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 ◆ 裁量労働制を廃止する方法
   三菱電機の悲劇を繰り返さないために
 (Yahoo!ニュース - 個人)
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 ◆ 過労死が起きて、裁量労働制を廃止した三菱電機
 2012年から2017年までに、三菱電機において社員5名が長時間労働を原因とした労災認定を受け、うち2名が精神疾患により自死していたことが、9月の朝日新聞のスクープ報道で明らかになった。
 特に注目されたのが、労災認定されたうちの3名が裁量労働制を適用されていたことだ。

 裁量労働制は本来、自分の裁量で労働時間を決められるとされているはずの制度だが、一方でみなし労働時間以上の残業代を払わなくてよいため、「定額働かせ放題」として悪用される事例が後を絶たない。
 三菱電機でも、この制度が長時間労働を推し進めたものと考えられる。


 すでに2018年3月、三菱電機は裁量労働制を廃止したという。このこと自体は歓迎すべきことだろう。しかし、裁量労働制は死者を出すほどの犠牲を払わなければ、撤廃することができないものなのだろうか?
 そんなことはない。本記事では、裁量労働制による長時間労働が蔓延していた企業において、労働者自身が声をあげたことで、この制度が全廃された最近のケースを紹介したい。
 さらに、今回の三菱電機をめぐる報道のほとんどが見落としている、裁量労働制の廃止する際の重要な論点についても指摘していきたい。

 ◆ 三菱電機が裁量労働制を廃止した直接の理由とは
 まずはじめに、三菱電機ではどのような経緯で裁量労働制が廃止されるようになったのかを確認しておこう。
 朝日新聞の取材に対する三菱電機の回答によると、三菱電機が裁量労働制を撤廃したのは、「労働時間をより厳格に把握するため」だという。
 しかし、前述の記事で朝日新聞は、三菱電機にはさらなる問題意識があったのではないかと指摘している。厚労省による企業名公表制度の適用の「リスク」である。

 厚労省は、2017年1月から、ブラック企業・過労死対策の一環として、過労による労災を繰り返し認定されたり、長時間労働に関する労基法違反の指導を受けたりした企業に対して、企業名を公表するという制度をスタートさせている。
 ざっくり説明すれば、1年以内に、月80時間を超える残業によって過労による労災が認定された事業所や、月80時間を超えた長時間労働に関する労基法違反の是正勧告を受けた事業所が複数あり、そのうえでさらに本社が労働基準監督署から立ち入り調査を受けて、それでも改善がされていなかった大企業が公表の対象となる(中小企業は最初から対象外だ)。
 一見してわかる通り、極めて公表までのハードルが高い制度である。

 ところが、朝日新聞の記事によれば、三菱電機は一連の労災と、それに伴う労基署の指導により、この条件をほとんど満たしており、2017年末には最終段階の本社の立ち入り調査まで受けていたという。
 この本社調査では結局、企業名公表に直結する問題は明らかにならなかったようだが、新たな事件を起こさないように、同社は裁量労働制を廃止する判断をしたのではないかというのが朝日新聞の指摘だ。

 ただし、繰り返しになるが、この厚労省による企業名公表制度は、過労死など長時間労働による労災が繰り返されている大企業を想定したものだ。三菱電機が裁量労働制をなくした理由が、国からの企業名公表に直面したからということなのであれば、やはり、過労死の犠牲者を何人も出さなければ裁量労働制は廃止できないということなのだろうか。
 そもそも、被害が繰り返されたとしても、裁量労働制による労災が認定されることは、ただでさえ容易ではない。
 参考:「働き方改革」最大の焦点・裁量労働制 「過労死促進法」の構図

 また、労災認定のハードルを乗り越えても、厚労省の企業名公表制度まで辿り着くのは非常に困難だ。犠牲者を何人出したとしても、裁量労働制を廃止できない可能性はあまりにも高い。それでは、一体どうすれば良いのだろうか。

