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「あの後、どうだった?」 「ああ、君か」 ゆきは、いつも何処からともなく近づいてくる。 「まあ、いいや。興味ないもん」 「俺は、早紀が目覚めるまでずっと彼女を抱きしめていた。そして、俺がずっと早紀のことを 想っていることを伝えた。俺の存在が永遠であることを伝えたんだ」 「いいわよ、聞きたくない...」 「でも、早紀は目覚めると、夢のこと、俺のこと、何も覚えてないようだった」 「あれ、言わなかったっけ?」 「何を?」 「私たちは、相手が寝ているとき誰とでも会えるの。でも、相手にとってそれは単なる夢」 「そうか...」 「いつでも愛する人には楽しい夢を見せてあげることができる。悪戯な子は恐い夢を見せたりも するけどね。でも、それは全て目覚めた途端に忘れ去られてしまう夢。何も残せないの」 「何も残せない...?」 「そう、何も」 「いや、そんなことはない。君も言ったろ?、大切なのは瞬間だって。記憶に残らなかったと しても、夢の中の瞬間はそこに残っているさ」 「そうね。でも、こっちだけが記憶残って、相手は全てを忘れてしまう。そんな関係で何度も 会い続けるのは辛いわよ。そう、未来が無いのよ・・・ボクの場合だけどね」 「未来の無い瞬間?」 「そう」 「それでもいいよ、また会いたい。たとえ瞬間でも、素晴らしい時間だ」 「好きにすればいいわ。でも君たちは<素晴らしい瞬間>なら、もうたくさん持ってるんじゃ ないの?」 「ああ、思い出はどれも<素晴らしい瞬間>だった」 ゆきは、急に黙り込み、自分の手首を見つめていた。 「ここでは歳をとらない代わりに、傷跡も消えないみたいね...」 「なに?何を言ってるんだい」 「この傷よ...」 見ると、ゆきの手首には無数の傷跡が痛々しく残っていた。 変な話し方をして、20年も17歳を続けている<ゆき>に、いったいどんな過去があるのかは 分からない。でも智也は、ここでゆきと一緒にいる瞬間も悪くないなと思った。 「言ったでしょ? ここも快適な場所だって」 <おわり> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 最初はもっと長編にしようかとも思ったのですが、才能が足らなくて...(泣) もっと修行します。
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連載小説「霧の中から」
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テレビではTSUTAYAで借りてきた映画が流れている。智也が好きだったペネロペ・クルス主演 |
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目を開けると、そこは見慣れた風景だった。自分の部屋、自分のベッド、読みかけの本。 「そうか、俺は本を読んでいて寝てしまったんだな。変な夢を見たもんだ」 智也は本を手に取ろうとして、手をすべらせた。手をすべらせたとしか理解できなかった。 本がうまく手に取れないのだ。 確かに本に触れたはずで、つかんだはずなのに、手が本をすり抜けてしまった。 「まだ、夢の続きか...?」 「もーっ、ボクのこと忘れてない?」 「うわっ、何でいるんだ。やっぱりまだ夢なのかよ」 「バーカ、まだわかんないの」 「何がバカだよ、お前なんか消えろ。邪魔なんだよっ、女のくせにボクだとか言いやがって、 古臭い服を着て、気味悪いんだよ!」 ちょっと言い過ぎたとは思ったが、なにより頭が混乱していた。 智也は気分を落ち着けようと、お気に入りのCDが入っているBOSEのプレイヤのスイッチ に手を伸ばした。 「なんだよ、夢だってCDくらい聞かせろよ」 またしても手はプレイヤのスイッチをすり抜けた。プレイヤが置いてあるラックまでも すり抜けた手は、そのまま自分の足にぶつかった。 部屋を出ようとしてドアノブに手をかけようとした途端、智也はそのままドアをすり抜け 廊下に転げるはめになった。ふらふらと居間まで行ったが、誰も居なかった。 見慣れた部屋の中に、見慣れぬ黒い箱があった。黒い箱の正面についている扉は開かれ、 その横に自分の写真が飾ってあった。伊豆に出掛けた時の写真だ。免許をとったばかり だった智也が行った始めてのドライブだった。 写真の中の自分は笑っていたが、智也が事態を理解した瞬間、その笑顔は虚しく引きつって 見えた。 「だいじょうぶ?...ねえ、平気?」 智也は「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせながら、霧の中で目覚めてからのことを 頭で整理しようとした。 「ごめんね、ここに連れてきたのは早かったかなぁ」 「いや、君のおかげで少しは理解できた。まだ混乱してるけどね」 「ボクも最初は信じられなかったよ。信じたくなかったよ。それで、自分のお墓参りにも 行ったし、友達にも何度か会いに行った。そうだ、君はまだ誰とも会ってないよね。その うち誰かに会わせてあげるよ」 「会えるのか?」 「うん、誰とでもね。それに、どこでも行けるんだよ」 「どこでも...か」 「でも、あまり誰かに会うのはやめた方がいいよ」 「どうしてだい?」 「みんな、分かってないじゃん、私たちのこと」 「なにを分かってないんだ?」 「ボクなんか17歳だったろ、だから皆言ってたよ。早すぎるとか、さぞ悔いが残った だろう、とか。