慈遠の創作小説.

創作小説、活動中。 不定期になりますが、Upしていきたいと思います。宜しくお願いします。

あの夕日の向こうに

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   最終章

 長い下りの坂を、お母さんに連れられて男の子が歩いている。
「ねーママ。さっきの猫さん。綺麗だったね」
「ねこさん?」
「ほら、公園にいた猫さん」
 ママは、坂の上にいた公園を思い出した。
「本当に、綺麗だったね。あっくん、猫さん好きなんだ」
「うん。僕ね、猫さん大好き。あ、見てママ。また別の猫さんが走ってる。速いなー」
 男の子の横を、立派な体格の猫が、坂の上に方に向って走り抜けて行った。
「ねーママ。早く帰って御飯食べよう」
 男の子はそう言って、下り坂をかけていった。
「あっくん、危ないから。転ぶわよ」
 あっくんはママの声が聞こえていないのか、それともご飯の事で頭が一杯なのか、ママの先をどんどん駆けて行った。
 五〇メートルも走っただろうか、あっくんは棒立ちになった。何かに見つめられて、体が固まったように、ママには見えた様だ。
「あっくん、どうしたの?」
 答えは返ってこない。男の子は、声すら固まってしまったようだった。

 心配してママが男の子に追い付くと、そこには下半身を車に引かれている猫が横たわっていた。
「ひぃ」
 ママは驚きのあまり、すっとんきょうな声を出してしまった。
「ママ、今ねこさんが死んだよ。さっき、僕を見て手が少しだけ動いたけど、そのあと動かなくなっちゃった」
ママは、自分がこれほど怖がっているのに、子供が冷静に猫の死骸に接近して、なおかつ不思議な事を言っている事に驚いていた。ママは、一刻でも早くそこから逃げ出したいというのに。
「ねこさん、車に轢かれちゃったのよ。かわいそうね。さあ、行くわよ。早く、早く。ね」
そう言いつつ、ママは男の子を引っ張って、その場を逃げ去った。

 動物の死が怖かったのか、昔祖母からでも聞いた祟り話でも思い出したのか、最後は男の子を抱え上げて、ママは全速力になっていた。
 ママの腕の中で、男の子が呟いた。
「ママ、あのね。さっきの猫さん、喋っていたんだよ」
「バカな事をおっしゃい。ねこさんは喋らないのよ!」
「だって、聞こえたよ。ねこさんね、『坂の上に行かないと』って」


   完






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 ゆっくりと振り返ると、この前までオネショを漏らしていたようなガキが一人立っていた。顔を見たことが無い。
(誰だこいつは?)
 そんな事を考える一方、自分を省みた。この距離で背後に他人を寄せ付けた事すらなかった自分が、こうも簡単に、他人を後ろに立つ事を許していた。その事に、驚いていた。
「お前、健二だろう!」
「誰だ?」
 今度は左足に衝撃が走った。自分で気が付いていなかったのだが、左眼が腫れていて完全に塞がっていたのだ。その死角から、誰かが僕の左足に攻撃をしたのだ。その方向を見えるほうの右目で見ると、さっき見たガキと同じくらいの女の子が立っている。
「どうして、おねいちゃんにあんな事したのよ!」
「そうだ、そうだ!」
 二人の子供は、泣きながら体当たりを喰らわしたり、めちゃめちゃに腕を振り回してパンチを繰り出している。いつもだったら、どうということも無い攻撃のはずだ。しかし、今の俺にはかわす事はもちろん、受け流したり、ブロックしたりする事も出来なかった。やられるままだった。
 それに、どうもこのガキどもは、健二と俺を間違っているようだ。いつもの事だ。だが、こいつらはそんな事は知らないだろう。
 今まで何度も間違われてきた事じゃないか。だが、今だけは間違って欲しくなかった。
「いや、俺じゃない」
 言葉を発した時、同時に二人が僕に体当たりをしてきた。
 ふんばりの効かない僕の足では、軽いガキにのしかかられた形で押し倒され、その勢いで更に後方に三回転した。ガキ二人は素早く立ち上がったが、僕は完全に自分の足への支配力を無くしていた。立ち上がろうとしても、起き上がることすら出来なかった。

 そこに、轟音を響かせて大きなトラックが迫ってくるのが分った。僕は今、道路の中に倒れているのだ。
 ガキどもは状況が分って、直ぐに歩道に飛びのいた。
 僕は必死になって、そこから逃れようと抵抗した。少しでいい、動いてくれと念じたが、自分の足は僕の願いを聞いてはくれなかった。
 ぎりぎりの、最後の最後まで僕は努力したが、トラックは僕の足を踏み潰して去っていった。

