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つまらない生活の中で一学期を終えようとした週末の夕食時、聡子に父が提案をしてきた。 「聡子。こちらに引越してきて、大分のお婆ちゃんの所に近くなったから、夏休み遊びに行って来てごらん」 東京に住んでいる時、聡子はお婆ちゃんと会ったのは数回しかない。それも、全て聡子の家族がお婆ちゃんの所に遊びに行った時だけだった。聡子から見ると非常に大きな体のお婆ちゃんは、飛行機や新幹線に乗って東京まで遊びに来る事が出来る程元気ではなかったし、まず、そんな長旅に耐えうるほど若くはなかった。 「お婆ちゃんが最後に会ったのは、聡子が小学五年生の正月じゃなかったかな?」 「あら、四年生の時ですよ」 聡子の母が、父の間違いを訂正した。 「そうか? まあとにかく、遊びに行っておいで。聡子も中学生だし、もう一人でいけるだろう?」 聡子は、お婆ちゃんの所に訪問する事に、それほど魅力を感じていなかった。お婆ちゃんは優しくて、お母さんが作ってくれないような美味しい料理やお菓子を沢山食べさせてくれたけれど、近くに遊ぶ所は無いし、もちろんコンビにすらないあの不便さがとても信じられなかった。決して嫌というわけではなかったけれど、楽しいとも思えなかった。 (どうでも良いよ) 聡子はそう思っていた。 「あら、聡子には無理ですよ。一人でお婆ちゃんの所に行くなんて。だいいち迷子になってしまったらどうするのですか?」 「そんな事ないさ。なあ、聡子」 母が心配して言った何気ない一言に、聡子はかちんときた。そして、むきになって決めた。母が彼女を子ども扱いした発言に触発され、父の言葉に答える事によって、彼女自身が子供ではないと言いたかったのだ。いつも子どもの様にしているクラスメート達と違うと言いたくて。 「私、行く。だって一人で行けるもの」 「そうか、そうか。お婆ちゃん喜ぶぞ。それじゃ母さん、早速お婆ちゃんに電話しなさい」 父は、機嫌が良い様に聡子には思えた。孫娘を母親に見せる喜びを感じているように見受けられたのだ。 (ふふ、お父さん。私は大人なのよ) 父の思考を読み取った気がして、聡子の自尊心が気持ち良くくすぐられた。 「本当に、大丈夫?」 それでも心配する母の声が彼女に飛んできた。心配だから止めておいたらいいのにと言っている事が、彼女には手に取れるほど分かった。それが余計にうっとうしかった。 「大丈夫だって!」 「そう?」 言いながら母はしぶしぶ立ち上がり、コードレスの受話器を手に取っていた。 ⇒次はコチラ
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