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一般原則
この指導原則は、以下を認めることのうえに成り立っている。
(a) 人権及び基本的自由を尊重、保護及び実現するという国家の既存の義務
(b) 特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべきすべての法令を遵守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割
(c) 権利及び義務が侵されるときに、それ相応の適切で実効的な救済をする必要性
この指導原則は、すべての国家とすべての企業に適用される。すべての企業とは、その規模、業種、拠点、所有形態及び組織構成に関わらず、多国籍企業、及びその他の企業を含む。
この指導原則は、全体を一つの首尾一貫したものとして理解されるべきであり、また影響を受ける個人や地域社会に具体的な結果をもたらすため、またそれにより社会的に持続可能なグローバル化に貢献するためにビジネスと人権に関する基準と慣行を強化するという目標に沿って、個別に、またまとめて、読まれるべきである。
この指導原則におけるいかなるものも、新たな国際法上の義務を創設するものとして、また、国家がすでに受け入れ、また人権に関する国際法の下で受諾するいかなる法的義務を制限するか若しくは損なうものと解釈されるべきではない。
この指導原則は、社会的に弱い立場に置かれ、排除されるリスクが高い集団や民族に属する個人の権利とニーズ、その人たちが直面する課題に特に注意を払い、かつ、女性及び男性が直面するかもしれない異なるリスクに十分配慮して、差別的でない方法で、実施されるべきである。
 
原則1
国家は、その領域及び/または管轄内で生じた、企業を含む第三者による人権侵害から保護しなければならない。そのために、実効的な政策、立法、規制及び裁定を通じてそのような侵害を防止し、捜査し、処罰し、そして補償するために適切な措置をとる必要がある。
解説
国家は、国際人権法上の義務により、その領域、及び/または、管轄内にある個人の権利を尊重、保護及び実現する必要がある。これは、企業を含む第三者による人権侵害から保護する義務を含む。

人権保護は国家が担う義務である。これは、国家に求められる行為基準であることから、国家は、私人による人権侵害それ自体に対し責任を負うわけではない。しかし、このような侵害が国家に起因している場合、あるいは私人による侵害を防止、捜査、処罰及び補償するための適切な措置を怠った場合には、国家は国際人権法上の義務に違反することになりかねない。国家は、一般的に、これらの措置について決定する裁量を持つが、政策、立法、規制及び裁定を含む、許容される範囲であらゆる防止と救済の措置を考慮すべきである国家はまた、法の前の平等を確保する措置をとり、その適用における公平性、そして責任のしかるべき明確性、法の安定性ならびに手続的及び法的透明性を規定することにより、法の支配を保護し促進する義務がある。

本章では防止的措置を取り上げ、第章で救済措置を概説する。
原則2
国家は、その領域及び/または管轄内に住所を定めるすべての企業がその活動を通じて人権を尊重するという期待を、明確に表明すべきである。
解説
現在、国家は、国際人権法の下では、その領域及び/または管轄内にある企業の域外活動を規制することを一般的には求められていない。また、認知された管轄的根拠がある場合、そうすることを一般的に禁止されてもいない。これに沿って、人権条約機関のいくつかは、国家が管轄内にある企業による国外での侵害を防止する手段を講ずることを勧告している。

特に国家自体が企業に関わり、またはこれを支えている場合に、国家が企業に対して、国外で人権を尊重するという期待を明確に表明することには強い政策的理由がある。その理由は、一貫して矛盾のないメッセージを伝えることにより、企業に予測可能性を保証し、国家自体の評判を守るということである

