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     万葉集読解・・・199(3247〜3257歌)
3247番長歌
  沼名川の 底なる玉 求めて 得し玉かも 拾ひて 得し玉かも あたらしき 君が 老ゆらく惜しも
 (沼名河之 底奈流玉 求而 得之玉可毛 拾而 得之玉可毛 安多良思吉 君之 老落惜毛)

 長歌は用語の解説を最小限にとどめる。沼名(ぬな)川は天上の川。天の川を想定している。平明歌。

  (口語訳)
 「沼名(ぬな)川の川底に沈める玉なる君。求めてやっと得た玉、拾って偶然得た玉。その貴重な新たな玉も老いてゆくのかと思うと惜しい」という歌である。

  相 聞 歌
3248番長歌
  磯城島の 大和の国に 人さはに 満ちてあれども 藤波の 思ひまつはり 若草の 思ひつきにし 君が目に 恋ひや明かさむ 長きこの夜を
 (式嶋之 山跡之土丹 人多 満而雖有 藤浪乃 思纒 若草乃 思就西 君目二 戀八将明 長此夜乎)

 長歌は用語の解説を最小限にとどめる。「磯城島(しきしま)の」は十代崇神天皇及び二十九代欽明天皇が都を置いた奈良県磯城郡にちなんだ言い方。磯城島に代表される大和の国というニュアンスである。「藤波の」や「若草の」は比喩。

  (口語訳)
 「磯城島(しきしま)の大和の国に人は多く満ちているけれど、藤波のようにまつわりつき、若草のように思いが兆したあの方に逢えないものかと恋い焦がれ、この長い夜を明かさんとしています」という歌である。

3249  磯城島の大和の国に人ふたりありとし思はば何か嘆かむ
      (式嶋乃 山跡乃土丹 人二 有年念者 難可将嗟)
 「磯城島(しきしま)」は前歌参照。「人ふたりありとし思はば」は恋愛感情の洒落た言い方。「あの方が二人いてくれたら」という意味である。
 「磯城島(しきしま)の大和の国にあの方がもう一人いてくれたら、どうしてこんなに嘆きましょう」という歌である。
 以上、長反歌二首。

3250番長歌
  蜻蛉島 大和の国は 神からと 言挙げせぬ国 しかれども 我れは言挙げす 天地の 神もはなはだ 我が思ふ 心知らずや 行く影の 月も経ゆけば 玉かぎる 日も重なりて 思へかも 胸の苦しき 恋ふれかも 心の痛き 末つひに 君に逢はずは 我が命の 生けらむ極み 恋ひつつも 我れは渡らむ まそ鏡 直目に君を 相見てばこそ 我が恋やまめ
 (蜻嶋 倭之國者 神柄跡 言擧不為國 雖然 吾者事上為 天地之 神文甚 吾念 心不知哉 徃影乃 月<文>經徃者 玉限 日文累 念戸鴨 胸不安 戀烈鴨 心痛 末逐尓 君丹不會者 吾命乃 生極 戀乍文 吾者将度 犬馬鏡 正目君乎 相見天者社 吾戀八鬼目)

 長歌は用語の解説を最小限にとどめる。蜻蛉島(あきづしま)は「日本の」という意味。ただし、前歌の磯城島と異なってこちらは大和の国は蜻蛉島の一部なので、「東京は渋谷区」という言い方と同じで、「蜻蛉島は大和の国」というニュアンスである。「神からと」は「人柄と」と同様「神の国柄として」という意味。「言挙(ことあ)げせぬ」は「言葉に出して言いつのらない」という意味である。「神もはなはだ」は「神様も全く」という意味。「行く影の」は本歌一例しかなく、語義未詳。「玉かぎる」は陽炎ないし枕詞。「末(すゑ)つひに」は「この先ついに」という意味。「まそ鏡」は枕詞。「我れは渡らむ」の「渡らむ」は「〜し続ける」という意味である。

  (口語訳)
 「蜻蛉島(あきづしま)は大和の国の神の国柄として言葉に出して言いつのらないのですが、私は申し上げます。天地の神様も全く私の心をご存知ないのか、月日が重なって思っていると、胸が苦しいまでに恋い焦がれているせいか心が痛みます。この先ついにあなた様に逢えないとすれば、このわが命恋い焦がれつつ生き続けなくてはいけないのでしょうか。この心、直接あなた様にお逢いしてこそ静まるのに」という歌である。

3251  大船の思ひ頼める君ゆゑに尽す心は惜しけくもなし
      (大舟能 思憑 君故尓 盡心者 惜雲梨)
 このまま読解を要さない平明歌。
 「大船と思って頼みにしているあなた様ですもの。尽くす心は惜しくありません」という歌である。

3252  ひさかたの都を置きて草枕旅行く君をいつとか待たむ
      (久堅之 王都乎置而 草枕 羈徃君乎 何時可将待)
 「ひさかたの」と「草枕」は共におなじみの枕詞。本歌も平明歌。
 「都をあとにして旅に出るあなたを、いつお帰りになるだろうと待っています」という歌である。

