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◆【岩崎慶市のけいざい独言】「蟻地獄」それとも「蟻の一穴」
小欄が「気になる出稼ぎ者の反乱」として広東省は深センでの暴動を取り上げたのは、たった一カ月前である。今度は反日暴力デモが中国全土に広がる事態となった。
出稼ぎ者の暴動は、上海などとの賃金格差に気付いた結果だった。反日デモの方は日本の国連安保理常任理事国入りなどが理由だから、一見しただけではつながらない。
しかし、目を凝らせば同じ根っこであることが分かる。それは貧富の格差という社会主義市場経済がもたらす矛盾と、それを推進する政府に向けられた不満である。
実は沿海部の出稼ぎ者を除くと、暴動は今に始まったことではない。報道が少ないために目立たなかっただけで、内陸部や東北部では日常茶飯だった。
遼寧省の瀋陽で幹線道路がしばしばバリケードで封鎖されるという話を聞いたのは、もう十年も前だ。ここに集まる重厚長大型国有企業の労働者たちの仕業だった。
退職年金と健康保険料の企業側負担分の支払いなどを求める抗議行動である。公安当局はこれを黙認、いつも散乱したバリケードを片付けるだけ。行動が拡大先鋭化し矛先が政府に向けられるのを恐れたからだ。
今回も多くの国有企業労働者が参加したという。瀋陽の風景がオーバーラップする。「反日」は有力な理由だろうが、深層には政府に対する底辺層の不満のマグマがたまりにたまっている。
中国は袋小路、いや蟻(あり)地獄に陥ったのではないか。直接投資促進と国有企業改革の微妙なバランスが、このデモで一気に崩れる可能性が出てきたからだ。
「世界の工場」を支えるのは直接投資である。しわ寄せは国有企業にいく。だから改革を実施してきたわけだが、今回のデモは膨大な失業など痛みが限界に達したことを示している。
しかも指摘したように、国有企業は政府に代わって社会保障を担っており、一党独裁の基盤でもある。外圧が強まる人民元切り上げも国有企業を直撃する。不満の制圧は容易ではないし、下手をすれば火に油を注ぐ。
といって、不満を放置すると直接投資が細る。日本だけでなく米欧企業も慎重になり、場合によっては逃げる。それは命綱を失うに等しい。
これはもがくほど深みにはまる蟻地獄だ。デモに貧困農民層まで加わったことを考えると、意外や体制を崩す蟻の一穴になるかも。歴史とはそういうものではないか。(論説副委員長)
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