遠い蒼空

末期ガン患者入院記録

昔、書いた小説(など)

[ リスト | 詳細 ]

読んでもらう程のものではないです。
「遠い蒼空」という題名です。
記事検索
検索

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 前のページ | 次のページ ]

午前中の試験が終わり、弁当を喰ったあと、退屈なのでオレは教室を出た。
城跡のなかに校舎がある。周りは土手に囲われている。土手には大きな樹木がまばらに並んでいた。
土手に上がる道を見つけ、石を敷いた小路を上がっていった。
半ばあたりで小路は折れ曲がっている。上から足音がした。
オレは足を止めて、上を見上げた。女だ。制服だから受験生らしい。相手も立ち止まり、一瞬、顔を見合せた。
女はすぐ目を伏せて、オレの脇を通り抜けて下りていった。
オレはその後ろ姿を見てから、小路を土手まで上った。樹木の間に木製のベンチがあり、コートを着た20代くらいの女が座っていた。さっきの受験生の連れのように思えた。
オレは反対方向に足を運び、お堀を眺めた。水は僅かしかない。
あの受験生の眼差しがまだ目蓋に残っている。綺麗な子だな、と感じ、あの制服はどこの高校だろうと考えたが、思い出せない。
しばらくいて、教室に戻った。
あの受験生とはそのあと顔を合わせることはなかった。

横顔が見えた。
あ、誰だっけ……と思い、知人かと一瞬、見間違えた。なぜだろう。
見たことのある顔だ、と感じたのだが、それは違っていることにすぐ気づいた。
しばらく見つめていた。惹きつけられるように。
地下鉄の車内である。かなり混んでいた。女はその人混みのなかにいた。何気なく目についたにすぎない。
電車が停まった。人の波に押され、私はその駅で降りた。
エスカレーターを上り、改札を出る。女の横顔が目に残っている。女と言っても若い。二十歳前か。
似たような女のことに思いおよぶ。知人であるはずはない。私が知っていた女はもう五十ニ歳になる。

忘れていたわけではない。忘れることなどできはしない。
三十年、いつも記憶の真ん中にそのことはあった。
そんなに遠くにいるわけでもないのに、会うことは考えなかった。
ためらいはある。会おうと考えないように抑えているうちに、それが当然になった。
あの思い出は封印しなければならない、と決めていた。

(第二部、初めの方)
西の空が燃えているようだった。
「夕焼けがきれいね」
十一月だったと思う。
その日、そんなに帰りが遅くなったのは図書館室へ寄ったからだ。
東門近くでヨウコを待っていて、
「オレ、図書室で本を借りてくるから」
と云うと、ヨウコも
「私も図書室へ行くわ」
と云い、三十分ほど遅くなり、それから二人でいっしょに帰ったからだった。
夕空は美しく、その下で見るヨウコはいつも以上に輝いて見えた。


(第二部、終り近く)
ヨウコの胸が息をするたびに大きく上下する。深呼吸しているように。
オレもずーっとどきどきと鼓動がし、時々大きく息を吸った。

(第二部。男の若い頃の手記)

「マスターベーションするとき、どういうもの見てするの」
「それは、どういうっていうか……ユウコのことを考えたりして……」
「私とセックスする前のことだよ」
「まぁ、そりゃ、テキトウに……雑誌の水着写真とかさ」
「ヒロシは嘘つけないね。すぐ分かっちゃう」「本当のことを云えばいいじゃないの」
「云いにくいからな。怪しげな雑誌を読んだりして、いろいろと想像するの」
「見せてほしいな、そういう雑誌」
「いや、それは人に見せるようなものじゃないから」
「ますます見たくなってきたよ。私、そういうの見たことないから見せてよ、一度」
オレは以前、オナニーに使っていたエロ雑誌を持ってくることになってしまった。
ユウコに渡すと
「何でこんなに厳重にカヴァーしてあるのよ」「なに「夫婦生活」、へー、こんなのにヒロシくんは刺激されてたのか」
「悪かったな」


(時間は前になるが)
「私、パンティ穿いてないよ。スカートの下、シミーズだけ」
ユウコの目がオレを誘っている。オレはユウコの誘いに容易に乗るのは癪だったが、オレのからだが、ユウコのことばに反応してしまっている。
少し道を外れて、暗い公園の木陰で、立ったまま、ユウコを抱きしめた。服は着たまま、ペニスだけ出して、オレはユウコのなかに入った。
ユウコは爪先だって、オレにしがみついてきた。
ユウコを少し抱き上げる形で、オレはペニスを左右に動かした。ため息のような、押さえた声をユウコが洩らし、オレの動きにつれて、声が荒くなった。
ユウコはイッたらしく、からだの力が抜けた。
「もいちど部屋に戻ろうか」
ユウコは満足していない。オレもおしまいまでしたかった。

……静かに、涙が頬を流れるのを感じた。彼は黙っている。
私が父のいない子だったことを彼は知っている。でも、彼は父親になったことはないはず。でも、彼も私の気持は分かっているのだろう。
甘えたい、父親に。子どものように。それが分かって、もっと甘えたら、と言ってくれたに違いない。
彼は私が泣きやむのをじっと待っていた。私を見てはいないのだが。
私がそっと涙を拭くとすぐ、
「おんぶしてあげようか」
と言い、立ち上がって、私を子どもを背負うように、おんぶしてくれた。私の両脚を腕にかかえて。
心が安らぐ。彼と接触しているから、からだが暖かく、体温が快よく、じーんとしてくる。彼はそうして部屋のなかをぐるぐる何度も回ってくれた。
「大きな赤ちゃんだから、重くなってきた」
と言って、私を前に抱き抱え、ソフアに座った。
「泣きたいときは、いつでも泣けばいい。私と二人のときには」
と彼は微笑んで、私の頬に残る涙のあとをキスしてくれる。
私は快い安らぎのなかにあって、彼にくっついて横になった。
「こうしてていい」
「いいよ、ジュンコちゃん」
私はやっと楽しくなり、子どもの頃のようにコロコロと笑った。
私を癒してくれる、彼のこの優しさは何なのだろう。私は多分、母を失った悲しみを、心の底深く押し殺していたのに違いない。
彼の優しさは、彼が悲しみを十分に知っているから、相手の悲しみがよく分かるのだろうと私は思った。
彼は悲しみを、子どもの頃から、ずーっと抱えて生きてきたのだろう。私がひとりの彼を思い浮かべるとき、彼がひどく孤独に思われるのは、それが彼の本当の姿だからだろう。
彼は私を愛してくれる。でも、私は彼の孤独を癒しているだろうか。私は若くて彼を癒すような力はない。私が彼のものになり切れば、そして彼の悲しみを少しでも代わりに背負うことができれば。 
「洸さん、私、甘えてばかり。私は洸さんに何もできないわ」
「きみと出会ったことは私にとってこの上ない喜びだよ。楽しそうなきみを見ているだけで、私は心が和らぐ」「何もしてくれなくていいんだよ」
そう言って、
「ジュンコはいい子だね。美しくて、心がやさしくて。かわいいジュンコ」
彼はまた、キスをした、甘い甘いキスをした。私は彼に抱きついて、心もからだも心地よくとろけていった。

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
遠い蒼空
遠い蒼空
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索

標準グループ

過去の記事一覧

Yahoo!からのお知らせ

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事