明日は明日のクロアチア

「買っても買ってもどこかに行ってなくなってしまう物、な〜んだ?」「リップクリーム」(私の場合)

クロアチア語

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クロアチア語は難しい

私にクロアチア語を教えてくれたクロアチア人女性が(何を隠そう、その人物こそ現在の仕事のボスであるのだが)10年間の日本滞在の後に帰国する時、私に向かって、「Hideは語彙が豊富で文章の構成も上手だし、読解力もあるし、敬語も完璧で発音や話し方もすごくいい。本当に素晴らしい!」と言って、私の日本語を誉めてくれた。大変光栄なことである(彼女は日本語能力試験1級合格者です)。

勿論、社長(ボス)は私のクロアチア語の能力も高く評価してくれており、だからこそ翻訳などの仕事も回してくれているわけだが、どうも実力以上に過大評価されている気がしてならない。
確かに私は、仕事は必ず納期までに終わらせているし(まあそれは当然であるが)、レベルも一応、一定のラインには達しているとは思う。しかし、社長や回りの人達は知らないのだ。優雅に見える白鳥も水面下ではバシャバシャと脚で水をかいているように、私がどんな思いをして締切までに翻訳を完成させているのか…。

原文の意味を自分の頭の中だけで理解する事と、それを他言語に再構成して、読み手が理解しやすい訳文に仕上げる事とは違う作業である。翻訳には広い国語力が要求されるのだという事を痛感しているわけだが、私の場合、そんな高級な事を言う以前に、クロアチア語をこのレベルまで習得するまでの道のりが既に艱難辛苦、七転八倒、右往左往、青息吐息であったのだ。

話はクロアチア語を学び始めた当時にさかのぼる(まだ社長と知り合う以前、モソモソと独学で学んでいた頃だ)。日本語で学べるクロアチア語のテキストというと非常に限られてはいるのだが、それでも初級用のCD付きテキスト、文法のハンドブック、6,000語収録の辞書(日本語⇔クロアチア語)を手に入れて学習を開始した。
初めて学ぶ言語というのは、当たり前だが、初見では全ての単語が新出単語である。出てくる単語の全てを単語帳に書き写しながら、とにかく辞書を頼りにモタモタと進んでいくわけだ。
ところが程なくして、辞書を引いても載っていない単語が現れ始めた。しかも一つや二つではない。初級のテキストの、しかも初めの方に出てくるような単語にもかかわらず、あれもこれも、該当するはずの辞書のページに載っていないのである。「この辞書ダメだわ。使えない!」と私は単語調べが捗らないのを辞書のせいにしながら、とりあえずテキストと文法書を先へと読み進めていった。

そうしたら、分かってきたのだ。そう、文章の中に出てきていた言葉たちは、名詞も動詞も形容詞も、活用後の「変化した形」だったのだ!これが辞書にないのは当たり前だった。辞書に載っているのは不定形、すなわち「変化前の形」だけなのだから。ダメなのは辞書じゃなくて自分だった。そして分かった。この言語は、辞書が引けるようになるまでが一苦労の言語なのだと。

まあ、例えばこんな具合である。"Prošetam uskim ulicama."という文があったとして、全ての単語を辞書で調べるとする。このとき、このままの形で調べたのでは「3つとも載ってない!」という事になってしまう。まずは単語を不定形・辞書形に直さなくてはならない。初めは、テキスト巻末の「変化表」と首っ引きだ。結局、各単語は次のような形で辞書に載っている。
●"prošetam"→"prošetati":
「散歩して回る」という動詞の一人称単数形。つまりこの一語で「私は散歩して回る」という意味。
●"uskim"→"uzak":
「狭い」という形容詞の変化形の一つ。初心者の意表をつく変化である。元の形"uzak"が"uzkim"に変化する際、有声子音の"z"が後ろに連続する無声子音"k"に引っ張られ、"s"に交代するため"uskim"となる…というのが文法的説明。要は「音便」のようなもので、「その方が発音しやすいから」という理由で起こる現象。
●"ulicama"→"ulica":
「道、通り」という名詞の変化形の一つ。この場合は動作が行われる場所を表し、「通りで」「通りを」という意味になる。
…というわけで、"Prošetam uskim ulicama."は「私は狭い通りを散歩して回る。」という意味だったのである。

…とまあ、最初の頃は辞書を引くだけでやたらと疲れてしまうのだが、前回の記事で書いた通り、変化のパターンは多いものの、英語と違って(まだ言ってる)法則は非常にシステマティックである。私の場合、時間はかかったけれども、一つ一つ納得しながら理解していくことができた。
とは言え、一通りの変化をマスターするのは、私には非常に困難だった。丸暗記に挑戦してみたりもしたのだが、結局これは、先生についてから色々なパターンの文章を読んだり聞いたり、そして自分でクロアチア語のメールを書いたりしていく中で、たくさん間違えながら、少しずつ慣れる事でいつの間にか身に付ける事ができたのだった。

