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■防災の主流化 /人間の安全保障

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島村英紀『夕刊フジ』 2019年8月16日(金曜)。4面。コラムその310。
「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 
 
浸水は南海トラフの3倍超----都会ほど怖い洪水被害

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「浸水被害は南海トラフの3倍超!? 都会ほど怖い洪水被害 」


 東京・江戸川区は5月「ここにいてはダメです」と区外避難を呼びかけたハザードマップを全戸に配布した。同区には70万人が住む。マップは大雨で荒川が氾濫したときを想定したものだ。

 また8月にも兵庫県が公表した高潮浸水想定でも、浸水エリアは南海トラフ地震の津波よりも広範囲に及んでいることを明らかにした。尼崎、西宮、芦屋、伊丹の4市合わせた浸水区域は、南海トラフ地震の津波の浸水被害の3倍を超える

 大地震による津波はもちろん恐ろしいものだ。関西では南海トラフ地震が迫っているし、東京でも東京湾北部地震など、東京湾の中に震源がある地震が起きれば、津波に襲われる危険が高い東京湾岸には発電所や製鉄所など怖いものがいっぱいある

 だが、津波のほかに高潮や河川の氾濫による水害がある場合によっては津波よりも浸水区域が広い

 現在の東京都区部の平地の部分は、元々は海の干潟や低湿地帯だったものだった。それを江戸時代以降の埋め立てや治水事業によって土地が拡がって、多くの人口が住み着いたものだ。

 それゆえ標高も低く、本質的に水害に弱い。墨田区錦糸町駅前の地下鉄入り口ではマイナス0.1メートルしかない。海から6キロも離れているが海抜がマイナスなのである。しかも、入り口から階段で下りる駅や地下鉄の線路は、海よりもずっと低いところにある。もし水害や津波に襲われたら、地下では惨事が起きるに違いない。地下深くに鉄道が通っている渋谷や東京駅なども、なにが起きるか分からない

 じつは1910(明治43)年8月には首都圏をはじめ15もの県を襲った大水害があった。「東京大水害」と言われる。

 梅雨前線と2つの台風が重なったことから豪雨で河川が氾濫した。関東で死者行方不明者が約850人、家屋全壊と流出が約5000戸、東京府だけでも約150万人が被災する大惨事となったものだ。氾濫流によって関東平野一面が水浸しになった。東京でも下町一帯がずいぶん長い間冠水した。

 写真や映像には写らないが、洪水の被害でいちばん困るのは悪臭だ。下水が溢れるので、信じられない臭いが漂う。

 このために衛生状態が悪化して胃カタルや腸カタルなど多くの病気が発生した。浅草寺に救護所(現・浅草寺病院)が造られたのもこの水害がきっかけだった。

 そもそも日本の都会はほとんど海沿いにある。人々は海沿いの平地に住み着いた。このため、都会は本質的に水害に襲われやすいのだ。

 たとえば長崎市でも2019年3月に水害に襲われた。これは満潮と「あびき」が重なって起きたもので、繁華街の店舗などが浸水したりJRが運休するなどの影響が出た。あびきとは九州西岸でこの時期に起きやすい気圧の低下で海面が急上昇することだ。

 津波と違って川の氾濫などは水が引くのが遅く、避難者が長時間孤立する恐れがある地震による津波は恐ろしいが、それ以外にも恐れるものは多いのである

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