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◆【緯度経度】ワシントン・古森義久 中国の偏向に踊るなかれ(2005/01/08)
中国の日本に対する「歴史」糾弾への米国の考察に最近、おもしろい傾向が顕著となってきた。先に結論を簡単に述べてしまえば、中国の日本糾弾には正当な根拠はなく、虚構や偏向の要素が強い、という考察である。
至近の実例では昨十二月にニューヨーク・タイムズが掲載した「中国の教科書は歴史をゆがめ、削除する」という見出しの記事だった。本紙の報道でもすでに紹介したこの記事は同紙のハワード・フレンチ上海支局長によって書かれ、中国では日本側の歴史認識の誤りなどを口実に「日本をたたくことが国民的娯楽となっている」と伝え、「中国の歴史教育こそ近代の歴史についてきわめて選別的かつ大幅にゆがめた見解を供する断片のごたまぜ」だと断じていた。
同記事はその「ゆがめた見解」の実例として「中国は他国を攻撃や侵略したことはないと教え、一九五〇年のチベット侵略も、七九年のベトナム侵攻も教えない」ことや、「朝鮮戦争についても北朝鮮が韓国に大侵攻をかけたことを記さずに、逆に韓国側が米国の支援で戦争を始めたと教える」ことを報じている。
米国側では中国の歴史がらみの教育のゆがみについては実はブッシュ大統領自身までが指摘している。二〇〇二年二月に訪中した同大統領は北京の清華大学での演説で「中国の教科書には『連邦捜査局(FBI)の特別捜査官は労働者の弾圧のために創設された』とか『米国人は伝統的に弱者をいじめ、貧者を弾圧する』という間違いの記述が多い」と述べ、中国の教育の偏向を批判したのだった。
中国の一般国民はこの種の教育や宣伝によって日本や米国についての「知識」や「感情」を形成しているのである。その実態が日本よりもむしろ米国から鋭く指摘されているのだ。
こういう事実は経済同友会代表幹事の北城恪太郎氏らにぜひとも認識してもらいたい。北城氏は中国共産党の対日「歴史」糾弾の一環である靖国神社非難をそのまま日本側に伝達する形で小泉純一郎首相に靖国参拝をやめるよう求めたからだ。日本IBM会長の北城氏は昨年十一月の記者会見で「中国には日本の首相の靖国参拝を快く思わない国民感情があり、日系企業の活動にも悪い影響が出ることが懸念されるため、首相には参拝を控えていただきたい」と要求したのだった。
だが北城氏が日本の国民感情よりも重視するかにみえる「中国の国民感情」なるものはフレンチ記者が「選別とゆがみ」と評する偏向教育を基盤に形成されているのである。しかも中国の国民がこれまで靖国問題などで唯一のニュース情報源としてきた中国官営メディアの報道も偏向をきわめる。
新華社通信、光明日報、工商時報など中国大手のメディアは「日本の政治家たちは戦死者の魂を拝むためではなく、日本の侵略戦争を美化し、軍国主義の復活を目指すために、靖国に参拝するのだ」と報じる。小泉首相が参拝に際し「戦争に反対し、平和を祈る」とか「過去の侵略や植民地支配を反省し、哀悼の意を表する」と言明することなど、一切、伝えない。そして靖国に参拝する一般の日本人までを「日本鬼子」(工商時報)とののしるのだ。
中国当局のこうした「日本の悪魔化」の非は米国言論界でも有数の中国通とされるニコラス・クリストフ氏によって再三、指摘され、警告されている。ニューヨーク・タイムズのコラムニストのクリストフ氏は二〇〇二年一月には「新中国シンドローム(症候群)」と題する論評記事で「中国の日本に関する歴史教育は次世代の中国人たちに日本への憎しみを植えつけることが目的だ」と指摘した。
クリストフ氏はさらに翌年十二月の同紙のコラムで「中国の脅威?」と題し、中国の反日歴史教育があおるナショナリズム高揚は中国が保有する核兵器よりも危険だと警告した。同氏は「中国の日本に対する態度こそ盲目的なナショナリズムが引き起こす不安定の最大の表示だ」と断じるとともに、「中国側の『日本軍が南京大虐殺で三十万人以上を殺した』という主張にはなんの根拠もない」とまで明言したのだった。
北城氏も自国の首相をなじる前に中国側の日本糾弾にはこんな虚構や偏向があることを認識すべきだろう。そうした虚構や偏向は日本での小泉支持陣営ではなく、米国の大統領や有識者が指摘するのである。北城氏の帰属企業のIBMが本拠をおく米国から発せられる警告でもあるのだ。北城氏らにはせめてのこと中国側の「政冷経熱」などという政治標語に幻惑されず、日本の財界が年来、得意としてきた「政経分離」というパスワードぐらい投げ返してほしいところである。
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