹線の用地取得、残土処理はいずれも、地域住民に丁寧に説明し、理解を得ることが引き続き求められる。難工事が予想される南アルプストンネルなど、各工事はリスク管理も不可欠だ。

と書かれていますが、まさにそのリスクの話。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

このたび九州北部の豪雨により、福岡県と大分県を中心に大きな被害が発生しています。

気象庁の発表した特別警報は、”経験したことのないほどの豪雨が起こりうる”と形容されます。

それは、ある特定地点にとっては数十年に一度程度の低確率で起こるような豪雨、という意味合いであって、視野を日本列島全体に広げてみれば、同じような規模の豪雨は年に数回程度は起こりえます。だから特別警報が年に数回出されたとしても、必ずしも特異な異常現象ではありません(遭遇した方としてはたまったものではないけど)。

というわけで、今回と同じ程度――1時間に100㎜、半日程度で500㎜という豪雨――は、日本列島のどこで起きてもおかしくはない。

リニア沿線で大規模な発生土置場を計画している地点でも、そのことは頭に入れておく必要があるでしょう。

静岡市街地では、2003年、2004年と2年続けて半日で300㎜以上の豪雨に見舞われていますが、これも線状降水帯によるものです。この手の豪雨で最悪だったのが昭和49年の七夕豪雨。8時間で500㎜の雨が降り、市内の広い範囲が水没、土砂崩れも多発しました。

静岡県内で起きた線状降水帯(バックビルディング型)による近年の極端な豪雨事例としては、2010年の台風9号があげられます。

山陰近海を東に進み、熱帯低気圧に変わりながら福井県に上陸、東海地方を経て関東に抜けた。富士山南西麓から丹沢山地北西部にかけて線状降水帯が出現し、24時間降水量は500㎜を越える。10時間足らずの間に、静岡県小山町小山で490㎜、同町須走で686㎜、神奈川県山北町水ノ木では実に787㎜の降水量を記録。河川が氾濫、土石流が多発したが、幸いにも迅速な非難が功を奏し、人命には異常なし。

牛山素行・横幕季・貝沼征嗣(2012)「2010年9月8日静岡県小山町豪雨災害における避難行動の検証」
土木学会論文集B1(水工学)68-4 pp.1093-1098
http://disaster-i.net/notes/2012suiko.pdf#search=%27%E5%B0%8F%E5%B1%B1%E7%94%BA+%E6%B0%B4%E5%AE%B3%27
デジタル台風 台風201009号(Malou)の記録
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/news/2010/TC1009/ 

わずか半日足らずで500〜800㎜もの雨が降ったのですから、ごく狭い範囲ながらも、今回の九州北部の豪雨を上回る勢いです。

南アルプスの方に目を転じると、こちらは地形の影響があるのか、線状降水帯は発生しにくいようで、1時間100㎜クラスの極端な短時間豪雨の事例は少ないように感じます(観測点が少ないという事情もある)。

しかしながら、台風がゆっくりと通過する際には、湿った風が山地を上昇することとなり長時間にわたって積乱雲を発生させ、強雨が長時間続きやすくなります。だから南アルプスの静岡県側では、数年に1度程度は日雨量400㎜以上の大雨に見舞われるし、10年に1度程度の頻度で日雨量500〜600となる。

長々と書いてきましたけど、つまり九州で起きたような豪雨は、南アルプスでも起こりやすいというわけです。そして豪雨が起きれば山崩れが起きやすい。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

というわけで、大量の発生土を河川沿いに置き去りにする、あるいは仮置きにする、というJR東海の方針は、やはり危険であり、考え直すべきなんじゃないかと思うのであります。

こちらは、今回の豪雨によって大規模な山崩れ(幅約300m)が発生し、川をせき止めている現場の写真です。崩落の比高は150mぐらいであるのに対し、体積土砂は100mくらい先まで到達し、川を越えて集落にまで押し出しています。
イメージ 3
大分県日田市小野地区にて山崩れが川を塞いでいる状況 
写真下方が下流であり、せき止められた上流側では池のようになっている
国土地理院ホームページ(電子国土Web)より複製・加筆



