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目の前で、絵梨香さんが笑っていた。 すっと手を伸ばして頬を触れようとすると、俺の指は、白磁の様な綺麗な顔の輪郭の中に吸い込まれ、そして古いテレビの絵の様に崩れ、そして消えた。 俺は自分の部屋で、夜だと言うのに、電気も点けずに椅子に座っていた。 消えたのは、俺の想像が作り出した絵梨香さんの幻像だった。 二時間前、本物の絵梨香さんを、俺は見た。俺と絵梨香さんだけの空間だったはずのあのハンバーガを食べるあの空間で絵梨香さんは椅子に座り、笑っていた。 俺には見せた事無い笑顔で、彼女は楽しそうに笑っていた。 八メートル先で、笑っていた。 綺麗な絵梨香さんに釣り合いの取れた、お洒落な服を着た、金持ちそうな、そして以前絵梨香さんが働くお店で見た事のある男の顔があった。雑誌にでも載っていそうな、カッコイイ顔をしていた。 やっぱり、絵梨香さんは笑っていた。 そして、男がポケットから出した手の平に乗るくらいの純白の箱を受け取った。 絵梨香さんは、嬉しそうに、そして恥ずかしそうにその無垢の塊の様な箱をゆっくりと開けた。 その後の映像は、何も覚えていない。 何も見ようともしなかったのかもしれない。 いや、逃げたんだ。絵梨香さんの幸せだと言うのに、見続ける事が出来なくなって。 いつの間にか、俺の耳に音も届かなくなっていて、何処をどの様にして通って来たのか覚えていないが、自分の部屋に戻り着き、そして椅子に座っていた。 現状は把握している。 認めたくないが、理解はしている。 「何だったんだよ」 弱々しいかすれた声が、俺の口から押し出された。 オヤジやお袋に言わせるなら、始まってもいないらしい恋が終わった。 絵梨香さんだけを見ていたつもりが、実は、回りが見えていない事を知らずにいた。いや、肝心の絵梨香さんすら見えていなかったと言うのに。 全てが、世の中に存在するあらゆる物が、虚構の中に浮かぶ頼りない木の葉の様に感じていた。 辛く哀しいはずの思いが、目の前に絵梨香さんの幻像を浮かび上がらせるほど・・・・それも嘘だと言うのに、触れようとする情けない自分がいた。 (なんだろう?) どんな言葉か思い出せないのに、オヤジに言われた小言のうちのいくつかが、当たっていると思った。俺が、いや俺の恋がこんな結果に終わると何度も言われていて、でも俺は、そんな事は絶対に無いと100%思っていたのに。 オヤジは、こうなる事を心配していたのではなく、俺がどれだけ傷つくかを心配していたのだ。 分かっていたのに、気遣ってくれていたのに、なのに・・・俺はその言葉を受け入れなかった。俺が追い越したオヤジの言葉等、さらさら聞く気がなかったから。 --------それが、このざまだ。 失恋に頭の先からどっぷりと濡れそぼった俺は、身を投げ出した蒲団の上で、一睡も出来ずに、そのまま白い朝を迎えた。 カーテンを抜ける光の強さが、朝のそれになっていた。鼻の先に、そして頬や耳を照らす日の光に、昨日から確実に時が過ぎ、そして今日へと変った事を感じた。心音すら聞こえなそうな落ち着いた心に、チチチ、と言う小鳥の鳴き声が届いた。 家の周りに、朝、小鳥が何羽もやって来て、そしてこんなにも元気に囀っていたのかを初めて知った。そして思った。今日は、よほど天気が良いのだろう、と。 全く寝ていないのに、脳がくっきりと起きていた。体中が、ぐつぐつと覚醒している気がした。辛く悲しい気持ちを無理やりに押しやろうとする弱い気持ちが、痛いほどつまらなかった。 「なんだかな・・・」 一晩ぶりに出した声は、頼りなくかすれていた。 重い頭を乗せた上体を起こし、拳一つ分、短く息を吐き出すと、改めて自分が今この小さな自分だけの空間にいる事を思い出した。そして、俺だけのこの小さな城が、オヤジとお袋の家の中にいる事を感じた。 そして久々に、鼻腔にソースの匂いを感じた。ここの所、ずっと嫌な匂いだと思っていたそれが、生まれた時から慣れ親しんだ生活の匂いだと言う事を受け入れていた。 ぐぅうう。 久しぶりに、腹が鳴った気がした。 久しぶりに、食べてみたくなった。 久しぶりに、「おはよう」って言ってみようかと思った。 終わり