国家は、これに関してさまざまなアプローチを取ってきた。そのなかには、域外的な波及効果のある国内措置がある。例えば、「親」会社に対し、企業グループ全体でグローバルに展開する事業活動についての報告を要求すること、経済協力開発機構(9)多国籍企業行動指針のような多国間合意のソフト・ロー文書、そして国外投資を支援する機関が求めるパフォーマンス基準である。その他のアプローチとして、直接的な域外適用立法及びその執行がある。これは、犯罪行為地を問わず、犯罪行為者の国籍に基づく訴追が可能な刑事法制度を含む。例えば、そのような国家の行為が多国間合意に基づくものであるかどうかなど、様々な要素が国家の行為の主観的及び客観的妥当性を高めるのに役立つこともあろう。
(9) 訳者註)Organization for Economic Cooperation and Development (OECD)
原則3
保護する義務を果たすために、国家は次のことを行うべきである。
(a) 人権尊重し、定期的に法律の適切性を評価し、ギャップがあればそれに対処することを企業に求めることを目指すか、またはそのような効果を持つ法律を執行する。
(b) 会社法など、企業の設立及び事業活動を規律するその他の法律及び政策が、企業に対し人権の尊重を強制するのではなく、できるようにする。
(c) その事業を通じて人権をどのように尊重するかについて企業に対し実効的な指導を提供する。
(d) 企業の人権への影響について、企業がどのように取組んでいるかについての情報提供を奨励し、また場合によっては、要求する。
解説
国家は、企業が常に国家の不作為を好み、または国家の不作為から利益を得ると推定すべきではなく、企業の人権尊重を助長するため、国内的及び国際的措置、強制的及び自発的な措置といった措置を上手に組み合わせることを考えるべきである。

企業の人権尊重を直接的または間接的に規制する現行法が執行されないことは国家慣行上の著しい法的ギャップである。それは、差別禁止法や労働法から、環境、財産、プライバシー及び腐敗防止に関する法にまで及ぶ。したがって、国家は、そのような法律が、現在、実効的に執行されているか、もし執行されていないのであればなぜそのような事態に至ったのか、どのような措置をとれば状況がそれなりに改善するのかについて考察することが重要である。

同様に重要なことは、これらの法令は常に進化しつつある状況に照らして必要な対処ができるか、関連した政策とともにこれらの法令は、企業の人権尊重に資する環境を作りだしているかについて、 国家が再検討することである。例えば、土地の所有や使用に関連する権原を含む、土地へのアクセスを規律するような、法令や政策の分野において明確性をより高めることが、権利保持者と企業の双方を保護するために、必要となることも多い。

会社法や証券法など、企業の設立と継続的な事業活動を規律する法令や政策は、企業の行動に直接的に枠付けをする。しかし、それが人権に対してどのような影響を持つかということについては、ほとんど理解されていないままである。例えば、会社法や証券法において、会社及びその管理職が人権に関して何を求められているのかということは言うまでもなく、何を許されているかに関しても、明確な規定はない。この分野の法令や政策は、取締役会など既存の統治組織の役割に配慮しながら、企業が人権を尊重できるように十分な指導を提供すべきである。

人権尊重に関する企業への指導は、結果として何が期待されているのかを示し、最良の慣行の共有を促進すべきである。そこでは、人権デューディリジェンスを含む適切な手法や、先住民族、女性、民族的または種族的少数者、宗教的及び言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族が直面する具体的な課題を理解したうえで、ジェンダー、社会的弱者、及び/または排斥問題をいかに実効的に考慮するかについて助言すべきである。

パリ原則に基づいた国内人権機関は、関係法令が人権義務に合致し、実効的に執行されているかどうかについて国家が確認するのを助け、人権に関する指導を企業や他の非国家アクターにも提供するという、重要な役割を有している。

人権への影響にどのように取り組んでいるかについての企業からの情報提供は、影響を受けるステークホルダーとの非公式なエンゲージメントから公式な報告書による公表まで幅広い。国家がそのような情報提供を奨励し、また場合によっては、要求することは、企業による人権尊重を促進するために重要である。適切な情報を伝えることを促すための方策のひとつに、司法または行政手続の過程でなされる自発的な報告に重きを置く規定がある。情報提供を求めることは、事業活動の性質または活動状況が人権に対し重大なリスクをもたらす場合には特にふさわしいであろう。この分野における政策や法律は、情報へのアクセス可能性及びその内容の正確性双方を確保することに役立つとともに、企業が何をどのように伝えるべきかを役に立つように明らかにすることができる。
 
