[平井さんバッシングを許さない④]
◆ 「軍が強制的に『慰安婦』制度を進めたということだけを教えるのであれば不適切」?!(1月23日大阪府教育庁交渉報告)と
私たち
平井さんバッシングを許さない市民有志は、2019年1月23日に
大阪府教育庁と交渉を行いました。
これは2018年12月6日に提出していた4項目の質問書をうけて開催されたものです。その質問書の回答は12月20日にありましたが、その回答の内容は私たちにとって満足できるものではなく、その後2つの追加質問書を提出、交渉当日に回答を受け取りました。
【2018年12月6日に提出していた4項目の質問書とその後の経過】 私たちは4項目の質問に沿って、府教育庁にその見解を質しました。
交渉に対応したのは、小中学校課教務グループ主席指導主事です。
1、日本軍「慰安婦」問題を授業でとりあげることはいい、
しかし「軍が強制的に『慰安婦』制度を進めたということだけを教えるのであれば不適切」? 質問1 2018年10月12日の大阪府議会の教育常任委員会で
原田亮府議会議員(自民)が「
記事で書かれているのがほんとうならば、大問題である」という質問に対して、
舛田千佳小中学校課長が共同通信の「記事にある授業の内容が
事実であるならば不適切である」と答弁されています。
大阪府教育庁は、共同通信の
どの内容がどういう点から不適切なのかを具体的に明らかに示してしてください。
私たちは自民党や維新の会が「日本軍『慰安婦』問題を取り上げる授業実践そのものが問題である」という質問に対して、大阪府教育庁がそれを認めるかのような回答をしていたことに、とても
危機感を抱いていました。
これに対して
事前の回答書で、次のような回答がありました。
大阪府教育庁としては
「一面的な指導の事実があれば、『不適切である』」。
それは実際の府議とのやり取りを見れば理解しがたい点もあるのですが、「日本軍『慰安婦』問題を授業で取り上げることそのものは問題がないのですね?」と確認の意味でも追及したころ、
「日本軍『慰安婦』問題を授業で取り上げることそのものは、何ら問題がない」という回答を得ました。
当然とはいえ、府議会での執拗な攻撃を前にしてこのことを確認できたのは、一つの成果と思います。
しかし、こんなことで納得はできません。
そもそも
平井さんが一面的な指導を行っていません。記事の内容が100%事実としても、現在の教育行政の基準における「一面的な指導の事実」など見当たらないからです。
共同通信社の記事で紹介された平井さんの授業実践は、2015年の「慰安婦」日韓合意と河野談話も取り上げており、きちんと
政府見解を伝えたうえで授業を展開しているからです。これが「一面的な指導の事実」と言えるのでしょうか?
そこで私たちは「平井さんの『慰安婦』の授業実践が共同通信社の記事通りだったとして、それが『一面的な指導』と言えるのか?」と問いました。
すると府教育庁は「記事の内容が事実かどうかは調べているが、
記事の内容の授業についての判断はしていない」「府教育庁としては記事の分析をしていない」と回答しました。
これは想定外でした。現在府議会で起こっている事態は、記事を読んだ議員が「こんな授業を許せない」「こんな教師は教壇に立たせるな」と攻撃しているのです。
記事の内容の授業で問題がないのであれば「そもそもそんな批判には当たらない」と府教育庁は答えるべきなのです。
そして府教育庁は、議会の答弁内容から察するに、記事の内容の通りの授業ならば不適切と考えているのだろうと考えていました。
しかしそうではなく、
そもそもそこの評価はしていないというのです。
新聞記事の内容を読めば、平井さんは政府見解を取り上げない「一面的な指導」をしているとはとても読めません。記事中では、
2015年の「慰安婦」日韓合意を取り上げ、
河野談話を取り上げたうえで、生徒たちにどう思うのか問うています。
だから平井さんが「一面的な指導をしているとは言えないのではないか」と追及したのですが、「記事の内容が事実であるかどうかわからないので、現時点では判断ができない」と逃げました。そして追及された結果、言葉に窮したように「記事の内容が事実であったとしても何も問題がないとまでは言えない」
「一面的な指導とまでは言えなくても、配慮が必要だった」と言うのです。
