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(前に書いたようにこの断片はYが書いた部分がある。エロい部分はかなりYとの経験をもとにしている し。以下の断片はYの草稿のままに近い) 「ときどき彼がひどく寂しそうな横顔を見せることがあった。私と対面していないときで、私がシャワー をおえて、リヴィング戻るときとか、彼がソファに座っている横顔をふと見るときなど。 「洸さん、よく寂しそうな顔をされるのね」「何を考えてらしたの」 「え?別に寂しくなんかない。ちょっと考えごとをしていただけだよ」 そういうふうに見えたのか、彼の孤独が彼の身についた本質なのか、私には分からなかった。」 * 「私がいたずらで、一度かくれんぼをしたときのことは胸が痛くなる。 ソファで話をしていて、彼がトイレへ入った隙に、私はそっと寝室のベッドの下の狭い隙間に滑り込 だ。ベッドカヴァーの陰になって暗いのでまず分からない。私の方はリヴィングが見える。 彼はリヴィングへ戻り、ソファに座り、左右を見回していたが、そのうち「ジュンコ」と呼んだ。しばら く間をおいて、ドアのところへ行き、内側からカギがかかっているのを確かめ、靴があるのも確かめた。 寝室も覗いて確かめ、キッチン、バス、そしてトイレへも。いないのを見て、リヴィングへ戻り、また 「ジュンコ」と少し大きな声で呼んだ。 三つある窓を開けて外を見て、なお初めと同じことを繰りかえした。 「どうしたんだろう」と小声で言った。 十分近くたった。 彼はリヴィングの中央で途方にくれたように立っていた。 心細さそうに、迷子の幼児のように・・・ 何て寂しそうな姿だったろう。いとおしくなって私はそっと足をしのばせて、寝室を出て、彼の後ろに立 った。こんなことしなければよかったと思いながら。 気配で振り向いた彼は、「どこへ行ってたの」と、ほっとした表情で私を見た。 この人は孤独なんだ・・・私は「ごめんなさい」と謝った。 「かくれんぼしてたの」 「なんだ、かくれんぼだって」と苦笑いし、 「君が黙って外出するはずはないから、本当にいなくなったのかと思ったよ。ジュンコは私の妄想がつく りだした幻だったのか、と一瞬思った」 「ごめんなさい」私は彼の胸に顔を埋めた。 彼はさっき、おきざりにされたというおそろしい孤独感をもった子どもだったということが彼の言葉から 伝わってきて、母が死んだときの私の茫然とした日々を思い出した。 私はめそめそ泣くのは嫌いだったが、このとき初めて彼の前で泣いてしまった。彼は嫌がるだろう。 私がしゃくりあげて泣いているのを見て、彼は「泣いたりしてバカだなあ。すっかり騙されてしまった」 と言い、私の涙を舌でなめて拭いてくれた。 私は、騙す、という言葉に胸を突かれた。 私は彼を騙している、嘘をついている。彼はそれを知ったらどう反応するだろう。」
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昔、書いた小説(など)
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読んでもらう程のものではないです。
「遠い蒼空」という題名です。
「遠い蒼空」という題名です。
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これも使わなかった部分。一部の女性の語り。 * 私の方から彼に愛撫をしたことはあまりない。 ひと休みして、ベッドに横になっているとき、彼の胸や腕や腰をなめたりはした。ときにはそのままペニ ス近くにまで近づいたが、それ以上すると彼がそれとなく拒んだ。ペニスをなめさせてくれたのはずっと あとになってからだった。 彼のペニスを手で触れたことは何度もある。触れていると大きくなってくる。 「そんなことをしちゃ、またしたくなるじゃないか」と彼は笑う。 私は曖昧に笑う。したいのは私の方なのだ。顔が赤らむ。 「まだ、できる?」 * ベッドで彼のからだに凭れて、上を向き、彼の優しい目を見つめる。 私は悦びと幸せでほほ笑む。 愛し、愛されていることが、とても嬉しい。 * 外でしたことはないが、私だけがいったことは何度かある。 私が欲情したとき。 彼にキスされ、抱きしめられて、私は熱くなって、声を偲んでいった。 プールの三度目のおしまいのとき、シャワー室で。 演奏会へ行った帰り、薄暗い路地で。