原則4
国家は、国家が所有または支配している企業、あるいは輸出信用機関及び公的投資保険または保証機関など、実質的な支援やサービスを国家機関から受けている企業による人権侵害に対して、必要な場合には人権デュー・ディリジェンスを求めることを含め、保護のための追加的処置をとるべきである。
解説
国家は個々には、国際人権法の下では主要な義務負担者であり、集合的には、国際人権体制(10)の受託者である。企業が国家によって支配される場合や、さもなければその行為が国家によると考えられる場合、企業による人権の侵害は、国家自体の国際法上の義務違反となりうる。さらに、企業が国家に近ければ近いほど、あるいは企業の活動が法的根拠や租税による財源に依存すればするほど、企業が人権を尊重することを確保するためにとられる国家の政策の理論的根拠は強くなる。

国家が企業を所有するか支配している場合には、国家はその権限の範囲内で、人権尊重に関連する政策、法律及び規制が施行されることを確保するためにきわめて強力な手段を持つ。上級管理職が国家機関に一般的に報告を行い、政府関連部局は、人権デュー・ディリジェンスが実効的に実施されることを確保するなど、監視や監督のためのより大きな機会を持つことになる。(これら企業は第II章で扱われる人権を尊重する企業の責任の対象でもある。)

公式にまたは非公式に国家につながるさまざまな機関が、企業活動に支援とサービスを提供することがある。これらは、輸出信用機関、公的投資保険・保証機関、開発機関、及び開発金融機関などを含む。これら機関が受益企業の実際のもしくは潜在的な人権への負の影響をはっきりと考慮していない場合、機関は、そのような侵害を支援したということで、評判の面で、金銭的、政治的、及び潜在的には法的な意味で、自身をリスクにさらし、受入国が抱える人権問題をさらにこじらせる可能性がある。

これらのリスクを前提に、国家は、機関それ自体や国家の支援を受ける企業及び企画事業に、人権デュー・ディリジェンスを奨励し、そして必要な場合、求めていくべきである。人権デュー・ディリジェンスを求めることは、事業活動の性質や活動状況が人権に重大なリスクをもたらす場合に最もふさわしくなる。
 
(10) 訳者註)国際連合やILOなど世界の国々が加盟する国際機関では、人権関連の課題を取り上げ、人権保護促進のために、条約、人権課題を取り上げ国際的な合意を形成し実施するための機関や制度を作り上げてきた。これを総称的に国際人権体制(international human rights regime)という。
原則5
国家は、人権の享受に影響を及ぼす可能性のあるサービスを提供する企業と契約を結ぶか、あるいはそのための法を制定している場合、国際人権法上の義務を果たすために、しかるべき監督をすべきである。
解説
国家は、人権の享受に影響するサービスを民営化する場合、その国際人権法上の義務を放棄するわけではない。そのようなサービス業務を行う企業が国家の人権義務に合致した方法で活動することを国家が確保できない場合、国家自体の評判にもまた法的にも望ましくない結果をもたらすことになる。必要な措置として、サービス契約またはサービス提供を定める法令において、これらの企業が人権を尊重するとの国家の期待を明確にすべきである。国家は、しかるべき独立した監視及び説明責任制度を設けることを含む、実効的に企業活動を監督できることを確保すべきである。
原則6
国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである。
解説
国家は、少なからずその調達活動などを通じて、企業とさまざまな商取引を行っている。それは、国家にとって、個別でも国の集まりとしても、国内法・国際法上の国家の関連した義務を考慮に入れながら、契約条件などを通して企業の人権についての意識向上や人権に対する尊重を推進する絶好の機会となっている。
原則7
重大な人権侵害のリスクは紛争に影響を受けた地域において高まるため、国家は、その状況下で活動する企業がそのような侵害に関与しないことを確保するために、次のようなことを含めて、支援すべきである。
(a) 企業がその活動及び取引関係によって関わる人権関連リスクを特定し、防止し、そして軽減するよう、できるだけ早い段階で企業に関わっていくこと。
(b) ジェンダーに基づく暴力や性的暴力の双方に特別な注意を払いながら、侵害リスクの高まりを評価しこれに対処するよう、適切な支援を企業に提供すること。
(c) 重大な人権侵害に関与しまたその状況に対処するための協力を拒否する企業に対して、公的な支援やサービスへのアクセスを拒否すること。
(d) 重大な人権侵害に企業が関与するリスクに対処するために、国の現行の政策、法令、規則及び執行措置が有効であることを確保すること。
解説
企業が関与する最も深刻な人権侵害には、領域や資源の支配、または政府そのものの支配をめぐる紛争において、人権体制がしかるべく機能することを期待できない場合に起きるものがある。責任ある企業は、このような難しい状況において人権侵害を助長するのを避ける方法について、ますます政府の指導を求めるようになってきている。革新的で実践的なアプローチが必要である。なかでも、紛争時に特に頻発する性的及びジェンダーに基づく暴力のリスクに注意を払うことが重要である。