 次歌「柿本朝臣人麻呂歌集に云う」
3253番長歌
  葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国 しかれども 言挙げぞ我がする 言幸く ま幸くませと 恙がなく 幸くいまさば 荒磯波 ありても見むと 百重波 千重波しきに 言挙げす我れは  [言挙げす我れは]
 (葦原 水穂國者 神在随 事擧不為國 雖然 辞擧叙吾為 言幸 真福座跡 恙無 福座者 荒礒浪 有毛見登 百重波 千重浪尓敷 言上為吾 [言上為吾])

 長歌は用語の解説を最小限にとどめる。「葦原(あしはら)の瑞穂の国は神ながら言挙げせぬ国」は、前々歌の「蜻蛉島大和の国は神からと言挙げせぬ国」を言い換えたもの。「葦原の瑞穂(みづほ)の国」とは日本のこと。「荒磯波(ありそなみ)」は次句の「ありても見むと」を導く序歌。荒磯波は本歌一例のみ。「ありても見むと」は「変わらぬ今の姿のまま」という意味である。

  (口語訳)
 「葦原(あしはら)の瑞穂の国は神の国柄として言葉に出して言いつのらないのですが、私は申し上げます。言葉に出してご無事でと。ご無事でいらっしゃいませと。何事もなくご無事でいらっしゃって、変わらぬ今の姿のままお逢いしとうございます。荒磯に寄せる百重波千重波のように幾度もご無事であれと言葉に出して申し上げます。{申し上げます}」という歌である。

3254  磯城島の大和の国は言霊の助くる国ぞま幸くありこそ
      (志貴嶋 倭國者 事霊之 所佐國叙 真福在与具)
 「磯城島(しきしま)の」は、3248番長歌で見たように、十代崇神天皇及び二十九代欽明天皇が都を置いた奈良県磯城郡にちなんだ表現。磯城島に代表される大和の国という意味である。
 「言霊(ことだま)」は言葉の持つ霊力。「磯城島の大和の国は言葉の霊力によって助けられる国です。どうかご無事でいて下さい」という歌である。

3255番長歌
  古ゆ 言ひ継ぎけらく 恋すれば 苦しきものと 玉の緒の 継ぎては言へど 娘子らが 心を知らに そを知らむ よしのなければ 夏麻引く 命かたまけ 刈り薦の 心もしのに 人知れず もとなぞ恋ふる 息の緒にして
 (従古 言續来口 戀為者 不安物登 玉緒之 継而者雖云 處女等之 心乎胡粉 其将知 因之無者 夏麻引 命方貯 借薦之 心文小竹荷 人不知 本名曽戀流 氣之緒丹四天)

 長歌は用語の解説を最小限にとどめる。「玉の緒の」は枕詞。が、一定の語にかかるわけではない。「〜、思ひ乱れて」(1280番旋頭歌)、「〜、長き春日を」(1936番歌)、「〜、絶えじと思ふ」(2787番歌)等々「思い乱れる」、「長い」、「絶えて」といった緒(紐)の縁語が多く続く。「娘子らが心」の「ら」は親愛の表現。「よしのなければ」は「手段もないので」という意味。「夏麻引く」は枕詞(?)。「刈り薦(こも)の」は「刈り取った薦(こも)が乱れるので」という意味。「もとなぞ」は「心もとない」という意味。

  (口語訳)
 「ずっと大昔から言い継がれてきた、恋をすると苦しいと・・・。玉の緒のように継ぎ継ぎ語り継がれてきた。けれど、彼女の本当の心が分からないのに恋を知るてだてがない。命を傾けて乱れる心も心細く、人知れず心もとなく息も絶え絶え」という歌である。

3256  しくしくに思はず人はあるらめどしましくも我は忘らえぬかも
      (數々丹 不思人叵 雖有 蹔文吾者 忘枝沼鴨)
 「しくしくに」は「しきりに」という意味である。「人は」は故意に客観視した言い方で「あの人は」という意味。「しましくも」は原文に「蹔文」とあるように、「しばらくでも」つまり「いっときも」という意味である。
 「私のことをあの人はしげしげと思っていないようだけれど、私の方はいっときも忘れられません」という歌である。

3257  直に来ず此ゆ巨勢道から石橋踏みなづみぞ我が来し恋ひてすべなみ
      (直不来 自此巨勢道柄 石椅跡 名積序吾来 戀天窮見)
 「此ゆ」は「〜から」の「ゆ」。巨勢(こせ)は奈良県御所市古瀬。「なづみ」は「難渋して」という意味。
 「まっすぐ(直(ただ)に)此処から来ないで巨勢道(こせぢ)に出て、石橋を渡り、難渋しながらやってきた、あなたが恋しくて耐えられなくて」という歌である。
 左注に『或本によると、この歌は「紀の國の浜に寄るとふ鰒珠拾ひにといひて行きし君いつ来まさむ」(紀の國(和歌山県)の浜に寄せてくるという鰒珠(あはびたま=真珠)を拾いに行ってくると言って出かけたあなたが、いつまた戻ってくるかしら)という長歌に答えた反歌』とある。さらに、『詳細は後の長歌(3318番長歌)及び反歌(3320番歌)にあるが古本に上記のようにあるのでここに重ねて掲載する』とある。
 以上長反歌三首。
           (2016年2月1日記、2019年3月21日)
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