 ◆ 労働者が声をあげて、裁量労働制を廃止させた建築設計事務所の事例
 ここで、厚労省による行政指導ではなく、労働者が声をあげたことによって裁量労働制が廃止になった直近の事例をひとつ紹介しよう。筆者が以前紹介した建築設計事務所・プランテック総合計画事務所の事件だ。
 一度筆者も記事を書いているが、続報も含めて改めて説明していきたい。
 ※裁量労働制の違法な「対象業務」 労基署も取り締まれない実態

 この建築設計会社では、社員約100名のうち、約80人に、「建築士の業務」として専門業務型裁量労働制を適用していた。

 その一人である20代女性のAさん(長時間労働による精神疾患に罹患し、現在は休職して裁量労働制ユニオンに加盟、同社と団体交渉中)は、入社から裁量労働制を適用され、入社3ヶ月目にはすでに残業が月100時間を超え、5か月目には過労死ラインの倍近い月170時間を超えていた。残業は最長で月185時間に及んでいたという。
 1日のみなし労働時間は8時間であったにかかわらず、Aさんの実際の労働時間は1日20時間を超えることも少なくなく、みなし労働時間の3倍近くにのぼる長時間労働もあった。実際の労働に裁量がなかったのは明らかだろう。

 ほかにも裁量労働制の対象業務の違法性など、様々な問題があった(詳細は前述の記事を参照)。それほどの実態があるのなら、労働基準監督署が適切な行政指導を行って裁量労働制を廃止させられるのではないかと思う人もいるかもしれない。ところが、実際には全く逆のことが起きていた。
 Aさんはユニオンの支援を受けて、中央労働基準監督署に申告を行った。ところが、プランテック総合計画事務所がユニオンに対して団体交渉で明らかにしたことによれば、中央労働基準監督署の担当監督官は同社に対して、改めて手続きを適切に行えば、裁量労働制を適用することに問題ないとして、今後の裁量労働制の継続を勧めていたという。
 労基署は、過労死ラインを大幅に超える同社の長時間労働の実態を知っており、同社の労働者に裁量がなかったことを知っていたにもかかわらず、裁量労働制を積極的に推進したというのである。

 しかし、みなし労働時間の3倍近くの長時間労働を恒常的にさせていた同社で、裁量労働制の適用がふさわしくないのは明らかだ。
 当初、同社はユニオンに対して裁量労働制の適用の継続を公言していたが、ユニオンが団体交渉本社前のチラシまきなどの街頭宣伝を通じて裁量労働制の廃止を同社に求めた結果、これまで裁量労働制を「適用」していた約80名全員に対して、今後の裁量労働制の適用を廃止するという方針を、この10月に明らかにした。
 ユニオンを通じて在職の労働者一名が声をあげたことで、裁量労働制を撤廃させることに成功したのである。同社も、ユニオンの要求を受けて裁量労働制をなくしたことを交渉ではっきりと認めた。

 裁量労働制ユニオンでは、同様に裁量労働制を廃止させた事例が複数あるという。このように、犠牲者を繰り返し出したり、厚労省の重い腰をあげさせたりしなくても、労働者自身が労働組合を通じて声をあげれば、裁量労働制をなくすことができるのである。

 ◆ 報道が見落とした論点――三菱電機の未払い残業代はどうなったのか
 三菱電機の話題に戻ろう。一連の労災認定が大々的に報道されている一方で、同社の裁量労働制について、ほとんどのメディアが見落としている重要な論点がある。それは、裁量労働制のせいで払われてこなかった過去の未払い残業代の行方である。
 いまだにこの残業代が払われていないのだとすれば、これまでの裁量労働制の問題について、三菱電機はいまもごまかし続けているということにほかならない。

 たしかに三菱電機は今回、「将来」について、裁量労働制が適切でないとして廃止を決断した。
 しかし、同社は「過去」について、裁量労働制が「違法」に適用されていたことを認めていないということになってしまう。何人もの労災を出し、死者を出すことにまでつながった過去の裁量労働制の違法性について、三菱電機はいまだに不問に付したままであるということだ。