現場の状況が悪化する前に、早急に問題に取組むことが全ての国家にとって重要である。紛争影響地域では、実効的な支配が欠如しているため「受入」国が適切に人権を保護できないこともありうる。したがって、多国籍企業が関与している場合、その「本」国には、当該企業及び受入国がともに、企業が人権侵害に関与しないことを確保するために支援を行う役割があり、同時に近隣諸国は重要な追加的支援を供与することもできる。

本国は、政策の強い一貫性を確保し、そのような状況でもそれ相当に企業を支援するために、以下のことをすべきである。すなわち、本国の首都及び出先大使館にある、開発援助機関、外務省や貿易省、及び輸出金融機関の間の、またこれら諸機関と受入国政府機関の間のより緊密な協力関係を醸成すること。政府機関及び企業に対して問題への注意喚起をするために早期警戒指標を開発すること。このような状況において企業が協力しなかった場合に、既存の公的支援及びサービスを拒否または撤回し、またそれが不可能な場合は将来の提供を拒否することなど、しかるべき対応をすること。

国家は、紛争影響地域では重大な人権侵害に関与するリスクが高いことを企業に警告すべきである。国家は、企業による人権デュー・ディリジェンスの実施のための規定を通じてを含む、その政策、法令、規制及び執行措置がこの高いリスクに有効に対処できるものであるかどうかを再検討すべきである。ギャップが明らかな場合には、国家はそれらに対処するために適切な手段をとるべきである。これには、その領域及び/または管轄内に住所を持つかもしくはそこで事業活動をする企業で、重大な人権侵害に関与しまたは助長したものの民事、行政及び刑事責任を検討することが含まれることもある。さらに、国家は、そのような行為を防止し、それに対処し並びに実効的な協同行動を支援するための多数国による共同アプローチを考慮する。

これらの措置はすべて、武力紛争の状況における国際人道法及び国際刑事法の下の国家の義務への追加である。
原則16
人権を尊重する責任を定着させるための基礎として、企業は、以下の要件を備える方針の声明を通して、その責任を果たすというコミットメントを明らかにすべきである。
(a) 企業の最上級レベルで承認されている。
(b) 社内及び/または社外から関連する専門的助言を得ている。
(c) 社員、取引先、及び企業の事業、製品またはサービスに直接関わる他の関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記している。
(d) 一般に公開されており、全ての社員、取引先、他の関係者にむけて社内外にわたり知らされている。
(e) 企業全体にこれを定着させるために必要な事業方針及び手続のなかに反映されている。
解説
「声明」という用語は、企業がその責任、コミットメント及び期待を公に表明するために用いる何らかの手段を表現するための総称として使われる。

方針声明が情報を適切に取り入れたものとなるために必要と考えられる専門的助言のレベルは、企業の事業の複雑性の度合いによって異なるであろう。専門的助言は、信頼できるオンラインまたは文書資料から広く認知された専門家との協議まで、様々な情報源から取り出すことができる。

コミットメント声明は公開されるべきである。それは、企業が契約関係にある組織、国家治安部隊を含む事業に直接関係するその他の組織、投資家、重大な人権リスクを伴う事業の場合は影響を受ける可能性のあるステークホルダー、に積極的に伝えられるべきである。

声明及び関連する方針の内部通知や手続は、責任に関する管理系統や制度がどのようなものとなるかや、関連する業務に従事する従業員に必要とされる研修などによっても支援すべきであることを明確にすべきである。

国家が政策の一貫性に向けて努力すべきであるように、企業は、人権を尊重する責任とその広範な企業活動や取引関係を管理する方針及び手続に一貫性を持たせるよう努力する必要がある。これには、例えば、従業員のための金銭的及びその他の業績インセンティブ、調達、及び人権が問題となるような議会ロビー活動などのあり方を決める方針及び手続を含むべきである。

