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以前はよくショートストーリーを書いていたのですが、最近は完全に休眠状態です。

そこで、自分が超短編小説を書き始めた原点とも言えるテーマを扱った作品を再投稿します。
以前の作品にいろいろ手を加えた・・・という意味で、お許しを!

よかったら読んでみてください。



タイトル 『こ・こ・ろ』

 静かに横になり、目を閉じる。深呼吸を繰り返し、頭の中を空っぽに。

 しばらくすると、暗闇の先に微かな光が見えてくる。微かな光に全神経を集中。

 次の瞬間、一面霧に包まれた見慣れない景色の中、ポツンと開いたひとつの穴と、穴の淵に立つ自分自身に気付く。穴からは僅かに光が漏れている。穴はとても深い。勇気を出してその穴に飛び込む。

 その間、もはや時間の感覚は無い。1秒か1分か。気が付くと、穴の底にフワリと着地している。

 そこは果てしなく広い空間、『心の底』だ。自分自身の心の一番深い場所。

 まるで古い映画フイルムを襖に投影したように、少しぼやけた映像があちこちに浮かんでいる。それらは心に刻まれた『想い』なのだ。古い記憶や将来の夢など様々である。


 その中に、僕にとって特別な映像があった。映し出されていたのは、7年前の記憶だ。妻のユリ子が入院して1年が過ぎようとしていた頃の光景。ユリ子が死ぬ数日前だ。当時、妻は既に自らの運命を知り、僕も本音で妻と向き合っていた。

「僕にユリ子抜きの人生は考えられない。ユリ子が全てだ。一緒に頑張ろう」
「ありがとう。でも私はもう、あなたの心の中だけでいいの。そこが、私にとってあなたとずっと一緒にいられる場所」


 突然映像が切り変わった。そこには元気そうな顔をしたユリ子が映っている。ユリ子が言ったように、ここではいつでも元気なユリ子に会うことができた。しかも、ここでならユリ子と会話することさえできる。

「ユリ子。話があるんだ」
「なに?」
「僕は約束を守れないかもしれない」
「どういう意味?」
「僕は最近、新しい自分の人生を歩みたいと考えてしまう」

 僕は今でもユリ子を愛していた。自分の一生をかけて愛することのできる存在だ。しかし最近はどうしても、ユリ子の思い出だけでは自分の寂しさを埋めることが出来なくなっていた。
 やはり、誰かに愛を注いでほしい。愛するよりも愛されたい。

 愛に飢えていた。


「当然よ」
「しかし、僕はユリ子とずっと一緒だと誓った」
「あんなの約束じゃないわ」
「でもあの時、僕は本気で誓ったんだ」
「そうね。あなたは本気で言ってくれた」
「すまない」
「私はもう想い出だけの存在よ。此処にだって、あなたはもう来ない方がいい。想い出は、想い出らしく大切にすればいいのよ」

 果たして本心だろうか。しかし、ユリ子はキッパリとそう言った。自分の病気のことを知りながら、それでもなお弱音ひとつ吐かなかった頃のユリ子を思い出す。


「…… ユリ子! 今の話は忘れてくれ。やっぱり僕は一生約束を守る」
「なに言ってるの!」
 ユリ子は怒ったような困ったような、複雑な表情を見せた。そして次の瞬間、ユリ子は突然姿を消した。まるで上映中に映画フイルムが突然切れてしまった様だった。


 何処を探してもユリ子は見つからなかった。ユリ子は僕の心の中からも、自らを消し去ってしまったというのか。

「これじゃあ、7年前と同じだ・・・・・・」



 7年前、ユリ子は先々の闘病生活と何より僕への負担を考え、自らの命を断ったのだった。



 愛には、いろいろな形がある。

 いろいろな表現がある。

 いろいろな想いがある。

 いろいろな決意がある。

 ユリ子は二度、究極の愛を僕に残して、僕の前から消えた。




【おしまい】
ずいぶん、ご無沙汰してしまいました・・・・
久しぶりにしては駄作ですが、例によってショートストーリーをどうぞ!

