2016年4月16日
東京・教育の自由裁判をすすめる会
◎ 東京の教職員が国旗国歌への敬意の表明を強制されている問題
1,訴えたいこと
私たちは、学校行事の際,国旗国歌への起立斉唱を拒んだために、減給,停職及び解雇を含む制裁の対象となり、裁判に訴えている東京都の教職員とその支援者です。
私たちは、東京都による起立斉唱の職務命令が、国際人権B規約18条(思想・良心・宗教の自由)のみならず、19条(表現の自由)にも違反すると主張しています。
東京では今も毎年卒・入学式のたびに処分される教職員が後を絶たず、今年の春も4人処分され通算478人に達しています。これからも毎春卒・入学式のたびに繰り返され続けるでしょう。
2,東京都における国旗国歌への敬意の強制の事例の概略は、次の通りです。
(1)学校教育と「君が代」
戦前から国歌として扱われた「君が代」は「君が代は千代に八千代に〜」(天皇の支配が永久に続き栄えるように)の歌詞にあるように天皇家の奉祝歌です。
戦前・戦中の学校教育においては、学校行事は天皇中心の国家に対して忠誠を誓わせる役割を果たしていました。学校行事を通じて「現人神」としての天皇に対する敬愛と畏怖の感情を生起させ、国の支配者に対する柔順の気風を養ったのです。「君が代」は過去の日本の軍国主義教育と密接な関連があり、学校行事における「君が代」斉唱については現在でも議論のあるところです。
戦後の教育制度のもとにおいては、卒業式・入学式をはじめとする学校行事はすべてそれぞれの学校で自主的に行われるものとされ、国の関与からいっさい自由でした。しかし、1989年に『学習指導要領』が改定され、卒業式・入学式における「国旗掲揚と国歌斉唱」が従来よりも強い義務づけ規定と変えられて以後、文部省は都道府県の教育委員会に対して「国旗掲揚と国歌斉唱」の実施を迫るようになってきました。
とくに1999年の「日の丸」を国旗とし「君が代」を国歌とすると定めた『国旗国歌法』の制定以後は、「強制しない」という政府答弁があったにもかかわらず、全国各地で卒業式・入学式における「国旗掲揚と国歌斉唱」の強制的実施が従来以上に強く進められました。
(2)東京都における特異な「日の丸・君が代」の強制とそれに追随する動き
1999年に知事に就任した石原慎太郎によって東京都の教育は生徒中心の教育から国家に奉仕する国民をつくるための教育へと転換させられました。彼は愛国心の育成などを通して排外的なナショナリズムを教育の場に導入しようとしました。
2003年10月23日、都教委は全都立学校の校長を都庁舎に呼び集め、次の様な内容の通達を校長に対する「職務命令」として伝えました。
①卒業式・入学式等においては国旗掲揚と国歌斉唱を必ず行うこと
②教職員は起立して国歌斉唱を行うこと、音楽教員はピアノ伴奏を行うこと
③職務命令に従わない教職員は処分を受けること
2004年3月と4月の卒業式・入学式において、都教委は全部の学校に都教委職員を配置して、式の実施状況を監視しました。都教委の命令により都立学校の校長は一人の例外もなく教職員に対して「起立斉唱」又は「伴奏」の職務命令を発しました。しかし、2004年には250名近くの教職員が職務命令に従うことを潔しとしませんでした。職務命令が教師及び生徒の思想・良心の自由の侵害、教育の内容に対する権力的介入であるという信念によってです。命令に従わなかった教職員全員が懲戒処分を受けました。2005年以降も職務命令は出され続け、2016年4月までの間に戒告・減給・停職などの被処分者の合計は延べにして478名に達しています。
10・23通達をめぐっては、多くの裁判が提起されています。2006年に東京地裁判決は10・23通達及び職務命令を違憲・違法としましたが、その後の判決はすべて合憲・合法としています。しかし、2012年の最高裁判決では、減給・停職は原則として違法であるとし、さらに度重なる強制は、憲法19条に定めた「思想・良心の自由」に対する「間接的制約」に相当すると断じました。
石原慎太郎氏は国政進出のために突然に知事を辞職し、2012年末には新たに石原都政を引き継ぐとしている猪瀬直樹氏が都知事に就任しました。猪瀬知事も自らの金銭スキャンダルで辞職し、現在は舛添要一知事ですが、石原氏の行ってきた教育行政は全面的に引き継がれています。
同様な「日の丸・君が代」強制は全国各地でも行われ、とくに橋下徹元大阪府知事・大阪市長の率いていた大阪の府市では、2015年までに60名もの教職員が処分を受けています。
「日の丸・君が代」の強制は、大学にまでも及ぼうとしています。文部科学大臣は国立大学における「日の丸・君が代」の実施を強く求めています。
(3)教育の場から表現の自由と思想の自由が失われつつある
「日の丸・君が代」の強制は、教育の内容に対する管理統制の一つの特徴的な現れです。
