保守の源流を訪ねて

いざいざと友に盃すすめつつ泣かまほしかり醉はむぞ今夜

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湯浅記者に注目している。平成16年末に石井英夫さんが降りた後の「産経抄」の執筆者のお一人のようだが、Outstandingだ。元シンガポール特派員。

こちらではホリエモンを礼賛するエコノミストやマスコミの実態など具(つぶさ)に見ていないが、推測は出来る。旺文社の受験雑誌には「お金入門」などといったものは昔はなかった。付録についていた「坊ちゃん」等を耽読した記憶がある。

大学卒業後、企業では会社のため、今は自分のため、ひたすら金儲けをしてきたが、それに疲れてきた。
一、ウソをつかないこと、
二、収入不相応の生活をしないこと、
三、純財産の十分の一以上の家屋を求めぬこと、
これに見習うこととしよう。

ギリシャの昔から「カネではかることのできない人生の価値」は確かにあるのだから。

◆【東京特派員】湯浅博 続「時代の寵児」を嗤う

 もう十カ月も前のこと、ライブドアの堀江貴文社長のことを小欄は「時代の寵児を鬼が嗤う」と書いた。軽佻浮薄の流れに乗って、若き起業家が旧型大企業に挑んでいるような幻覚を振りまいていると断じた。実際は途方もないカネで、営々と築いた会社を乗っ取るマネーゲームの仕掛け人ではないかと。

 とたんに「若者の心意気つぶすのか」と一部読者からお叱りを受けた。それは無理からぬことだった。あのころ、宮沢喜一、後藤田正晴、塩川正十郎の各氏、巨頭たちも若き起業家を持ち上げた。テレビをひねっても、流行の言論しか返ってこなかった。

 知ってか知らずか、法律家も経済評論家も、経済紙さえも、堀江氏の情報操作に一役買っていたのだから笑えない。売れっ子のエコノミストに至っては、いつ情報収集し、いつ勉強をしているかも疑わしい。

 若手の某経済アナリストは雑誌連載が月十九本、朝から晩までテレビ、ラジオに出っ放しで睡眠が三時間だと週刊誌で告白していた。商社系の研究所長はラジオ番組で、経済紙の記事とそっくり同じ「独自の見解」をしゃべっていた。

 そんな知識の切り売りや使いまわしに、主婦や若者のお茶の間トレーダーは踊らされた。インターネットの専業証券大手五社の口座数は、昨年だけで百万口座も増えたという。今回の「ライブドア・パニック」はこうした投資家を一斉に売りに走らせた。

 ところがプロは違う。阪神電鉄株を買いまくっている村上ファンドの村上世彰代表は、TBS株をさっさと売り抜けている。ホリエモンにいわせると、「勉強しないと、ずる賢い人にだまされてしまいますよ」となるのだろう。

 古いとお思いでしょうが、同じ起業家でも明治の財界に頭角をあらわして安田銀行(後の富士銀行)を創業した安田善次郎は違った。十九歳のときに江戸に出た善次郎は三つの誓いを立てる。第一はウソをつかないこと。第二に収入不相応の生活をしないこと。第三に純財産の十分の一以上の家屋を求めぬことだそうだ。

 それがホリエモン流は、第一に証券取引法にいう「偽計」と「風説の流布」だから、企業買収をめぐる虚偽の発表と利益の水増しだ。第二に自家用機に彼女を乗せて南太平洋のパラオ旅行(サンスポ紙)だし、第三はご存じのヒルズ族である。いや時代は変わった。善次郎が聞いたらビックリだろう。

 それならと、わが子に株の売り買いを勧めて「ヒルズ族」に続けとけしかける親が出てきた。小学生向けの雑誌は「お金入門」を特集した。色鮮やかな人生を、キンピカに染め上げてほしくないものだ。

 東京学芸大学の小塩隆士氏の評論は少数派なのではないか。彼は投資家は単に企業業績や経済予測を参考にして株の売買を行っているに過ぎないといっていた。

 「そこにもっともらしい解釈を見つけたのは、マスコミであり、いわゆるエコノミストだったのです」(「文藝春秋」平成十一年五月号)

 そんなエコノミストや弁護士が、東京地検特捜部によるライブドアへの強制捜査で「扇動していました。ごめんなさい」というかと思ったら、すぐに乗り換えていた。「ライブドアのやり方はカンニングと同じ。投資家は数字の偽造を見抜く力をつけること」と個人投資家に責任を転嫁した。

 二枚舌の弁護士に言われたくはないが、確かに堀江氏の著書には「人の心はお金で買える」などと露悪趣味なことをいっていた。だからカネを標的に生きるのも、そうでない生き方もまたそれぞれの人生だ。

 途中で生き方を変えた人物に作詞家、西條八十がいる。彼は早稲田大学在学中から詩人を目指していたが、どうしたわけか畑の違う兜町の証券取引所に通いつめた。八十は取引場の桟敷に、前場も後場も立ちん坊をした。

 「取引株の昂騰はめざましいものであった。有象無象が一攫千金を夢みて兜町や蛎殻町へ押寄せた。わたしもその一人だった」(『唄の自叙伝』)

