慈遠の創作小説.

創作小説、活動中。 不定期になりますが、Upしていきたいと思います。宜しくお願いします。

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 そして母の後ろに、今まで見た事が無い綺麗なお姉ちゃんが立っていた。
「さっちゃん、このお姉さんが、あなたを助けてくれたのよ。お名前がね」
 お母さんは、その時そのお姉ちゃんの名前を教えてくれたけれど、今は覚えていない。ただ、石橋の上からこちらを見て飛び込んでくれた女の人の映像が浮かんできた。
「ほら、ありがとうって言いなさい」
 聡子は、何度も何度も頭を下げながら言う母の気持ちに答えたくて声を出そうとしたけれど、何か変に緊張していて声が出せず、口をパクパクするだけだった。
「すみません、娘は状況をまだ理解していないと思います。しかし、本当に有り難うございました」
父が深々と頭を下げていた。
「いいえ、そんな事。偶然あの橋を渡ってふと川を見下ろしたら、さっちゃんが流されているのに気が付いて。その後は夢中で何をどうやったのか覚えていません。一応中学高校と水泳部に所属していて、今年三年になってやめたばかりでしたから。人命救助も顧問の先生に習っていたんです」 
 母親の話では、その後そのお姉ちゃんが、偶然通りがかった在郷の軽トラのおじさんを捕まえて病院にそのまま一緒になって担ぎ込んだらしい。たまたま叔父さんが聡子の事を知っていて、病院からお婆ちゃんの家に電話をしたと言うのだ。集まった親戚は一瞬にして大パニックになったらしい。前後不覚になるほど飲んでいた親戚一同は、一変に酔いが覚めるどころか、上を下への大騒ぎになったそうだった。
「・・・あのう、私そろそろ」
 助けてくれたお姉ちゃんが、お母さんにその場から辞する事を伝えた。お母さんは何度も礼を言い、連絡先を聞いていた。
「聡子。お姉ちゃん帰るって」
 お父さんが聡子に言い、彼女はどうにかしてお礼を言いたかったけれど、言葉が上手く口から出てこなかった。一言ありがとうと言いたかったのに、あまりにも突然に色々な事が起こって咽か自分の物ではないように思えるほどだった。
「ごめんなさいね。娘はまだ動転しているようで」
「いいえ、そんな」
 照れながら答えてから、病室の扉を開けようとするお姉ちゃんを見て、聡子はやっと言葉を発する事が出来た。
「・・がとう」
 聡子は、ありがとうとちゃんと言いたかったのに、言えなかった。もう一度言い直そうとしたけれど、それでも駄目だった。
「うん、バイバイ」






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