「うわーーーーー」
 ガキ共が、そう叫びながら去っていった。
 トラックに轢かれた足には、不思議と痛さは無かった。完全に麻痺していたのだろうか?改めて自分の足を見たら、足どころか腰も一部が踏まれている事がわかった。僕は完全に動けなくなっていた。

 オジキの言葉、
<けっして気を抜くな。最後までだ>
 最後の最後で、僕はそれを忘れてしまったのだ。ダメな奴だ、自分に対して、可愛らしくののしった。

 まだ、首と手は動くようだった。耳も聞こえていた。
 仰向けで転んでいたので、上空がよく見えた。
「空が、あ、もう星が見える。綺麗だな」
 口に出た言葉を自分で聞いて、何のん気な事を言っているのだと思った。僕がこのまま、死んで、悲しむ奴はいるのかと考えた。悲しむ奴はいるかもしれないが、喜ぶ奴もいるかもしれないなと思った。
 ふと視線を低い位置に落とすと、目の前に男の子が座っている。不思議そうに僕をながめていた。
「どうしたの?」
「トラックに轢かれたのさ」
「大丈夫?」
「ああ。ただな、俺は、坂の上に行かないと・・・・・・」
 そこまで喋った時、急に視界が狭くなっていった。
 遥か坂の下の方から、僕の名前を呼んでいるような気がした。「健二、健二」って言っている。
最後くらい、本当の名前で呼んで欲しかったなぁ。






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 やつの攻撃が、その勢いを無くしてきた。
 やつにすれば、最高の攻撃だったのだろう。僕にすれば、なんとかしのぎきった形になった。
「行くぞ」
 僕は溜めきった力を、一気に爆発させた。蹴りとパンチを、ブロックの上だろうが振り抜いた。何発かはブロックされたが、途中何発か急所に入った。やつが「ぐう」と唸ったのが聞こえた。
 僕のラッシュは続いた。段々と、奴の足がよれ始めたのが見えた。もう五発も打ち込めば、奴を完全に倒せると思った時、やつは一歩下がって叫んだ。
「待て!」
 僕は、奴の意外な行動に、振りかぶった手を下ろした。
「なんだ!」
「あれを見ろ!」
 奴はそう叫んで、高志が倒れているアパートの二階を、顎でしゃくった。其処には、高志の横に太助が立っていた。
「太助!」
「そうだ、太助だよ」
 仁はにやりと笑って答えた。そして大声で、
「おい、太助。今からこいつが俺に少しでも手を出したら、其処に転がっている奴を殴っていいぜ!」
「貴様! なんて卑怯な」
「卑怯? 素晴らしい誉め言葉だね。もっと言ってくれ。ひひっ」
 仁は本当に喜んでいるようだった。
(なんて奴だ!)
「おい太助。そんな事は止めろ。高志はお前のダチだろう!」
僕は、二人が仲良く話したり冗談を言い合ったりしている姿を思い出して、離れた所いる太助に向って叫んだ。だが、太助は無言のまま、高志の横に立っているだけだった。
「ダチ? 笑わせるね。奴は、お前達に笑いものにされ、そして追い出されたようなものさ」
「そんな事は無い、あいつなら」
と、言ったものの、僕もそれは難しい事であるように思った。
 だがしかし、こんな仕打ちが認められるのか? 仁は、太助の心に隙間に付けこんで、奴をおもちゃにしているのだ。こいつだけは許せないと思った。
仁がのっそりと立ち上がって、ゆっくりと近づいて来た。
「おい、動くなよ」
 奴は俺の顔面にパンチを入れてきた。動かないつもりでいたが、反射的に僕は避けてしまい、更に奴の顔面にパンチを入れていた。奴は僕が避けるなど、ましてや打ち返してくるなど想像していなかった様で、綺麗にパンチが入ってしまった。
「お前、状況が分っていないようだな!」
 そう言って、仁は僕から一歩下がった。
「追い太助、その虫の息の奴に、顔面に一発入れてやれ。思いっきりだ!」
「やめろーーーー」
 僕は叫んだが、太助は高志の頭にパンチを打ち下ろしていた。高志がパンチの衝撃で、一瞬頭をもたげた。
「あらららら。 あいつ本気で殴っているよ。いいね、いいね。ひひっ」
 仁は楽しんでいた。自分でやれと言っておきながら、恐らくは葛藤の末にそのパンチをはなった太助の心情にすら、おもちゃにしているのだ。
(こいつだけは、こいつだけは)
 仁はゆっくりと僕を見た。
「もう一回言っておく。俺に手を出したらどうなるか。あそこで寝転んでいる奴がどうなるか分っているな。ああ?」
「ま、待てよ」
「分っているな!」
 そう言いながら、奴は僕に攻撃を始めた。僕は貝のようにガードを固めて丸くなった。打開策は見つからなかったが、今はそうするしかないと腹をくくった。







