慈遠の創作小説.

創作小説、活動中。 不定期になりますが、Upしていきたいと思います。宜しくお願いします。

・絵、物語

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 宮殿でも、月を見上げる二つの顔があった。
 アンテ女王と、ライテ大絵師であった。
「あの形と回転の様子から、もうすぐでしょう」
「その様ですね」
「今年が、よな月の時代最後の年になりそうですね」
「はい」
「さて、次の絵師はどちらの国からやって来る事になるかしら?」
「それは、見てみない事には分かりませんから」
「そうでしたね」
 ふふっと、アンテ女王が笑った。
「来ました」
 視線の先の月が、完全に回転を停止した事が分かった。
 それと同時に、コバルトブルーの綺麗な光が真っ直ぐに宮殿に向って飛んでくるのが見えた。そして、その光が来る所は分かっていた。
 そこには、ライテ大絵師が事前に準備していた絵が置いてあった。よな月の時代の絵師だったヨハネが描いた絵であり、光はイーゼルに置かれたその絵に吸い込まれたかと思うと、どんという音を残して上空に光の玉となって飛び上がった。
 絵は、既に真っ白に変わっていた。額の中から、絵が消え去っていたのである。
 上空に飛び上がった光は、東の空に向って動き始めた。それは延々と東へ進み。そして一瞬はじけたように光ったかと思うと、その場所から完全に消えた。
「だいぶ東に進んで消えましたね」
「はい」
「あの辺りだとすると、どこの国になりますか?」
「今の光跡から考えますと、アジアの極東にある小さな国かと思います。国名はハッキリしないのですが、四つの大きな島から構成される島国のようです」
「あまり、聞いた事がありませんね」
「はい、あっちの世界でも、あまり有名ではないようです」
「その国から、次の絵師がやってくるのですね」
「間違いないかと思います」
「そうですか、分かりました」
 二人は、新しい絵師の事をそれぞれに想像し、思いを馳せていた。

 丘の上では、父親がリリーを背負い、母親が荷物を持ち、お婆ちゃんが彼らの後に続くようにして歩いていた。
「お婆ちゃん。とても綺麗でしたね」
「そうだね。本当はリリーに見せたかったけど・・・」
「明日は質問攻めですよ。どんな物見たのかって。この子、自分が納得するまで何度も聞きますから」
 母親が、父親の背でぐっすり眠っている娘の顔を見ながら言った。それは、母親の慈愛に満ちた言葉だった。
「それが、子供ってものさ。私もお爺ちゃんも、そうやって子供達を育ててきたのさ」
「感謝しているよ。本当に」
 父親が後ろを一瞬振向いて言った後、照れたのか直ぐ前を向きなおした。
 お婆ちゃんは、そんな事を言ってくれるリリーの父親の背中で上下に揺れている彼女を見た。
 そして、心の中で呟いた。
「リリー、お爺ちゃんはね。 リックお爺ちゃんは、私の自慢の旦那さんなんだよ」


 この年の大晦日。
 宮殿の女王の間で、三つの国の国王が参列する中、ライテ大絵師がアンテ女王の名で発表した。
 十二月三十一日を持って、よな月の時代が終わると。
 そして、メアーテ国にみな月の時代が到来しようとしていた。


《よな月の時代、第九十九年》

【よな月の章: 完】

--- 続く ---







これまでのお話はコチラ

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絵、物語 第16章_2話

 その夜、カーペン国内の丘の上で、リリーとお婆ちゃんが腰を下ろしていた。既に夜は寒くなる季節であり、分厚い敷物と毛布を準備していた。そして、二人は一つの毛布に包まり、夜空に上がった月を眺めていた。
「リリー。去年亡くなったお爺ちゃんの事、覚えているかい?」
「リリー、覚えているよ。お爺ちゃん大好きだもん。お爺ちゃんね、リリーにいっぱいお話してくれたんだよ。リリーが泣いたら、よしよしって頭を撫でてくれたんだよ」
「そうだったね。お爺ちゃん、リリーが大好きだったからね」
「うん」
「昔ね、お爺ちゃんがお婆ちゃんがを迎えに来てくれ時も、今夜みたいに綺麗な月の夜だったよ。私が、まだリリーのお父さんやお母さんよりも若い頃の話さ」
「うん」
「この年になっても、ちゃんと覚えているよ」
「・うん・・」
「お爺さんは、普段より一回りもふた周りも逞しく見えてね」
「・・・・・・・うん・・・・」
「でも笑顔がとてもすてきでね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・」
「お爺さんから話しを聞いた時は驚いたけど、この人を信じてみようと思ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・ん」
「あれ、リリー。寝ねてしまったね」
 体に寄りかかりながら頑張ってたリリーだったが、いつも早寝の彼女にとって、睡眠のサイクルに打ち勝つ事は不可能だったようだ。
 彼女の寝息が、とても気持ちよく聞こえてきた。
 ふと視線を遠くに向けると、丘の下の方から二つの人陰がこちらに向って上がって来るのが見えた。息子夫婦達だと直ぐ分かった。若い者の足だけあって、直ぐに彼らは二人の所まで上がって来た。
「やはり、リリーは寝てしまいましたか」
 リリーの父親が、予想していた様に言った。
「そうだね。まだこの子には、夜更かしは無理だったようだね」
「お婆ちゃん、重いでしょう。代わりますよ」
「今動かすと起きるからいいよ。それより、月を御覧なさい。多分、もう直ぐだから」
 三つの首が、月を見上げた。