  **  **  **  **  **  **  **


「わたし、今日はコータのこと、ずっと待っています」

 僕は、今朝届いたその短く不可解なメールを眺めながら考えた。

<誰だろう?>

 今日は誰とも約束などしていない。アドレスにも見覚えはなく、クラスの友人でも、ゼミ仲間でも、バイト仲間でも無いはずだった。僕のメールアドレスには「kouta」という文字も入っている。きっと別のコータ宛ての間違いメールに違いない。

 夕方になって、僕はふと再びメールのことを思い出した。僕はもう一度、過去にアドレスを教えたことのある人を順に思い出してみる。あれこれ記憶を辿っている瞬間、再びメール着信を知らせるアラームが鳴った。

「今日は寒い。吐く息が白いもの。でも、わたしはここでコータを待ちます」

 まだ11月初旬だというのに、今日は12月並みに冷え込んだらしい。こんな日に、彼女は朝からずっと僕を待っているというのか。まさか屋外ではないだろうが、いったい何処で僕を待っているのだろう? 彼女のことを考えているうちに、僕は少し心配になってきた。実は僕の方が、誰かとの約束を忘れてしまっているのではないか。

「ゴメン。ケータイを机に置き忘れてて、夕方になって君のメールに気付いたんだ。今日の約束、待ち合わせ場所は何処だっけ? 本当にゴメン。 from コウタ」

 僕は思い切ってメールを返してみた。しかし、とても本当のことは書けない。もちろん、「君は誰?」などとも聞けなかった。次の返事で何か思い出すかもしれない。

 彼女からの返事は、すぐに返って来た。

「コータと約束はしてない」
「えっ? 約束もしてないのに僕を待っているのかい? 何処で僕を待っているというんだ」
「とても遠いところ。でも大丈夫。コータはここに来る」
「場所が分からないのに行けないよ! そうだ。何か場所のヒントは無いのかい? 手掛かりがあれば、君を探せるかもしれない」
「わたしを探すって、コータはわたしを知ってるの?」

 それはこっちが言いたい台詞だった。ますます訳が分からなくなってくる。

 携帯がまたメール着信を告げた。

「あと30分」
「30分って、どういう意味?」
「コータに会えるまでの時間。あと29分」
「そんなこと言われても、何処に行けばいいんだ? それに、そこは遠いんだろ? そもそも、君はいったい誰?」
「あと27分。わたしは、ずっと前からここでコータを待っている」
「どうして僕を待っているんだい?」
「待つしかないから。コータに会えるまであと25分」

 僕は彼女のメールを幾度も読み返しては、何とか状況を理解しようと努力した。冷たい外気で頭を冷やしてもみた。しかし、いくら考えたところで、得られる結論などあるはずがなかったのだ。

「駄目だ。意味が分からないよ」
「いいの。あと3分」

 僕はなんだか恐くなってきた。これが誰かの悪戯なら、かなり上出来だ。

「あと2分」

「あと1分」

 僕は、このカウントダウンの最後を決して迎えてはならない気がした。部屋の時計は9時59分を示している。

「30秒」

「10秒」

 まさにカウントダウンと言えるそのメールを読んだところで、僕の手から携帯がスルリと滑り落ちた。知らぬ間に、僕の掌は冷や汗で濡れていた。


   ◇   ◇   ◇


 窓からは朝日が射し込んでいる。
 誰もいない部屋の真ん中にポツンと携帯電話が残されていた。
 誰かに置き去りにされたような携帯電話。
 この携帯電話の持ち主は、朝からどこかに出掛けているのだろうか。
 よく見ると、携帯のメール着信ランプがオレンジ色に点滅している。

 この携帯電話の持ち主が、再びこの部屋に現れることはもう無いないように思われた。

   ◇   ◇   ◇

 何年かが過ぎた。
 洋子はその日、知らない相手から妙なメールを受け取った。

「僕はヨーコのことを、ずっと待っています・・・・・・ 浩太」


                                  <おしまい>
今日の物語は、ひとによっては怖い話かも!?


