国際刑事裁判所(ICC)と日本

人間の安全保障の発展に貢献する日本と世界の道筋と行く末を見つめます。

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2009年3月4日、国際刑事裁判所(ICC)の予審裁判部はスーダンの現職国家元首であるオマル・ハッサン・アーメド・アル=バシル大統領に対する逮捕状の発行を決定しました。貴方はこの判断をどう思いますか?

国際刑事裁判史上に残るこの重大な決定は、国内のみならず世界中で物議を醸しており、国家主権への挑戦であるとか、進行中の和平プロセスを顧みない国際司法機関の暴走だとか、古典的な「正義か平和(安定)か」のジレンマを生み出している等とする批判もあります。

ICCの判断は、国際史上類を見ないもので、これまで現職の国家元首に対して逮捕状を発行した例はなく、国際社会はこの未曾有の体験に戸惑いを隠せずにいます。この中で、いちはやく日本政府が逮捕状発行の当日に、この判断を支持する外務報道官談話を発表したことは新鮮な驚きでした。

当事国のスーダン政府は、逮捕状どころかICCそのものを認めず、ICCに対する一切の協力義務の履行を拒否するばかりか、ICCに協力している疑いがあるとして一部の人権団体などを国外退去処分にするなど、ICCに対する対抗姿勢を露わにしています(驚くことに、日本政府はこの動きに対しても迅速に反応し談話を出しました)。しかし、これは同時にダルフール地域での人道的危機悪化の可能性が高まったということでもあり、ICCの性急な決定がなければ、あるいは現在の状況は回避できたのではないかという結果論的な批判もあります。このような事態をもたらしているICCの現職国家元首訴追の決定を、その判断を、貴方はどう思いますか?

当ブログでは、ダルフールの事態に関する状況と経緯の解説を行うとともに、一般の方々がこの案件をどのように考えているのかを把握すべく、新たに以下のような投票を設置しました。皆さんのお考えをお聞かせください。

非締約国の現職国家元首に史上初で逮捕状が発行されました。この判断をどう思いますか?
〔A〕妥当だと思う。ICCにはその権限がある。
〔B〕妥当だと思うがもう少し遅らせられたでのはないか。
〔C〕妥当とは思えない。ICCにその権限はない。
〔D〕まったく妥当ではない。国家主権が優先する。
〔E〕よくわからない。その他。
 →投票はコチラから
 →総合参考資料

解説:訴追実現の背景

2005年3月31日以降、国際刑事裁判所(ICC)の検察官は、国連安保理決議1593に基づいてスーダン・ダルフールの案件を付託されていました。この決議に基づき、ICCはこれまで3名の被疑者に対して捜査を行い逮捕状を発行しました。スーダンの現職の国家元首であるアル=バシル(オマル・ハサン・アフマド・アル=バシール)大統領への逮捕状は、実はその1つに過ぎません。

スーダンはICC設立条約(ローマ規程)の加盟国ではない=非締約国です。したがって、本来なら国際法上、スーダンにはICCに対して協力する法的義務がありません。しかしローマ規程には特別の規定(規程第13条b項)があり、非締約国である場合でも、国連安保理による国連憲章第7章の行動としての付託である場合は、その付託によりICCに協力する国連加盟国としての法的義務が生じることになります。

ローマ規程第13条
本裁判所は、次に掲げる場合、第5条に定める犯罪に関して、本規程の規定に従い、その管轄権を行使することができる。
a. このような犯罪の1以上が行なわれたと思われる事態が、第14条に従い、締約国によって、検察官に付託されている場合
b. このような犯罪の1以上が行なわれたと思われる事態が、国際連合憲章第7章に従い、安全保障理事会によって、検察官に付託されている場合
c. 検察官が、第15条に従い、このような犯罪に関して、捜査を開始している場合

また13条の規定は単なる国連加盟国としての協力義務ではなくICCに管轄権が生じるとしています。したがって、国連憲章第7章下の付託を受けたICCにはスーダン政府に対する管轄権があり、またスーダン政府はこれを受託する義務とICCによる捜査・被疑者の逮捕引き渡しに協力する二重の義務が生じるとするのが、国際司法上の解釈とされています。

国連安保理決議1593号本文
国際連合憲章第7章の下に行動し、
1. 2002年7月1日以降のダルフール事態の案件を国際刑事裁判所の検察官に付託することを決定する。
2. 本決議に従い、スーダン政府及びすべての当地紛争当事者に対し、ICCおよび同裁判所検察官へのあらゆる支援を含む完全なる協力を要請することを決定するとともに、ローマ規程の締約国でない国家には規定上協力の義務が存在しないことを認識しつつも、すべての加盟国および地域機構ならびに国際機関に対しても、同様に完全なる協力を提供するよう要請する。

