|
……静かに、涙が頬を流れるのを感じた。彼は黙っている。
私が父のいない子だったことを彼は知っている。でも、彼は父親になったことはないはず。でも、彼も私の気持は分かっているのだろう。
甘えたい、父親に。子どものように。それが分かって、もっと甘えたら、と言ってくれたに違いない。
彼は私が泣きやむのをじっと待っていた。私を見てはいないのだが。
私がそっと涙を拭くとすぐ、
「おんぶしてあげようか」
と言い、立ち上がって、私を子どもを背負うように、おんぶしてくれた。私の両脚を腕にかかえて。
心が安らぐ。彼と接触しているから、からだが暖かく、体温が快よく、じーんとしてくる。彼はそうして部屋のなかをぐるぐる何度も回ってくれた。
「大きな赤ちゃんだから、重くなってきた」
と言って、私を前に抱き抱え、ソフアに座った。
「泣きたいときは、いつでも泣けばいい。私と二人のときには」
と彼は微笑んで、私の頬に残る涙のあとをキスしてくれる。
私は快い安らぎのなかにあって、彼にくっついて横になった。
「こうしてていい」
「いいよ、ジュンコちゃん」
私はやっと楽しくなり、子どもの頃のようにコロコロと笑った。
私を癒してくれる、彼のこの優しさは何なのだろう。私は多分、母を失った悲しみを、心の底深く押し殺していたのに違いない。
彼の優しさは、彼が悲しみを十分に知っているから、相手の悲しみがよく分かるのだろうと私は思った。
彼は悲しみを、子どもの頃から、ずーっと抱えて生きてきたのだろう。私がひとりの彼を思い浮かべるとき、彼がひどく孤独に思われるのは、それが彼の本当の姿だからだろう。
彼は私を愛してくれる。でも、私は彼の孤独を癒しているだろうか。私は若くて彼を癒すような力はない。私が彼のものになり切れば、そして彼の悲しみを少しでも代わりに背負うことができれば。
「洸さん、私、甘えてばかり。私は洸さんに何もできないわ」
「きみと出会ったことは私にとってこの上ない喜びだよ。楽しそうなきみを見ているだけで、私は心が和らぐ」「何もしてくれなくていいんだよ」
そう言って、
「ジュンコはいい子だね。美しくて、心がやさしくて。かわいいジュンコ」
彼はまた、キスをした、甘い甘いキスをした。私は彼に抱きついて、心もからだも心地よくとろけていった。
|