 ここで再び紹介したいのが、プランテック総合計画事務所に対する裁量労働制ユニオンの成果だ。ユニオンでは、過去について、裁量労働制が無効であることを認めさせて、残業代を支払うことを決めさせている。それも、裁量労働制が適用されていた在職中の全社員と退職者に対して支払うことを認めさせたという。
 とはいえ、残念ながら同社は、支払いの対象となる期間を6ヶ月分のみに限定している。残業代の時効は2年間なので、2年分全てを払わないと、同社の労基法違反は残ったままだ。
 しかも、同社は、Aさんに対してまで「社員だから、半年分の残業代の支払いだけでお願いしたい。むしろ2年分を要求する理由は何か」などと理不尽な主張をしてきているという。ユニオンでは当然の権利として、2年間分を請求し続けているところだという。

 このように、三菱電機の適用対象者だった約1万人の労働者(全社員の3分の1にのぼるという)の方たちも、裁量労働制の期間について、まだ残業代を払われていないのであれば、今から2年前の時点から裁量労働制が廃止された2018年3月までの残業代は請求できるはずだ。

 ◆ 一人の労働者と労働組合の力で裁量労働制はなくせる
 以上のように、裁量労働制をなくすことは、死者を出さなくても、厚労省の権限を待たなくても、一人の労働者と労働組合の取り組みによって実現可能である。
 また、過去の裁量労働制の無効性も追及することで、その未払い残業代もしっかり払わせることができる。裁量労働制による長時間労働で困っている人は、ぜひ相談してみてほしい。

 最後に、Aさんが厚労省で記者会見をしたときの言葉を紹介しよう。
「残念ながら、社員を思って裁量労働制を適用している会社はほとんどないと思います。経営者側に都合がいい、『定額働かせ放題』として適用している会社の方が圧倒的に多いと思います。少なくとも私は、今後、裁量労働制を適用している会社は信用することができないし、絶対就職したくありません。」
 「裁量労働制拡大のニュースがあったとき本当に恐怖を覚えました。私のように裁量権を持たない人間にも適用できるという曖昧な制度のまま拡大するのは本当に危険です。裁量労働制を労働時間を短くする、働き方を自由にするという考え方のもと、拡大するというなら、今の制度のままではそうはなりません。実際、私は自由な働き方、労働時間を短くするなどとは正反対の働き方でした。裁量労働制がいかに素晴らしく、働き方改革だという報道を見ると、現時点で適用されている側からは、何も調べていないし、現場のことは何もわかっていないと思わざるを得ません。」
 ※ 裁量労働制を専門とした無料相談窓口
○裁量労働制ユニオン
http://bku.jp/sairyo
sairyo@bku.jp
03-6804-7650
*裁量労働制を専門にした労働組合の相談窓口です。

※ その他の無料労働相談窓口
○NPO法人POSSE
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

○総合サポートユニオン
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
http://sougou-u.jp/
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

○仙台けやきユニオン
022-796-3894(平日17時〜21時 土日祝13時〜17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

○ブラック企業被害対策弁護団
03-3288-0112
*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

○ブラック企業対策仙台弁護団
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。
 ※ 今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2000件以上の若年労働相談に関わる。雑誌『POSSE』を発行し、政策提言を行っている。2013年には「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、著作『ブラック企業』(文春新書)は大佛次郎論壇賞を受賞。近刊に『ブラック奨学金』(文春新書)。その他の著書に『求人詐欺』(幻冬舎)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。1983年生まれ。仙台市出身。

『Yahoo!ニュース - 個人』(2018/10/22)
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20181022-00101359/



 ◆ 日本のシングルマザーの貧困率が突出して高い理由 (読売新聞オンライン)