(参考)私の投票行動

私は活動家として〔A〕の立場をとります。ローマ規程の起草には世界中の叡智が集められました。その叡智が生み出した、ICCの独立性を維持しつつ国連安保理との関係性を強化するための一つの手法が、外部機関の国連安保理にICCに案件を付託し強制的管轄権を持たせるということでした。仮に安保理に付託されたとしても、ICCには独立した国際機関として付託案件を精査して訴追するか否かの判断を下せるので、政治的な意図を持った訴追を行うことはありませんし、これを強制的に受理させる権限は安保理にはありません。この独立性の確保により、安保理との健全な協力関係を構築できるのではないかと、規程の起草者は考えたのです。

法定上は、適法なのかもしれない。では、政治的にはどうなのか、タイミング的にはどうなのか、もっと考慮が必要だったのではないか。正義よりも平和(安定)を優先し、既存の和平プロセスを阻害することがないよう逮捕状発行のタイミングをずらすべきだったのではないか、あるいは発行そのものを見送るべきだったのではないか。こういう声も聞かれます。

私の個人的見解では、仮に和平プロセスが現行のままで促進されたとしても、それによって文民被害は減らず、まだ人道的危機も収まらないだろうという見方から、まずは正義の執行によりこれ以上の犯罪が増えないよう抑止力を働かせ、それに伴い別の方面から和平努力を進めることができるのではないかと考えます。つまり、和平ありきか正義ありきかという考えではなく、双方の効果的な併存なくしてダルフールの人々に安息の日々は訪れない―という見方から、より効果的な併存を実現するのであればまずは犯罪の抑止効果を成立させればいいのではないかと、そう考えたわけです。

今後の展望(私的見解)

冷徹な見方ですが、現在生じているような、人権団体に対する活動制限や国外退去処分は想定内でした。しかし、当事国のスーダンがそのような強硬姿勢に出た場合、国際社会はどのように反応するでしょうか。たとえば安保理においてほぼ常に棄権の立場をとってきた中国やロシアなどは、各国の人権団体を含む大規模な人道的危機が発生するという時にその責任を免れることができるでしょうか。むしろ、国際平和と安全の脅威となったダルフールの事態に対して、安保理はより強硬な姿勢をとる選択肢を迫られるのではないでしょうか。そのとき、従来の反対国(AU諸国含む)は果たして反対し続けられるのでしょうか。

現状、逮捕状発行後の国連での推移を見守ってきましたが、安保理は制裁の前段階となる非難決議の段階で既にこれを出せる実効性をなくしています。問題は、スーダン政府がこれ以上の強硬姿勢に出られるか否かです。これ以上の強硬姿勢となると、各国人権団体ではなく国連そのものに対して措置をとるしかありません。そうなるとこれは国連安保理の決定に対する直接的な敵対行為となり、安保理はこれに対する非難ではなく、直接的な制裁行為を発動することも可能になります。しかし、スーダン政府がそのような迂闊な、見え透いた行動をとる筈もありません。まずは国際社会の出方を窺って、許容ぎりぎりの行動で国際社会の行動をけん制し続けるでしょう。

国連がここで取れる行動は、まずICCの判断が国連に承認されて行われたものではあるが、国連そのものの行動ではないことを明文化し、したがってスーダンの国外退去措置に対する国連の対応措置として人権団体等が安全に活動しうる自由と空間を確保することを次の決議に盛り込みこれをスーダン政府に呑ませることが出来ると思います。安保理は対象国家と交渉しません。決議の内容は当事国と相談して決めるわけではありません。国連の純然たる行動として、人権団体保護を加盟国義務としこれに違反した場合の制裁措置まで規定すれば、当事国のスーダンも、反対国の中国も、ロシアも、アフリカ・アラブ諸国もこのロジックでは反対できないでしょう。決議の明示的目的はあくまで人権団体の活動の自由の確保であり、その暗示的目的がスーダンによる対抗措置の封じ込めだとしても、他に人道危機に対処しうる有効な手段がなければ各関係者がこの条件を呑むしかありません。現に、アフリカ連合は逮捕状が発行されても「このマイナス影響を最小限に抑えることに努めている」と外交的努力を続けることを示唆しています。

このように、複雑な利害関係や国際政治上の力学で膠着状態となっているかに見える国際社会の対応も、様々なことを考慮して柔軟な発想で対応すればまだまだ現状からの脱却は可能です。運や他人任せという訳ではありませんが、私はここまで発展してきた国際社会の努力と、危機を脱する叡智を信じて、ことの顛末を見守りつつ、己の為すべきことを見据えたいと思います。

2009.03.11 JNICC勝見

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