日々の気持ちを短歌に

数知れぬ星をいだいて働ける母のごとしも宇宙というは(後藤人徳)

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詩集<転位のための十篇>全篇 (6) 

 吉本隆明著 1952〜53

「その秋のために」

まるい空がきれいに澄んでいる

鳥が散弾のようにぼくのほうへ落下し

いく粒かの不安にかわる

ぼくは拒絶された思想となって

この澄んだそらをかき擾そう

同胞はまだ生活の苦しさのためぼくを容れない

そうしてふたつの腕でわりのあわない困窮をうけとめている

もしもぼくがおとずれてゆけば

異邦の禁制の思想のようにものおじしてむかえる

まるで猥画をとり出すときのようにして

ぼくはなぜぼくの思想をひろげてみせねばならないか

ぼくのあいする同胞とそのみじめな忍従の遺伝よ

きみたちはいっぱいの抹茶をぼくに施せ

ぼくはいくらかのせんべいをふところからとり出し

無言のまま聴こうではないか

この不安な秋がぼくたちに響かせるすべての音を

きみたちはからになった食器のかちあう音をきく

それからぼくは訣れよう

ぼくたちのあいだは無事だったのだ


そうしてぼくはいたるところで拒絶されたとおなじだ

破局のまえの苦しさがどんなにぼくたちを結びつけたとしても

ぼくたちの離散はおおく利害に依存している

不安な秋のすきま風がぼくのこころをとおりぬける

ぼくは腕と力とをうごかして糧をかせぐ

ぼくのこころと肉体の消耗所は

とりもなおさず秩序の生産工場だ

この仕事場からみえるあらゆる風と炭煙のゆくえは

ほとんどぼくを不可解な不安のほうへつれてゆく

ここからはにんげんの地平線がみえない

ビルディングやショーウィンドがみえない

おう しかもぼくはなにも夢みはしない


ぼくを気やすい隣人とかんがえている働き人よ

ぼくはきみたちに近親憎悪を感じているのだ

ぼくは秩序の敵であるとおなじにきみたちの敵だ

きみたちはぼくの抗争にうすら嗤いをむくい

疲労したもの腰でぼくは馬鹿の標本になり

ピンで留められる

ぼくはきみたちの標本箱のなかで死ぬわけにはいかない

ぼくは同胞のあいだで苦しい孤立をつづける

ぼくのあいする同胞とそのみじめな忍従の遺伝よ

ぼくを温愛でねむらせようとしても無駄だ

きみたちのすべてに肯定をもとめても無駄だ

ぼくは拒絶された思想としてその意味のために生きよう

うすぐらい秩序の段階を底までくだる

刑罰がおわるところでぼくは睡る

破局の予兆がきっとぼくを起こしにくるから

(つづく)

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