 わが国日本は、GDP(国内総生産)で米国、中国に次ぐ世界3位の「経済大国」だ。しかし、その陰では、「シングルマザー」世帯の貧困が先進国でも突出して深刻なのはご存じだろうか。子どもの金融教育を手掛ける企業「マネネ」(東京)のCEO(最高経営責任者)で、貧困問題にも詳しい森永康平氏がその理由を読み解く。
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(出所):OECD「Educational Opportunity for All: Overcoming Inequality throughout the Life Course 2017」を基に株式会社マネネ作成。

 ◆ 「経済大国」なのに…
 日本は豊かな国だろうか。GDPで中国に抜かれたとはいえ、まだ世界3位。れっきとした「経済大国」である。
 データを見ずとも、日本は先進国に数えられると考える人も多いはずだ。むろん、G7(先進7か国)の中にも日本は含まれており、世界各国からもそのように認識されているだろう。
 しかし、データを「深読み」していくと、意外な事実が浮き彫りになる。


 ◆ ひとり親世帯の貧困「先進国で突出」
 厚生労働省の発表した2016年度の「全国ひとり親世帯等調査」によると、日本には約142万の「ひとり親世帯」がある。内訳は、父子世帯の約18万7000世帯に対し、母子世帯はその6倍以上、約123万2000世帯に上る。ひとり親世帯の9割近くが母子世帯だ。

 注目すべきは、その経済的困窮ぶりだ。
 OECD(経済協力開発機構)の調査では、ひとり親世帯で、なおかつ親が就業している場合の相対的貧困率(全国民の所得の中央値の半分を下回っている割合)は、日本が54.6%と先進国では頭一つ抜けている

 世界でも有数の経済大国にもかかわらず、なぜここまでひとり親世帯の子どもの貧困率が高いのだろうか。

 ◆ シングルマザーの厳しい現状
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 前述の厚労省の調査では、約123万2000の母子世帯のうち、81.8%の母親が就業しているという。

 しかし、そのうち「正規の職員・従業員」は44.2%に過ぎない。43.8%が「パート・アルバイト等」。「派遣社員」も含め、ほぼ半数の48.4%が非正規雇用。母子世帯全体の平均年間収入も348万円にとどまっている。

 同省が発表した16年の国民生活基礎調査によれば、全世帯でみると世帯の平均所得は545万4000円だ。児童のいる世帯に限れば707万6000円に上る。
 ちなみに、収入から生命保険料や確定拠出年金の掛け金など所得控除される分を差し引いた額が所得金額だ。そう考えると、いかに母子世帯の収入が低いかが分かるだろう。

 さらに、15年の国勢調査を見ると、母子世帯のうち、母親の親(子どもから見ると祖父母)などがいない「母子のみにより構成される母子世帯」の数は約75万世帯、世帯平均年間収入は厚労省の調査結果よりさらに低い243万円だ。

 父子世帯より母子世帯の方が経済的に苦しいのは、むろん、就業によって得られる収入に差があるからだ。
 父子世帯の場合、父親の85.4%が就業している。この数字は、母子世帯の母親の就業率(81.8%)と大きな差はないが、その中身はまるで異なる。
 父親の場合、就業している人のうち、18.2%が「自営業者」で、68.2%が「正規の職員・従業員」である。
 非正規雇用の割合は圧倒的に低く、男性と女性で稼ぐ条件に大きな差があると言わざるを得ないのだ。

 前出のひとり親世帯等調査によると、ひとり親世帯となった時点の末子の年齢は、父子世帯の6.5歳に対し、母子世帯は4.4歳。
 子どもが幼いので、フルタイムでの勤務が難しいという事情もありそうだ。

 「女性は離別した夫から養育費をもらうではないか」と思う人もいるかもしれない。
 しかし、同調査によると、離婚した父親からの養育費の受給状況で「現在も受けている」と回答したのはたった24.3%だけだ。
 しかも養育費の平均月額(※養育費の額が決まっている世帯)は4万3707円。収入の男女差を埋めるには明らかに少ない。