教育行政やその末端としての校長の権限が強化されています。東京都では10・23通達以後、教員の行う教育の内容に対して、教育行政がひとつひとつ内容のチェックを行うようになりました。授業の内容は「週案」によって事前審査され、授業で新聞の切り抜き記事等使用する資料も事前に提出審査され、とくに社会科(とくに歴史や政治経済)の場合、それが厳しく行われるようになりました。
国政に対する選挙権が18歳以上とされた現在、「政治的中立」を名目に、教員の教育活動に対する管理統制の強化は、全国的に広まっています。
(4)日本の社会全体から自由がなくなりつつある
東京都の石原知事のもとで進められた教育の国家主義化、管理統制の強化は、安倍政権のもとにおいて全国的規模で進められています。
政府見解を必ず記載させるように教科書の検定制度は一段強化されました。また、特に中学校の歴史・公民教科書では愛国的色彩の強い教科書を、外部の政治家や団体と共謀して採択させる運動を展開しています。その歴史教科書は、台湾や朝鮮に対する日本の植民地支配や中国大陸への侵略を正当化するなどの問題ある歴史記述が行われ、公民教科書は憲法をねじ曲げて解釈するなど、政府解釈の宣伝が行われています。
また、義務教育における「道徳」が「特別の教科」として教科化されます。天皇を賛美し、日本国民を戦争へと向かわせるために大きな役割を果たした戦前の「修身」教育の復活を安倍政権はもくろんでいるのです。
現在問題となっている安倍政権による報道への介入・規制は、そのはるか以前から教育への管理統制として行われてきたことが社会全体へと及び始めたことの現れです。
3,「表現の自由」に関する、自由権規約委員会からの勧告について
「敬意の表明の強制」の問題について、私たちを含む複数のNGOが国連自由権規約委員会に報告して、総括所見パラグラフ22の勧告を得ています。(2014年7月24日)
パラグラフ22では、締約国に対して、「思想・良心・宗教の自由」と「表現の自由」とについて、国際標準を超える人権に対する制約を課さないように、勧告しています。
この国連が止めるよう勧告した人権制約は、私たちが国際社会に訴えている東京都の事例そのものです。
以下、引用します。
「公共の福祉」を理由とした基本的自由の制約
22 本委員会は、「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれないという懸念を改めて表明する。(2条、18条、19条)
委員会は、以前の最終所見(CCPR/C/JPN/CO/5、パラ10)を想起し、規約18条・19条のそれぞれ第3項に規定された厳しい条件を満たさない限り、締約国が、思想・良心・宗教の自由や表現の自由の権利に対していかなる制約を課すことをも差し控えるように強く要請する。
<国連自由権規約委員会第6回日本審査『総括所見』パラグラフ22(2014/7/24)>
4,締約国の怠慢と無責任ぶり
このパラ22勧告は、「強く要請(urge)」されています。にも関わらず、勧告から1年が経過しても、どの部署も何のアクションも起こしていない無責任ぶりです。
いくつかのNGOが当局に即時実行を迫りましたが、文部科学省も東京都教育委員会も、自らの所管であることを否定して、責任の所在が不明なまま、いたずらに時が過ぎています。【別添資料】
5,国民に国際レベルの「表現の自由」を保障することは、締約国の義務です。
(1)国内司法の判断
最高裁判決では、起立斉唱命令は、敬意の要素を含むから「思想及び良心の自由についての間接的な制約になる」ことを認めつつも、必要性・合理性があるから「憲法19条に違反するとは言えない」と結論づけています。
この国内司法の判断は、規約18条3項の「厳しい条件」を満たしているとは思えません。国連勧告パラ22もそのことを示唆していると読み取れます。
(2)国際レベルの人権水準の保障
批准した条約を遵守し、国際機関の勧告を尊重することは国際社会の一員として当然の義務です。
わが国司法は、勧告に従って、今後裁判規範として、規約19条3項の「厳しい条件」のみを適用し「公共の福祉」は用いないよう審査基準の国際標準化を進めるべきです。
行政機関は、勧告を実行する責任の所在を明確にし、「表現の自由」を不当に制約している事象の除去に具体的に取り組むべきです。
特別報告官氏には、締約国が、国連機関からの勧告に正面から向き合って、具体的な施策を講ずるように、提言していただきたい。
【別添資料】
2015年8月3日「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会実行委員会による文科省交渉から
(Q)質問者:第5回「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会実行委員会
(A)回答者(1,2):文科省大臣官房国際課 調査係専門職 鈴木育乃