その配慮とはなにか? それは「
軍が積極的に関与しているように記事からは読み取れるから」ということでした。
もちろん日本軍「慰安婦」問題は
「軍が積極的に関与」した問題です。確かに
安倍首相は「強制連行を示す文書がなかった」という閣議決定を行っていますが、強制連行を示す証拠さえ現実にはたくさんあります。その証拠の数々を政府のところに持って行っても、政府は受け取ろうともせず、「強制連行を示す文書がなかった」と繰り返すのです。
私たちは「軍の関与も強制連行も性奴隷制度も
歴史の事実ではないか」ともちろん追及しましたが、府教育庁は首を縦に振りません。
「軍が強制的に『慰安婦』制度を進めたということだけを教えるのであれば不適切」
「
河野談話も事実だが、強制連行を示す証拠がなかったという安倍閣議決定も事実」
「『慰安婦』問題のとらえ方について歴史的に経緯がある。そういうことをとらまえて今現在がどうなのか教える必要がある」
つまり
「強制連行を示す証拠がなかった」と教えなければ、「不適切な指導」になるのです。平井さんの授業のように、「慰安婦」日韓合意と河野談話だけでは「不適切な指導」になるのです。
府教育庁は決してそのようにハッキリと認めようとはしませんでしたが、いくら考えてもそのようにしか判断できません。
「日本軍『慰安婦』制度は軍が強制的に関与した。それは歴史の事実だ」といくら主張しても、「軍の強制性を認めた河野談話が一面的だとでもいうのか」と批判しても、府教育庁はそのことそのものは絶対に否定することなく、「それも事実だが、強制連行を示す証拠がなかったという閣議決定の存在もまた事実」と言うのです。
歴史修正主義とは、
歴史の事実を巡る論争という形を借りた「政治」です。歴史の事実とは何かとは全く関係のないところで、
「嘘も百回言えば本当になる」を実行しているにすぎません。
被害者が
甘言・詐欺や場合によっては拉致監禁によって慰安所に入れられたことは、誰が何と言おうと歴史の事実ですし、慰安所で行われたことはまさに
性奴隷制度でした。それは(吉田清治証言とは全く関係なく)金学順さんが名乗り出られたあとの20数年間の
歴史研究の成果であり、今後もそれが覆されることはないでしょう。つまり学問の分野ではすでに詰んでいることなのです。
アメリカなどにいる
キリスト教原理主義者は「進化論は間違いだ」と主張し、
学校で進化論を教えることを攻撃します。進化論は科学の真実であるにも関わらず。それと同じです。歴史修正主義者は何が歴史の事実かということとは関係なしに、「歴史」のジャンルのふりをしながら「政治」を挑んでくるのです。
そして大阪府教育庁は、教育行政機関であるにもかかわらず、歴史の事実から目をそらし、安倍閣議決定を取り上げないと「一面的な指導」になると……おそらくは起こっている事態が「歴史」ではなく「政治」であると理解したうえで、
ウソとホントウの両論併記でなければ教育行政がもたないと判断しているのでしょう。
「政治」を教える公民の授業でならまだしも、「歴史」の授業で「強制連行はなかった」とウソを教えることを強制するのであれば、歴史教育の放棄と言わざるを得ません。子どもに対する背信行為であり、絶対に許すことはできません。
大阪府教育庁は「政治」から距離を起き、「歴史」で決着のついた場所、つまり日本軍「慰安婦」制度は軍が管理した戦時性奴隷制度だったという
歴史的事実に立ち戻るべきです。
2、調査対象は「慰安婦」授業の有無ではなく「一面的な指導はなかった」の有無
平井さんの授業実践も「不適切な指導ではない」ことを確認 質問2 2018年10月16日の大阪府議会の教育常任委員会での
西田薫府議会議員(維新)の「こういった授業が他の小中学校でも行われていないか調査すべき」との質問に対して、「各学校において、
歴史的事象を一面的にとらえるなどの不適切な指導がないか、市町村教育委員会に調査・把握・指導したい」と舛田小中学校課長が答弁されています。
10月16日以降、大阪府教育庁は具体的にどのような内容の調査を、電話・文書も含め行ったのかを明らかにしてください。その
調査結果とその後の「指導」内容を公開してください。
これに対する