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しろねこさんに唆され(ついその気になってしまうのです)、猥褻な部分を書いてみます。エロ小説とし ても下手なのですが。 一部の女性の語りの部分のベッドシーンの片鱗だけ。ただ、これは使わなかった反古です。 * 彼が私のなかへ入ってきて、私はオルガスムスの大きな波を漂う。ヴァギナが痙攣し、からだが熱く、痺 れて思わず声が出る。 ・・・意識が戻ってくると、私は彼にしっかりと抱き締められている。彼は私のなかにいて、全く動かな い。私は汗に塗れている。少し汗ばんだ彼のからだの匂いを胸のなかに深く吸い込む。 彼がペニスを動かすたびに私はまた、ゆっくりとオルガスムスへ向かってゆく。 長いオルガスムスの間の彼がじっと私のなかに入ったままで動かない時間が私は好きだった。快感の余韻 にからだは痺れていて、次の快感を待つ私のからだが、ひととき休む短い時間。 長く泳いでいて、しばらく、からだを水に浮かして休むときに似ている、と私は思った。 * からだじゅうを愛撫され、おしまいは彼が私のなかに入ってくる。・・・ 私を抱き締めているが、彼はもうキスはしない。舌は使わず、指で私のからだを静かに触れる。・・・ 私は目の前の彼の唇に唇を重ねようとした。彼は少し唇をよけようとした。 なぜ、キスしてくれないのか・・・あ、そうか、彼の唇は私のヴァギナの愛液を吸ったあとだから・・・ 彼は唇を合わせた。ごくかるく。 君の匂い、と彼が言う。 それを聞いて、私はからだが一層熱くなったように思った。
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ある大手通信社の注文で書いた文章です。そんな雑誌が出ているとは知りませんでした。 60歳になったから注文がきたらしいので、誌名に合わせて健康のことを書いています。一部略。 「最近、自分の年齢とうまく折り合いがつかない。六十歳であることが信じ難いのだ。 十代の頃、三十歳の自分を想像することは困難だった。三十歳の頃、五十歳の自分は、やはり予見できな かった。しかし、五十歳になった時には、半世紀生きてきたんだな、という感慨があった。五十代は瞬く 間に過ぎた。六十歳の誕生日を迎えた日は憂鬱だった。昨年の暮れに膝を骨折して、リハビリ中だったた めでもあるが、もはや老人と呼ばれてもおかしくない年齢に足を踏み入れたということは正直言って嬉し くない。 学生の頃、小説を乱読していて、よく、一生の間に何冊の本を読むことができるのだろうかと考えた。研 究を生業とする仕事柄、本を読むのは生活の一部だが、近頃は雑用に紛れて、本を読む余裕がなくなって いる。が、今なお、読みたい本は増えることはあっても減ることはない。老化する一方の頭と目に抵抗 しながら、一体あとどのぐらい読めるのだろうか。 せめて、週にニ、三冊は読みたいと思いながら、自宅にも大学の研究室にも、未読の本がうずたかく積み 上げられ、山をなしている。溜息が出る。 読書に限らず、したいことは年とともに増すばかりで、あれもしたい、これもしたい、と好奇心だけは 旺盛なので、もっと時間がほしい。ところが、時間は加齢につれ、素早く流れてゆく。一年はあっという 間だ。これからは一段と早く時間が過ぎてゆくのだろう。そう思うと気がせく。 そろそろ身辺の整理をしないといけない時期だろうが、こんな調子ではそれも覚束ない。悠々自適の日々 を送るとか、悟るなんてことは一生できないだろう。俗塵に塗れて、あれこれ悩みながら、まごまごしな がら、死ぬまで生きてゆくのだろう。 毎日は同じように過ぎてゆくようで、実は一日一日が初体験の連続なのだということを、この年になって 今更のように実感している。」 これを書いて半年後、いきなりの病気で入院し、その後退職をすることになった。全く人生は先が見えな い。
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よく無人島へゆくことになったら、持ってゆく一冊の本は何かというアンケートがある。 一番好きな本は何かという質問であろう。 本は一冊では無意味だ。数十冊でなければ。 それでも敢えて選べと強いられたら私はどう答えるようか。 自分が書いた名も知られていない本を持って行こうか。 いや、それよりも、これまでに書いた小説の草稿を持参しよう。そのなかには、私がこれまでに読んできた本たちの記憶が遍在していて飽きることはないだろう。 大半は余りの下手さに破棄してしまったから、小さなダンボール一つですむ。 発表したこともなく、誰にも読まれていない原稿。 去年から、さまざまな方々のブログを読むようになって、みなさんの文章の上手さに驚いている。
ブログで小説を書いていらっしゃる方たちも巧い。 そうした文章を読んできて、拙い草稿をブログの場で発表しようという気も失せた。 「遠い蒼空」という私のブログの題名は以前に書いた小説の題名だということを明かしておくに留める。 完成できなかったその小説は60年代と80年代とを跨ぐエロ小説だった。 他にも一度使ったから、これで三度目なのです。 |



