団長のよしなしごと

アンサンブル・ジョワンのこと、音楽に関係あることないこと、思いつくまま…

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更新ご無沙汰してしまいました。今日はピッチの話題を。
もとより専門に勉強したわけではないので、多々間違いがあるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。

古楽の演奏(いわゆるピリオド楽器を使った演奏)では、一般に a'=415Hzのピッチが使われることは、
比較的良く知られているかと思います。
一説によると、J.S.バッハが懇意にしていたオルガン製作者ジルバーマンが持っていた音叉が
 a'=415 だったので、415 になったのだとか。(真偽のほどはわかりません)

この基準音415Hzはバロック・ピッチと言われますが、正式にはカンマートーンと言うそうです。
現在のピッチはa'=442あたりが一般的ですので、半音低いということになります。

では当時のピッチが今より低かったのかと言えば必ずしもそうではなく、
カンマートーン以外にも、さらに半音低い a'=392Hz のヴェルサイユ・ピッチ
全音高いa'=466Hz のヴェネツィアン・ピッチ(コーアトーン)などがありました。
ただこれらもおおまかなもので、実際のところは町や村ごとにピッチが違っていたのが
実情だったようです。
その地の教会のパイプオルガンのピッチが基準になったそうですが、
オルガンのピッチ自体が様々で、一番高いのは a'=505,8Hz というのまであるそうです

当時パイプオルガンの調律はパイプを切って行ったので、
調律を繰り返せばどんどん音は高くなることになります。
あまりに高くなりすぎると、歌手が歌いづらいということで、
パイプを半音ずらせて付け替えて、一番低い音のパイプを付け足したそうです。
もちろん、気温などによってもパイプオルガンのピッチは変わるわけで、
ピッチは相当フレキシブルにならざるをえないことになります。

当時の演奏家は、このピッチの違いをものともせず演奏していたわけです。
問題はピッチではなく、和音をいかにきれいにハモらせるかだったのです。
弦楽器(フレットのない)や声楽はもちろん、管楽器でもその都度音高を微調整して
ハモらせることができるのであまり問題ないのですが、
どうしようもないのが鍵盤楽器で、音高の微調整が全く利きません。
そこで、鍵盤楽器の調律のために様々な音律が考案されました。
ピタゴラス音律に始まり、純正律中全音律(ミーントーン)
その他各種のウェル・テンペラメントと言われる音律等々。

各音律についての詳細はここでは割愛させていただきますが、
(てか、ほんとはちゃんと説明できるほどの知識がない
音律においては音の比、つまり音と音の相対的な関係が問題になります。
つまり、当時の人達にとっては絶対的な音の高さはあまり問題ではなく、
2音以上の音の相対的な関係がとても重要だったということです。

中でもミーントーンは長い間中心的な音律だったようですが、
どの音律を使ってもどこかに歪がくるので、使えない和音が出てきて自由な転調ができません。

そこで、19世紀後半になって平均律が考案されました。
(理論的には16〜17世紀に確立されていたようです)
平均律はよくご存知のとおり、1オクターブを12に均等に分けたもので、
各音の周波数は、2の12乗根(≒1.0594)を公比とする等比数列となります。
各音の比は単純な整数比にはならないので、どの音同士も完全には協和せず
少しの濁りが存在しますが、極端にひどく濁ることもなく、すべての転調が可能とされます。
しかしこの平均律、合理的と言えば言えますが、音を協和させようという努力を全く放棄した
乱暴な音律とも言えるんじゃないでしょうか。
(因みに、バッハの平均律クラヴィア曲集の平均律とは、この平均律ではなく、
ヴェルクマイスターのウェル・テンペラメントのことだと言われています)

よく、調性ごとに性格があると言われますが、これはミーントーンやウェル・テンペラメントにおいて
言えることで、平均律では調性ごとの性格の違いは存在しないことになっています。
平均律以外の音律では、各音の間隔は均等ではないので、調性が変わると音階が微妙に変化し、
和音の響も変わって、良く響く和音と濁る和音も違ってきます。
それが、調性によって雰囲気が変わる原因と考えられます。

