アレキサンドリアからの便り

アメリカ、ヴァージニア州アレキサンドリアより

生き方の指標

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質的競争に挑め

「質的競争に挑め」
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 アカデミズムという世界には「売って読ませる」という販売手法がある。権威づけ
された教科書を売りつけるための販売法、それがこの「売って読ませる」である。い
ま、この「売って読ませる」という考え方で生産された本が売れない。相手にもされ
ない。

 この「売って読ませる」という考え方は、売ることと読ませるということが一体に
なっている。読者が、どう読むかは考慮されいてない。だた、売って持たせておけば
いいのである。こういうやり方は、いまだにアカデミズムという世界では通用するら
しい。それも、教科書という名称をかぶせた翻訳書に。

 この「売って読ませる」というやり方を忘れられないのか、別のやり方が思いつか
ないのか、やめたくてもやめられない人間がいる。みせかけの権威に追従し、いつま
でも「売って読ませる」という前提でボロイことを考えているから、いつまでたって
も読者の心をつかめない。

 翻訳書を手にとり、実際に読んでみて「定価」で買うかどうかは読者が決める。「
定価」で本を買ってもらいたいなら、それに見合うだけの価値がなければならない。
いまどき、立ち読み程度で本を買う人は少ない。立ち読みは「捨てるべきか読むべき
か」を判断しているにすぎない。

 すべてのページを通読し、一部を熟読してみて、手元に置いておくだけの価値があ
ると思った本しか読者は買わない。それが、いま起こっている現実である。読者の選
別の目は鋭く、容赦ない。その読者が要求しているのは最高を超えた新しい価値だ。
けっして最低のなかのクズではない。

 いくつかの出版社は、読者の要求に反応しはじめている。とはいえ、読者には「読
者の本棚」があることには、まだ気づいていない。「読者の本棚」をじっくり観察す
れば、その本棚のスペースは無限ではないこともわかる。もっとよく観察すれば「何
が」大切に並べられているのかもわかる。

 みせかけの権威を突き抜ければ、さまざまな可能性が目の前にひらける。なにも、
既刊の新訳復刊だけではない。古典をさまざまな翻訳スタイルで翻訳出版することも
可能になる。一流の翻訳作品なら、競合せず共存することができるし、共存するから
こそ質的競争になる。

 ウソだと思うなら、クラシック音楽のCD売場に行ってみればいい。小澤征爾のホ
ルストがあり、カラヤンのホルストがあり、バーンスタインのホルストがあり、マゼ
ールのホルストがあり、無名新人のホルストがある。

 小澤征爾のホルストも、カラヤンのホルストも、バーンスタインのホルストも、マ
ゼールのホルストも、無名新人のホルストも競合せず、共存しているのはなぜか。そ
れは、「好みの違い」という次元にまで市場が高められているからである。この市場
では、カラヤンが一番上で、小澤征爾がその下などという不毛な議論はおこらない。

 ホルストが聴きたいなら、優秀な無名指揮者のホルストもある。うれしいことに、
千円で買える。分厚い解説書などいらないし、どこの管弦楽団だろうが、どこのコン
サートホールだろうが、何年の録音かなんて気にしなければ千円のCDでも充分に楽
しめる。

 翻訳出版で質的競争が本格化すれば、真っ先に消えるのはニセ学者だ。インチキ翻
訳者もインチキ翻訳がバレて退場である。残るのは、質的競争に挑み続ける翻訳家だ
けになる。そうなれば、読者の「好み」によって翻訳書が選別され、質的競争環境が
、新たな翻訳家を育てる土壌になる。

(平岩大樹=通訳翻訳館)

 ◇平岩大樹
  1998年10月、「通訳翻訳館」の前身となった非営利求人求職サイト「個人
  翻訳通訳館」を立ち上げる。2000年に同サイトを「通訳翻訳館」に名称変更
  するとともに「通訳」と「翻訳」に特化した求人求職サイトを始める。現在、通
  訳翻訳館の館長。http://www.ithouse.net

はがされた権威

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■◇「はがされた権威」
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 「失われた十年」という言葉を使いたがる人間がいる。何度も何度も「失われた」
のだと訴えている。彼らとって、失われたのは「十年」ではない。彼らが失ったもの
は「権威」である。しかも、「失われた」のではなく「はがされた」のである。

 時代の裂け目か、新時代の入口か、それは観る人間の見方にすぎない。ある人間に
とっては「失われた時代」かもしれないし、ある人間にとっては「恵みの時代」かも
しれない。「解放の時代」だって悪くない、「挑戦の時代」だっていい。