大阪府教育庁の回答は、市町村教育委員会(政令市除く)に対して「国の通知文を踏まえて不適切な事例がないかについての報告を求め」、
「すべての市町村教育委員会より、不適切な指導はなかったと報告を受け」たというものでした。
質問1でも問題になっていましたが、この「不適切な指導」の根拠となる
国の通知文があります。それは
「学校における補助教材の適切な取扱いについて」(2015年3月4日)です。この通知文そのものが、教育実践に対する歴史認識や性教育を巡るバックラッシュの中で、それを後押しするために出された不当なものであると考えますが、問題になっているのはその通知文の以下の箇所です。
2.補助教材の内容及び取扱いに関する留意事項について
(1)学校における補助教材の使用の検討に当たっては,その内容及び取扱いに関し,特に以下の点に十分留意すること。
・ 教育基本法,学校教育法,学習指導要領等の趣旨に従っていること。
・ その使用される学年の児童生徒の心身の発達の段階に即していること。
・ 多様な見方や考え方のできる事柄,未確定な事柄を取り上げる場合には,特定の事柄を強調し過ぎたり,一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど,特定の見方や考え方に偏った取扱いとならないこと。
大阪府教育庁は、上記の観点から調査を行ったということです。つまり「慰安婦」の授業がおこなわれたかどうかについては問題にしていないということでした。
「慰安婦」の授業を行うことそのものは、
「心身の発達の段階に即している」「特定の見方や考え方に偏った取扱いとならない」ということはあらためて確認しました。
そして平井さんの授業実践についても、「強制連行を示す証拠はなかったということ(安倍閣議決定)も教えており、
不適切な指導はなされていない」と吹田市教委から報告を受けていると確認しました。
それならば、不適切な指導をしたという理由での処分はありえないということかと追及しましたが、これは所管が違うという理由で府教育庁(小中学校課主席指導主事)は回答を避けました。
しかし昨年10月に、このような
調査をしたこと自体が、教育実践を萎縮させるものです。
学校現場に「問題ありませんでした、
しっかりと自分たちの判断で教育実践してください、そういう自由があります」としっかり説明するよう求めました。
また府議は平井さんが「慰安婦」授業をやったことによって学校を混乱させたかのように主張していますが、これについても府教育庁として「平井さんに責任があるのではなく、
学校への抗議そのものがヘイトスピーチであり、吉村大阪市長や府議がそれを煽っている」と反論するように迫りました。
人権教育を推進する教育行政が、人権侵害に毅然とした態度が取れないのは問題と言わざるを得ません。しかしこれについても、残念ながら明確な返答はありませんでした。
しかし12月議会で議員から「日本軍『慰安婦』の授業をやっているかどうかの再調査をするように」との強い要請があった件については、府教育庁は
「これ以上の調査はしない」と明言しました。
3、教員が教材を選択することは必要なこと
すべてを学校長に報告しろということではない 質問3 ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」では、教員の自主性を尊重するために「教員の権利及び責務」61項、63項が規定されています。
上記質問1.質問2に係る大阪府議会での大阪府教育庁の応対は、この項の規定に反していると考えますが、
「教員の地位に関する勧告」61項、63項を今後は遵守されるかどうか、大阪府教育庁としての見解を明らかにしてください。
この質問は、先述の通知文「学校における補助教材の適正な取扱いについて」が、「校長の責任の下,教育的見地からみて有益適切な補助教材を有効に活用すること」「教育委員会は,(中略)必要に応じて補助教材の内容を確認するなど,各学校において補助教材が不適切に使用されないよう管理を行うこと」としており、この点を問いただしたものです。補助教材について
教員の自主性を認めず、「慰安婦」の補助教材は認めないなどという不当な攻撃は、許されません。
これについて大阪府教育庁の事前の
回答は「当然遵守している」という回答でした。
