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末期ガン患者入院記録

私立吉行淳之介研究会

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「吉行淳之介を読もう」という意図だけの何の特典も義務もない研究会です。ご参加下さい。
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吉行淳之介の ケータイ投稿記事

人間像ついてはもうたくさんの本が出た。
吉行の作品分析の本が出なければいけない。川村次郎のものは吉行晩年に触れていない。吉行作品全体を見通すものがほしい。

私が20歳若かったら、それに挑戦するのだが。
今は本も揃っていない惨状なので書くことは不可能だ。せめて一つの短編をバルトばりに分析してみたいが。

ややこしい仕事だが、作品を論じるためには欠かせない。
私は吉行の「星と月は天の穴」の本文確定のために、それまでに出版された 9種類のテクストを比較した。
それだけで疲れてしまう。
肝心の論考は未完成である。まだ10分の1にならない。

吉行論 ケータイ投稿記事

吉行淳之介についての初めての著作となったものは川村二郎の「感覚の鏡」である。 それまでにも雑誌などには吉行論がかなり掲載はされていたが、著作とはなっていなかった。
川村の吉行論は、力の入ったいいものであるが、私の好みには合わなかった。細かなことは省く。
その後、しばらくして川村二郎が内田百間論を出版した。題名を忘れてしまっている。調べてみると、どうも「無意味の涙」というのがそれらしい。
で、何気なくそれを読んだのだが、とても面白く、それも吉行淳之介論を読んでいるように感じた。不思議な感覚である。「感覚の鏡」は再読する気にならないが、この内田百間論はもう一度読んでみたい。そう思いつつ、本が見つからず、もう十数年になる。
どこかに紛れこんでいるのかなぁ。今は絶版で手に入らない。

吉行のエッセイにそういうタイトルのものがある。
ある文章を探そうとして同名のタイトルの文庫本を開いてみた。
しかし、探している箇所は見つからない。
それは次のような内容の文章だった。
街角の煙草屋へ行くのもしんどいことがあって、タイトルは「街角の、煙草屋までの、旅」というように息切れした感じに受けとってほしい、という文章である。しかし、いくら探しても見つからない。私がモウロクしているのか、吉行が例のごとく改訂したのか。
その代わり、次のような文章を見つけた。
ヘンリー・ミラーの文章を引用し、それを自己流にねじ曲げると「街角の煙草屋へ行くのも、旅と呼んでいい」ことになる、という部分である。

姫野カオルコの愛読者の方ならご存じの話である。姫野自身が「彼の声」というエッセイを書いている。
「…高校生のころ、吉行淳之介と三ヶ月に一度くらい、電話でお話をしてもらっていた。昭和五十年ごろのことである。」
レコードと本を売っている店の知り合いからもらった文藝春秋社の文藝手帳の住所録で電話番号を知り、ある日、いつもしげしげと見て、網膜に焼き付いた電話番号にダイヤルする。
吉行が出て、相手が未知の人間だと分かると、話相手をしてくれる。
おしまいに吉行は「またね、またかけてきなさい」と言う。
こうして、たわいない会話を姫野はその後、何度かすることになる。
以下引用。「やがて高校を卒業した私はめでたく田舎を脱出して東京にやってきた。そして昭和五十三年の秋のある日、吉行淳之介に訴えたのだ。
「私は先生のことを愛している!」大きな声で、というより叫んだ。夜の一時くらいだった。「愛している!」くりかえした。吉行淳之介はなにか言おうとして、すこし咳込んだ。「ああ、そんなことをいきなり言うから咳が出た」
「でも、愛している!」私がなおも叫ぶと、吉行淳之介はしずかに笑った。
「ぜったいに愛している。会ったことがなくても、先生の本を読んでいる時間は先生の精神と私の精神はふれあっていると思う」「ぼくもそう思うよ。そうであってくれなくては意味がないと思うもの」「だから愛してもおかしくはない。だから愛している!」
おそらくこの先、私が人生を終えるまで、ここまで強くはっきりと「愛している!」とだれかに言うことは、もうないのではないかと思う。若さゆえの猛進であり、猛進できる相手を現実世界で一人も摑みとれぬまま、猛進する若さを、すでに私は失ってしまった。
「愛している!」
「愛している!」
電話に向かって私は叫んだ。
すると吉行淳之介は、「きみ、「雪国」っておぼえている?」と言う。それは、いつくしみ深い声であった。
「あれに葉子という子が出てきたでしょう。「駅長さあん、駅長さあん」って呼んでた子。きみの声や話し方は、あの子を思いだすよ」
いつくしみ深いながらも、気さくな音質の声であった。
「ぼくでよければ、話し相手になってあげるから、またいつでも電話をかけてきなさい」
私は今でもあの夜の吉行淳之介の声を思い出せる。そして、もう電話してもその声は聞けないなだと知る。


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