慈遠の創作小説.

創作小説、活動中。 不定期になりますが、Upしていきたいと思います。宜しくお願いします。

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 そんな聡子の帽子好きには、理由があった。
 聡子は彼女が三歳の夏、父母に連れられて初めて大分のお婆ちゃんの家を訪れた。お盆の時期でもあり、他の親戚も大勢集まっていて、一年に一度が二度しか会えない従兄弟達が沢山いた。父親達は楽しそうにビールやお酒を飲み、母親達は台所で忙しそうにしていた。
 子供達は、自然年長格のお兄ちゃんを中心に色々な事をして遊んでいた。それは家の中であったり、庭だったり、川の近くであったりした。三歳の聡子は大きな子供達と一緒に走って回れるほど足が速くなかったし、ボールを取ったり投げたりした事も無く、一人で他の従兄弟達の姿を「キャッキャ」と言いながら見る事がどうしても多くなった。
 そしてその時聡子が一人遊びをしていると、足元に沢蟹が現れた。それを追いかけてよたよたと歩いてうちに、踏みつけていた中位の石が急に動いたと思ったら、次の瞬間ころころと転んでいたのだった。聡子が見たのは、空と河原の石がぐるぐる回る景色だった。そして気が付けば、聡子は川の中に全身を沈めていた。
 聡子は泳いだ事が無かったのだ。短い両手と両足をばたばたさせても、水中では頭がどちらにあるのかすら分からなくなっていた。一番大きな従兄弟の鬼ちゃんの名前を何度も呼んだが、遠くで遊んでいるみんなに届くはずも無く、気が付いてくれなかった。そこにいるはずの無いお父さんやお母さんの名前を呼んでも、彼女を助けてくれなかった。
 何が何だか分からなくなった時、澄んだ川の中から、石橋の欄干が見え、その上に女の人が立っているのが見えた。そしてその人がこちらに飛び込んだ所を見た所までで、彼女の川の中での記憶は終わっていた。一連の流れはは、十三歳になった今でもはっきりと覚えている。
 聡子が意識を取り戻したのは病院のベットの上だった。体の上には、軽い病院用の布団をかけられていた。ベッドの横には、父さんと母さんがいて、目を覚ました彼女の名前を何度も呼び、そして泣きながら「良かった、本当良かった」と言って喜んでいた。
「さっちゃん。もう少しで死ぬかも知れなかったのよ! そんな事になったら、お母さん悲しいから。沢山沢山泣いてしまうんだから」
 そう言いながら、母は既に号泣していた。







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