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絵、物語 第16章_1話

      --- 次の時代へ ---

 十年前とも、五十年前とも同じ様に、春には春の花が咲き乱れ、夏には夏の鳥がその生を喜び、そして心地良い秋が過ぎようとしていた
 ナオミばあさんは、みつまたの泉からカーペン国へ移動中だった。
 道中、前方から走り寄って来る女の子の姿が見えた。
「ナオミばあちゃーーん」
(おやおや、リリーの様だね)
 ナオミばあさんは、心の中でつぶやく。最近カーペン国に行く用事が多かったのであるが、その道中、道沿いにリリーが住む家があったので、彼女に会う事が多くなった。それだけの付合いだったが、人懐っこいリリーは、いつの間にかナオミばあさんのことを「ナオミばあちゃん」と呼ぶ様になっていた。
(そんなに急いだら転んじゃうよ。ほら、あ、言わん事じゃない)
 リリーはすくっと立ち上がり、泣く事も無く、こちらに向かってまた走り出し、そしてナオミばあさんのスカートに飛びついた。
「また、お城にお出かけなの?」
「そうだよ。王様に会う用事があってね」
「へー、王様に会うんだ。リリーね、まだ王様に会った事がないんだ。ナオミ婆ちゃんは偉いだね」
 リリーは、いつもパッチリと開いている目を、更に大きく開いて驚いていた。
「私かい? 私は別に偉くなんか無いさ。偉いの王様さ」
「ふーん」
「リリー。リリーのお婆ちゃんは?」
「お婆ちゃんね、あそこ。歩くのが遅いの」
 リリーは、自分が駈けて来た方向を指差した。その方向から、リリーのお婆ちゃんらしき女性が歩いてくるのが見えた。彼女はかなりの高齢で、歩くのが遅かった。そんな足の弱くなった彼女だったが、昼間の散歩は欠かす事が無かった。
「リリー。お婆ちゃんの所まで一緒に歩こうかね」
「うん、リリー、歩く!」
 ナオミばあさんは、リリーの手を取り、彼女が来た道を一緒に歩いた。
「これはこれは、ナオミばあさん。いつも、リリーがすみません」
「別に構わないよ。しかし、貴女は元気ですね。リリーを散歩に連れて回れるんだから」
「いえね、どっちがどっちの散歩をしてやっているだか、最近では分からないくらいで」
 ほほほ、と、彼女は自分の言った事に自分で笑いだしていた。
「貴女の年を考えれば、大したものですよ」
 ナオミばあさんは、にっこりと微笑んだ。
「話は変わるけど、恐らく今夜あたり、月の融合が終わると思うよ」
「ナオミばあさんもそう思われますか。私も良く分からないのですが、何となくそんな気がしていたんですよ」
「貴女もそう思うなら、間違いないね。それだったら、リリーをつれて、今夜月見をすれば良いよ。綺麗な物を見る事が出来るから」
「綺麗な物?」
 仰ぎ見る格好で、リリーが話しに加わってきた。
「そう、綺麗な物。でもリリーは小さいから、夜遅くまで起きている事ができないかな。どう、リリー?」
「リリー、見る。見たいもん。頑張って起きて、綺麗な物見るもん!」
「ほー。そうかい。リリーは頑張るかい。じゃあ、今のうちにお昼寝しておくんだね。じゃ、私は用事があるから行くよ」
ナオミばあさんは、そう言い残してリリーの手を離し、バイバイと手を振りながらその場を後にした。
「お婆ちゃん。帰ろう。お昼寝しなきゃ。ね。ね」
「はいはい」
リリーは既に家に向かって走り出していた。もちろん頭の中からは、彼女のお婆ちゃんが走れないなんて忘れていた。大好きなナオミ婆ちゃんが言った綺麗な物って何だろうと、一生懸命考えていたから。








