SFショート「乱れた振り子」

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僕は車を走らせながら、タイミングを計っていた。今日だけは頭痛にも目まいにも負ける
わけにいかない。どこかで、ハンドルを映画館とは逆方向に切らなければいけない。

「真治、大丈夫?」
「ああ、えっ? ごめん、何か言った?」
「ほら、やっぱり変だわ。顔色も悪いわよ。映画はまたにする?」

「そ、そうだな...少し気分が悪い」
僕は、ブレーキに足をかけた。軽い頭痛がまず僕を襲った。
「大丈夫? 運転、代わろうか?」

僕がブレーキを踏む足に更に力を込め、左ウィンカーを出した瞬間、僕の目の前の風景
は、万華鏡のように回転を始めた。頭にハンマーで殴られたような衝撃を感じた。
意識を失いかけたその瞬間、視界に電信柱が現れた。咄嗟に妻をかばうようにハンドル
を切ったが、もう避けることも停止することも不可能だった。


「う...」
「あなた、大丈夫?」
「うう...」
「あなた、あなた」

目を開けると、そこには僕を覗き込む妻の顔があった。
白っぽい部屋の中で、僕はベッドに寝ていた。

「・・・どうなったんだ?」
「意識が戻ったのね。あなたは、個展の記念パーティーで倒れたのよ」
「個展?・・・誰の?」
「何を言ってるのよ。あなたの写真展でしょ。」
「ああ、そうなのか・・・」
「大丈夫?いま先生呼んでくるから」

どうやら「時の振り子」というものは、実際にはたくさん並んでいて、少しずつ違う「時」
を刻んでいるようだ。僕たちのいた「振り子」が大きく乱れたために、隣の「振り子」に
ぶつかったのだろう。その拍子に、僕は「隣の振り子」に移ってしまったようだ。妻と
ふたりで「時の振り子」を乱したのだから、きっと妻も「僕たちの振り子」からは弾き飛ば
されたにちがいない。もしかしたら、どこか別の「振り子」に飛ばされたのかもしれない。
あるいは、さっきの妻がそうで、ただ何も気づいていないのかもしれない。


この世界では、僕は「未来」を知らない。

たぶん、あの日の講義で、僕は最後まで寝ていたのだろう。



少し雰囲気は違っていたが、それでも元気な妻の顔を見られて安心した。
僕はゆっくり目を閉じた。久しぶりに穏やかな気分だった。


<完>

僕は卒業後その能力が活かすために、当時の夢であった写真家になる道を捨て、為替
ディーラーになった。しかし、その選択も含めて、この能力はその後に僕をひどく苦し
めることになる。


未来を知ること、未来を先に一度予習できること、それが素晴らしいことだなんて、
大きな間違いだった。もし、未来を知って、自分の都合のいいように変えることができ
れば、そりゃ素晴らしい能力かもしれない。しかし、それが許されなかったのだ。
もちろん何度か、未来を変えようとも考えた。為替の先物予約で大損することが分かった
時、逆のポジションをとろうとしたこともある。だがそんな度に、僕は頭が割れるほどの
頭痛に襲われた。天地がひっくり返るような目まいに襲われた。「一度目」と同じ選択
に戻ると、頭痛も目まいもきれいに消えてなくなるのだった。

全てのテレビ、全ての映画を、無理やり二回見させられる苦痛を想像してもらいたい。
エンディングを知っている推理ドラマがどんなにつまらなくても、居眠りは許されない。
居眠りをしようものなら、激しい頭痛が僕をたたき起こすことになる。ましてや、映画
やドラマではなく、実生活がいつも再放送なのだ。



更に辛いのは、予習範囲がずいぶん先の場合だ。知らなければ自然に行動できるのだろ
うが、下手に知っているために「未来」の選択をする時、どうしても記憶に頼る癖が付い
てしまった。おかげで、よく未来を間違えた。
「あれ、僕が注文するのはスパゲティだっけ、カレーライスだっけ」というような
つまらないことで、いちいち頭痛に襲われてはたまらない。




「しかし、こんな生活も今日でおしまいだ」



愛する妻は、いま鏡の前で着ていく服を選んでいる。これから僕たちは、映画を見に行く
のだ。そう、僕にとっては二度目の映画を。

「しんじー、どっちの服がいいと思う?」
「ああ、ブルーの方が似合うんじゃない」

僕は「未来」の記憶が混乱しないよう、「一度目」の選択の場面ではルールを作るように
していた。左右を選ぶなら必ず右、順番なら最後から二番目、おまけに月曜の昼は必ず
うどん、という具合だ。

