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第2部米国のいらだち(2)「序章」通商摩擦(第四の極中国)2005/06/04, 日経朝刊
「購入を打ち切りたい。より安い調達先が見つかった」。取引先の説明は非情だった。米シカゴ郊外で電気回路のプリント基板を製造する中小企業の経営者ダグ・バートレット氏(48)は、得意先の大手メーカーからこう通告された。「競合相手は中国企業のはず。大事な顧客をまた奪われた」と同氏は歯がみする。
「中国はずるい」
中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したのは二〇〇一年十二月。このころから中国製基板が北米市場に大量流入し始め、〇〇年に九十億ドルあった北米製の売上高が〇四年には五十億ドルに減少。業界の雇用者数も八万人から四万人に半減した。
「中国製品は割安な人民元や政府補助金で、信じがたい低価格になっている。中国はずるい」。バートレット氏は地元選出のマンズーロ米下院議員(61)に訴え出た。
中小製造業の陳情攻勢は、米議会の「中国たたき」の原動力となっている。人民元改革に狙いを定めた法案を提出したライアン下院議員(オハイオ州、31)の地元も製造業の集積地。「中国を何とかしてほしいという声は非常に幅広い業種から出ている。来年の議会選挙をにらみ無視できない」と明かす。
春先には中国への不満を臨界点に高めるニュースが重なった。三月発表の昨年の対中貿易赤字は過去最大の千六百億ドルに膨張。一月には繊維の国際的な輸入割当制度(クオータ)が撤廃され、中国からの輸入増に拍車がかかり始めた。
大統領選後の米議会の政治力学も中国批判に油を注ぐ。共和・民主両党は現在多くの内政・外交課題で対立、審議が膠着中。その分、両党が歩み寄れる数少ないテーマの中国問題にエネルギーが集中しつつある。「人民元改革の必要性で誰も異存はない」(ライアン議員)。三月以降、中国を標的にした経済制裁法案の提出が相次ぐ。
こうした声に押され、ブッシュ政権も強硬路線にシフトし始めた。
「成果出てない」
米通商代表部(USTR)は中国の知的財産権侵害をWTOに提訴できるかどうか、関連業界と協議しながら検討に入った。中国政府が昨春、知財権侵害を大幅に減らすと公約したのに「ろくな成果が出ていない」(国際知的財産権連合のスミス理事長)からだ。
初訪中したグティエレス米商務長官とポートマンUSTR代表は四日、呉儀副首相との会談で真剣な対策を迫る。中国側の応対次第ではWTO提訴の可能性も出てくる。
米からの圧力に中国も反発する。「(先進国でも)知財権侵害の問題が無い国は一つもないではないか」。五月中旬、北京での会合で、米企業幹部に知財権侵害のひどさを責められた中国国家知的財産権局の王景川局長(60)は声を荒らげた。
「広大な中国では知財権保護の周知徹底に時間がかかる。もう少し猶予がほしい」というのが中国の本音だ。
米産業界も一枚岩ではない。中国の企業別輸出額ランキングをみると、デル、モトローラなどの生産委託先や合弁会社がずらりと並ぶ。中国を活用している米企業は摩擦激化を懸念する。「米中貿易戦争には勝者はいない」というのは通商専門家の一致する見方だ。
米政府は五月、中国製繊維七品目に緊急輸入制限(セーフガード)を発動した。ウォルマート・ストアーズなどの大手安売りチェーンは安価な中国製品の輸入で稼いでいるだけに「発動は不当だ。輸入制限は米繊維企業の競争力を高めることにならない」(全米小売業協会のオーター副協会長)といった批判も出ている。しかし中国たたきのうねりの中で、こうした声はかき消され気味だ。
外資に市場を開く中国との通商摩擦は、かつての日米摩擦ほど激しくならないとみる識者もいるが、米世論の振れは予測しがたい。
米政府のセーフガードの対象は綿製シャツなどで、中国からの繊維製品輸入のわずか三%弱にすぎない。米中双方の関係者が今後対象品目が日増しに増える可能性を読む。中国は対抗措置として今月から輸出関税の一部廃止に踏み切った。
ベイダー元USTR代表補(59)は「米産業界の不振を中国に結びつけようとする動きは、今後も強まるだろう」と指摘、米中通商摩擦はまだ序章にすぎないと見通している。(中国取材班)
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