比較のために、同じ縮尺で南アルプスの発生土置場候補地の写真を並べます。
イメージ 2
右が静岡市の南アルプス燕沢平坦地
中央を上から下に流れるのが大井川であり、JR東海は川沿いに370万立米の発生土を山積みにする計画。燕沢平坦地を取り囲む山の稜線は標高2200〜2400mであり、多数の大規模崩壊地を抱えている。
国土地理院ホームページ(電子国土Web)より複製・加筆 


JR東海の案は、現在200〜250mほどある河原を、流路部分50mほどを残して発生土で埋め立てるというものです。
イメージ 4
イメージ 5


この付近における大井川の両岸には既に大規模な崩壊が複数生じていることから、一帯はかなり不安定な状況にあるとみて差し支えないでしょう。

もしも九州・日田市と同程度の崩落が起きれば、川がふさがれてしまいます。燕沢平坦地のほうに、日田での崩壊土砂の堆積範囲を重ね合わせてみます。

イメージ 1
紫色の線が上記日田市の山崩れ現場で崩壊土砂が堆積している範囲 

現状なら流路は崩落土砂を迂回できる、つまり新たな流路が変更するという自然現象が起きるだけの話に過ぎないけど、盛土を行った後だと、途端に川を塞ぐリスクが出てきてしまう。

これはかなりヤバイ話だと思います。

それに、万一川を塞いでしまうような山崩れが起きたら、大量の土砂をどこかに運び出さねばならない。けれど、論理的には不可能でしょう。それが可能なら、そもそも燕沢に発生土を置くのが誤りということとなる。

いろいろと考え直した方がいいんじゃないのでしょうか? 

現在までに、JR東海はこのあたりの山々の安定性や崩壊の履歴等について、まったく調査結果等を公表していません。


かしJR東海は、既に静岡工区でのトンネル施工業者の募集を開始しました。トンネルを掘るなら、当然掘り出したズリ(発生土)を置く場所が必要であり、それはこの燕沢を計画しています。地元自治体に対し安全性の報告もしていない段階で、なんで工事開始が可能なんだろうと、不思議に思うところです。




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隣の県から水を抜く?

先日、中央アルプストンネルの計画されている長野県南木曽町において、同県が設けた水資源対策についての審議会が現地視察を行ったという報道がありました。

(7/6 信濃毎日新聞より一部転載)
JR東海のリニア中央新幹線中央アルプストンネル(延長23・3キロ)建設を巡り、掘削工事が木曽郡南木曽町妻籠の水道水源に与える影響を審査する県環境審議会の専門委員会が5日、現地を視察した。その後、町役場で2回目の会合を開き、「町、JRの双方から出ているデータでは、トンネル工事によって水源の渇水が起きるかどうかを判断できない」として資料の追加提出を求めた。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170706/KT170705ATI090024000.php 


この妻籠地区の水源となっている地区については、長野県水環境保全条例により、水資源に影響を与えかねない行為を制限することとなっています。

(長野県庁のHP)
http://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/suidousuigen.html
長野県水環境保全条例に基づき、知事が指定した水道水源保全地区内において、次の行為をしようとする場合には、知事に協議し、その同意を得る必要があります。
・ゴルフ場の建設
・廃棄物最終処分場の設置
・土石類の採取その他の土地の形質の変更で、変更に係る土地の面積が1haを越えるもの


ところで水資源を大事にしなければならない地区でありながら、JR東海はどうもおかしな進め方をしているように思えるのです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

個人的に見て主な不審点は3つ。

①妻籠地区の環境保全計画が決まる前に着工を宣言 
中央アルプストンネルは長野・岐阜県境をまたいでいます。行政区分でいうと、東から飯田市、阿智村、南木曽町が長野県側で、西坑口に近い部分が岐阜県中津川市となっています。

複数工区に分けて工事契約がなされており、南木曽町は長野県に属するのですが、そのうち妻籠地区の地下は、岐阜県中津川市の山口地区から掘る計画となっています。
イメージ 1

さてJR東海は、工事を開始する前には、地元向けに環境保全の内容について報告すると公約しています。

岐阜県中津川市山口工区については、JR東海が今年5月31日に『中央新幹線 中央アルプストンネル(山口)工事における環境保全について 平成29年5月』という書類を公表しています。

この書類におかしな点があります。

タイトルは『中央新幹線 中央アルプストンネル(山口)工事における環境保全について 平成29年5月』となっています。


以下にコピーして貼り付けてありますが、赤線部分には「環境影響評価書【岐阜県】に基づいて・・・」と書いてありますよね。つまり、この書類は岐阜県版の環境影響評価書に基づいて作成されたわけです。

しかし青い線を引いた工事場所の項目には「岐阜県中津川市地内及び長野県木曽郡南木曽町地内」となっています。
イメージ 2


ならば、「長野県木曽郡南木曽町地内」の環境保全計画はどうなっているのでしょうか?

