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◆【正論】京都大学教授・西村和雄 ゆとり撤廃では済まぬ学力回復策 教育課程の抜本的見直しが急務
《量の拡大だけでは不十分》
国際学力調査でも学力低下の進行が明らかになり、昨年末、中山文科相は学習指導要領の見直しを表明した。中央教育審議会は今秋までに提言をまとめるが、総合学習削減や基本教科の授業時間が復活されるとみられている。
現行の指導要領では、完全週五日制と総合学習の導入が教科の授業時間を圧迫している。それまで、隔週で行われていた土曜の授業を廃止することで、一週間当たり平均二時間の削減となった。それに加えて、総合学習を週三時間導入し、平均して週五時間、教科の時間を減らすことになった。
週五日制、総合学習、それぞれを肯定する人はいるが、主要教科の授業時間を大幅に削減してまでも、同時に導入する必要があったかと思うのは自然な反応であろう。とにもかくにも、中山文科相の登場によって、削減された授業時間が見直されることになり、また、教科書に発展的な内容を含められるようになったことは歓迎すべきである。
しかし、本欄でも、高校の歴史教科書や行き過ぎた性差否定教育の問題が何度も取り上げられている。実はすべての教科書で、既にカリキュラム(教育課程)そのものが変質してしまっていて、単に量を増やすだけでは、もう学力は回復できない状況である。
《問題多い現行の指導要領》
英語を例にとってみよう。現在、中学校で学ぶ必修英単語は百(以前は約五百)まで削減され、また中学一年生から三年生まで、教科書のほぼすべてが会話文となっている。文法の教科書は廃止されて久しい。
その結果、塾で身につけた子供を除けば、主語、述語、目的語の区別もできないまま、高校に進学する。この惨状は、五月二日の本紙で「中山文科相が非公式視察」「文科省幹部『いたたまれない』」と報道された通りである。
数学でも、本来、積み重ねで理解してゆく高校数学を、社会の歴史、地理、公民などと同じようにぶつ切りにしてしまった。このことは、一年生が数Iと数A、二年生が数IIと数Bなどのように細分されたことに表れている。
高校の数学教科書を作成している出版社に対して、現場から分数を使わないでほしいという要請がある。高校生は分数が苦手だからというのである。日本の子供たちは、小学生から大学生まで分数が苦手になっているのである。
現行の指導要領では、小学校の算数から、帯分数や比の値がいったん削除された。帯分数を用いるのは、分数を小数と関係付ける上で有効である。比の値は、分数、割り算と割合を関係付けるために重要である。これらの概念の必要性を否定してつくられた指導要領は、体系的な理解を目指したものではない。このように、削除した部分を戻すだけで、問題が解消されるわけではないのである。
他にも、中学の教科書で、昔は五十三個も扱っていた化学反応式が六つまで減少してしまった理科、古典的な文学作品が教科書から消えた国語、教科書から唱歌や童謡が削られてきた音楽など、問題は広く存在する。
《教科書の内容充実も課題》
しかも、三年間も現行の指導要領で学んできた子供たちの学力をどうやって引き上げるか。学力を下げるのは簡単だが、一度下がった学力を上げるのは難しい。一学年ほど低い内容を学んでいる子供たちには、昔の教科書に戻したら、理解できないのである。となると、現行の指導要領で学んだ子供たちの学力を、他のアジアの国や昔の日本のレベルに引き上げることを可能にする、新たなカリキュラムを開発しなければならないことになる。
これ以上学力が下がらないように、まず、ゆとり教育をやめなければいけないが、他方で、既に下がった学力を上げる具体的な方法についても提案しなければいけない。
この度、われわれは、現在の小学生がそのまま使って学力を十分高めることができる教科書、それも自学自習が可能な検定外教科書を、現場の先生方の協力を得た上で、約三年間かけて完成した。これは、『学ぼう!算数』というタイトルで書店販売されている。この教科書を、原稿の段階で使った、都内の公立小学校のクラスは、昨年の区の学力調査では、断トツの一番であった。これは、いかに教科書が大切かを示しているといえるであろう。
理科では、左巻健男同志社女子大学教授らによって既に小学校の検定外教科書が作成された。小学校の国語や社会など、他の教科でもより良いカリキュラムと教科書作りが進むよう切に望んでいる。(にしむら かずお)
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