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・日記
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《説明》
本当に短篇です。すっと短い感じの。
父よりも幼馴染、春子の父(呼び名:おいちゃん)に憧れているかれが・・・・・・。
本当に短篇です。すっと短い感じの。
父よりも幼馴染、春子の父(呼び名:おいちゃん)に憧れているかれが・・・・・・。
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俺は、春子の日記を読み続けた。 いつの間にかおばさんがいれてくれていた分厚いマグカップのコーヒーがすっかり冷めてしまっている事に気がつかない程、のめり込む様にして読み続けていた。 春子らしい力の抜ける出来事や、乱雑に並べられただけの食べ物の話等が続く中に、俺にとって意外な人間が、何度も何度も顔を出して来るのだった。 「秋ちゃんのお父さんは・・・・」と続くその言葉に、俺は驚いていた。いや、嘘だろうと思った。 なのに春子は、オヤジを褒めていた。しかも、外見を。 俺には、いつの間にか抜き去ってしまっただけの冴えないじじいでしかなかったのを、おいちゃんよりもカッコイイと、何度も書いていた。 「秋ちゃんのお父さんは、私の事を真っ直ぐに見てくれる。真剣に聞いてくれるから、それが分かっているから、私は色んな事を相談するし、しっかり答えてくれるから、もっともっと尋ねるし、聞いて欲しいと思ってしまう」 春子の字は、その日記の中で躍っている様に見えた。楽しそうなステップを踏んでいるようにさえ見えた。 少なくとも、俺と春子との距離は、オヤジよりもお袋よりも近いと、当然の事として思っていた。でも、春子は俺にそんな深い相談をした記憶が無い。そんなに深く、感謝された事も無い様に思った。 悔しかった。 そして、 妬いていた。 認めたくは無かったが、負けていると思った。 いつのまにが、目が、文字を模様としか思えなくなりながら追い始めた時、おいちゃんの声が、ふわふわと浮き出していた俺の気持ちを体に引き戻した。太く、しかしゆっくりとした声だった。 「結局、あいつには一回も勝てなかったな」 隣で、おばちゃんが無言のまま、緩やかな笑顔で座っていた。 「え?」 間の抜けた声が、俺の口から無意識に吐き出されていた。 「俺には過ぎた娘をさずかったから、掛け値無しの愛情を注いでいたつもりだったが。・・・・・春子は、俺にはそれほどまでに甘えてくれなかった」 「そんな事無いって」と言う言葉を吐きながら、手にした日記にみる春子の気持ちは、誰に一番心を開き、そして誰を頼りにしていたのかは分かっていて、変に空しかった。 「あいつとは古い付き合いだ。学生の頃から、あいつはモテタ。女だけじゃなく、男にも。そして、後輩からも先輩にさえも好かれていた。磁石が蹉跌を集める様に、あいつの周りには人が自然に集まっていた」 「おいちゃん・・・」 俺の声がよっぽど情け無かったのか、おいちゃんは少し慌てて笑った。 「なーに、拗ねてなんかいないさ。俺も、ファンの一人だからさ」 俺の脳裏には、オヤジの情け無い顔しか浮かばず、あらゆる事に納得が行かないでいると、おいちゃんは左手に持ったコップに入った酒を煽ると、トンとそれを机の上に置いた。安いコップの底で、僅かに呑み残した透明の液体が小さく揺れた。 「秋ちゃんは気がついていないかもしれないが、秋ちゃんのお父さんは凄い奴だよ」 真っ直ぐに俺を見て、ゆっくりとそう言うおいちゃんの目は、春子に目にとても似ていた。 ⇒次はコチラ
