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フロベールが書きかけた未完成の遺作「ブヴァールとペキュシェ」の第二巻にあたるのが「紋切型辞典」など。
「ボヴァリー夫人」を書いている30歳頃からその企画はあった。
恋人ルイーズ・コレへの手紙の一部。
ぼくの考えている書き方で書けば、そこではすべてを槍玉にあげながらも、いかなる法律もぼくに噛みつくことはできないような具合になるはずです。それは世間で是認されている一切のものを歴史的に顕彰する体裁をとるでしょう。多数者の言い分はつねに正しく、少数者のそれはつねに誤っていたことを証明し、偉人をすべての愚者のために、殉教者をすべての冷血漢のために犠牲に供する…こと文学に関しても、凡庸こそは万人の手中にあるがゆえに唯一の正統なものであり、あらゆる種類の独創は危険、愚劣、その他の理由から蔑視すべきであることを明らかにする。かくて、この辞典は、およそありうるすべての題目について、礼儀をわきまえた慇懃な人物となるために世間で口きしなければならぬすべての言葉をアルファベット順に網羅するでしょう。
たとえばこんなふうに、
芸術家 みんな利害を超脱している。
フランス 統治者として鉄腕を期待する。
ボシュエ モーの鷲。
フェヌロン カンブレの白鳥。
建立 由緒ある記念建造物についてのみ用いらる。等々。
この全体が完成すれば散弾のように恐るべきものとなるでしょう。端から端までぼくが勝手に創作した言葉は一語といえどもあってはならず、いったんこれを読んだら、人さそのなかの文句がおのずと口に出るのを恐れるあまり、話すこともできなきなる体のものにしなければなりません。
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