 しかし八十は、そんな生活に嫌気して大正五年に小さな出版社に移り、詩作を再開した。そうしてできたのが童謡「かなりや」だ。

 歌えなくなったカナリアを山に棄てようか否かを思い悩む例の唄だ。八十はこの童謡についてこんな述懐をしている。

 「わたしは兜町通いの間にも、いくたびもこの歌詞のように自分を責める声を聞いた」「本来の使命の詩を書くことを忘れて、錙銖(ししゅ)の利に憂身をやつすようなこの男は、棄ててしまえ、鞭うて、殺してしまえと罵る心内の声を」(同)

 ホリエモンにそんな内面の苦悩などありうるはずもなかろうが。

【東京特派員】湯浅博 「時代の寵児」を鬼が嗤う [2005年03月11日 東京朝刊]

 ライブドアの堀江貴文社長は、いまをときめく「メディアの寵児」である。軽佻浮薄の流れに乗って、若き起業家が旧型大企業に挑んでいるような幻覚を振りまいている。

 実際は、途方もないカネで、営々と築いた会社を乗っ取るマネーゲームの仕掛け人である。著書によれば、大学の価値は「ブランドと人脈」だそうで、「人の心はお金で買える」と露悪趣味なことをいう。

 世間が億のカネに驚いたのは、やはり昭和四十三年の三億円事件までだったなと思う。それが、バブル経済のころは十億円単位で土地が転がされ、一ケタだと「なんだ一億か」と鈍感になった。

 それが今回のニッポン放送株の買収で、氏のライブドアが用意したカネがなんと八百億円。あまりに派手な「堀江現象」に、人の心がすさんでくることを憂う。

 いうまでもないことながら、堀江さん、世の中にはカネを標的にしない生き方もあるんです。

 いま、教養主義の復権を求める声が出てきたのは、こうした拝金現象の反動か。「高学歴・無教養」への嘆きから、早稲田大学には国際教養学部がスタートし、玉川大学や東京経済大学にも教養プログラムができた。

 同じ題名の二冊の『評伝 河合栄治郎』が最近、相次いで出版されたのも、自由主義、教養主義を渇望する文脈から偶然ではない。

 戦時下に東京帝大教授の座を追われた河合栄治郎は、堀江氏が享受している個人の自由の殉教者である。戦前の過酷な世界で「左の全体主義」マルクス主義と戦い、やがて「右の全体主義」ファシズムをも批判した唯一の知識人であった。

 河合こそは、「損得の岐路に立ったら損する途を選ぶ」ことを信条に、法廷で壮絶な言論の戦いを挑んだ。自由な社会は、米占領軍によってのみでなく、河合らの犠牲の上に築かれた。

 河合は、富や地位に背を向けた「孤高の鬼」だった。こんな先達もいた東大を「ブランドだけ」とは、なんというこの罰当たり。

 著者の一人、早大本庄高等学院非常勤講師の松井慎一郎さん(37)は近年、軽井沢にある河合の旧別荘で二千通に及ぶ書簡の入ったカバンを発見した。これらの書簡の中から、剛直なイメージの人間・河合の知られざる苦悩を導き出している。

 北千住生まれの河合は郁文館中学に進んだが、やがて府立三中に転校している。旧友の中村孝二郎氏あての書簡で触れた少年期の話には、後年の戦闘的な自由主義者には似つかわしくないひ弱さが読み取れる。

 郁文館中学は、夏目漱石の『吾輩は猫である』では、ヤンチャ坊主たちの落雲館中学として登場する。河合のような真っすぐな下町っ子は、イジメの対象になっていた。河合はこの転校をきっかけとして、自ら人生を切り開き、奮闘することを学んでいく。

 河合は府立三中から一高、東京帝大と進み、農商務省の官僚となる。新渡戸稲造の養女、琴子への恋慕と失恋は以前から知られている。ところが、松井さんが見つけた書簡の中から、琴子の前に、大阪朝日新聞の社長、村山龍平の一人娘との縁談があったことが明らかになった。

 このとき、河合は結婚まで「五年の猶予」を求める条件をだし、村山家がこれを拒んで破談になった。その後の河合が自由のために闘い続けたことを考えると、戦後の朝日新聞の報道姿勢も変わっていた余地があって興味深い。

 東大河合門下からは、社会思想家の関嘉彦、政治学者の猪木正道、新聞人の土屋清らを輩出しており、いずれも産経新聞正論欄の執筆者である。

 さて、河合は自著『ファシズム批判』『時局と自由主義』など四冊が「世を乱すもの」として昭和十三年秋、発禁処分をくい、三年にわたる裁判の結果、有罪判決を受けた。

 終戦と同時に、進駐してきた米兵が河合邸を訪れた。栄治郎がその前年に死んだことを知らされた彼は、無念の涙を流したという。門下生で九十二歳の関嘉彦さんは、河合栄治郎没後六十年を振り返り、「カネではかることのできない人生の価値を考えてほしい」と語る。

 かつてリクルート問題がおきたとき、「怒りは単なる嫉妬だ」といった大評論家がいた。しかし、人の怒りは嫉妬に由来するばかりではない。時代の寵児の浮薄を戒めるに遠慮はいらない。
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