(A)回答者(3,4):初等中等教育局 初等中等教育企画課専門職 堀家健一
(1)締約国は、勧告後1年が経過しても、担当部署を特定していない。
Q1: このパラグラフ22は、東京都の所管にも関わっていると理解して間違いないか。
A1: 東京都の所管に関わっているかどうか、必ずしも明らかでありませんが、ご指摘のパラグラフ22については、自由権規約委員会が作成したものであり、お尋ねについて何ら言及はしておりませんことから、そのような中で、今回の所管等に関して政府としてお答えすることを差し控えさせていただくとともに、いずれにせよ政府として、内容を十分検討の上、適切に対処していきたいと思っております。
(2)国内における人権制約の具体例を特定することを拒んでいる。
Q2: パラグラフ22中の「いかなる制約を課すことも差し控えるように」に言う「いかなる制約」には、『リスト・オブ・イシュー』「問17」の「減給、停職及び解雇を含む制裁」が含まれていると理解して間違いないか。
A2: ご指摘のパラグラフ22については、自由権規約委員会が説明したものであり、ご質問については、何ら言及されていないところからお答えすることは差し控えさせていただきます。
(3)勧告された内容を、当事者として受けとめて、取り組んでいこうとする姿勢が見られない。
Q3:『政府回答』が引用した「最高裁判決」(2011年6月6日)は、『最終見解』「パラグラフ22」に言う「規約18条・19条のそれぞれ第3項に規定された厳しい条件」を満たしていると理解しているか。
A3:ご指摘の点に関しましては、自由権規約委員会が、判断するということでございまして、文科省としてコメントする立場ではないので、差し控えさせていただきます。
(4)何もしていないことを自認して、恥じることがない。
Q4:この勧告を受けて、文科省は都教委に対して、具体的な指導・助言を何か行ったか。
A4:特段の指導は行っておりません。
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◎ 「公共の福祉」という名の言論弾圧
2016年4月16日 板橋高校卒業式事件から「表現の自由」をめざす会
1,はじめに
私たちは、板橋高校卒業式で国旗国歌の強制に反対意見を表明した元教員の藤田さんを応援する市民グループである。3月末に、ケイ氏宛に、わが国では「表現の自由」が「公共の福祉」の名目で厳しい制約を受けているという問題について、以下のような趣旨でレポートを提出した。
2,卒業式での意見表明とそれに対する刑事弾圧
元教員の藤田さんは、学校で国旗国歌が強制されるべきではないとの「意見」を持っていた。彼は、卒業式の開式前に1分足らずの間保護者席に向かって、学校で国旗国歌が強制されるべきではないとの意見を表明した。
この行為に対して、検察は「卒業式の円滑な進行を妨害した」として刑法(威力業務妨害罪)を適用し「懲役8月」を求刑。
最高裁は「表現の自由は絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限は是認される」として「罰金20万円」の有罪判決を申し渡した。最高裁は、これまでも幾つかのビラ配布事件に関して、同様の理由で刑罰を科しきた。【別添資料1】
このように「公共の福祉」概念は、実質上「公権力の意志」と同様に使われ、当局に不都合な政治的意見は安易に弾圧にさらされてきた。このような使われ方は、規約19条3項の条件を満たしていない、と私たちは考えている。
3,国際社会では通用しない「公共の福祉」による自由制限
かねてより日本政府は、自由権規約委員会から、"「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれない"という懸念を示されてきた。
日本政府は、自由権規約委員会第6回日本政府報告書の中で、「国家権力により恣意的に人権が制限されることはあり得ない」事例として、上記の最高裁判決を引用して釈明を試みた。
それに対して委員会は、2014年7月、総括所見パラ22で、"思想・良心・宗教の自由や表現の自由の権利に対していかなる制約を課すことをも差し控えるように強く要請する"と勧告した。
このパラグラフ22は、政府による"公共の福祉概念による人権制約が規約の許容範囲を超えない"という説明は、委員を納得させることができなかったこと、今後のあり方として「表現の自由」の制約条件としては国際基準である規約19条3項の「厳しい条件」を直接適用するやり方が具体的な解決策として示されたこと、そしてその実行は緊急を要すること、を意味していると私たちは受けとめている。
4,勧告に背を向ける関係省庁の態度
ところが日本政府は、次に示すように、この勧告が緊急性を要するものとは受けとめていない。【別添資料2】