これらのまたその他の適切な手段を通じて、方針声明が企業トップから全ての部門にいたるまで定着するようにすべきである。さもなければ、各部門が人権に対する意識や考慮なしに行動することになりかねない。
原則17
人権への負の影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかということに責任をもつために、企業は人権デュー・ディリジェンスを実行すべきである。そのプロセスは、実際のまたは潜在的な人権への影響を考量評価すること、その結論を取り入れ実行すること、それに対する反応を追跡検証すること、及びどのようにこの影響に対処するかについて知らせることを含むべきである。人権デュー・ディリジェンスは、
(a) 企業がその企業活動を通じて引き起こしあるいは助長し、またはその取引関係によって企業の事業、商品またはサービスに直接関係する人権への負の影響を対象とすべきである。
(b) 企業の規模、人権の負の影響についてのリスク、及び事業の性質並びに状況によってその複雑さも異なる。
(c) 企業の事業や事業の状況の進展に伴い、人権リスクが時とともに変りうることを認識したうえで、継続的に行われるべきである。
解説
この原則は、人権デュー・ディリジェンスの大枠を定義し、一方で原則18から21ではその不可欠な構成要素を詳細に述べる。

人権リスクは、企業の人権に対する潜在的な負の影響であると理解される。潜在的な影響は防止あるいは軽減することを通して対処されるべきであり、一方で、現実の影響−既に生じたもの−は是正の対象となるべきである(原則22)。

人権デュー・ディリジェンスが、単に企業自らに対する重大なリスクを特定し、対処するばかりではなく、権利保持者側に対するリスクをも含むのであれば、これをより幅広い企業のリスクマネジメント・システムのなかに入れることができる。

人権リスクは、契約やその他の合意が形作られる段階で増大または軽減されうるものであり、また合併や買収を通じて継承されるかもしれないことを考えると、新たな事業または取引関係を展開するにあたっては、人権デュー・ディリジェンスはできるだけ早く着手されるべきである。

企業のバリューチェーンに多数の企業体がある場合、企業がそれら全てにわたって人権への負の影響に対するデュー・ディリジェンスを行うことは不当に難しくなる。そうであるならば、企業は、関係する供給先または受給先企業の事業状況、特定の事業活動、関連製品やサービス、または他の関連する考慮事項によって、人権への負の影響のリスクが最も大きくなる分野を特定し、人権デュー・ディリジェンスのためにこれらを優先的に取り上げるべきである。

他者による人権への負の影響を企業が助長している、または助長しているとみられている場合、加担の問題が生じうる。加担には、法的でない意味及び法的な意味のふたつがある。法的でないものとして、例えば、他者が犯した侵害から利益を得ているとみられる場合など、企業はその当事者の行為に「加担して」いると受け取られる可能性がある。

法的なものとして、大半の国の法制は、犯罪への加担を禁止し、なかにはそのような場合には企業の刑事責任を認めるものもある。概して民事訴訟も、人権という観点から構成されていないかもしれないが、企業の加害関与があったという申し立てに基づくこともありうる。国際刑事法の判例は、幇助、教唆に関する基準が犯罪の実行に実質的な効果をもたらすような実際的援助または奨励を故意に提供することであるという点に重きを置いている。

人権デュー・ディリジェンスをしかるべく実行すること、申し立てをされるような人権侵害への関与を回避するためにしかるべき手段をすべて講じてきたことを示すことにより、企業は自社に対する訴訟リスクに対処する助けとなるはずである。しかしながら、そのようなデュー・ディリジェンスを実行する企業は、それをもって、人権侵害を引き起こし、あるいは助長することに対する責任から自動的にそして完全に免がれることになるだろうと考えるべきではない。
原則18
人権リスクを測るために、企業は、その活動を通じて、またはその取引関係の結果として関与することになるかもしれない、実際のまたは潜在的な人権への負の影響を特定し評価すべきである。このプロセスでは、以下のことをすべきである。
(a) 内部及び/または独立した外部からの人権に関する専門知識を活用する。
(b) 企業の規模及び事業の性質や状況にふさわしい形で潜在的に影響を受けるグループやその他の関連ステークホルダーとの有意義な協議を組み込む。
解説
人権デュー・ディリジェンスを実行する際の第一歩は、企業が関与する、実際のそして潜在的な人権への負の影響の性質を特定し、評価することである。その目的は、特定の事業の状況において特定の人々に対する特定の影響を理解することである。一般的に、これには、できれば事業計画の実施に先立って人権状況を評価することを含み、誰が影響を受けるかを特定し、関連する人権基準及び問題を整理し、そして事業計画の実施及び関連する取引関係が特定されたものに対してどのように人権の負の影響を与えうるのかを予測することである。このプロセスにおいて、企業は、社会的に弱い立場におかれまたは排除されるリスクが高くなりうる集団や民族に属する個人に対する人権の特別の影響に特に注意を向け、女性と男性では異なるリスクがありうるということにも留意すべきである。