 さらに、シングルマザーの2割以上が「未婚(の母)」か「死別」だ。こうしたケースでは基本的に彼女らは養育費を受け取ることはない。この点は注意しなければいけない。

 ◆ 生活が厳しくなる理由とは……
 ここまで、政府の統計データを基に、日本でシングルマザーの生活が厳しい理由を見てきた。しかし筆者は、ほかにも要因は複数あると考えている。

 まず、指摘したいのは日本にはベビーシッターの文化が浸透していないことがある。
 理由は複数あると考えられるが、何より大きいのは、ベビーシッターのサービスを受けるための価格が高いことだろう。
 ベビーシッターの1時間当たりの利用料は、一般的に1000〜4000円程度は相場だ。さらに、交通費などの料金が加算される。

 仮に、1時間2000円程度としよう。1日8時間、週5日間利用するとなると、交通費などを除いても1か月でなんと35万円ほどかかってしまう。年間だと420万円。
 ほかにも家賃や食費、光熱費などの生活費がかかるだから、これでは母子世帯だけでなく、夫婦共稼ぎの世帯でも支払うのは難しい。

 さらに、「利用したい日の1週間前に要予約」といったケースも多く、「使いたい時にすぐ使える」サービスは少ないのが実情だ。

 行政も、これを社会問題ととらえ、東京都が待機児童となっている子どものいる家庭を対象に、ベビーシッターの利用料の大半を補助する制度をスタートしたり、企業が社員向けの補助制度を整備したりするなど、利用促進に向けた支援が拡充されつつある。

 ◆ ベビーシッターに対する「精神的障壁」
 しかしながら、筆者が実際に複数のシングルマザーにベビーシッターを活用するかどうかについて聞いてみたところ、否定的な答えが多かった。費用の面より、気持ちの面で活用をためらうケースも多いようなのだ。

 自分が自宅にいない時、ベビーシッターという「他人」に子どもと一緒にいてもらうことや、保育園に迎えに行ってもらうことに対し、「抵抗感がある」というのだ。

 筆者は、インドネシアマレーシアなどアジア各国でビジネスをしてきた。
 そこで見たのは、いわゆる「新興国」でも自宅で子守りもしてくれるメイドを雇うことが一般的になっている国があるという現実だ。
 メイドを雇えば、ひとり親世帯でも、母親はフルタイムで働くことができる

 台湾にも2年弱住んでいたのだが、インドネシアやベトナムから、メイドやベビーシッターとして働いてくれる人を積極的に受け入れており、価格も比較的手頃だ。実際、台湾の移民局に行くとベトナム語などの通訳が常駐しており、政府もかなり力を入れていることが分かる。

 しかし、日本の母親らの意識も異なる。メイドや家政婦はもちろん、気軽にベビーシッターを利用するという環境にはなりにくいのではないかと筆者は考えている。

 ◆ 「昇給もせず、ボーナスももらえない
 また、日本の企業の旧態依然とした働き方も、シングルマザーの生活を苦しくしている要因といえそうだ。私が話を聞いたシングルマザーたちの中でも、若い母親たちは特にこの点を強く指摘していた。

 日本の企業では、定時の就労時間を午前9時から午後5時に設定しているケースが多い。そして、基本的には社員全員がオフィスへ出勤し、机を並べて仕事する。仕事が終わった後にも、度々職場の食事会や飲み会が開かれ、そこでのコミュニケーションが社内の人脈づくりや評価につながり、「将来の出世や昇給に響く」と感じる人は少なくない。

 ひとり親世帯の子どもは、一般的に認可保育園に入りやすいケースが多いため、待機児童の問題で悩むことは少ないはずだ。しかし、シングルマザーが前述のような働き方をするのは極めて難しい。

 午前9時にオフィスに到着しなければならない。すると、午前6時には起きて子どもを保育園や幼稚園に送る準備や、食事の支度をし、子どもたちを送り届けてから満員電車に乗ってオフィスへ行く。

