保守の源流を訪ねて

いざいざと友に盃すすめつつ泣かまほしかり醉はむぞ今夜

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インド訪問記

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人だかりの空港をかき分け、運良く検査官に物をせびられずにゲートを出ると、ここチェンナイは小雨に煙っていた。空港の混雑、出口での白タク(?)、周りにいる物乞いの手、手はいつもと変わらぬ風景だが、三年振りのチェンナイは以前より大分清浄であった。満席のシンガポール航空機からはき出され、機内で知り合った邦人駐在のインド暮らしの愚痴を聞いたのもつかの間、チェンナイにはそんなことは直ぐ過去の話にしてしまうような激しい「生活」がある。

今回初めて迎えを断り、ホテルのリモ(リムジン)で街に向かったが、運転手に「あなたには幸運がついている。何故なら幸運の雨に迎えられたのだから」等とよいしょされた。インド人はおだて上手、たとえ思いつきの一言だと分かっていても、悪い気はしない。

6月のムンバイ出張に続きインドは今年二度目。今回はインド亜大陸東南に位置する人口4百20万人の小振りな港町、チェンナイ(マドラス)を訪れた。シンガポールから約3時間、香港や台北より近い距離だ。インド西北部ムンバイや首都デリー辺りの猥雑さと比べ、ここチェンナイは人口も少なく港町特有の香りがし、その雰囲気が好きだ。内陸都市バンガローに車で四時間程度の距離にある。バーバリーが真似たというマドラスチェックの本場だ。

空港から街中までは数十キロ、普通であれば20数分で行ける距離だが、この「普通」が当地にはなく相変わらずの渋滞で40数分は必要だと運転手は言う。車窓から見えるいろいろな広告を見るともなしに眺めていると、意味は全く不明でも電話番号がやたらに長いことに気づく。そう言えばオフィスから電話する時もいつも苦労するななどと考えていると、車中ではたと膝を叩いた。

そうなんだ、この国の人は数字の長いのを厭わないのだ。国番号を入れて12桁にもなり、番号をのろのろ名刺で確認したりしていると、時間切れで繋がらないことが何度もあった。例えば001 91 44 4200 8051(オフィス)、001 91 98523 06758(携帯)といった番号を一度で覚えるのはそう簡単でない。さすが九九ではなく1717とでもいうのか17x17までのかけ算を諳んじることができる国民というのは凄い。時差が2.5時間(日本とは3.5時間)というのも、何となく象徴的な気がする。

こんな愚にも付かぬことを考えながらやっとホテルに着くと、ホテルではこれから新たなビジネスを一緒に始めることになる友人二人が迎えてくれた。時刻は既に夜12時近く、二人とも酒の臭いをぷんぷんさせていたが、人なつこい顔は相変わらずであった。どちらも日本の船会社の代理店ボスをしていたが、自営化の流れで切られ、自前で会社をスタートしたばかりだと言う。

翌日からは彼ら手配のマルチスズキSwiftに乗り、各社を訪問、会議の連続で延べ何人と会ったか数える気もしないが、インド人との交渉は本当に疲れる。日本では日経などが10年前にChinaに対して行ったのと同様に、「眠れる巨象インドを狙え!」などとインドを一生懸命はやしているが、ことはそれほど簡単に進むとは思えない。

よく「インド人を黙らせるのは日本人を喋らせるのより難しい」となどと言うように、話が延々と続き止まらない。話が已むのを待っていては、こちらの言いたいことの一割も言わずに交渉が終わってしまうはめに陥る。あの平坦な英語で顔を横に振りながら、延々と続く主張を遮らない限り、交渉は先ず失敗すると肝に銘ずる必要がある。如何にこちらのペースで進めるかが第一だが、これが難しい。

インド進出企業は現在286社と聞いた。Chinaに店を張っている日系企業は五千社とも三万社とも言われているが、その比較ではChinaの百分の一から20分の一と言えるが、インドに駐在している日本人から話を聞くとこの少なさは何となく肯けるような気がする。

建物はどこも汚い、不衛生、ちょっと歩けば物乞いにたかられ街中をゆっくり散歩などと言うことは全く考えられない、家族も本人も皆車で会社・日本人学校・ゴルフ場辺りを行ったり来たりするだけの生活。健康診断、食材の買い出しでシンガポールやバンコックに行くのが唯一の息抜きなどといった生活では、この駐在期間はただひたすら堪え忍び蓄財に励み、次のポジションに期待しようなどと思うのが自然の反応かも知れない。

要するに東京、倫敦、紐育、東南アジアで言えばシンガポールあたりの生活に慣れてしまうと、インドという国はどうしようもなく暮らしにくい国と写り、また先に述べたようなインド人のビジネス手法を目の当たりにすると益々「嫌になってしまう」わけだ。

それでも10億を優に超えるこの親日国家と付き合わぬ手はない。古くは「東京裁判」でパール判事がひとり日本を擁護してくれた国だ。甘いことは一切考えずに、印僑と真っ向からお付き合いするのは、戦後の「甘さ」にならされたわれわれ日本人にとっては願ってもない貴重な経験ではないか。そんな感じがしている。

週末、気の良い友人は車を走らせチェンナイ南部の津波被害の地に連れて行ってくれた。一昨年末のスマトラ沖地震による津波被害では公表1万6千人が犠牲になったというが、現地の友人達は「本当はもっと。多分5万人はいると思う」と言っていた。写真の通り、仮設住宅などとは言えない藁葺き掘っ立て小屋に今でも数多の避難民が生活している。生暖かい海風に当たりながら祈りを捧げた。

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