人権への影響を評価するためのプロセスは、リスク評価や環境・社会影響評価などの他のプロセスのなかに組み込むことができる一方で、このプロセスは、国際的に認められた人権のすべてを共通の基準点として含むべきである。なぜなら、企業は、実質上どの権利に対しても影響をあたえる可能性を持っているからである。

人権の状況は常に変化するため、人権への影響評価は定期的に行われるべきである。新たな事業活動または取引関係に先だって、事業における重要な決定または変更(例えば、市場への参入、新製品の発売、方針変更、または事業の大幅な変更)に先だって、事業環境の変化(例えば、社会不安の高まり)に反応またはそれを予見して、そしてひとつの事業活動または取引関係が続くあいだ中、周期的にということである。

企業は、人権への影響を正確に評価できるようにするために、使用言語や有効なエンゲージメントに障害となる可能性のあるものを考慮に入れた形で、ステークホルダーと直接協議することによって潜在的に影響を受けるステークホルダーの懸念を理解するように努めるべきである。 そのような協議が可能ではない状況において、企業は、市民社会組織の人々や人権活動家などを含む、信頼できる独立した専門家との協議など、適切な代替策を考えるべきである。
原則19
人権への負の影響を防止し、また軽減するために、企業はその影響評価の結論を、関連する全社内部門及びプロセスに組み入れ、適切な措置をとるべきである。
(a) 効果的に組み入れるためには以下のことが求められる。
(i) そのような影響に対処する責任は、企業のしかるべきレベル及び部門に割り当てられている。
(ii) そのような影響に効果的に対処できる、内部の意思決定、予算配分、及び監査プロセス。
(b) 適切な措置は以下の要因によって様々である。
(i) 企業が負の影響を引き起こしあるいは助長するかどうか、もしくは影響が取引関係によってその事業、製品またはサービスと直接結びつくことのみを理由に関与してきたかどうか。
(ii) 負の影響に対処する際の企業の影響力の範囲。
解説
人権への影響評価の特定の結論を企業全体に横断的に組み入れることは、人権方針のコミットメントが関係する事業部門すべてに根付いている場合にのみ、効果的でありうる。このことは、評価の結果が正確に理解され、しかるべき重みを与えられ、これに基づいた措置が確実にとられるようにするためにも必要である。

人権への影響を評価するときには、企業は実際及び潜在的な負の影響の双方を探っていることであろう。潜在的な影響は、評価結果を企業横断的に組み入れることによって、防止または軽減されるべきである。他方、実際の影響(既に生じたもの)は是正の対象となるべきである(原則22)。

企業は、人権への負の影響を生じさせ、または生じさせうる場合、その影響を止め、または防止するために必要な手段をとるべきである。

企業が人権への負の影響を助長し、または助長しうる場合、その助長を止め、または防止するために、その企業は、必要な手段をとるべきであり、残存するどんな影響をも軽減するため、可能な限りその影響力を活用すべきである。影響力は、害を引き起こす企業体の不当な慣行を変えさせる力を企業が有する場合に、あると考えられる。

企業が人権に対する負の影響を助長してはこなかったが、その影響が別の企業体との取引関係によって企業の事業、製品またはサービスに直接関連している場合、状況はより複雑である。そのような状況において適切な措置を決定するにいたる要素のなかには、関係する企業体に対する企業の影響力、企業にとってその取引関係がどの程度に重要なものであるか、侵害の深刻度、及びその企業体との取引関係を終わらせることが人権への負の結果をもたらすかどうかなどがある。