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視界に入っている二つの笑顔を、俺はいつから見てきたのだろうかと考えていた。いや、しっかり考えるほどではなく、笑いながら、話しながら、頭の隅っこで、流す様にして考えていた。 答えは、『気がついたら』と言う結論に行き着いた。 そんな事を考えていると、不意に、二年前までは当たり前の様に見ていた春子の笑顔が懐かしく思い出された。けっして美人でもかわいいとも言えなかったが、愛嬌のある良い顔をしていた。おいちゃんもおばちゃんももちろん、俺も春子の笑顔は大好きだった。 周りの人を笑顔にさせる不思議な匂いを持っていた様に思う。 (おいちゃんは、春子の事を思い出して悲しくならないのかな?) 楽しそうに日本酒を飲むおいちゃんの顔を見ていると、今日はふとそんな事を考えていた。そしておばちゃんの笑顔を見ると、同じ事をおばちゃんに対しても思った。 この家は、俺がガキの頃から・・・・そう昔から、笑い声が家の外に溢れ出ているディズニーランドの様な家だった。最近になって気がついたが、それはきっと、体の弱い娘を持った二親が、愛娘を大事に思うが故の努力の結果だったと思う。 (こんな親だったら・・・) いつもながら、そんな事がすぐ脳裏に浮かぶ。 自然にそう思ってしまうのだ。 「ねえ、おいちゃん」と聞きかけた時、おばちゃんが「秋ちゃん、これ読んでみる?」と言いながら、厚い革張りの冊子を腰の後ろの棚から取り出し、俺の前に滑り出した。 反射的にそれを受け取ると、それは小さいくせに、想像以上にずっしりとした重さが手に伝わってきた。 「これ、何?」 「それね、春子の日記なの」 それはちょうど、おにぎりの具は何かと尋ねたら、おかかよ、と答えるぐらい、さらっとしたおばちゃんの答え方だった。その答え方が呆れるほどあまりにも簡単すぎたので、人の日記だと言うのに、躊躇する事無く俺は手に取った分厚い表紙をめくった。 最初のページに書かれていた日付は、三年前で、逆算するならば、春子の亡くなる約十ヶ月前だった。 部屋の中から笑い声が消え、時折、おいちゃんが日本酒を口に運んだコップをテーブルに置く音だけが聞こえる部屋の中で、春子が書いた日記を読み進めていった。 不思議な事にその日記には、病気や体調に関する事は一言も触れられていなくて、おいちゃんが春子を笑わせた事や、おばちゃんが作った手料理の事など日常の話ばかりが書かれていた。それは、まるでこの家の断面を切り取った様な書き綴られ方で、春子がこの家の事を冷静に、そして一緒になって生きていたと思える内容だった。 そして、その家族の事を書き綴った日記の中に、当たり前の様に俺も登場していた。春子は、俺が思う以上に俺の事を見ていて、本人が今となってはすっかり忘れているような事も、そして本当に些細な事も、丹念に取り上げていて、そして楽しそうに書き綴っていた。 春子の並べた言葉の列が面白くて、本なんて殆ど読まない俺が、吸い込まれるように読み続けていたのだが、その動きが止まった。 「春子のやつ、つまらない事まで書いているなぁ〜」と、俺は呆れたように吐き出していた。 「つまらない事?」と、春子にそっくりな目をしたおばちゃんが、楽しそうに嬉しそうに聞いてきた。 「たこ焼きの所。おばちゃん、読んだでしょう?」 「ああ、そこね。ふふふ」と答えた。直ぐに何処の事を言っているのか思い当たったのだろう、それを思い出した様で笑っていた。 「でもさ、ふつう高校生の女の子が、俺がたこ焼きを床に落とした事まで日記に書くかな----」 「秋ちゃんが悔しそうにしていたのが楽しかったみたいよ」 「ガキじゃないんだから、悔しいって事はないけどさ・・・・」 「あの子には、秋ちゃんが悔しそうに見えたのよ」とおばちゃんは、やっぱり楽しそうにそう言うと、もう一度、ふふふと笑っていた。 ちぇっ、と俺が舌打ちすると、おばちゃんは尚更楽しそうに笑いだした。そしてその横で、おいちゃんも楽しそうに目で笑い、そして手にしていた日本酒の入ったグラスを口に運んで空にした。 春子はもうこの世にいないのに、ここにはあいつが確かに生きていたという事を知っている空間があるのだと、俺は改めて思った。 ⇒次はコチラ
