遠い蒼空

末期ガン患者入院記録

ネルヴァル「シルヴィ」訳

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シルヴィ(5 ) ケータイ投稿記事

私たちが踊っている輪のなかに、アドリエンヌと呼ばれる金髪で背の高い美しい娘がいることに気がつくやいなや、突然、踊りの規則に従って、アドリエンヌひとりが私とともに輪の中央に立たされた。背丈はどちらも似たようなものだった。私たちは接吻するように言われ、踊りと合唱は今まで以上に勢いよくぐるぐる回りだした。接吻をしながら、私は彼女の手を強く握らずにはいられなかった。金色の髪の長い巻き毛が私の頬にかすかに触れた。この瞬間から、未知の動揺が私を捕えた。
美しい娘は、踊りの輪に戻してもらうために唄を歌わねばならないのだった。みなは彼女の周りに腰を下ろした。すぐに、みずみずしく心に染みわたるような、霧深いこの地方の娘たちの声によくあるややくぐもった声で、彼女は古くから伝わる憂愁と愛に満ちたロマンスの一つを歌った。
彼女が歌い進むにつれ、大きな木々から影が降りてきた。そして射し始めた月の光が、じっと耳を傾けている私たちの輪からひとり離れた彼女の上に落ちた。彼女は歌い終わった。が、誰ひとり、その沈黙を破ろうとはしなかった。かすかな靄が集まって芝生を被い、草の葉先を白い玉となって伝わった。私たちは天国にいるかと思われた。

お断り:「シルヴィ」の翻訳は中断致します。再開の機会は多分ないと思います。ネルヴァルの流麗なフランス語を日本語にするのは不可能に近いと思い知りました。        

シルヴィ(4 ) ケータイ投稿記事

   2 アドリエンヌ

私は帰宅し床についたが眠ることができなかった。うつらうつらしていると、幼少年期のあらゆることが記憶に甦ってきた。
私が思い出したのは、尖った屋根に、黄金の石で組んだ赤味のかった正面を持つ城館であり、緑に縁取られた大きな広場であった。夕陽が燃えるような光でそれらの木々の葉むらを貫いていた。若い娘たちが、母親から伝え聞いた古い唄を歌いながら、芝生の上で輪になって踊っていた。
私はその輪のなかで唯一の男の子だった。私はそこに、隣り部落のまだほんの小娘であるシルヴィを連れてきていた。彼女はとても活発で生き生きしており、黒い眼と端正な横顔、そしてうっすらと日焼けした肌を持っていた。私は彼女だけを愛していた。彼女だけしか眼に入らなかった、その時までは!

シルヴィ(3 ) ケータイ投稿記事

(少し省きます。「私」は閲覧室で新聞の小さな記事に目をとめます。それはロワジーでの花束祭りについての記事でした。)

この何気ない言葉が私に全く新しい一連の印象を呼び覚ました。それは長く忘れていた田舎の思い出、少年の頃の純粋なお祭りの遠いこだまであった。角笛と太鼓が部落や森のなかで鳴り響く。若い娘たちは花輪を編んだり、歌いながらリボンの飾りのついた花束をそろえる。

シルヴィ(2 ) ケータイ投稿記事

この一年間、私はまだ、彼女が舞台外でどんな生活をしているのかを知りたいと思ったことはなかった。彼女の姿を映し出してくれる魔法の鏡を曇らせるのを怖れていた。女優としてではなく、女としての彼女に関するいくつかの噂を聞いた、いや、聞き流した程度である。私の伯父が早くから私に教えてくれたことは、女優というのは女ではない、自然が彼女たちに心というものを作ってやるのを忘れたのだ、ということだった。私は女優というものすべてに偏見をいだく習慣がついていた。
私たちは異常な時代に生きていた。私たちにできることは詩人たちの象牙の塔しかなかった。私たちは孤独の純粋な空気を吸い、黄金の杯で忘却を飲み、詩と恋に酔いしれるのだった。恋、ああ!それは漠然とした形への、薔薇色や青い色への、観念的な幻影に対する恋であった!近くで見ると、現実の女というものは私たちの持つ率直さに背くものだった。女は王妃かあるいは女神のように感じられるべきもので、近づいてはならないものであった。

シルヴィ(1 ) ケータイ投稿記事

   1   失われた夜

私はある劇場を出るところであった。そこの桟敷に夜毎、私は、恋する男にふさわしい身なりで現れていた。館内は時には満員であり、時にはがらがらだった。三十人くらい義理で駆り出された芝居好きだけで埋まった平土間や桟敷を眺めることには興味がなかったし、あるいはまた、各階すべてが花飾りの衣装、きらめく宝石、晴れやかな顔ばかりの、活気に満ちた劇場のざわめきに同化したいとも思わなかった。館内の光景には無関心だったし、芝居もほとんど私の関心外だった。
ただ、その頃、傑作と言われていた陰気で退屈な作品の第ニ、あるいは第三場で、よくしられた一人の女優が登場して、空虚な空間を輝かせ、私を取り囲んでいるいくつものうつろな顔に彼女の一息、または一言で生気を与える時は話は別であった。
私は自分の生き甲斐を彼女のうちに感じていた。彼女はただ私だけのために生きていた。彼女の微笑みは私を限りない陶酔感でいっぱいにした。とても甘いのに力強い彼女のふるえ声は、私を歓喜と愛とでわななかせた。彼女は私にとってあらゆる完璧さを備えていて、私のどんな熱情にも、どんな気まぐれにも答えてくれるのだ。下から彼女を照らすフットライトを受けると昼のように美しく、フットライトの明かりを落とし、上からのシャンデリアの光に照らしだされ、より自然な姿を見せる時には夜のように蒼白く、彼女一人の美に包まれて輝くその姿は何とも言えないものであった。

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