     ****   ****   ****


「それでは、お客さま。始めさせていただきます」
 白衣をまとった女性が大串幸雄に話しかけた。

「お願いします」
「まず肩の力を抜いて、深呼吸してください」
「ハー、フーッ」

「それでは、お預かりした写真をディスプレイに映します。彼女のことだけをイメージしてくださいね」
 ディスプレイには波月(はづき)ミサの写真が映し出された。

「あっ…… か、かわいい方ですね」
「えぇ、まぁ」
「失礼しました。では、検査を始めます。これから彼女のお話を、少し聞かせていただきます。これは検査を正確に行なうためには必要なことですので、御了承ください」
「彼女のお名前は?」
「坂田桃子です」
「坂田桃子さん・・・・・・ ですか。お名前は検査結果証明書に記載されますが、間違いございませんね」
「はい。大丈夫です」

 大串幸雄には付き合っている桃子という女性がいた。付き合って2年になる。今回は彼女の方から、検査の話を持ちかけられたのだった。大串幸雄は最初反対したが、あまりに反対するのもマズイ気がした。

 二人が別々の場所で検査を受けることには、桃子も賛成だった。


「坂田桃子さんと初めて出会われたのは?」
「ネットです」
「そうですか。そう言えば、桃子さんってネットアイドルの波月ミサに似てません?」
「えっ? だ、だれですか? それ」
「ごめんなさい。余計なこと言っちゃって」
「いえ」
「続けますね。坂田桃子さんの一番素敵なところは?」
「彼女は僕のことを裏切らない。絶対に嘘もつかない・・・・・・」

 その後、彼女に関する質問が30分も続いた。



 数年前のことだった。人が怒りを感じた際に脳から分泌される物質が発見された。その後、脳内物質発見ブームとも言える研究成果が続き、その成果のひとつが『愛情物質』だった。血液からでも脳内物質を正確に測定できる技術が開発されると、それはビジネスとして注目され始めた。

「お疲れさまでした。次が最後の質問です」
「はい」
「あなたにとって坂田桃子さんはどんな存在?」
「特別な存在です」

 最後の質問が終わるとやっと採血が行なわれ、大串幸雄は解放された。


   ◇    ◇    ◇


 ちょうど同じ日。都内某所にある他の脳内物質検査センターで、検査を終えた女性スタッフが所長と話をしていた。

「所長、いいんですか? 今日の坂田桃子さん」
「なに? ちゃんと陽性反応が出たんだろう?」
「ええ。レベル10です」
「なんの問題も無い。彼女の気持ちに嘘は無い訳だ」
「でも、あの写真。お相手の方じゃないんです。木下拓哉なんです」
「誰だそれ?」
「人気グループのヴォーカルですよ!」

「そうか。とにかく余計な詮索はいかん」
「詮索というレベルじゃないですよ。これは」

「まぁまぁ。そもそも愛情の深さを、ドーピング検査みたいに量ろうというのが間違ってるんだ。中にはじわじわ深まる愛だってあるだろうに」
「ホントです」


「そう言えば、君も来月結婚だったな」

「ええ。彼の気持ちはもう確認済みです・・・・・・」


<おしまい>

今日のショートストーリーは洗濯物のお話です(?)

   ***   ***   ***   ***


 ひとり息子の耕太を保育園の送迎バスに乗せると、宏子も仕事に出かけてしまった。その後、僕は何もすることが無い。テレビを見ながら時間をつぶしていると電話が鳴った。しかし宏子からは日頃、電話には絶対出ないでくれと言われていた。今の僕に宏子がそう言うのも、もっともな話だった。しばらくすると電話は伝言メッセージに切り替わる。

「ピー の後にメッセージをどうぞ」

「こうすけ。聞こえてる?」

 電話は宏子からだった。僕は安心して電話に出た。

「こうすけ。雨降ってない?」
「降ってないけど?」
「でも、きっと降るわ。こっちは大雨よ」
「そうなんだぁ」
「今日、洗濯物を干したまま出て来ちゃったの。悪いけど取り込んでおいてくれる?」
「わかった。いいよ」
「ありがとう。あっ、でも人に見られないでね」
「わかってるよ」
「じゃあ、お願い。今日は耕太のお迎え、ちゃんと間に合うから」