「わたし、今日の映画は絶対に見たかったの」
「へえ、どうして」
「あら、覚えてないの?ショックだわ」
本当はもう少しマシな答えも出来たのだが、「一度目」と同じ答えを返した。
「あなたがプロポーズしてくれた日に、ふたりで見た映画。そのリメイク版なのよー」
「えー、そうだっけ!?」
驚く練習などは、ずいぶん鏡の前でしたものだ。

「プロポーズの時、あなたは妙に落ち着いていたわね。自信があったの?」
「そうかい?ドキドキだったよ」



僕たちは、これからその記念の映画を一緒に見る。
映画の始まる前には、買ったばかりのポップコーンを僕はひっくり返す。
妻は、ずいぶん前と話が違うと文句を言う。
そして、映画館を出て予約したレストランに向かおうと信号を渡る時、「それ」は訪れる。
そしてその先、妻にだけもう「未来」が用意されていないことを僕は知っている。


 <つづく>
   ↓
http://blogs.yahoo.co.jp/jt_novel/2661045.html

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初めて、本格(?)SFショートストーリーを書いてみました!
ちょっと説明が多かったかな...でも、SFには(嘘でも)理論が必要かなってね。


++++++++++ +++++++++ +++++++++++
「乱れた振り子」


講義の時間はもうすぐ終わろうとしていた。

目を覚ます前に、僕は夢を見ていた。
夢の中で僕は写真家として成功しており、個展の記念パーティーでシャンパンの栓を
抜いた拍子に、僕は目を覚ました。


「えー、という訳で、時間が一定の速度で均一に進んでいるということは、誰にも
確かめようがないのです。時々時間が止まっていても、あるいは逆向きにに進んで
いたとしても、私たちには観察し得ないのであります」

教授が何の話をしているのか、すぐには理解できなかった。

「これは余談ですが、デジャヴという錯覚を皆さんも経験したことがあると思います。
ある学者が、デジャヴとは、時間が振り子のように振れた時に起きると言いました。
時間というビデオテープで起きた瞬間的な巻き戻し現象、そう呼ぶ学者もいます。
まあ、これはSFの世界かもしれませんがね」

めずらしく今日の講義は面白そうだった。僕は寝てしまったことを少し後悔した。

「それでは、本日の講義はここまで」
「そうだ、高木真治君。今日の講義で、君の時間は止まっていたようだね、顔に腕時計
の跡までついとるよ、ハハハ」

「くそっ、今日は教授の小言まで、洒落てるじゃないか」
僕は、大笑いする学生たちに軽く手を振ってやった。



僕は子供の頃からデジャヴをよく経験していたので、教授の話はとても印象に残ったが、
まさかこの7年間で、僕がそのSFみたいな学説を身をもって証明することになろう
とは、当時思いもよらなかったのである。


講義を聴いた後も時々経験するデジャヴに、僕は意識を集中した。デジャヴを錯覚だと
決め付けていた以前と違って、僕はデジャヴで感じる「一度経験した未来」を慎重に
思い出す訓練を自分で続けた。

何度もそれを繰り返すうちに、僕は「一度経験した未来」を思い出すことに慣れて
いった。同時にその能力を完全に身に着けた時、僕はデジャヴという現象が常に存在
していることにも気づいた。時間とは、やはり「振り子」のように常に行きつ戻りつ
進むものだったのだ。

アインシュタインは相対性理論の中で、時間は不変ではなく速度の影響を受けること、
速度が早くなるほど時間は遅くなり、速度が光速に達すると時間が停止すること、
そんな理論を展開した。現在では、その理論はいくつもの実験や観測で立証されている
が、もしかしたらその現象は「時の振り子」と関係しているのかもしれない。


ただ不思議なことに、「時の振り子」は、振幅が一定ではなかった。「振り子」が
未来側の頂点(僕はそれを予習範囲と呼んだ)に達して、過去側に揺り戻され、再び
現在に戻るという運動を繰り返すのだが、予習範囲は翌日のこともあれば、3ヶ月先
ということもあった。「二度目の未来」を経験すると、「一度目」の記憶は急激に薄れる。
記憶の中では、「二度目」が「一度目」を上書きしてしまうのだろう。
それでも僕は、「二度目の未来」を経験する際に、ほぼ完全に「一度目」の記憶を
思い出すことができるようになっていた。最後に残る記憶は「二度目」だから、まるで
「一度目」は「二度目」の予習としてのみ存在するようだった。


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