昔書いた自分のクロアチア語の文章(メールやレッスンの課題)を今の目で見てみると、やっぱり文章が幼いというか、何だかよちよちしている。よく言えばラブリーである。そしてやっぱり読みにくい。変化を間違えている箇所も目に付くし、「この表現は間違いではないけど、今ならこうは書かないな」と思える文もある。それなりに上達はしたという事なのだろうが、しかし本当の事を言えば、今でも自分の書いたクロアチア語の文章や、日本語に訳した文章を後から見直すと、いつも「ここはこう書けばよかった」とか「もっと自然な表現を探すべきだった」などと、自分の力量不足に忸怩たる思いだ。

レベル不足の私が何とか仕事をこなしていくためには、とにかく時間をかけるしかない。徹夜続きでひたすら部屋にこもって翻訳を続けていると、「なぜ自分はこんなに才能も何もないのに生きていかなければならないのだろう」と思い詰めてしまう。かと思うと、苦心惨憺、悩みに悩んだ挙句に「これだ!」という会心の翻訳ができることもあり、そんな時は「俺は天才じゃないだろうか」と一人得意の絶頂に上り詰める(一瞬で終わるが)。

いつもこんな調子である。優雅さとは程遠い。徹夜を重ね、分厚い辞書を引きまくり、力技で仕事を完遂しているのだ。私に関して言えば、翻訳の仕事は肉体労働だ。
正直、「もう少し時間があればもっといいものができるのに…」と思うこともしばしばだ。自分が100%の満足ができない出来で仕事を「完成」とさせるのは嫌なものである。しかし、仕事は時間との戦いでもある。その中で「ここまでしかできなかった」というその結果を、その恥ずかしさを、きちんと受け止めなければいけないのだと思う。曲がりなりにもプロである以上は。それでこそ「次はもっとクオリティの高いものに仕上げる!」という思いも湧いてくるのだと思う。

まだまだ当分は、そんな事を繰り返していきそうである。母国語でも同じ事が言えるが、言葉は知れば知るほど、「自分の知らない事」が見えてきてしまう。それを追って行くと、また別の知らない事が連鎖して現れる。「言語学習に終わりはない」とはそういう事を言うのではないかと、近頃実感している(他の色々な分野においても言える事かも知れない)。
人でも事物でも、嫌なものには見向きもしない好き嫌いの激しい私が、これだけ苦しみながらも今まで付き合い続けているのだ。クロアチア語、そしてクロアチアのあれこれが、英語と違って(しつこいね)よっぽど性に合ったという事なのだろう。自分の一生の中で、それだけ打ち込めるものに出会えた事に、感謝したいと思う。そして勿論、ここまで私を育て上げてくれた上、一度は全てを捨ててドロップアウトした私に再び働く場とチャンスを与えてくれたボスにも、心から感謝している。Velika hvala!

イメージ 1
翻訳に行き詰まった私「どうせ負け犬なんだよ…もう俺のことなんか、ほっといてくれよ…」

イメージ 2
起死回生となる会心の翻訳が浮かんだ時の心象風景「空の青さは俺のため!よくやった、俺!」(このあと数行進むと1枚目の写真に戻る)

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こんばんは。毎日これだけの文章をお書きになるとはすごいですね。私なぞ旅行のネタがなければ二日で書くことが無くなってしまいます。秋クロアチアへ行かれた時のブログを今から楽しみにしています。

2010/9/8(水) 午後 11:17 [ おーたく ]

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何事も簡単にはいかないっていうことですね。
うまくいってるように見えることでも、実はその裏側には大変な努力がある。。。
Hideさんの継続的ながんばりがあるから、今日のHideさんがいらっしゃるんですね。
勉強になります!

2010/9/9(木) 午前 6:21 [ ayaran ]

おーたく様

いつも長文にお付き合い下さいまして、本当にありがとうございます。文章が長いのは、単にまとまっていないだけなのです。このような稚拙な記事でも読んで下さる方の存在、そして温かいコメントが何よりの励みになっております。ありがとうございます!
クロアチアでは、仕事のために新しい情報やより深い知識を学ぶつもりではありますが、ブログのための「ネタ探し」目線で見ると、さらに色々な角度からクロアチアを見ることができそうです。新しい展開にご期待頂き、また、温かく見守って頂ければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願い致します!

2010/9/9(木) 午前 8:07 [ Hide ]

ayaran様

人一倍日々の努力をなさっているayaranさんからこのようなお言葉を頂き、恐縮の限りです。ayaranさんにこそ「継続は力なり」という言葉がふさわしいと思っています!本当に頭が下がる思いです。
私はどちらかと言うと「下手の横好き」で…^^; 「どんなに努力してもどうにもならない事もある」というのはこれだけ生きていれば分かっていますが、努力・頑張りで何とかなる部分に関してはひたすら時間と精力をつぎ込むしかないのが天才ならぬ身の定めかと…。
でも私は基本的には「極楽とんぼ」ですよ。苦しいのはなるべく避けたい横着人間ですので、ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が欲しいといつも思っています(爆)

2010/9/9(木) 午前 8:35 [ Hide ]


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