 僕は電話を切ると、すぐに洗濯物を取り込む。もちろん、人に見られないように細心の注意を払った。洗濯物が勝手にフワフワ宙を飛んでるところを見られたら大騒ぎだ。なにせ僕は幽霊だから。宏子以外の人間には見えないのだから。

 洗濯物の中には見慣れた宏子のエプロンがあった。耕太の小さなシャツもあった。

 幽霊の僕と宏子との生活が始まってから、かれこれ1年になる。あの日、僕の戸籍は抹消されてしまったが、死んでからもなお、宏子と僕は夫婦であり、愛し合っていた・・・・・・ なんて話は映画の中だけだ。実際のところ、二人の関係はなんとも微妙なものだった。永遠の別離を乗り越えて再び向かい合った二人には、確かに以前より深い絆が生まれていた。また、この奇跡としか言いようの無い状況に、最初はお互いが酔いしれていたように思う。しかし、どんなに深い絆で二人が結ばれていようとも、僕は宏子の手に触れることすらできないのだ。テレビのリモコンも洗濯物も、僕は生きてる時と同じように触れることができるのに、なぜか命ある物に対してだけは触れることができなかった。これも、僕がこの世に留まることの代償なのだろうか。

 また、仕事に付くことができない僕にとって、経済的に宏子を助けることが出来ないことも、ひどくもどかしかった。僕に食事は無用だが、昼間の電気代だとかで宏子には負担をかけている。せめて生命保険にでも入っておくべきだったと、何度後悔したことか。もちろん宏子は、僕に愚痴など一切言わない。


 その日、僕がまたテレビを見ていると再び電話が鳴った。僕は宏子の言い付けを守り、電話は伝言メッセージに切り替わった。

「もしもし、宏子? あたしだよ。家には電話しないでなんて言ってたけど、携帯に電話してもオマエ全然出ないじゃないか。もーっ。ところで、例の縁談話はどうするんだい? 貯金も底を突いたんだろ? 先方さんは事情を知ったうえで、宏子を気に入ってくれたんだ。オマエも、自分にはもったいない話だって言ってたろ。いい返事を待ってるからね。じゃあね」


 電話は宏子のお母さんだった。僕は宏子から縁談話なんて聞いていない。

 僕はテレビを消した。

 そして宏子への手紙を書き始めた。



    宏子へ。

    天国への道でさえ迷ったほどのドジな僕は、また大変な
    ドジをしてしまったよ。集合時間に遅れて追い返された
    天国の門で、実は大切なことを言われていたんだ。
    僕はその時「来年の9月6日に出直して来い」と言われた。
    そして、気が付けば今日がその日だったんだ。こんな大切
    なこと忘れていたなんて大笑いだな。

    本当にゴメン、宏子。
    死んでからも迷惑ばかりかけた。
    でも、今日で本当にさようならだ。

    追伸
    宏子の言った通り、さっき雨が降ってきたよ。
    でも大丈夫。洗濯物は取り込んだから。
    宏子みたいに上手くないけど、畳んでおいた。
    雨に濡れず本当に良かった・・・・・・。

    さようなら、宏子。

                            ドジな幽霊より


<おしまい>


   ***   ***   ***   ***


洗濯物に何かが表現できていれば良いのですが・・・

すごーくご無沙汰してしまいました。
まぁ、夏休みだったということで(汗)

   ***   ***   ***   ***

ショートス-トーリー 『津波』


 その日、僕はフミコとひどい口論になった。僕たちは正式な婚約こそしていなかったが、互いに将来を誓い合った仲だ。なのに僕は、決して言ってはならない言葉まで口にしていた。無論、本心ではない。

「フミコ。僕たちのこと、よく考え直そう……」
「コウタ、本気なの?」
「ああ」

 夜になっても気分は晴れず、自分の言葉をひどく後悔していた。彼女も深く傷付いたはずだ。フミコは高校生の頃に何度かリストカット騒ぎを起こしていた。そんな彼女の弱さも知っているからこそ、僕はフミコを今までずっと大切にしてきた。
 何度もフミコに電話をしようと思った。そしてその度に、諦めた。彼女が携帯のディスプレイに浮かぶ杉原晃太という僕の名を見た瞬間、彼女は携帯の電源を切るに違いない。もしかしたら今日が二人にとって、本当に最後の日になるのかもしれなかった。僕は疲れ果ててベッドに潜り込んだ。