煩瑣になるため掲載は省きますけど、水資源モニタリング計画では、南木曽町側の監視地点を●で示してあります。けれども、そこで行われる調査方法や調査結果については、やはり岐阜県版の環境影響評価書に基づくとしか書いていません(4-11ページ)。

つまり、長野県側にまで工事を行うと宣言しているものの、この書類では長野県側での環境保全については触れていないこととなります。


②一方的に着工を宣言 
冒頭記事でお分かりの通り、妻籠地区で工事を行うには、県知事の許可が必要です。
それなのに、事実上の着工宣言というべき書類が岐阜県中津川市に送付されてしまった。
http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/news/047411.php

実際には、妻籠地区での工事許可を得る目途はたっていません。また、当然のこと地元の合意も得ていません。

おそらくJR東海の言い分としては、妻籠地区にまでトンネル工事が進むのは当分先のことであり、それまでに許可を得ればよいと考えているのでしょう。

けれども常識的には順序が逆じゃないのかな?

③環境影響評価書との整合性 
評価書は県単位で作成されており、そこには、トンネルの工区設定も県単位でおこなうかのような表現がなされていました。
イメージ 3
環境影響評価書での「工事計画」
当時は矢印の方向に掘削を行うとしていた。矢印は県境(=分水嶺)で途切れている。 

しかし評価書策定後に行われた地元協議や工事入札において、妻籠地区での掘削は岐阜県側から行うことを表明。

イメージ 6
JR東海が南木曽町に提出した説明図
平成27年3月3日第4回 南木曽町リニア対策協議会添付資料
リニア中央新幹線に関する質問書(No.2)に対する回答(平成27年1月30日)より複製・加筆 

ならば、実行可能な環境保全措置についても再検討されるべきではないでしょうか。
⇒具体的に考えると、例えば、水が枯渇した場合に代替水源をどうするか、という話につながる。流域界をくぐり抜けた工区を設定すると、工事中にポンプアップで表流水を補うという手法が使えなくなる。妻籠地区の水を抜いてしまった場合、湧水は岐阜県側に流出する。けれども妻籠地区まで貫通させるまでは、ポンプで汲み上げることすらできない。 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ところで、静岡県の大井川でも同じ状況となっています。

南アルプストンネル山梨工区についての書類『南アルプストンネル新設(山梨工区)工事における環境保全について 平成27年12月』では、工事場所は南巨摩群早川町新倉地内」となっているものの、添付された図によると、「今回の実施範囲」は県境をくぐり抜けて静岡県側にかかっています。縦断面図等から判断すると、静岡県側つまり大井川流域に1.2㎞ほどかかっているとみられます。
イメージ 5
「南アルプストンネル新設(山梨工区)工事における環境保全について」より複製・加筆。中央アルプストンネルのように、「静岡県まで工事を行う」旨の文章表現はない。 

同じく南アルプストンネル長野工区についての書類『中央新幹線南アルプストンネル新設(長野工区)工事における環境保全について 平成28年10月』では、工事場所は「長野県下伊那郡大鹿村大河原地内」となっています。けれども下の方の図によると、やはり今回の実施範囲は県境をくぐり抜けて静岡県側にかかっています。

静岡県側つまり大井川流域にかかっている部分は約0.7㎞程度とみられます。

静岡県内での本坑・先進坑は約11㎞ですが。そのうち2㎞程度つまり2割弱は、既に「着工」していることになるようです
イメージ 4
妻籠地区と同様に、山梨県側での”環境保全について”でも長野県側での”環境保全について”でも、大井川流域での保全については触れていません。

静岡県知事は、「大井川流域での湧水はすべて大井川に戻すこと」をJR東海に求めています。

けれどすでに無視されています

これでいいのかな?