状況とそれから予想される人権に対する影響が複雑になればなるほど、企業がその対応を決定する際に独立した専門家からの助言を求めることも強くなる。

企業が負の影響を防止または軽減する影響力をもつ場合には、それを行使すべきである。もし企業が影響力を欠くならば、それを強める方法があるかもしれない。例えば、企業力強化またはその他のインセンティブを関係企業体に提供したり、他のアクターと協力したりすることで、影響力が強くなりうる。

企業が負の影響を防止または軽減する影響力を欠き、影響力を強めることもできない状況がある。そこでは、企業は、取引関係を終了することによって人権への負の影響が出る可能性について信頼できる評価を考慮した上で、その取引関係を終了することを考えるべきである。

取引関係が、企業にとって「極めて重要」である場合、取引をやめることは更なる難題を提起する。その企業の事業にとって必要不可欠な製品またはサービスを提供し、適当な代替供給源が存在しないならば、取引関係は極めて重要であるとみなされるであろう。ここでも、人権への負の影響の深刻さが考慮されなければならない。人権侵害が深刻であればあるほど、企業は取引関係を終了すべきか否かを決定する前に、状況に変化が起こるかどうかをより素早く見る必要があるだろう。いずれにしても、侵害が長期にわたり継続し企業が取引関係を維持している限りにおいて、その企業は、影響を軽減するための継続的な努力をしていることを証明できるようにしているべきであり、取引関係を継続することが招来する結果−評判、財政上または法律上の結果−を受け入れる覚悟をすべきである。
原則20
人権への負の影響が対処されているかどうかを検証するため、企業はその対応の実効性を追跡評価すべきである。追跡評価は、
(a) 適切な質的及び量的指標に基づくべきである。
(b) 影響を受けたステークホルダーを含む、社内及び社外からのフィードバックを活用すべきである。
解説
追跡評価は、企業の人権方針が最適に実施されているかどうか、及び確認された人権への影響に効果的に対応してきたかどうかを企業が知り、継続的な改善を進めるために必要である。

企業は、社会的に弱い立場におかれまたは排除されるリスクが高くなりうる集団や民族に属する個人に対する影響への対応の有効性を追跡評価するため、特に努力すべきである。

追跡評価は、関連する内部報告プロセスに組み込まれるべきである。企業は、他の問題で既に用いているツールを活用してもよい。これらのツールには、関連する場合には性別に分けられたデータを用いながら、パフォーマンス契約(14)やレビュー並びに実態調査や監査を含めることができるだろう。事業レベルの苦情処理メカニズムは、直接影響を受けた人々から企業の人権デュー・ディリジェンスの実効性に関する重要なフィードバックも提供できる(原則29参照)。
 
(14) 訳者註)主に国家機関や地方自治体などが、他機関あるいは民間団体や企業に事業委託をするときに結ぶ契約。事業の目標、目標達成期限、効率性判断基準などを細かく定める。
原則21
人権への影響についての対処方法について責任をとるため、企業は外部にこのことを通知できるように用意をしておくべきである。影響を受けるステークホルダーまたはその代理人から懸念が表明される場合には、特にそうである。企業は、その事業や事業環境が人権に深刻な影響を及ぼすリスクがある場合、どのようにそれに取り組んでいるかを公式に報告すべきである。あらゆる場合において、情報提供は、
(a) 企業の人権への影響を反映するような、また想定された対象者がアクセスできるような形式と頻度であるべきである。
(b) 関与した特定の人権への影響事例への企業の対応が適切であったかどうかを評価するのに十分な情報を提供すべきである。
(c) それと同時に、影響を受けたステークホルダー、従業員、そして商取引上の秘密を守るための正当な要求にリスクをもたらすべきではない。
解説
人権を尊重する責任は、それを通して企業自身が人権尊重を実践していることを認識するとともに、公に示すことができるような、実際に機能する方針やプロセスを企業が持つことを求める。示すということには情報提供が関係しており、影響をうける個人や集団、及び投資家など他のステークホルダーへの透明性や説明責任を果たす手段となっている。

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