と、音律の話が長くなってしまいました
音律は奥が深くて、はまり込むと泥沼のようです。(ドツボとも言いますね
しかしまあ、音律を本当に必要とするのは鍵盤楽器の調律の時であって、
私達弦楽器を弾く者は、基本的に純正律のハモりを目指せばいいとも言えるので、
ほどほどにしておきましょう。

で、話がそれましたが、ここからは絶対音感の話です。(今日は話が長くなっちゃってすみません
何年か前、絶対音感がもてはやされた時期がありました。
が、私自身の体験から、絶対音感というものは無用の長物と断言できます

4歳から習っていたピアノの先生が、大学で教鞭を取っておられたためか、
聴音とソルフェージュを熱心に指導してくださったおかげで、 子供のころ絶対音感を身に付けていました。
どんな感じかと言うと、ピアノで「ド」の音を鳴らすと音が「ド」と言ってるんです。
なので、音を聞き間違うことはありえません。何しろ音が音名で歌ってるのですから聴音は楽勝でした
その代わり、「移動ド」読みは苦手でした。だって「ド」と言って鳴ってるものを「ミ」とか言うのは、
どう考えても変でしょ。「ド」は「ド」やろ!って。

ところが、中学でブラスバンドに入りクラリネットを始めたことで、とても困った事態になりました。
クラリネットは一般にB♭管で、クラリネット用の楽譜の「ド」を吹くと
「ド」を吹いたつもりなのに「シ♭」の音が鳴ります。ちょうど1音低いのです。
正にヴェルサイユ・ピッチの世界です。
これがむちゃくちゃ気持ち悪くて、正直吐きそうでした。
(今思えば、ト音記号の楽譜だと思わずに、楽譜を読み替えればよかったんでしょうけど、
当時はそんなことは思いつきませんでした。)
それが不思議なことに、何ヶ月か我慢して吹いてると、いつのまにか違和感がなくなっていたのです。
ところがある時、ピアノの「ド」が「レ」と聞こえることに気が付いて、愕然としました。
それ以来、「ド」は日によって「ド」に聴こえたり「レ」に聴こえたり「ド♯」に聴こえたりまちまちです。

これが私が絶対音感を失った(絶対音感の世界から開放された)経緯です。
しかし今となっては、この時絶対音感をなくしてラッキーだったと思います。
以来、どんなピッチにも対応自由自在です。
おかげで a'=415のバロックチェロも平気です。(普段は a'=442 の世界なので、
さすがにチューニングする時には一瞬低〜っ!と思いますが、すぐにリセットOK

この絶対音感という概念は、バッハの時代にはおそらくなかったものでしょう。
フランスで標準ピッチが a'=435 と決められたのが1859年、そして、
ロンドン会議で a'=440 と国際的に決められたのが1939年
その後、a'=440の平均律のピアノが大量生産され、沢山の子供達が3〜4歳から
ピアノによる音感教育を受けるようになって出現したものじゃないでしょうか。

思うに、合奏する時に大事な音程感覚は、音の絶対的な高さがわかることではなくて、
基準の音に対して音階を自分で作れることと、周りの音とハモる音・はまる音を素早く見つける
ことができるかどうかということだと思います。

平均律のピアノで音感を身に付けると、純正律的な協和感に対してはとても鈍感になるように思います。
弦楽合奏で純正律的な響を追及しようとすれば、平均律の音感は捨てて、新たに協和感を磨かなければ
いけないのでしょう。
絶対音感は7歳ごろを過ぎると獲得できなくなると言われますが、
この相対音感(ハモり感)は何歳になっても、意識していれば磨くことができるんじゃないかと思っています。
(希望的観測!)

しかしそれができたとして、そのことと、弦楽器で実際にその音を外さずに正確に取れるということとは
自ずとまた別のことで、それについては残念ながら、若いころからのトレーニングの積み重ねが必要なんだと日々痛感しています

ところで、この相対音感というものは、加齢とともに鈍くなるものなのかどうか・・・
その辺は、未体験ゾーンです。
(てか、自分では鈍ってもわからないんだろうな〜

《参考文献》
橋本英二著:バロックから初期古典派までの音楽の奏法 (音楽の友社)
小方厚著:音律と音階の科学 (ブルーバックス)

その他、Wikipedia 等のネットより情報をいただきました。

この記事に


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