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随筆集である。
「あと半世紀は生きたい」という随筆を一部引用。
あと一ヵ月経つと、私は満で四十歳になる。初めて十代となった時、二十代になった時、また三十に足を踏み入れた時、それぞれの感慨があったが、今度四十男となるの感慨は、まだなって見ないからハッキリは判らないが、前三者にくらべてかくべつ強烈のような感じがする。
ふりかえって見て、十代、二十代よりも、三十歳から四十歳までの間が、一番長かったようだ。途中で数え年から満に切り替ったから、実質的にも一年数ヵ月長くなったが、生きて来た感じの上ではもっともっと長い。周囲の状況の変化がめまぐるしかったせいもあるのだろう。
三十歳の時、私は戦争のさなかにいた。敵から殺されるということが、そのころの最大の脅威であった。戦争が終ると、今度は飢渇がその脅威にとってかわった。
どんな脅威があろうとも私たちは絶望することなく生きて行かねばならぬ。四十初頭の決意として、私はさしあたりあと半世紀は生きようと思う。西暦紀元ニ千年の祭典が、世界政府によってパミール高原かどこかで、にぎにぎしく開催されるだろう。その祭典に私は日本地区の文化人代表の一人として出席したいと思う。その節、梅崎春生翁は齢すでに八十五歳になっているが、毎日の食事きプランクトンやクロレラ、それらの適量の摂取により、髪は壮者のようにつやつやと黒く、腰もまだシャンとして全然曲っていない。さまざまの脅威に耐えてきただけあって、眼光けいけいとして鷲のごとく、精神もピンと張り切っている。そういうカクシャクたる翁が、式典の台上に立ち、荘重なる口調で堂々と「平和の辞」を述べる。万雷の拍手が周囲からまきおこるであろう。
その日まで生きようというのが、私の第一期の計画である。計画通りうまく行くかどうか。
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