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その二人の姿が見えなくなると、絵梨香さんが「あの・・・」と言ってから、ハンカチで口元を拭ってくれた。俺は、色々な事が一度に起こってしまい、何が何やら分からず呆然としていたが、絵梨香さんの持つ薄い黄色のハンカチが赤くなっているのに気がついて、さっきの一撃で口を切っていた事に気がついた。 「ごめんなさい。大丈夫?」 それが、俺が初めてちゃんと聞いた絵梨香さんの声だったと思う。興奮で何を答えたのか覚えていないが、俺と絵梨香さんは、その場の重苦しい雰囲気に押し出される様にして、ハンバーガ屋の一番済の席に向かい合って腰を下ろし、ぽつりぽつりと話し始めた。 絵梨香さんは、何度も何度も謝りと感謝の言葉を口に出していたが、テーブルの先に動く口と瞳が眩し過ぎて、そして瞬きと共に優美に上下するまつ毛が綺麗過ぎて、俺は魂が抜き取られた様にして見とれていた。淡いクリーム色のブラウスの上にあるその顔が、俺が今まで会った女性の誰より綺麗だった。 顎の痛みなどは既に何処かに行ってしまっていて、俺は、絵梨香さんとの会話を全身で楽しんでいた。嬉しくてしょうがなかった。 話した内容なんて、覚えてはいない。無我夢中。いや、耳に届くその声が心地良くて、ただ気持ち良くて。 舞い上がると言うのは、ああ言う事を言うのかな。多分。 ただ、今度また会う事があれば声をかけて良いかとだけ聞き、嬉しい答えをもらう事が出来た。 俺にとってそれは、女性とのちゃんとした初めてのデートだった。 そして次の週、更に次の週と絵梨香さんは、俺の前で微笑んでくれた。会う毎に、俺の中で彼女の存在が大きくなっていって、会え無い時間は、気がつけば絵梨香さんの事を考えていた。思い出していた。 年が8つ上だと言う事なんて、絵梨香さんがアルバイト前に会うだけのデートをしているだけの俺にとっては、何の問題でもなかった。 ただ、それ以上に誘う事・・・・。 つまりカッコ良く何処かに連れて行くなんて事が、出来ないだけなのだ。高校生でしかない俺には、絵梨香さんを別の空間に連れ出せる知識も、お金も無かった。 何より、『俺には無理だ』、と認めてしまっている自分自身が情けなくて、哀しいほどに間抜けだった。 気力と意思の力が折れている情け無い俺は、遠くに見えている絵梨香さんの背中を見つめただけで、その場に背を向けて歩き出した。 とりあえず、いや、何となく、家に戻り着いた。 母に向かって、ただいま、と言う言葉が出ようとしたのだが、母の肩越しにオヤジの姿が僅かに見えて、少し空きかけた口を閉じ、俺は黙ったまま玄関から廊下へと向かった。 「秋人」と俺の名を呼ぶ母に返事が出来ずに通り過ぎると、「ほおっておけ」と言う強い親父の言葉が聞こえてしまい、母親に対して更に言葉を吐きづらくなり、そのまま自分の部屋に入った。 座ると同時に、意識せずに、ちっ、と舌打ちをしていた。 自分に苛立っている事には気がついているのに、認めたくないガキの俺がいた。 むしゃくしゃした気持ちを、まっすぐ出すことすら出来ずにいて、なおさらくさっていく自分が、本当に情けなかった。 「何、やってんだか・・・」 そうつぶやくと、むくりと立ち上がった。 ケツの座りの悪い部屋を出ると、さっき通り抜けたばかりの玄関にむかい、俺はもう一度家の外へ歩き出していた。 頭に来るが、足の進むまま歩いているのに、オヤジの言葉が、頭の中に何度も浮かんでは消えていった。 