そればっか!」 「そうだな、17歳だもんな」 「でも、違うんだよ。こっちに来て分かったんだ。ここには永遠の時間がある訳でしょ? 1分だろうが100年だろうが永遠の中では同じなんだよね」 「ああ」 「意味があるのは時間の長さじゃないの、瞬間なのよ」 「瞬間?」 「そう、瞬間。そして、その瞬間の中身」 「難しいこと言うなあ」 「えへっ、でも本当。何年生きたかなんてどうでもいいの。大切なことは、その瞬間どう 生きたかってこと。君もそのうち分かるわよ。ボクなんか、ここで20年も17歳やって るんだから!」 「でもやっぱり俺、もう一度会いたい人がいるんだ、連れてってくれないか」 「いいよ。さっきみたいに目を閉じて、行きたい場所や会いたい人を思い浮かべるんだ。 ただそれだけさ。ここに来る時は説明が大変だったから、ボクが連れてきてあげたけどね」 「そうか、ありがとう」智也はさっそく試してみた。 |
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「ボクの誕生日は4月3日なの」 「おい、おい、君の誕生日なんて聞いてないよ」 「まあ、失礼ね。文句言うなら教えてあげないよー」 「わかったよ、ハイハイ。それで?」 「よろしい。ボクの誕生日は1961年の4月3日」 「おーいっ、怒るぞ! それじゃ俺より二十も年上になっちゃうだろ!」 「そう? 君は24歳なんだぁ」 「そうさ。それで君が44歳ってことになる」 「バカ言わないでよ、ボクは17歳だよ。」 「そうだろうな。俺が聞き間違えたんだ」 「あら、1961年は間違ってないわ」 「はあー?」 「じゃあ、そろそろ本当のことを教えてあげよーか。ここは天国なの」 「はい、はい、天国がどうしたって?」 「もーっ、信じないの?」 「当たり前だろ」 「あ、そっ。なら、いいよ。バイバイ!」 ゆきの姿が急に薄くなったと思うと、再び目の前には深い霧だけが広がった。 「おーい、霧が深いんだから離れるなよ。見えないだろっ」 智也は叫んだが、深い霧が智也の声を吸い込んでいった。再び完璧な静寂が訪れ、 智也は急に不安になった。 「ボクの言うこと、信じる?」 ゆきの声はすぐ近くから聞こえた。 「ふん、どうせ夢なんだから、信じるも何も...」 「まあ、いいわ。こらっ、どっち向いてるのよ」 振り向くと、ゆきは智也のすぐ後ろに立っていた。 「うわっ、おどかすなよ」 「まあ、信じられないかもしれないけどー、全部本当のことなんだからね」 「わかった、聞くよ」 「君はね、いま天国にいるの。もっとも、ここが天国だなんて何処にも書いてなかったけどね」 「じゃあ、おれは何でここ、天国にいるんだよ」 「あら、決まってるじゃん」 「おい、おい、それじゃあ俺は....」 「まぁ、いいって。ここは快適だし」 「快適かどうかじゃなくてだねぇ...」 「そうだ、ボクについてきて。」 「おい、どこ行くんだよ。こんな霧じゃ、すぐ見失っちゃうだろ」 「手でもつないで欲しいの?大丈夫、目をつむるだけでいいんだから。ハイ、目を閉じてぇー」 智也は言われるままに目を閉じた。 「ハイ、とーちゃくう」 |
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最近じゃあ、子供も物語を聞かせてくれなんて言わないので、しょうがないので 勝手に天才ストーリーテラーが連載小説を執筆することにしました。 記念すべき「第一回」です。 タイトルは「未定」(最終回までに考えます) −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・ 気が付くと、そこは一面濃い霧に覆われていた。 そこが建物の中なのか、屋外なのか、昼なのか、夜なのか、全てがはっきりしない。 「夢か・・・?」 智也は恐る恐る歩いてみることにした。両手を前に突き出し、慎重に足を踏み出す。床の感触が変だった。見た目は普通の床のようだったが、まるで靴を履いてベッドの上を歩いているような感覚だ。 どれだけ歩いただろうか、10分にも1時間にも感じる。 ふいに何処からともなく声が聞こえた。 声は霧の中から聞こえたのか、自分の頭の中から聞こえたのか、よくわからない。 「あまり歩き回ると疲れちゃうぞっ」 「・・・・・」 「君は、ここの生活にまだ慣れてないんだからさっ」 「・・・・・」 「ちみー、状況をまだ理解してないんじゃないの?」 「なんだぁ・・・生活?・・・状況?」 目を凝らすと目の前に人影が見える。ほんの3メートルくらいなのに、霧のせいでよく確認できない。 「だれだい、君は?」 「ボクの名前は、ゆき」 「ゆ・き・・・・さん?」 「そう、よろしくね」 ゆきと名のる女性は、ずいぶん落ち着いて見えるが、歳は智也より少し下のように思えた。古着屋でもちょっと見ないような時代遅れのワンピースを着ているのがおかしかったが、夢の中では格好なんて些細な問題だ。 「さっき、状況を理解してないって言ったよね。どういう意味だい?」 「どーしようかなぁ、説明してあげようかなぁ。まだ早いかなぁー」 「なんだよ、もったいぶるなよ」 「ふふ、じゃあ教えてあげる」 <つづく> −・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・ さて、誰も期待していない物語が、この後どう展開するのでしょうか。 お楽しみに...してないか。 |
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