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一度も泊まったことのないホテルを予約した。清里のプチホテル・・・
ナビで住所地の近くまで行くのに見つからない・・なぜ? なぜ?
道路を通りすぎて何キロも行った先のわずかな折り返しスペースを探して
舞い戻る・・・しかし、見つからない。
ラーメン屋の駐車場に車を入れそこから携帯で電話を入れた・・・
「あ、そこから右へ50メートルくらい進むと右に入る道があります。
そこを入ってください」・・・ということで、今度は注意深く右側を見ていくと
確かに細い農道があり、標識らしいものもある。大きな萱が覆いかぶさっている。
これでは分からない。農道を入ると、ちょっとハンドルがぶれると畑に落ちて
しまいそうな小道がくねくねと続く。トウモロコシ畑が終わったところから林に入る。
「林の奥に家らしいものが見えるわよ!」と美少女が言う。暗い林間に確かに家らしい
ものが見える。「あ〜、やっと見つかったね。ホテルに文句を言ってやる。あれじゃー
不親切だよ。お客様を迎える心がないね」などと私は怒りが収まらない。
玄関前に車を近付けると、中から青年が出てきて笑顔で「お疲れ様でした」
「いらっしゃいませ」という。私は、「あれじゃ〜見つからないよ」と文句を言う。
チェックインを済ませ、部屋に案内されると怒りが喜びに変わる。森に突き出た
広くて落ち着いた部屋、荘厳とも言えるよう雰囲気、二人には広すぎる風呂、
部屋の調度品・・・だんだん安らいだ気持になっていく。
家族経営で、オーナーがシェフ、夫人がホステス、息子がベルボーイ兼ウェイター
みたいな、一人で何役もこなしながらの運営らしい。この建物を出て向かい側の
建物には貸切風呂もありますのでどうぞ・・というので、荷物を下ろし整理した
後に、サンダルをひっかけて公園のような裏庭を通り貸切風呂に行った。
外から使用中の札をぶら下げるだけでいい。三種類の貸切風呂があった。
一番左の洋風の風呂に入った。家族が4人でも十分広い・・・
二階の風呂に入った後、一階に下りると音楽ホールがあった。カワイのピアノが
置いてある。美少女は「弾いてもいいのかな」といいながら弾き出した。それを
聞いていたオーナー夫人が「今晩ジャズ・コンサートがあるから、そのとき
演奏してくださいよ」という。高原野菜をふんだんに使った美味しい料理を食べた
後、泊まり客がみんな音楽ホールに集まった。私たち以外は常連さんのようだ。
そうでなければこのホテルが簡単に見つかるわけがない。
食事中は、「あの家族はお医者さま」などと雰囲気から感じる当てっこをして遊んだ。
「私たちはどうみても不倫ね、ククク」と美少女は楽しげに笑う。「お父さん、そのバター
取ってくれる?」と突然、美少女は言う。隣席の家族の胸をなでおろす光景が浮かび出る。
「やっぱり親子か〜」・・・隣席の緊張感が解ける。
ピアノとベースのデュオで、いくつかの曲を弾いたあとリクエストに応える。相当、
ながく弾いていることが分かる。もしかすると私が音楽活動していた時期と重なるかも
しれない。二人にも誘われたが、美少女は弾かない。やがてコンサートが終わり
おしゃべりしたが、私と共通する音楽家たちの名前が出て来るが、一回り私の方が
上であることがわかる。ベースをやっていた関係でどうしてもベースに耳が行って
しまうけれども、しっかりとしたプレイヤーであった。こうして楽しんでいる
オヤジたちを見ると、やりたいなーという気持ちが出てくる。音楽はほんとうに
気持ちを元気にしてくれる。
コンサートが終わったあと美少女はピアノをまた弾き始める。夜の高原にピアノ
が響き渡る。
帰り際に息子さんには、案内が悪いと怒ったけど、あのままでいいよ。あまり
お客さんが増えても困るからね!と言ってやりました。美少女はオーナー夫人
と気が合ったのか、話し続けている。
「また、お父さんと来てね!」
「ハイ」
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