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「できる道理がない」宣言。
東大の情報工学の権威,渡辺茂教授の御著書 1976年
私は、2007年12月7日、東芝を提訴しました。日本語ワードプロセッサの生みの親として,技術者の名誉をかけて,技術発明の名誉はその発明者にあることを世に訴えたかったからです。その提訴の経緯について,ここで詳しく書いていきたいと思います。
私の行った発明は,「できる道理がない」と言われた仮名漢字変換を実用化するために必須の技術でした。それが発明された歴史については「http://www.ne.jp/asahi/kanmu/heishi/index.html」で詳しく述べてあります。
東芝では,2000年前後だったか,「自立自援制度」ということを始めました。内容は「早期退職制度」なのです。しかし,当時,あちこちの企業が早期退職希望者を募るたびに,マスコミで騒がれていました。「xx社も早期退職を開始」などの記事が紙面をにぎわしていたことを覚えておられる人は多いでしょう。東芝はこのマイナスのイメージを嫌って,「自立自援制度」とネーミングを変えたのです。これで,記者の目を逃れることができました。自立とは,字のごとく,会社を辞めて自分でベンチャー企業でもおこして自立しなさいということです。自援なんてことばはありませんね。自分で自分を援助しなさいということです。自立と内容的には同じです。これに応募すれば退職金の割り増しをもらえます。
社内にいても先がないと見越した技術者は,この制度を利用して次々と退職していきました。私の友人,知人も相当数が退職していったのです。彼らは50歳前後でした。ところが,研究所の社員は大学の教員で出る人がほとんどで,この場合,大学に行くのは「自立自援」ではないという屁理屈をつけられて,彼らは退職金の割り増しを行ってもらえませんでした。私のかつての部下も数年前から早く大学に出て行くようにと言われていました。ちょうどこの制度の時期と,行っても良い大学が見つかった時期が重なったので,自立自援制度で退職しようとしたところ,上の理由を言われて退職金割り増しなしで出て行ったのです。
彼は自分から進んで大学に出ようとしたわけではありません。できれば定年まで会社に居たかったのだと思います。なかなかポストのない首都圏を離れて地方に行くことになり,単身赴任などで現在の生活形態を大幅に変えることになるからです。辞めよと勧告されて辞めたにもかかわらず,自立自援ではないと言われたのです。なるほど,自立自援制度とはそのような使い方があるのかと東芝の本社スタッフの知恵の深さに私は感心しました。マスコミの目をくらますだけでなく,退職金割り増しを削減することもできる制度だったのです。「早期退職制度」ならこんな屁理屈は付けられないでしょう。
研究所の中には親が自衛業の人がいて,彼の場合,親の後を継ぐという名目で割り増し金をもらい,実は大学に就職しました。この人は,キャリアロンダリングだなどと陰口を叩かれていました。しかし,この話を事業部の知人にした所,事業部ではそんなことはないといわれました。うちの部で大学に出た人もいたが,ちゃんと割増金をもらっていたというのです。つまりは,割増金を出すか出さないかは部署の担当役員の腹づもりで決まるようなのです。割増金を少なくした役員は成績が良くなり,昇進できるということなのでしょうか?現実をみると確かに,そうなっています。
技術立国を支える技術者がこのような使い捨ての状態にあっては,誰も技術者になりたいとは思わないのは理の当然です。文系でも使い捨ては同じかもしれません。同じであるなら,まだしも文系の大学で楽をしようと考える若者を責めることが誰にできましょう。1980年代後半のバブルの時代,工学部から銀行に就職する学生がかなりの数いました。人間はなぜ努力するのか?大半は,良い生活をしたいと思うからで,良い生活を保障するものは高い収入です。これは大方の真実でしょう。工学部を出ながら,製造業より収入が圧倒的に良い銀行へという風潮を誰が非難できるでしょう。日本がローマ帝国のごとく滅びることがないように,技術立国を支える技術者の努力に報いる処遇をする必要が,企業にはあると私は考えています。
私は上のような環境の中,2004年に56歳で定年扱いで退職しました。私が,「発明者の名誉をかけた訴訟である。技術立国を支える技術者の待遇改善を訴えたい」と言っているのは,この退職と関係があるのです。私は,1970年代当時不可能と言われた仮名漢字変換を実用に導き,日本語ワープロを製品化しました。ところが・・・その栄誉は人事的には私には付けられていないことが退職時に明確に判明したのでした。そのため,非常に劣悪な条件で退職を余儀なくされました。このような事件がなければ,精神的にも,肉体的にも,経済的にも大変な負担を伴う訴訟など行うこともなく平和な人生を送ったことでしょう。これが,「発明者の名誉をかける」の意味なのです。
そして,この訴訟を通して,すべて,技術者の発明の名誉は発明者に帰属するものであることを訴えているのです。私の事件は飛行機を発明したライト兄弟が名誉を奪われた事件と非常に良く似た経緯をたどっています(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E5%85%84%E5%BC%9F)。「不可能といわれていたこと」,「それを不断の努力によって成し遂げたこと」,「その名誉を権力によって奪われたこと」などです。このような不名誉な事件を日本が再び起こすことのないようにと願って。(続く)
東芝ワープロ特許訴訟プレスリリース
http://www.ne.jp/asahi/kanmu/heishi/pressrelease.html
東芝ワープロ発明物語:車上の技術史
http://www.ne.jp/asahi/kanmu/heishi/index.html
プロジェクトX物語
http://www.shonan-it.ac.jp/each_science/info/amanoken/jframe.html
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