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「彼はいつも、十分で行く、と言う。
五分で来られる距離だが、出る支度に五分かかるのかと最初は思っていた。または、余裕をもって出るためかと。
三回目くらいに気づいた。彼の手から、石鹸の匂いがした。
「手を洗っていらっしゃるの」
「あぁ、いつも来る前に。今日は上着を着替えたりして手間どったから、石鹸が十分落ちていなかったんだね」
この部屋に来ると、彼は私にすぐ触れることになる。だから、いつも手を洗ってくるんだ、と気づいて、ちょっと心を動かされた。いろいろな意味で大切にされている、と感じた。さりげなく気を使っている。
清潔感だけでなく、清潔な人だ。(母もそういう面があった。よく手を洗う)
私のからたが汗まみれになっていても、私の汗をなめてくれるのに、彼のうっすら汗の滲んだからだに寄り添うと、汗臭いよ、と言ったりする。
私の食べかけのケーキをいたずらで食べたり、私のおしっこ、拭いてくれたりもした。
小さなことが、私にはうれしい。愛されている。男の人に。それを実感する。」
「いつも私が欲情して、洸さんの顔を見ると、すぐ、してっ、て言ってるね」
「そうでもないよ。私もきみの顔を見ると、すぐきみの裸が見たくなる」
「でも、欲情はしてないでしょ」
「年の功でうまくごまかしているのさ」「若いときは、その気になるなるとペニスが勃ってきて、それを悟られないようにするのに困ったものだ。外でも、どこでも遠慮なく、そうなってくる」「今はうまく、気を紛らわして、コントロールができるようになっているだけ」
「私、洸さんが欲情してるかどうか分からない。じっと見つめているとき、そんな感じがすることあるけど、それは私の目が欲情に眩んでいるからかもしれないし」
そういうとき、彼はすぐそれを察して、私が、して、と言わないために私の望む行動をしてくれるので、して、ということはそれほどないけれど。
「きみの方から、したい、と言うのは言いづらいだろうね。私がもっと察して、きみの気持の負担にならないようにしなければね」
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