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 僕は間合いを詰め始めた。仁は横に回りつつ間合いを詰めてきた。
 二人を中心にした回転は、仁の足が止まると同時に終わった。間合いは、完全にお互いの攻撃の間合いとなっていた。
 先に動いたのは仁だった。
 気がせいていたのかもしれない。じれた末での攻撃となった。
 左のパンチはフェイントで、体ごと突っ込んできたかと思うと右のフックが二連発で僕の目と肩に襲ってきた。目への攻撃はかわす事が出来たが、肩への攻撃は逃げるのが間に合わないと分ったので、ブロックしつつ前に飛び込んだ。
 肩に奴の得意な爪が刺さる感覚があったが、僕はそれに構わず、奴の引き足に合わせて飛び込んで、ショルダータックルを喰らわせた。その力を利用しつつ、奴は更に後ろに飛んだ。僕は更に、奴に向って飛び込んだ。
 奴にすれば逃げる為に後ろに飛んだはずが、僕の踏み込みで、それは実現しなかったのだ。
 そこに、ぼくは思いっきり頭突きを喰らした。額を狙った頭突きはぎりぎりで避けられたが、奴の鼻に、僕の額が届いた。
「がっ」
 仁が喚いた。僕は呼吸をおかず、左右のパンチを連続で叩き込んだ。最初の何発かはブロックされたが、段々に奴の体の芯をとらえ始めていた。連続して五発ほど良いのを打ち込んで、僕は後方に飛んだ。
 手に感触は残っている。ダメージは確実に与えているはずだ。僕はどうだろう。相手を視野の中心に捕らえながら、自分の体に信号を送って状況を把握した。傷は、最初の左肩のみである。呼吸が少し上がっているが、たいした事は無い。十分やれる。
「どうした。てこずっているじゃないか。自慢の爪も届かないと、どうという事は無いな!」
わざと、僕は嫌味を込めた口調でしゃべった。仁が何か言いたそうだったが、僕以上に息があがっているようで、喋るのもきつそうだった。だが、なんとか大きく息を吸ってから、
「まだだ」
と、搾り出すようにして声を出した。
 僕は、奴の目を見た。奥底まで見抜くように、しっかりと見た。
(奴の目は、まだ生きている。来る!)
 その瞬間、奴は驚異的なジャンプ力を見せて一気に僕の目の前に現れた。左右のフックが凄まじい速さで叩き込まれた。この攻撃は、瞠目に値した。腕の回転が速い上に、奴の爪が間合いを長くしていく。ブロックするのが精一杯で、こちらからの攻撃が出来なかった。
 しばらくは、受けに回らざるをえなかった。僕は、とにかく致命傷になることだけを避けて、防御にまわり、機会を待った。






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   第六章

 幸運は、突然に僕の目の前に転がり込んできた。万事、ラッキーともアンラッキーとも思わない僕だが、心の中でガッツポーズをした。
 奴を見つけたのだ。坂の上の公園に程近い、やや広い空き地のヘリを隠れるように歩いていのが見えた。
「おい、仁」
 奴は声そのものには驚いたようだが、振向いて僕を見たその目には、焦りも驚きも無いと感じた。
(こいつ、冷静だ。厄介だな)
「探したぞ!」
「健二か。と言っても、どっちの健二か知らないが。しかし、意外に遅かったな」
「驚かないんだな」
「驚く?俺が見つかった事か? ああ、別に。 お前、計画は全部聞き出したのだろう?」
「何故、そう思う」
「こっちも聞かせてもらったからな」
「何をだ?」
「あのアパートの二階。廊下の左端が見えるか?」
 そう言って、仁は顎で僕にその場所を教えた。僕は、奴を警戒しつつ、その方向に目をやった。其処には、高志が倒れていた。
「高志!」
「お前の所の若い奴らしいな。ついさっきまで遊ばせてもらったよ。その後で、うちの若いのが捕まって、げろっちまったと聞いたよ」
 僕は、高志が死んでしまったのではないかと思ったが、この距離では確かめようも無い。
「時間がないのじゃないか?」
 仁は、わざとらしい聞き方をした。自分にとって、物事が優位になっていると思っているらしい。僕は、その喋り方にも、怒りを感じた。
「そうだ。しかし、お前はいったい何が目的だ!」
「目的?俺はな、お前ら健二の二人両方とも平らげて、この界隈の頭になる事が目的さ。つまり、いずれお前達とはやりあうって事さ。だから今会っても、驚く事は無いのさ」
「御託はもういい。仁、一つだけ言っておく」
「なんだ?」
「お前は殺す!」
「ほう、怖いな」






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