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今日のショートストーリーは洗濯物のお話です(?)
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ひとり息子の耕太を保育園の送迎バスに乗せると、宏子も仕事に出かけてしまった。その後、僕は何もすることが無い。テレビを見ながら時間をつぶしていると電話が鳴った。しかし宏子からは日頃、電話には絶対出ないでくれと言われていた。今の僕に宏子がそう言うのも、もっともな話だった。しばらくすると電話は伝言メッセージに切り替わる。
「ピー の後にメッセージをどうぞ」
「こうすけ。聞こえてる?」
電話は宏子からだった。僕は安心して電話に出た。
「こうすけ。雨降ってない?」
「降ってないけど?」
「でも、きっと降るわ。こっちは大雨よ」
「そうなんだぁ」
「今日、洗濯物を干したまま出て来ちゃったの。悪いけど取り込んでおいてくれる?」
「わかった。いいよ」
「ありがとう。あっ、でも人に見られないでね」
「わかってるよ」
「じゃあ、お願い。今日は耕太のお迎え、ちゃんと間に合うから」
僕は電話を切ると、すぐに洗濯物を取り込む。もちろん、人に見られないように細心の注意を払った。洗濯物が勝手にフワフワ宙を飛んでるところを見られたら大騒ぎだ。なにせ僕は幽霊だから。宏子以外の人間には見えないのだから。
洗濯物の中には見慣れた宏子のエプロンがあった。耕太の小さなシャツもあった。
幽霊の僕と宏子との生活が始まってから、かれこれ1年になる。あの日、僕の戸籍は抹消されてしまったが、死んでからもなお、宏子と僕は夫婦であり、愛し合っていた・・・・・・ なんて話は映画の中だけだ。実際のところ、二人の関係はなんとも微妙なものだった。永遠の別離を乗り越えて再び向かい合った二人には、確かに以前より深い絆が生まれていた。また、この奇跡としか言いようの無い状況に、最初はお互いが酔いしれていたように思う。しかし、どんなに深い絆で二人が結ばれていようとも、僕は宏子の手に触れることすらできないのだ。テレビのリモコンも洗濯物も、僕は生きてる時と同じように触れることができるのに、なぜか命ある物に対してだけは触れることができなかった。これも、僕がこの世に留まることの代償なのだろうか。
また、仕事に付くことができない僕にとって、経済的に宏子を助けることが出来ないことも、ひどくもどかしかった。僕に食事は無用だが、昼間の電気代だとかで宏子には負担をかけている。せめて生命保険にでも入っておくべきだったと、何度後悔したことか。もちろん宏子は、僕に愚痴など一切言わない。
その日、僕がまたテレビを見ていると再び電話が鳴った。僕は宏子の言い付けを守り、電話は伝言メッセージに切り替わった。
「もしもし、宏子? あたしだよ。家には電話しないでなんて言ってたけど、携帯に電話してもオマエ全然出ないじゃないか。もーっ。ところで、例の縁談話はどうするんだい? 貯金も底を突いたんだろ? 先方さんは事情を知ったうえで、宏子を気に入ってくれたんだ。オマエも、自分にはもったいない話だって言ってたろ。いい返事を待ってるからね。じゃあね」
電話は宏子のお母さんだった。僕は宏子から縁談話なんて聞いていない。
僕はテレビを消した。
そして宏子への手紙を書き始めた。
宏子へ。
天国への道でさえ迷ったほどのドジな僕は、また大変な
ドジをしてしまったよ。集合時間に遅れて追い返された
天国の門で、実は大切なことを言われていたんだ。
僕はその時「来年の9月6日に出直して来い」と言われた。
そして、気が付けば今日がその日だったんだ。こんな大切
なこと忘れていたなんて大笑いだな。
本当にゴメン、宏子。
死んでからも迷惑ばかりかけた。
でも、今日で本当にさようならだ。
追伸
宏子の言った通り、さっき雨が降ってきたよ。
でも大丈夫。洗濯物は取り込んだから。
宏子みたいに上手くないけど、畳んでおいた。
雨に濡れず本当に良かった・・・・・・。
さようなら、宏子。
ドジな幽霊より
<おしまい>
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洗濯物に何かが表現できていれば良いのですが・・・
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