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◆【正論】慶応大学教授・阿川尚之 日中関係の基本は日米関係にあり 米国が味方なら致命傷にならず
≪薄れている米国への関心≫
平成十四年九月から約二年八カ月、駐米公使をつとめ、この四月半ば帰国した。
広報文化担当として、在米日本大使館で良好な日米関係の維持と発展に毎日心を砕いてきたのに、日本ではアメリカに対する関心が薄れているように思う。
帰国以来、新聞やテレビで連日報じられるのは、国内ではJR西日本の事故や郵政改革の問題、国際関係ではもっぱら中国での反日運動に関するニュースばかり。
アメリカ国内で何が起こっているのか、イラク・アフガニスタン情勢はどうなっているのか、わが同盟国とその政策に関する報道は、片隅に押しやられているようだ。
対照的に帰国以来、目につくのは、東アジアに関する報道である。NHKテレビを見ていると、反日デモ以後も相変わらず中国ものばかりやっている。中国史は魅力に満ちているし、西域の文物はロマンをそそるけれども、あの国ののど自慢大会から養蜂農家まで、特集で取り上げる必要があるのだろうか。
しかも政治的批判は一切なし。とかく批判的なアメリカ報道と対照的である。それに加えて、やや度を越した韓流ブームは、しばらく前まで、両国のあいだの歴史問題はもはや過去のものだという楽観的な気分を盛り上げた。
それが今年になって両方とも暗転したのは、周知のとおりである。
日韓関係はおくとしても、日中関係を今後どうすべきかについては、さまざまな意見がある。日本と中国の関係はよい方がいいに決まっているし、東アジア安定のためにそれは必要である。
中国政府、あるいはその一部が反日感情を利用しているとしても、日本に対する人々の複雑な思いが底流にあるのは事実である。いわれのないプロパガンダを放置するわけにはいかないが、われわれ日本人は歴史問題について少なくとも謙虚であらねばなるまい。
≪米国で高まる対中警戒論≫
しかし、わが方が努力すれば(たとえば総理が靖国神社参拝をやめれば)、日中関係が改善され対日感情が好転するというものではない。
アメリカのことわざに「タンゴを踊るには二人必要だ」というのがある。日本側が誠意をつくしても、関係改善が期待できるかどうかわからない。だれもそれを望まないが、日中の対立が抜き差しならぬところまで進むという事態だって考えておかねばならない。
だとすれば対中関係を考えるにあたって、最も決定的なのは日米関係のあり方である。アメリカが日本の味方でいる限り、日中関係がたとえ相当深刻な状況になっても、致命傷にはならないだろう。
逆に、日米関係が日中関係と同時におかしくなるようなことがあれば、日本は東アジアで孤立して、一九四〇年代の悪夢を繰り返すことになりかねない。
幸いアメリカ政府と国民は、いま日本に対してきわめて好意的である。逆に中国に対しては、警戒を強めている。ギャラップ社による昨年二月の世論調査によれば、アメリカ国民は日本を、オーストラリア、英国、カナダに続き世界で四番目に好ましい国としてみている。中国は十三位である(ちなみにフランスが十二位)。
私が帰国する数日前、公邸でのレセプションである最高裁判事が反日デモの報道を見て、「中国はどこかおかしな国、不自然な国」だと感想をもらした。このような感想を抱くアメリカ人は多い。
≪今に生きる朝河氏の遺訓≫
今年二〇〇五年は日露戦争勝利から百年目にあたる。アメリカは英国とともに、政府も民間もこの戦争で日本を陰に陽に支持した。ところが戦後、満洲問題をめぐって日米関係はぎくしゃくしだす。
一九〇九年に『日本の禍機(かき)』を著したイェール大学講師、朝河貫一は、満洲問題は実は日米関係にかかわる問題であり、後者をいかに良好に保つかが最大の課題だと説いた。残念ながらそれから三十数年後、日米は真っ向から衝突し、日本は決定的な敗北を喫する。
中国に対処するにあたり、緊密な日米関係の維持が最も重要であるのは、百年前も今も変わらない。ペリー来航以来百五十年、最初の五十年間は良好であった日米関係が、日本の誤った大陸政策のために次の五十年で破局に向かった。その誤りを、戦後六十年まがりなりにも良好な関係を維持したわれわれは繰り返してはならない。
こんなことは言うまでもないと思うが、帰国後感じたのでそのまま記す。(あがわ なおゆき)
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