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6月29日に、平成28年度の事後調査報告書が作成・公表されました。
(JR東海ホームページ)

(静岡県庁ホームページ)
これは、平成26年に作成された環境影響評価書に記載された事後調査計画、つまり事業認可後の調査計画に基づき行われるもので、昨年度に続いて2回目となります。

静岡県版に限って言えば、内容はほぼ河川流量のモニタリング結果となっています。

で、相変わらず疑問の残る内容となっています。。。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

河川の流量は、当然ながら降水量によって左右されます。だから河川流量のことを知るためには、降水量との関係を知らなければなりません。雨が降って即座に川の流量が増えるのか、それとも時間差があるのか。あるいは長期の渇水となった際に河川流量はどのくらいまで減るのか。

また標高の高い場所ですから、冬季は雨ではなく雪となって積もるだろうけど、それは流量の増減にどうかかわるのか。

河川流量を知るために、その場所の降水量を知ること。

これは河川を調査するうえでの基本中の基本です。例えば河川から取水するための許可を得る際には、河川流量だけでなく降水量や気温を把握しなければならないと定められています。
河川法施行規則第11条第2項二(流水の占用の許可等の申請)など

というわけで、静岡県内でのリニア計画に置いても、「大井川水系の複数の箇所で雨量を観測すること」が求められています(2014年3月 準備書への県知事意見)。

そしてJR東海も努力するようなことを返答としています。

イメージ 2
環境影響評価書 静岡県知事からの意見と事業者の見解6-3-14ページより複製

この意見については、同年12月の事後調査計画書への県知事意見でも、繰り返されています。

けれども、このほどの事後調査報告書では、降水量については何も書かれていません。今回だけでなく平成27年度版報告書でも触れていない。

これじゃイカンだろうなあ、と思うのであります。。。

南アルプス山岳部の降水量はどうなっているのか?

たぶん、電力会社や国土交通省は、ある程度のデータを持っていると思います。特に国交省は千枚岳付近に雨量計を設置してリアルタイムでデータを取得しているのだから、それを整理することぐらいは可能のはずなんですけど。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

それから、小支流における流量調査結果にも疑問があります。

険しい山奥を流れる谷側については、年2回の調査となっています。これじゃあ調査間隔が半年に及んでしまうので、仮に工事中に流量が減っても兆候をを捕えることができないだろうし、現状を把握するにも不十分です。
(事後調査計画書に対し、これじゃダメだ!と意見書を出したのですが、当然スルー)。

で、このほどの報告書を見てみると案の定、妙な結果となっております。

イメージ 1
結果をみると、ほとんどの地点で豊水期(8月上旬)の流量よりも低水期(11月上旬)のほうが流量が多くなっています

なんのこっちゃ?

気象庁のホームページで調べてみると、昨年の南アルプス一帯はカラ梅雨気味だったらしい。逆に秋の降水量は平年並みだったようです。そのために、低水期のほうが流量が多いという逆転する結果になっていたのでしょう。

晩秋にも流量が増すこともある、ってことを知るという点では、それなりに意味のあるデータだったといえます。

けれども、そもそもモニタリングの目的は現状の平均的な流量を把握することに主眼がありますから、イレギュラーかもしれない値しか得られないというのは好ましくないでしょう

もう少し言えば、この値がイレギュラーなのか常態を表しているのかも、年2回だけのデータでは判断しようがない

せめて月に1度程度の頻度じゃないと、現状把握には遠いと思うんですけどねぇ。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


これらはいずれも険しい山岳地域で、一部には標高2000m前後の地点も含まれています(場所については報告書本文をご覧ください)。ゆえに、調査が非常に困難な場所のようです。それに表の下にあるように、県道沿いでアクセスが良好な場所でも、「ダム放流で近づけなかった」というトラブルが起きていたらしい。

調査が困難ということは、それはそれで理解できます。

けれど、調査が困難な場所、ってことは、調査を開始する前から明らかです。そういう場所であることを承知の上で工事を行う以上は、JR東海としてきちんと現状把握する手法を考えるべきでしょう

それが責任というものだと思います。

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