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◆【緯度経度】ワシントン・古森義久 日米で異なる「中国人の発言」
米国の首都ワシントンではこのところ、中国に関する討論や報告の集いがまた一段と多くなった。連邦議会の上下両院の各委員会でも、超党派の調査委員会でも、中国の軍事、経済や政治、社会など広範な課題が取り上げられる。議員や官僚、専門家たちが中国や米中関係について疑問を呈し、意見を述べる。あるいは民間の研究機関が中国に関するシンポジウムやセミナーを開き、きわめて具体的なテーマについて情報や見解を活発に交換する。とにかくその頻度やキメ細かさは驚くほどなのだ。
そうした中国関連の集まりで目立つのは中国人の専門家たちの発言である。みなその知識と体験の豊富さとともに、中国の共産党や政府に対しきわめて客観的で批判的なスタンスをみせる点が注視される。四月中旬、議会の米中経済安保調査委員会が開いた中国のマスコミやインターネットに対する国家コントロールについての公聴会では、そんな中国人たちが証人として次々に登場し、中国政府の圧政を正面から非難した。
「中国政府はインターネットの情報の自由な頒布により政治的危険を生むことを恐れる。その結果、インターネットの内容は徹底して監視し規制する。この十数年、インターネットを規制する合計三十七件の法律や規則を公布してきた。だが個々の法律は規定が曖昧なため、解釈は当局の意のままとなった。当局はインターネット警察の網を全土に張りめぐらし、個人の電子メールやホームページに侵入して、共産党に有害な動きを監視している」
こんな大胆な証言をしたのは蕭強(しょうきょう)氏だった。肩書はカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院の「中国インターネット・プロジェクト」の責任者である。元来は一九八九年の天安門事件の際に活躍した高名な民主活動家で、中国当局に迫害され、米国に亡命してきたのだ。
日本で出版された「中国の嘘」という書の著者である中国人女性経済学者の何清漣(かせいれん)氏も、この公聴会で証言した。中国共産党がいかに新聞や雑誌、インターネットを支配し、利用するかを何氏は淡々と、しかし遠慮なく指摘したのだった。この証言の底流は人間の基本的な自由を抑えようとする中国共産党への反発だったといえる。何氏は中国では記者、学者として活動したが、やがて共産党の統治を間接的に批判する「中国現代化の落とし穴」という書を出して一般からは人気を博した。だが当局の迫害を受けるようになり、数年前に亡命のような形で米国にわたる。
この公聴会にはさらに今年、米国に移ってきたばかりの元北京大学助教授の焦国標氏も登場した。焦氏は北京大学で活動中に「中央宣伝部を討伐せよ」という書を出して当局から政治的いやがらせを受けるようになった。なかば脱出のように中国を離れ、いまは米国政府系の研究機関「米国民主主義全国財団」の客員研究員に採用された。焦氏も中国の共産党のメディア支配の横暴を証言していた。
要するに、米国内で中国について発言する中国人には中国共産党の独裁体制に批判的で、その非難や弾劾を堂々と述べる人たちが多いのである。天安門事件後に米国に亡命を求めてきた王丹、魏京生といった民主活動家たちも議会の公聴会にはよく出てくる。
この状況に対し日本はちょうど裏返しのようである。
日本のマスコミその他で発言する中国人たちは、みな本国の共産党の政策を支持するのだ。私自身も一時帰国の際にフジテレビの「報道2001」などで東洋学園大学教授の朱建栄氏、東海大学教授の葉千栄氏、三井物産戦略研究所研究員の沈才彬氏らと意見の交換をしたことがあるが、歴史問題、海洋資源問題、台湾問題など濃淡こそあるが、みなこぞって中国政府の立場を擁護するのだった。それぞれ個人としての意見だとしても、結果は中国政府の主張の支持なのである。
日本と中国の間の言論の体制はさらに対照を描く。日本側では衆議院の議長や元首相までが自国政府の立場への反対を表明する。中国に出かけて日本の政策を非難する日本人の政治家や学者はごく普通である。
ところが中国側は一党独裁の一枚岩、中国政府の政策への反対を堂々と表明する中国人は中国内では存在しえない。まして中国メディアで日本人による日本支持や中国批判が紹介されることはない。だが日本のメディアでは中国人、日本人両方による日本批判が普通なのだ。中国にからむ課題を考えるときは、まず日本のこうした構造的な特徴を念頭におくべきだろう。
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