 どこかの新聞で、雑誌で、本で「失われた時代」などと自信たっぷりに書いてある
からといって本当にそうなのかといえば、そんなことは証明のしようがない。百年後
の歴史家だって、証明のしようがない。十人の歴史家を集めたところで、せいぜい十
通りの見方が出てくるだけだ。

 自分で実際に観たこと、感じたことに優るものなど、この世に存在しない。自分が
観たこと、感じたこと、それを素直に受け入れ、表現し、行動すればいい。ところが
、それをやられては困る人間がいる。しかも「権威がある」などといっているところ
に、仮面をかぶってふんぞりかえっている。

 支配する側、権力を握っている側にしてみれば、一人ひとりの人間が観たこと、感
じたことを素直に表現し、行動されたら、支配しにくくなる。あらゆる不備、不正を
指摘され、組織や制度に改善と改良を加えねばならなくなる。そうなれば、支配者の
支配力、権力者の権力は、うす皮をはがされるように剥がされていく。

 支配者や権力者が、自らの支配力と権力を保持するために編み出したもの、それが
権威という「飾り物」である。この「飾り物」は、美しいもの、珍しいもの、手に入
りにくいもの、意味がわからないもの、理解できないもの、馬鹿げたものなど、時代
や文明によって多種多様なものが考案され、発明されている。

 古代文明では、金細工や希少鉱石で飾られた「冠」や「仮面」が権威の象徴として
、支配力と権力の源泉となっていたし、聖典、聖杯、聖剣などといった宗教がらみの
品々も、いまだに神聖化され、崇拝されている。

 日本の「飾り物」は香木や焼物だったこともある。金ぴかの仏像、巨大な仏像、み
んな「飾り物」の変り種である。つい最近まで、翻訳書はその「飾り物」の一つにな
っていた。

 明治の翻訳家、福沢諭吉は洋書から学べと説いたが、洋書そのものを「飾り物」に
しようとはしなかった。福沢ほどの翻訳家なら簡単にできたことである。だが、そう
しなかった。洋書を「飾り物」にしてしまえば、洋書から学べなくなる。なぜなら「
飾り物」は学ぶものではなく、拝むものだからだ。

 福沢は、それをよく知っていた。洋書を拝むものにしてしまえば、新たな支配者や
権力者に都合よく利用される。そうなれば、良薬でも毒薬になってしまう。だから、
新たな支配者や権力者にとって、福沢は邪魔者だった。当然、福沢は命を狙われた。

 福沢の死後、洋書は万民が学ぶものではなく、もっぱら支配者や権力者に都合よく
解釈され、思想統一のための道具となった。富国強兵を支えた思想は、西欧文化や西
欧知識を「人類普遍の公理」だと思い込ませたところで生まれた。洋書は「人類普遍
の公理」が書かれた「飾り物」となり、学ぶものではなくなったのである。

 いつしか、福沢の偉業は「啓蒙思想」という言葉で覆い隠され、ぼかされ、忘れら
れた。現在と過去を連結するはずの古典は死語で殺され、現在と過去は切り離され、
過去の代用に虚像と神話が接合された。この壮大な実験は、昭和初期の悲劇をもたら
し、敗戦という形で国家の破綻を招いた。

 教訓はこうだ。翻訳書を支配者や権力者の「飾り物」にさせてはならない。翻訳書
は、人間をひれ伏させ、従属させ、支配するための「飾り物」ではない。翻訳書を支
配者や権力者の「飾り物」にしておけば、ひと握りの支配者や権力者のために多くの
犠牲者がうまれる。

 虚像と神話は、人々に幸福と繁栄をもたらさない。言論は統制され、みせかけの権
威が跋扈し、アカデミズムという仮面をかぶった「ニセ学者」の温床ができあがるだ
けだ。いま、求められいるのは福沢の理念を受け継いだ翻訳家である。命をかけて翻
訳に取り組む翻訳家である。

(平岩大樹=通訳翻訳館)

 ◇平岩大樹
  1998年10月、「通訳翻訳館」の前身となった非営利求人求職サイト「個人
  翻訳通訳館」を立ち上げる。2000年に同サイトを「通訳翻訳館」に名称変更
  するとともに「通訳」と「翻訳」に特化した求人求職サイトを始める。現在、通
  訳翻訳館の館長。http://www.ithouse.net

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