「どうして、お前はそうなんだ」 「つまらん」 「文句があるならはっきり言ってみろ」 「だいたいお前は・・・」 頭に浮かんでくるのは、小言ばっかりだった。 (だいたい、どうしてあんなオヤジに言われなくちゃならないんだよ!) 既に、身長だけではなく、人としても男としても越えている親に、俺が文句を言われなくちゃならないんだよと、思えば思うほど腹が立つのが分かった。 怒りのネタが、水源の底から湧き上がる気泡の様に絶え間なく滾々と噴出し続ける間に、俺の脚が、いつもの行き慣れた場所に連れて来ていた。 「おう、秋ちゃん、どうした?」 威勢の良いおいちゃんの声が、耳に優しかった。 ⇒次はコチラ
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とにかく、土曜日にココに来れば、絵梨香さんを見る事は出来るし、一応声をかける事は出来る。但し、毎回そんな事をすれば、ストーカーと同じだと言う判断ぐらいは持ち合わせていた。 でもこうして、今日俺はココに来ていた。 少しおおぐりのえりをした真っ白なブラウスは、絵梨香さんと初めて出会った時に着ていたものだと言う事に、僕は気がついた。 (あの時の・・・) それを見ていると、もう怪我はすっかり無くなっていたが、左の頬に喰らった痛みがすっと思い出された。鉄錆の味がした、地の味が思い出された。 出会いは偶然だった。 滅多に立ち寄らないこのハンバーガ屋に、俺はたまたまコーヒーを一人で飲んでいた。絵梨香さんがその手にトレーを持って直ぐ横を通り過ぎた事にも気がつかなかった俺の耳に、激しい音が飛び込んで来た。反射的に振り返ると、床に絵梨香さんとトレーに乗っていたであろうハンバーガーとポテトが転がっていて、真っ黒なコーヒーが真っ白なそのドレスの袖口を汚していた。 そして、絵梨香さんの手前に、真っ白な悪趣味なパンツを履いたままの男が足を投げ出していて、連れらしい男と一緒に、ばかにした笑いとすえた目で見下ろしていた。どうして転んだか、誰か加害者なのか一目瞭然だったが、周りの人は誰一人口を開く者も、そして絵梨香さんを助けようとする者もいなかった。 今思い出しても理解できないのだが、次の瞬間俺は立ち上がり、そして絵梨香さんに近づき、そして彼女の腕を取って立たせていた。 俺の俺に対する驚きはそれだけに留まらず、「おい、気をつけろよ!」と乾いた声で、二人の男に言葉をぶつけていた。 自慢じゃないが、俺は喧嘩なんて一度もした事無いし、危ない所に口を突っ込むなんてやった事も無ければ、したいとも思わない種類の男だった。腕っ節が強いの弱いのと言う次元の前に、拳の使い方もしらない男だった。 いきなりの俺の登場に、一瞬驚きの表情を見せた二人の男達だったが、場慣れしているらしいその目が、小さく震えている俺の拳を見つけると、ただ、ふふんと笑った。そして、次の瞬間、棒立ちになった俺の前に立つのが見えたが、次の瞬間左の頬に衝撃を受け、俺は後ろに倒れていた。後になって、その男のフックを喰らったのだなと分かるまでに時間を要すほど、全く何が起こったのか分からなかった。 今度は、俺が絵梨香さんに助けられて立ち上がるばんだった。 絵梨香はその時、何かを俺に言っている様な気もするが、俺の耳には何も届いていなかった。ただ、立ち上がると、無言のままその男の顔の前に俺の顔をぶつける様にして立つと、力の限り睨んでいた。怖いとか脅してやるとかそんな感情は抜け落ちていて、ただ無心で、どうにでもなれと言う気持ちだけで立っていた。 それが十秒かも一分かも分からなかったが、男は、「なに、マジになってんの?」と言い、そしてその場を去って行った。俺を馬鹿にしたその言い方は、決して俺が怖かったのではなく、付き合っていられないと呆れた感じだった。 ⇒次はコチラ
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