日々の気持ちを短歌に

暗闇にけもののごとく膨れるいる放置されたるゴミの袋が(後藤人徳)

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現代の詩人9 谷川俊太郎(38)
 
中央公論社 昭和58年3月10日発行
 
21
 
詩人たちの村
 
沈黙の部屋
 
四方はしろいしつくい壁にとりかこまれている。壁は最近
 
塗られたばかりのように新しいが、実はもう何世紀も前
 
に塗られたのである。ただ、ここに住んだ人々が、何も
 
家具をもちこまなかつたし、時には呼吸すらひつそ
 
りとくり返すにすぎなかつたので、(もちろん火を焚く
 
ことなど、思いもよらなかった。)白い壁は汚れることも、
 
煤けることもなく、いつまでも新しく見えるのである。
 
白いしつくい壁の或る一面に、(何故或る一面などと、
 
曖昧な云いかたをするのかというと、ここには窓がない
 
ので、方位を決定することができないのだ。)一枚の扉
 
がかかつている。この扉は非常に写実的に描かれた一枚
 
の絵にすぎない。つまりこの扉を開けても、そこには白
 
いしつくい壁があるだけなのだ。そのかわり天井は非常
 
に高い。高いけれどそれは上に行くにしたがつてせばま
 
つていて、丁度鋭い立法錐の内側のようになつている。
 
その頂上は非常に狭く、おそらくヘアーピンを用いなけ
 
れば掃除することはできないだろう。天井は壁と同じよ
 
うに白いしつくいで塗られているが、もちろんそこにも
 
埃はおろかしみひとつない。
 
床は石でできている。地殻に直接つながる花崗岩を平に
 
磨きあげたものである。だがそれは、今や厳密には平と
 
は云えない。何世紀にもわたる沢山の人々の足が、(木
 
靴や、ぞうりや、鋲を打つた靴や、はだしが)床をすり
 
減らしてしまつたのだ。床は真中が最も低くすり減って
 
いる。これは人々の多くが、部屋の中心にいることを望
 
んだ証拠であつて、よく見るとそこにはごく僅かではあ
 
るが、血痕が付着している。
 
 

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