①勧告から1年以上たったが、政府内で未だ所管が決まっていない。
②いずれの機関も、国連から勧告された「公共の福祉」概念について何の検討も始めていない。
③卒業式等で、戒告・減給などの懲戒処分を発令し続けている東京都教育委員会は、当事者意識がゼロで、国連勧告を無視している。
5,締約国の義務を果たしていない日本政府に対する督促の必要性
社会的関心事についての情報や表現の自由に対する刑事弾圧は、幅広い「萎縮効果」を生み、多様な考え方の尊重を基盤とする民主主義社会を危険にさらすことになる。
人権制約概念として用いられている「公共の福祉」に対する、国際社会の懸念を、日本政府は真摯に受けとめ、速やかに勧告を実行に移す責務がある。「公共の福祉」による人権制約の問題の所在と解決の方向性は、国連自由権規約委員会総括によって明確に示されており、あとは実行に移すだけの段階である。
なぜ実行できないのか、究明していただきたい。
【別添資料1】 「表現の自由」を「公共の福祉」で制約し刑罰を適用した、一字一句同じな3つの最高裁判決
「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならない」
「憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ意見を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。」
① 『立川ビラ入れ事件最高裁判決』(2008/4/11)・・・人の看取する邸宅に立ち入ったこと
② 『葛飾ビラ入れ事件最高裁判決』(2009/12/4)・・・管理組合の承諾なくマンション内に立ち入ったこと
③ 『板橋高校卒業式事件最高裁判決』(2011/7/7)・・・卒業式の円滑な進行を妨げたこと
【別添資料2】 NGOの要請に対する当局の無責任な回答
この勧告パラグラフ22が発表されて以降、私たちを含むいくつかのNGOが、関係省庁に勧告パラグラフ22の即時実行を要請してきた。それに対する、国内各機関の回答は、国連勧告に背を向ける極めて消極的な内容で、勧告が実行に移される動きはなく、勧告は無視されたままである。
代表的な、無責任な回答例をいくつか引用しておく。
(1)勧告から1年以上たったが、文科省によれば、政府内で未だ所管が決まっていない。
Q1 このパラグラフ22は、いくつかの省庁の所管事項に関わっていると思われるが、その1つに文科省も含まれると理解して間違いないか。
A1 ご指摘のパラグラフ22については、自由権規約委員会が作成したものであり、またその内容を鑑み、関係する省庁を直截に申し上げることは困難でございまして、しかしいずれにせよ、自由権規約委員会から日本政府に対して出された最終見解につきましては、法的拘束力を有するものではございませんが、政府として、内容を十分検討の上、引き続き適切に対処していきたいと思っております。
(2015年8月3日 質問者:第5回「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会実行委員会
回答者:文科省大臣官房国際課 調査係専門職 鈴木育乃)
(2)「公共の福祉」概念についての国連の勧告を、政府は聞き流そうとしているかのようである。
Q2 このパラグラフ22を読んで、「公共の福祉」概念についての自由権規約委員会の懸念が、日本政府の説明(『回答』パラ184〜186)によって、解消されたと考えているか。
A2 自由権規約委員会が、いかなる情報に基づき、お尋ねの勧告を作成するに至ったかについて正式に申し上げることは、差し控えさせていただきたい。いずれにせよ、政府として、同委員会に対し必要な情報を提供し、我が国における自由権規約の実施状況等について誠意を持って、説明しております。
(同上)
(3)東京都教育委員会は、当事者意識がゼロである。
Q3 わが国が「国際社会で尊敬され、信頼され」るためには、憲法98条2項の定めに従い、行政機関として国連勧告を尊重し、実現に向けて誠実に努力する責務があることを認めること。
A3 日本政府の見解について答える立場にない。
(質問2015年3月20日、回答2015年4月14日
質問者:五者卒入学式対策本部 回答者:東京都教育庁指導部指導企画課)
Q4 「総括所見パラグラフ22」で、「いかなる制約も控えるように」とある「いかなる制約」には、自由権規約委員会が日本政府に宛てた「質問事項17」にある「減給、停職、及び解雇を含む制裁」及び「再発防止研修」が含まれることを認めること。
A4 日本政府の見解について答える立場にない。
(質問2015年3月20日、回答2015年4月14日
質問者:同上 回答者:東京都教育庁人事部職員課)
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