日々の気持ちを短歌に

数知れぬ星をいだいて働ける母のごとしも宇宙というは(後藤人徳)

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詩集<転位のための十篇>全篇 (11) 

 吉本隆明著 1952〜53

「審判」

苛酷がきざみこまれた路のうえに

九月の病んだ太陽がうつる

蟻のようにちいさなぼくたちの嫌悪が

あなぐらのそこに這いこんでゆく

黄昏れのほうへ むすうのあなぐらのほうへ

ぼくたちの危惧とぼくたちの破局のほうへ

太陽は落ちてゆくようにように視える

はじめにぼくたちの路上が 羞恥が ちいさな愛が

つぎにぼくたちの意志が

かげになる

ぼくたちのさてつした魂は役割をおえる

あの悔恨に肉ずけすることにつかい果たしたこころを

あなぐらのそこに埋没させようとする

しづかに睡るかあきらかに死ぬのか知らない

ぼくたちのつけくわえた風景は破壊されるのかどうか知らない

ぼくたちの根拠はしぢに荒廃し

ぼくたちの愛と非議と抗争とはみしらぬ星のしたに繋がれる


おう ぼくたちの牢獄

風が温度と気圧とをかえ

戦火と乾いた夜が風景とその視線をかえ

ぼくたちの不幸な感情が女たちのこころをかえ

夕べごとに板のうえで晩餐がひらかれる

いっせいに寂しいぼくたちの地球よ

ぼくたちはいんめつされた証拠のために

盗賊と殺人者の罪状を負わされなければならない

いんめつされた証拠を書きあらためるため

ぼくたちの不在をひつようとするものがいる

そこに奪われたものと奪われないものとを

空しくわけようとするぼくたちの眼が繫がれている


ぼくたちは九月の地球を愛するか

おう ぼくたちはそれを愛する

ぼくたちは砲火と貨車(ワゴン)のうえの装甲車をこのむか

おう ぼくたちはそれをこのまない

ぼくたちは記憶と屈辱とになれることができるか

おう ぼくたちはそれになれることができない

ゆくところのないぼくたちの信号よ

とまどうひとびとの優しいこころよ

ぼくたちの路上はいまも見なれていてしかも未知だ

どんな可能もぼくたちの視ている風景のほかからやってこない

どんな可能ももぼくたちの生を絶ちきることなしにおとずれることはない

ぼくたちはそこで刺し殺さねばならぬ

架空のうたと架空の謀議と

たしかなぼくたちの破局とを

ぼくたちはそこで嗤わねばならぬ

フィナンツの焦慮とその行方とを


おう さびしいぼくたちの法廷

九月の太陽は無言だ

まるでぼくたちの無言のように

すべての小鳥たち すべての空のいろも無言だ

ぼくたちはぼくたちの病理を言葉にかえない

ぼくたちはぼくたちの病理を審判にゆだねる

なぜ 美しいものと醜いものとがわけられないか

なぜ 未来の条件のおまえに現在を捨てきれないか

なぜ 愛憎をコムプレックスによっておしつぶすか

なぜ 本能に荒涼たるくびきをかけるか

おう その威嚇と法服とを歴史のたどられたプロセスからかりるだろう

ぼくたちの法定者よ

ぼくたちを裁くために嗤うべき立法によるな

ぼくたちを裁くためにけちくさい倫理をももちいるな

ぼくたちはじぶんの無力に伝播性がなく

いつもひとりで窓をこじあけ

九月の空と太陽をみようとするのを知っている

習慣以上のとがった仕種で

世界のあらゆる異質の思想をののしろうとかまえている

ぼくたちの苛酷な夢のはやさを知っている

ぼくたちのこころはうけいれられないとき

小鳥のやうなはやさでとび去り

そのときぼくたちをとりまいている微温を

つき破ってしまうのを知っている


ぼくたちはすべての審判に<否>とこたえるかもしれない

そうして牢獄の夜が

どんな破局の晨にかわろうとも

ぼくたちはそれに関しないと主張するかも知れない

ぼくたちは支配者からびた一文もうけとらず

もっぱら荒涼や戦火を喰べて生きてきたと主張するかもしれない

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