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◆【戦後60年歴史の自縛】(4)生き続けるGHQ宣伝計画 「ひどくて、ひきょうな国」
占領期に連合国軍総司令部(GHQ)が実施した「戦争についての罪悪感を日本人の心に植えつけるための宣伝計画」(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)は、今も形を変えて教育現場に生き続けている。
東京・九段北の靖国神社にほど近いある千代田区立中学では、女性教員が指導し、「紙上討論」と称する授業を行っている。
三年生の授業では、さきの大戦について日本に謝罪と賠償を求めた韓国の大統領、盧武鉉の演説や、原爆、戦争責任などを取り上げ、感想を書かせた。
生徒たちは、教員の指導と助言を受けて書いた感想文に「日本政府の人たちは頭、悪いんじゃないかと思いました。本当に賢い人は『真実を、きちんと徹底的に教える』と私は考えるからです」「盧武鉉大統領、日本の過去の事実を教えてくださって、ありがとうございました」「国のために死ぬのは右翼の人だけでいい」「(天皇は)最後まで自分のことしか考えられず、心の弱さゆえか、『武力』のみでしか、人々を動かすことができなかった」−などと記している。
教員自身は「大統領への手紙」という形式で「民族差別・女性差別・人権蹂躙の極致とも言うべき日本軍性奴隷いわゆる『従軍慰安婦』についても、(中略)私は、できる限り事実を提示する努力をし、生徒たちに考える時間を与えてきたつもりだ」とつづっている。
東京・瑞穂町のある公立中学校では今年二月、社会科の授業中に「中国の戦争は進歩的で、正義の戦争である」と主張する『毛沢東選集』の一部や、元朝日新聞記者、本多勝一の著書『中国の旅』を引用、日本人が中国労働者の心臓と肝臓を煮て食べたという信憑性が疑われているエピソードなどを抜粋したプリントが配布された。
このプリントを配った教員は別のテスト形式のプリントで、日ソ中立条約について「北方の安全を確保し、南方への侵略を進める目的で結んだ」と記述。日本語ではなく中国語の口語とされる「三光作戦」(焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす作戦)を日本軍が華北地方の村々で行ったとした。
東京・墨田区では、平成十六年度の教育委員会の事業として実施された中学一年社会の学習到達度調査テストで、南京事件について「武器をすてた兵士や女性・こどもを含む中国人が日本軍によって多数殺害されました」などと説明。
そのうえで「中国の人々は日本の行動についてどう思っていたと考えますか。あなたが思うことを書きましょう」と出題し、生徒側から「ざんこくすぎる」「人殺し」「すごくひどくて、ひきょうな国だと思っていたと思う」−などの回答を引き出している。
一方、十年には、小学校社会科教科書の日本史部分について「ほとんど戦争に対する贖罪のパンフレット」と雑誌で語った教科書調査官が、正当な理由なく更迭されている。
十二年度の中学歴史教科書の検定では、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」を取り上げた扶桑社の教科書に、「一般的に広く認識されているとは言えない語句を用いている」と検定意見がつき、この部分は削除された。同プログラムは、文部科学省にとって、触れられたくない過去なのだ。
文芸評論家の江藤淳は著書『閉された言語空間』の中で次のように書いている。
「いったんこの(GHQの)検閲と宣伝計画の構造が、日本の言論機関と教育体制に定着され、維持されるようになれば、(中略)日本人のアイデンティティと歴史への信頼は、いつまでも内部崩壊を続け、また同時にいつ何時でも国際的検閲の脅威に曝され得る」
六年前に自死した江藤の「予言」は、不幸にも現実のものとなろうとしている。
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≪教育基本法も“米国製”≫
「国を愛する心」と「国を大切にする心」のどちらが教育基本法にふさわしいのか−。自民、公明の両党は、「教育の憲法」といわれる教育基本法改正に関する検討会を設けて協議を重ねているが、「愛国心」をどのような表現で盛り込むかをめぐって決着が付かず、今国会でも改正案提出は見送られた。
中央教育審議会が平成十五年三月に「国や郷土を愛する心」を「教育基本法で新たに規定すべき理念」と答申してから、すでに二年半。教育基本法改正案は国会提出の見通しさえたっていない。
「国家主義的、全体主義的、戦前への復古主義的な考えを盛り込むことは断固反対だ」
公明党代表の神崎武法は今年一月、こう強調した。神崎は「教育基本法を改正したからといって、教育現場の問題が解決するものではない」とも言い切った。
実は、教育基本法改正をめぐっては、公明党だけでなく、文部科学省の幹部や、内閣法制局からも「『愛国心』の盛り込みは内心の自由を損ねる」「自民案は教育基本法になじまない」といった反対・慎重論が出ている。
就任当初は、目の前の利益よりも将来につながる教育を優先する「米百俵の精神」を掲げ、教育改革に熱意を示した首相の小泉純一郎は今、教育基本法改正にほとんど関心を示していない。
現行の「どこの国の基本法なのか全く分からない」(自民党幹事長代理の安倍晋三)という条文を改め、「国を愛する心」を盛ることがなぜ警戒され、抵抗を受けるのか。
ここにもGHQの占領政策の「後遺症」が影を落としている。
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GHQは教育政策を特に重視し、昭和二十一年二月に「教科書検閲の基準」を発令。次の五点を検閲対象として挙げ、徹底的に排除した。
(1)天皇に関する用語 現人神、上御一人(かみごいちにん)、天津日嗣(あまつひつぎ)、大君など
(2)国家的拡張に関する用語 八紘一宇、皇国の道など
(3)愛国心につながる用語 国体、国家、国民的、わが国など
(4)日本国の神話の起源や、楠木正成のような英雄および道義的人物としての皇族
(5)神道や祭祀、神社に関する言及など
日露戦争の日本海海戦で、ロシアのバルチック艦隊を破った東郷平八郎元帥が、平成四年に“復活”するまで、ながらく小学校教科書から消えていたのもこの基準が大きく影響したといえるが、「愛国心」もまた大きな被害を受けた。
麗澤大客員教授(国際政治文化論)の西鋭夫によると、GHQの検閲で教科書に記載されていた「愛国心」は赤ペンで消され、黒鉛筆で「国を思うこと」に書き換えられた。
GHQの検閲基準と、教育基本法に対する公明党の主張には、奇妙に符合する部分がある。
GHQは教育基本法案の原案にあった「伝統の尊重」「宗教的情操の涵養」などを削除・修正したが、こうした部分は現在の基本法論議で“復活”が議論されている焦点でもある。
西は、「教育基本法は新憲法の理想を学校教育で補強するために、GHQの指導のもとつくられた。憲法と同じように米国製だ。このことを忘れてはならない。日本人は米国が与える民主主義という甘い蜜の中に、『日本弱体化』という毒が入っていることを知らなかった」と強調する。(敬称略)
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【盧武鉉大統領が「3・1独立運動記念式典」で行った演説】「日韓の関係発展には、日本政府と国民の真摯な努力が必要だ。過去の真実を究明し心から謝罪し、反省し、賠償することがあれば賠償し、和解しなければならない。これは全世界がしている歴史清算の普遍的な方法だ。私は拉致事件による日本国民の憤怒を十分に理解する。同様に日本も逆の立場に立って考えなければならない。強制徴用から『従軍』慰安婦問題に至るまで、36年間の数千、数万倍の苦痛を強いられたわれわれの国民の憤怒を理解しなければならない」(要旨)
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