 ベッドで横になっても、意識はずっと高ぶったままだ。水を一杯飲もうとした僕は、不注意にもコップをテーブルから落としてしまった。コップはスローモーションのように落下すると、フローリングの床で音を立てて砕け散った。飛び散ったガラスの破片を片付ける気力は僕に無かった。

 何度も繰り返し昼間のことを思い出しては自己嫌悪に苛まれる僕を、突然それが襲った。僕を襲ったそれは、ある感情だった。今までに経験したことの無い激しい感情。荒れ狂う感情の海に突然投げ込まれたようだった。感情の海で僕は溺れそうになる。一生懸命に水面に顔を出すのだが、僕の口の中には「悲しみ」という感情が流れ込んで来た。今まで何度も悲しいことには出会ってきたはずだが、僕はこの時初めて本当の悲しみを知った気がした。子供の頃大切にしていた犬のジョンが死んだ時も悲しかった。高校の時には親友に裏切られ悲しい想いを味わった。しかし、どの悲しみにもどこかで冷静な自分がいた。本当に悲しい事になど出会ったことがなかったのだ。本当の悲しみの前では冷静な自分など存在し得なかった。僕は大声を上げそうになるのを何とか我慢し続けた。

 次の瞬間、ほんの僅かな時間だが、杉原晃太という人間に対する憎悪が心をよぎった。存在自体が許せないと思えるような激しい憎悪だ。しかしその感情はすぐに消え、代わりに正反対の感情が湧き起こった。自分でも心の整理がつかない感情だ。あえて表現するならば、杉原晃太という存在が愛しいという想いだった。次々に僕を襲う唐突な感情に僕は混乱した。

「どうしたんだ? いったい……」

 愛しさはどんどん高まっていった。しかし、やがて今度はひどい虚無感に襲われた。信頼していた誰かを失った想い。まるで世界が突如消え失せ、自分だけが広大な空間にポツンと取り残された気分だった。そこには空気さえも無い。深呼吸をしても、肺に酸素が入ってこない。苦しかった。目の前にあるのはただ無限の時間だけ。無限の時間は、永遠に続く孤独を意味していた。

「これは僕じゃない! フミコの感情だ」

 僕自身が刃物のような言葉でズタズタにしたフミコの心に違いなかった。何故だか分からないが、フミコの感情が津波のように僕の心に流れ込んで来たのだ。神様が僕にフミコの気持ちを考えろと言っているのだろうか。もう僕自身の感情は完全に押し流されている。涙がとめどなく流れた。口からは嗚咽が漏れる。心臓が痛い。1分が1時間にも思える堪え難い苦しみ。これ以上この状態が続くようなら死んだ方がマシだと思われた。

 その時、テーブルの下で何かがキラリと光った。怪しい光とともに、破滅的な匂いがする。

「僕は何をしようとしているんだ?」

「駄目だ!」

「しかし、こんな耐え難い苦しさが続くくらいなら……」

 僕はナイフのように鋭利なガラス片を手にした。
(高校生の頃のフミコも、こんな気持ちだったのだろうか?)

 その時、津波のように僕を飲み込んでいた感情の渦がふいに止んだ。嵐が去って一転凪ぎが訪れたようだった。僕は手にしていたガラス片を思わず投げ捨てる。その後我に返った僕は、フミコのことを想った。僕のせいでこんな耐え難い悲しい想いをさせてしまったフミコ…… フミコと今すぐに話をしたいと思った。すぐに昼間のことを謝らなくてはならない。僕にとってフミコは何よりも大切な存在だと伝えたい。



(電話に出てくれ…… フミコ)

 フミコはなかなか電話に出なかった。


「フミコ!」

 僕は叫んでいた。



 しかし、フミコが電話に出ることも、電話が切れることもなかった。何度も、何度も、冷たく無機質な呼び出し音だけがスピーカーから流れ続ける。


 僕の気持ちは、もうフミコに届かないのだろうか。


<おしまい>

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