 保育園への「お迎え」があるので、「時間短縮(時短)勤務」の制度を活用したり、夕方は定時に退社したりしなくてはならず、遅い時間に緊急の会議が開かれたとしても、出席は極めて難しい。まして仕事の後の「付き合い」などできるはずがない。

 フルタイムでの勤務自体が難しいため、なかなか昇給も昇格もせず、「ボーナスをもらえないこともある」という。収入が少ないのは、ある意味必然と言える。

 ◆ 働き方改革で変化も?
 ただ、最近は「働き方改革」が進み、企業なども少しずつ変わってきている。

 フレックスタイム制を導入する企業も増えてきており、リモートワーク(在宅などによる勤務)をできる企業もある。様々な「チャットツール」や、ウェブ会議のための通信用アプリケーションも開発されており、全員がオフィスに集まる必要もなくなってきた。

 また、「副業」や「パラレルキャリア」という言葉を耳にすることが多くなってきたように、技能さえ持っていれば、フリーランスで収入源を複数確保することも可能になってきた。実力が収入につながれば、仕事のあとの宴席などを気にする必要もなくなるはずだ。

 シングルマザーの貧困が子供の貧困を招き、そして最終的に日本の国力の低下にもつながりかねない。
 一部の家庭の話だと切り捨てるのではなく、国を挙げて対策を検討し、早急に改善されていくことを期待したい。


※プロフィル 森永 康平( もりなが・こうへい ) 
 経済アナリスト。子どもたちへの金融教育事業を展開する株式会社マネネ(東京)代表取締役社長CEOも務める。証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数の金融機関で外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国で新規事業の立ち上げや法人設立も経験。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)も兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。ツイッターアカウントは@KoheiMorinaga 。
経済アナリスト 森永康平

『読売新聞(ヨミウリオンライン)』(2018/10/28)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181028-00010000-yomonline-bus_all



  《奨学金問題》
 ◆ 1000万円以上の借財の学生が多数
   〜「金融」に堕ちた学生支援機構
 (週刊新社会)
大内裕和(中京大学教授)

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 ◆ 奨学金運動の始まり
 今から8年前、私は愛媛の松山大学に勤務していました。教職課程の科目を教えていましたので、奨学金の講義を行いました。受講生は100名位ですが、全くふだんと違いました。寝ている学生がゼロでした
 私はコメントペーパーを配って、講義についての質問書いてもらっています。学生はよく書くのですが、その奨学金の時には普段の2倍3倍でした。とくに驚いたのは、表で終わらずに裏にも書く学生もいました。
 自分の頃の授業料は年間30万円、奨学金は月2万円台でした。
 今は月に8万・10万・12万という学生が大量にいます。しかも100名の受講生のうち、約70名が利用していることがわかりました。


 3回目の講義の時、学生たちと討論しました。
 「不安で仕方がありません」「頑張って返します」「頑張っても返せないだろう」と。なんとかしたいのだったら「会」を作りなさいと言いました。
 私の講義の時間中に「愛媛大学学費と奨学金を考える会」は結成されました。この会は私の講演会や、奨学金についての学習会や学内でのチラシ撒きなど、様々な活動をし、現在の私の活動の原点になっています。

 ◆ 悪化の一途だった奨学金

 私は、2011年4月に愛媛の松山大学から愛知の中京大学に異動しました。この奨学金の問題の発見が遅れた世代間ギャップ解消のために第一関門は奨学金について日本育英会の時と、今の日本学生支援機構では完全に変わっているということ、このことを伝えることから始めました。
 一昨日、私のところに相談にきた名古屋の学生は、第1種と第2種の両方で18万4000円借りていて総額は1000万を超えていました。
 今年に入ってからこの18万4000円という相談は私のところだけで2桁を超えています。
 全国では、どれだけの学生が1000万円以上の借金を背負っているかということです。