私たちは具体的に内容を詰め、以下の回答を引き出しています。
「児童生徒のことを一番よく知っている教員が、子どもたちのためにこの教材がいいなあと活用することは、
昔も今も変わらず必要なこと。
すべてを学校長や教育委員会に報告するということでもない」
補助教材の件も含め、「教員の地位に関する勧告」にあるとおり、「教員は、生徒に最も適した教具及び教授法を判断する資格を特に有しているので、教材の選択及び使用、教科書の選択並びに教育方法の適用にあたって、(中略)主要な役割が与えられるものとする」ことを確認しました。
また「教員の自由、創意及び責任を減殺しないようなものとする」という観点からも、加害の事実や戦争責任を教える教員をしっかり守るように、教育委員会として働いていただきたいと要請し、「努力したい」という回答を得ました。
どこまで努力するのか、きちんと見届けたいと思います。
4、教育の中立と独立を守ることが府教委の責任のはず 質問4 戦争における
加害の歴史的事実を隠す教育こそ一面的指導というべきです。舛田小中学校課長が「不適切」と答弁したことは、戦前戦中、国家が教育を支配し、子どもたちを戦争にかりたてたことへの反省から、教育の中立と独立を守るために制定をみた
教育基本法第16条に反していると考えますが、大阪府教育庁としての見解を明らかにしてください。
歴史教育において、加害の事実も被害の事実も両方教えるのが重要であって、加害の事実を隠すことが「一面的な指導」ともいえるものです。しかし今回府議会で維新、自民、公明の府議が行った主張は、「日本軍『慰安婦』問題を授業で取り上げることそのものが許されない」というものでした。子どもの書いた感想文をとりあげ、「洗脳教育だ」と主張し圧力をかける……そのこと自体、教育基本法16条に規定された「不当な支配」であり、到底許されざることではありません。
しかし議会での
府教育庁の対応はあまりにも弱腰といえるものです。
そこで今回の府議の圧力が教育基本法にあってはならないと定められた「不当な支配」であり、教育行政がこれに簡単に屈してしまうのは問題だと追及しました。これについて大阪府教育庁は
「府議の主張が不当な支配にあたるかどうかはコメントできない」と回答を避けました。
*
今回の交渉の中で、ほぼ問題点は明らかになったと考えます。
私はこれまで、歴史教育とは歴史を教えることだと思っていました。日本軍「慰安婦」問題の歴史とは、戦場に設置された慰安所に女性たちが入れられ、日本軍兵士の相手をさせられていた……単純な事実です。
女性たちの中には騙されて連れてこられた人もいれば、拉致監禁された人もいた。共通するのは、「ヤメテ」と主張してもそれは一切聞き入れられなかったということです。
強制連行があったかなかったかとか、本当に20万人だったかとか、中学生に教えるという観点からすれば
「どうでもいい」ことです。
しかしそんな事実を語るだけと「一面的な指導」だというのです。「強制連行を示す証拠はなかった」という第1次安倍政権の閣議決定を教えないと不適切だと、府教育庁は言うのです(明言こそはしませんが)。
「強制連行を示す証拠はなかった」ということそのものが、ウソであり事実に反しています。
事実に反する政府の閣議決定を「教えなければならない」のだとしたら、それこそが一面的であり不適切な指導と言えるのではないでしょうか? 今回私たちはこの壁を打ち破ることはできませんでした。そしてそこの壁を打ち破ることはそう容易ではないと考えます。なぜならば、それは歴史認識の問題ではなく、歴史認識の姿をまとった政治的圧力との闘いだからです。
私たちが闘っている相手は大阪府教育庁の歴史認識ではなく、
ネトウヨともいえる府議が圧倒的多数を占める大阪の政治状況そのものです。
これをどうやったら突き崩せるでしょうか?
歴史の事実をもっともっと突きつけること。
歴史の事実を事実として認めていく日本社会に変えること。
今回明らかになった課題をよく検討し、日本軍「慰安婦」問題を抹殺させないために、次のステージに進みたいと思います。
『加害者の孫を生きる 〜日本軍「慰安婦」問題のこと、その他のこと』(2019/01/28)
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