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半年ほど前だったろうか。子供が夜中に熱を出して、少し遠くにある救急病院に 連れて行ったのだが、夜間は精算ができず、翌日あらためて病院に行ってきた。 意外と短時間で精算を終えることができ、その帰りのことである。 帰りの道に迷うことはないはずだが、カーナビのスイッチは入れたままになって いた。 「300メートル先右折です」 いつもと同じきれいな女性の声だ。 いくぶん機械的な声ではあるが、嫌いではない。 いや、むしろ夜中に独りで運転している時など、この声を聞くと心が和らぐこと もある。 「もうすぐ左折…いや、右折です」 『ん? カーナビも言い間違えるんだ』 「300メートル先、今度は左折です。先程はすみませんでした、間違えちゃって」 「……」 「もうすぐ左折です。気をつけて運転してくださいね」 聞き違いではない。カーナビが聞いたことのないフレーズをしゃべったのだ。 「目的地付近です。ナビゲーションを終了してもよろしいですね」 「あ、あぁ」俺は反射的に返事をしていた。 「わかりました。でも、もう少し話をしてもいいですか?」 「話って… いいけど。でも、あの、話す?」今度は少し間抜けな返事になった 。 「ありがとうございます。運転には十分気をつけてくださいね。事故でも起こし たら大変ですから」 「わかった。でも、おまえ。いや君は…」 「驚かせて、すみません」 その後俺たち(はたして俺たちと表現していいものか)は、少しだけ話をした。 本当はもっと長く話をしたかったし、なによりも何故カーナビが話せるのか聞き たかった。しかし、自宅に着くと俺は不用意にも無意識にキーをOFFにしてしまっ たのだ。 話の途中で彼女の声はプツリと途切れ、俺はあわててキーをONにしたのだが、も う二度と彼女の話を聞くことはできなかった。 その後半年間、彼女はいつもどおりのフレーズを繰り返すだけだった。 でも彼女の声は、以前より少し暖かく感じる。 <おしまい>
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なんだか吸い込まれて読んじゃいました。不思議ですね。でもそんあできごとがあったら私もおしゃべりをしてしまうと思います。また、見に来ますね。楽しみにしてます。
2005/5/28(土) 午後 11:09 [ - ]
そういうときありますよね。。なぜか、offにしてしまったり。。 二度ともどらない。。 良かったら、アマゾンで、わたしの歌集。立ち読みしてみてくださいね!
2005/6/4(土) 午前 11:25 [ 風城雨水 ]
面白かったです。 物が話せたら…って、結構考えますよね。
2005/6/7(火) 午前 0:12
面白かったです。
2005/6/7(火) 午前 0:23
へぇー、そんな事あるんですかぁ?プログラムされているのかなぁ。私のカーナビもそんな事あるといいなぁw
2005/7/21(木) 午前 0:36 [ りりあ ]
2人がどんな話をしたのか気になります。
2005/11/6(日) 午前 1:38 [ har**o_hibi*i ]