 バーニーサンダースはアメリカでも170兆円の負債をかかえていると書いていますが、こういうことが日本中で起こっています。
 第二種奨学金は上限は大学院は15万円まで、法科大学院は22万円となっています。
 奨学金制度は悪化の一途をたどってきましたが、見事に資本主義の金融資本主義化と結び付いていると私は思います。

 有利子が導入されたのは今から34年前です。1984年に日本育英会法が全面的に変えられて初めて有利子枠が作られました。
 当時は、時代が今よりずっとまともでしたから奨学金に利子がつくのはなにごとかという極めてまともな反対運動がありました。
 しかし、その運動を無視して当時の与党自民党は有利子枠をつくりました
 2007年度以降は、銀行・証券会社の金融機関など民間資金の導入も始まりました。
 金融機関が奨学金という名前で金を貸し出して、大きな利益を上げています。日本は奨学金を貸与、さらに融資をやっています。

“奨学金返済が困難”
 奨学金は返済するものではないので、これは英訳できません。したがって私はスチューデント・ローンの返済困難と言いかえます。

 34力国のOEC加盟国の中で17力国が授業料ゼロ、16力国が給付型奨学金です。
 唯一、授業料有料かつ給付型の奨学金がないのは日本だけ、という設定をして、運動を作り、今年からは給付型奨学金を実現させていくというのが経過です。
 そこに、新たな問題が起こっていることが明らかになってきました。「ブラックバイト」問題です。

 ◆ 生活苦からブラックバイトで働く

 ブラックバイトとは、
  低賃金で働かせながら正規雇用労働者並みの義務を課し、
  授業など学生生活に支障をきたし、
  学生の人権を踏みにじる働かせ方です。
 この定義にしたがって大学生5000人に調査を行ったところ、70%がブラックバイトを経験しているというデータがありました。

 このようなことを強いられたり、未払い賃金があるとか、ノルマを達成できなければ買い取らされるなどの事実を話すと、誰もが「なぜ辞めないのか」という反応をしました。
 この反応一つで、今のメディアや一定以上の年齢の方が、今の学生のことを何も分つていないということが分ります。辞められるならブラックバイトではありません。

 なぜ学生生活の環境が、かつてとは全く違う劣悪なものになっているのでしょうか。
 一つ目は、大学生の貧困の深刻化です。
 仕送り額は以前のような月10万円台から大幅にダウンしています。仕送り額から家賃をひいて30で割ると、1日に使えるお金は1990年の2460円から、最近は790円です。一食300円の学生食堂すら使えないのです。
 ですから仕送りが5万円以下の場合、生活するために嫌でもアルバイトを辞められないのです。
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 二つ目は、非正規雇用労働者の急増による労働現場の劣化です。
 1992年から10年で非正規労働者の割合が倍増し、全体の40%程度になっています。かつてのようにアルバイトが休んでも職場が成り立っていた環境は大きく変わり、休んだら職場に穴があくのです。
 いまやバイトリーダーやパート店長が当たり前です。これでは休めません。
 ブラックバイト問題は、まさに現在の労働問題の結果です。

 ◆ 法と運動でアピール

 労働弁護団と組んで無料冊子「ブラックバイト対策マニュアル」を作りました。ホームページからも無料でダウンロードできますし、意識のある高校や大学はこの冊子が置いてあります。
 その後ブラック企業問題と連動して組合ができ、ブラックバイト専門の弁護団ができました。
 奨学金が世界標準の給付型であれば、学生はこんなアルバイトをせずにすみます。ですから奨学金制度の改善は重要です。

 2012年に愛知県の大学生らによる「愛知県学費と奨学金を考える会」が作られ、その翌年、「奨学金問題対策全国会議」が結成され、国会でも野党中心に奨学金制度や日本学生支援機構に対する質問が行われるようになりました。
 このような運動で、延滞金賦課率10%から5%に削減され、返還猶予期限5年から10年へ延長されました。
 また様々な制度改善プラス無利子が増加し、有利子が減少しました。

