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--- 亜美、お婆ちゃんの所へ --- ピーー。 車掌が鳴らす高い音色のホイッスルが聞こえてから、亜美を乗せた列車が動き始めた。 亜美は飽きもせずに、その小さな古い駅舎を眺めていたが、それはゆっくりと列車の後方に動き出し、そしてゆっくりと消えていった。そのままの角度で眺めていると、その古びた線路に平行して走る狭い農道を、お婆さんらしき女性と先ほどの女の子が仲良さそうに歩いているのが見えた。左手にバックを持ち、右手でお婆ちゃんと手を繋いでいた。その表情をはっきりと見る前に、二人の姿は後方に消え去っていた。 (あの女の子の夏休みが、今始まったのかな) 全くの他人の事なのに、何となく嬉しく思えた亜美はちょっと微笑む事が出来た。大きく伸びをしてから、ゆっくりと、一つ大きく息を吐いた。気持ちよい脱力感を感じてから、ペットボトルの中で既にぬるく変わっていたお茶を飲んだ。 車窓から見える景色は、進行方向逆向きを見つめている亜美には、常に景色を後ろに置いて行っている様に見えていた。列車が大きく進行方向左側に曲がる時には後方の車両が殆ど見えなくなり、たった一両で走っているように見えてちょっとだけ寂しく思った。だが逆に右カーブになると、先ほどまで居なくなっていた車両が後方に帰って来た様に現れるのだった。それは、まるで自分の揺れた気持ちを表している様な感じがして、何故か安心できた。 (ばっかみたい) こんなどうでも良い様な事にさえ、亜美は気持ちがふらついている自分が嫌だった。先ほどまでは、何故か懐かしい気持ちで女の子を見る行為を続ける事で、あれこれ考えないようにする事が出来ていた。つまり現実逃避していたのだった。でも今、色々考えないようにして目を閉じて眠ろうとしても、余計に頭が冴える気がしたので止めた。 (みんな、今頃少しは困っているかな?) 亜美は、振り切る様にして休んできた会社の事を思い出していた。入社五年目になり、会社の中でもそれなりの仕事を任せられる事もある様になってきていた。上司である課長は少し物足りない印象を受ける事はあるけれど、仕事上で常軌を逸した要求をする人ではなかったし、セクハラも、それと受け取る事が出来るような事も無かった。給料だって、一緒に卒業した友達と比べても一番と言うわけではなかったが、決して悪い額でも無かった。深夜まで仕事で倒れるまで働かされる事を求められる事も無かった。しかし、これまで有給をちゃんと取った事は殆ど無かった。取って良いと言う雰囲気が無かったのだ。 ⇒次はコチラ
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