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絵、物語 第15章_11話

「お気づきになりましたか」
 彼は、ゆっくりとアンテ女王を立たせてから、自らも立ち上がった。
「ありがとう。ライテ大絵師」
 アンテ女王は、軽く頭を下げた。
「月を御覧下さい。既に融合が始まっております。いつもとなんら変わり御座いません」
「そうですか、それは良かった」
「あとは、遠心力で球体にまで変形するのを待つのみです」
「どれほどかかりましょうか」
「あの月を見た限り、四年後ぐらいかと」
「そうですか。九十九年ですね」
「はい」
 ティムは何処ですか等とは、アンテ女王は尋ねない。
「ソロ皇子・ダイ王子・ティムと、メアーテ国の為とはいえ、私の一族は国に殉ずるしかありませんでした。みな、よくやってくれましたが、今になっても、それで良かったのかと思う事があります」
「それが、定めにございますれば・・・・・」
「分かってはいるのです。ですが、辛いものです」
「アンテ女王陛下も、その体に試練を受けていらっしゃるのです。あの力は、何度見ても痛々しく思えてなりません」
「また、老けたでしょう。・・・・私」
「いえ、以前のままです」
「年を取って、貴方は世辞が上手くなりましたね」
「・・・・・」
「戻りましょう。今夜は、宮殿でティムの事を弔いたいですから」
「そうですね」
 二人は宮殿に向って歩き出した。上空では、融合を始めた月がゆっくりと回転していた。
 これで、王玉の儀が終了した。

「また、この時が来てしまったのだね・・・・」
 みつまたの泉の横で、ナオミばあさんが小屋のドアを閉めながら外に向って歩き始めた。
「定めとは言え、つらいものだね。しかし、こう言う役目は年寄りと昔から相場が決まっているから、しょうがないがね」
 彼女は、ゆっくりとした足取りで、みつまたの泉に移動を始めた。
 途中、空で回転を始めて融合を進めている月を見上げ、呟いた。
「ソロ皇子・ダイ王子・ティム様。みなが、やるべき事をやったと言う事だね。本当に大変だったね」
 彼女は、ゆっくりと腰を追って頭を下げた。今は亡き彼らの御霊に対して、哀悼の意を表したのだった。
 実は、先程玉の泉から上空に伸び、二つに分かれた水の柱は、このみつまたの泉にまで伸びでいたのだった。そして、水の柱に飲み込まれたティムを、この泉にまで運んでいたのだった。
 試練の玉を祭壇に置いた者は、このみつまたの泉に移動させられるのだが、この間、その者が意識を取り戻す事は無い。ただし、その者の体が、この泉の中で消滅してしまうのだった。
 その為、彼のマントや衣服だけがこの泉の上に残ってしまう事になり、それを集めるのが彼女の役目だった。
「これが、ティム様の分だね。明日乾かしてから、アンテの所に持って行ってやろう」
 彼女はそれらを部屋に持ち帰り、そして丁寧に干した
 こうして、天空で月の融合が始まった。

              《よな月の時代、第九十五年》







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絵、物語 第15章_10話

 水の柱はぐんぐん伸びていって、下から見上げていたアンテ女王やライテ大絵師にもその先端がどの様になっているのか見えなくなっていた。
 だが、伸びきった水の柱は上空で二つに分かれた様で、一つは南の空を這うように進み、地上に向って落ちていった。
 もう一方の水の柱は、玉の泉から繋がっている水を吸い上げるようにして、更にどんどんどんどん上空に伸びていった。そしてそれは、天に上っていた四つの月の内で一番大きな月に到達した。
 月に繋がるその水の柱は、地上で繋がっている玉の泉から、ジュースを飲むストローの様に、水を吸い上げていった。
 それは一分程続き、最後大地が三度程横揺れを起して終了した。飲みかけの水は、空中であっという間に分解し、途中で一滴一滴の水となり、ざざっと大地に降り注いだ。
 それに合わせる様にして、アンテ女王の体がまるで芯を抜かれた様になって、その場に倒れこんだ。
「アンテ女王!」
 ライテ大絵師が抱き起こしたが、既に意識を失っていた。
 彼の腕の中で、彼女の体からは青色が抜け去り、元の透き通る真っ白な肌に戻ったが、意識は戻らなかった。しかしその顔をよく見ると、先ほどまでより何歳か年を取ったように見えた。
「何度見ても、見慣れるものではない・・・・」
 ライテ大絵師が一人ごちてから、上空を見上げた。
 その視線の先には、先ほど水を吸い上げた大きな月があった。
「そろそろか・・」
 すると、その大きな月が動き始めたのである。
 四つの月は当然公転しているので動いていたが、一日のサイクルで考えると、ある短い間には止まって見えるのが当たり前であった。また、天空を自由に公転していたが、互いの公転軸と周期がほぼ同じだったので、ぶつかる事はもちろん無く、近づく事もこれまでに無かった。
 しかし、今、このひときわ大きな月は、明らかに移動を開始していた。それも一番近くにある東側の月に向かって、その動きは加速をつけてぐんぐん動いて行ったのだった。
 そして遂に、その大きな月は東側の月に衝突した。
 その衝突はぶつかり合う感じではなく、ちょうど粘土と粘土をくっつけた時のように融合するような衝突だった。
 二つの玉は接触部分が点から線に変わり、その線がどんどん長くなっていった。そして、ちょうど落花生の殻の様な繭状変わった時、長い方向を軸の中心として回転始めたのであった。
「これまでは、順調だ」
 ライテ大絵師は、一連の月の変形を確認して呟いた。その声がきっかけになったのか、アンテ女王がライテ大絵師の腕の中で気がついた。









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