 この傾向は今年まで続いています。まだまだ十分とは言えませんが、重要な変化であったと考えています。
 また、奨学金は本人の卒業後の仕事や収入が決まっていない段階で借りている訳ですから、救済制度がなければなりません。しかし、ほとんどありません。
 そのため私は法的整理を勧めています。また、連帯保証は返済の当てが確実でなければ人的ではなく機関保障を勧めています。

 ◆ 税制に社会的配分を念頭に

 私は2016年の参議院選挙の時に、給付型奨学金を争点にせよと言いました。それは初の18歳選挙権が行使できるので、給付型奨学金は学生にとって待望の制度だったからです。
 出生数が急速に減り、「再生産不可能社会」の到来です。単なる教育問題というよりは社会の在り方の問題です。
 給付型奨学金を実現するために財源をどこから持ってくるか、これがきちんとできれば、緊縮財政を基本とする新自由主義と対抗する政治勢力を作れます。
 しかし、税制に対する知識や社会的な配分について市民の考えはとても弱いのです。

 ◆ 消費増税ではなく富裕層に応分負担を

 経済的に厳しい家庭の子どもの進学を保障するのが奨学金ですから、消費税を上げるのではなく、経済的にゆとりのある階層からとるのが一番正しいのです。
 日本は財政赤字で大変だというキャンペーンがされている一方、純金融資産1億円以上の階層では、2000年83・5万世帯171兆円が、2015年には121・7万世帯272兆円と、年平均6兆円以上の増加をしています。
 私の提案は年間1・1兆円でできます。
 富裕層の富を削れというのではなく、富裕層の富の増え方をちょっと減らすだけで、すべての奨学金は給付型になるのです。

 私は本人に学ぶ意欲があるのに、経済的に貧困という理由だけで進学できないとか、勉強できないというのはおかしいではないですか、という言い方で世論形成をやってきました。
 それがある程度うまくいったから、今回の給付型奨学金の導入があったのではないかと思っています。

『週刊新社会』(2018年10月16日・23日)





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10/26(金) ビジネスオンライン


 東京藝術大学は10月26日、2019年度の入学者から学部の授業料を約20%値上げし、年間約64万円にすると発表した。20年度の入学者からは大学院の授業料も同額に引き上げる。値上げで得た収益は、教育体制の拡充、設備投資、給付型奨学金の整備などに充て優秀な芸術家の育成・輩出に注力していく。

【東京藝大による学費値上げの詳細】

 18年度までに入学した学部生と19年度までに入学した大学院生の学費は値上げの対象外とし、在学中は現行のまま据え置く。

 現在の授業料は学部・大学院ともに、文部科学省が省令で定める標準額の年間約54万円。両者の値上げが完了する22年度までに、約3億円の増収を見込む。国立大が標準額を超える水準まで学費を引き上げる例は、東京工業大学に続いて2校目。

 東京藝大の担当者は、値上げ分の用途を「海外から一流の芸術家を講師として招き、個別指導や少人数制の授業を充実させるために使用する」(戦略企画課、以下同)と説明する。

 「工房やスタジオへの設備投資を行いつつ、美術や音楽の実技指導を行う専門的なスタッフも雇用していく。学生を海外の音楽祭などに派遣し、国際経験を積んでもらうことも考えている」という。

 返済不要の奨学金を設定する理由は、経済的に困窮する学生のサポートを強化するためといい、値上げ幅に等しい年間10万円を給付する予定。



◆ 2018-10-15

 医学部の不正入試を巡る問題で、昭和大(東京)は15日記者会見し、2013年以降の医学部一般入試の2次試験で、高校からの調査書を評価する際、現役と1浪の受験生に加算する得点操作をしていたと発表した。本来補欠に回るはずの卒業生の親族19人を優遇し、正規合格としていたことも判明。

募集要項などで事前に周知せず、既に不正入試が発覚した東京医科大と同様、受験回数の多さなどを不利に扱っていたことになる。


◆毎日新聞2018年10月15日

医学部入試 昭和大13年から操作 不正認識なく



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