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「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」の略称で,1941/11/5の御前会議の直後,天皇の意図を汲んだ東條首相が,下僚に対して研究することを命じ,同月15日の連絡会議で決定されたもの.
要点は,以下の通り. 1. 主要資源地域と主要交通線を確保して,長期自給自足体制を整え,また,適宜,米海軍主力を誘致,撃滅すること 2. 英国を屈服させるため, ・豪・印と英国の連絡を遮断し,ビルマの独立を促進してインド独立を刺激すること ・ドイツ,イタリアは近東,北アフリカ,スエズ作戦を実施し,インドに対し施策し,対英封鎖を強化して,状況が許すようになったら英本土上陸作戦を実施すること (※ドイツ・イタリアの与り知らないところで勝手に決めているんだけどね,これ) 3. アメリカの継戦意思を喪失させるため,以下の措置をとること ・フィリピンの現政権を存続させて取引材料とし,対米通商破壊戦を徹底し,中国,南洋資源の対米流出を禁絶し,対米宣伝・謀略を強化し,米豪関係の離隔を図る. ・ドイツとイタリアは,大西洋,インド洋でのアメリカに対する海上攻勢を強化し,中南米に対する軍事・経済・政治的構成の強化を図る (※ドイツ・イタリアの与り知らないところで(以下同文) 4. 戦争終結の機会をトラエルタメ,常に戦局の推移,国際情勢,敵国民心の動向などに注意して,以下の時機を窺うこと ・南方作戦の主要段落 ・対中国作戦の主要段落,特に蒋介石政権の屈服のとき ・欧州戦局の変化の好機,特に英本土陥落,独ソ戦の終末,対インド施策の成功 そして,戦争終結の斡旋を南米諸国,スウェーデン,ポルトガル,法王庁などに期待し,これら諸国に対する外交・宣伝を強化すること この構想の問題点としては ・自給自足体制の確立を維持するための方策を重視することなく,逆に米海軍主力の誘致導入という,短期決戦の方策を強調していること. ・蒋介石政権の屈服を方策として挙げているのは本末転倒.
米英と開戦するハメになったのは,日中戦争解決に行き詰まって南方進出に戦略転換を求め,仏印に武力進駐したことであり,蒋介石政権を早期に屈服させることができるのであれば,そもそも戦争になどなっていない. ・最も実現可能性のある英国打倒にしても,日本ができることは東亜の英根拠地撃滅と,英豪連絡線遮断ぐらいで,あとはドイツ頼み.にも関わらずドイツとの間で大戦略を調整することはなく,日本側の一方的願望を書き並べているだけ そして、
・アメリカは長期戦を戦い最後に勝利することに政戦略の基礎を置いていたので,開戦初期の日本の作戦的勝利によってアメリカが講和に応じることはありえず, (当時状況下における対米戦争=破滅、アメリカは日本の占領を最終目的としていた。実際、日本の海軍戦力が壊滅したレイテ決戦以降において日本は講和を求めた動きをするが総て黙殺されてる。)
しかも,その斡旋を期待する国が小国であって,大国同士が存亡を賭けて戦っている戦争を調停できたとは思われない。
このような非現実的な構想が策定された背景として,軍の 「民主主義国民はいざとなれば強いのだとなす今日の世論は軽薄である. すべては作戦である. 作戦さへうまく行けば,民主主義国民は真先に参るものと信ずる(『石井秋穂大佐回想録』;石井大佐は起案当事者) という低レベルな認識があったのではないかと,黒野は示唆している. 詳しくは『日本を滅ぼした国防方針』(黒野耐著,文春新書,2002.5.20),p.220-225を参照されたし. 願望を並べるだけなら,いくらでも「自主的に」行うことはできる. しかし,この構想を見ても,どれだけ願望を並べても防衛は可能とはならない,ということが良く分かるだろう. そして太平洋戦争以前の戦略も,これとあまり大差ない「願望を並べただけの代物」であり,「防衛」と呼ぶにはお粗末な構想だった. また、「対米英蘭戦争指導要綱」では以下の通りである。
・戦争目的は「帝国の自存自衛を全うする」
・対米英蘭戦争は長期戦になるだろうから,万般の施策を長期戦の基礎に合わせる必要があるが,なお,あらゆる手段を尽くして短期解決の道を講ずる(?)
・先制奇襲によって戦争を開始し,迅速な作戦によって米英蘭の根拠を覆滅し,戦略上優位の体制を確保すると共に,主要資源地域と主要交通線を確保して,長期自給自足体制を整える. この間,適宜,米海軍主力を誘致,撃滅する(?) ・経済戦では,中国の資源の活用と,南方資源の流失を防止
・外交戦では,ドイツを対米戦に参戦させ,日本の南方作戦間は対ソ戦の勃発を避け,ドイツとソ連を講和させて枢軸側へ引き入れ,ソ連をインド,イラン方面に進出させる (……無理がありすぎる) ・思想戦については,米国与論を刺激してその海軍主力を極東へ誘致し,また,米国の極東政策の反省を促し,かつ,日米戦争が無意義なる与論を刺激する.
さらに,東亜の諸民族を白人の支配から解放して,大東亜共栄圏を建設することを呼びかける. (ルーズベルト大統領は,日本が南進して東亜を制覇して国力を増大させることは,アメリカの死活的利益を侵害することであり,アメリカの安全保障を脅かす行為であると考え,日本との戦争になる可能性があることを認識した上で,アメリカの強硬な姿勢を示すことにより日本を屈服させようとして,実質的には石油禁輸を意味する在米日本資産凍結を命令したというのに反省などしないだろう。)
・ 戦略というよりは願望寄りのものになっている感が否めない. 願望では防衛は達成できないことは,改めて言うまでもなかろう. この「対米英蘭戦争指導要綱」の問題点だが、
日本は当時,日中戦争を戦いつつ,北方からのソ連,西南方からの米英蘭豪の脅威に直面していたのだから,戦争指導構想はこれら6ヶ国との戦いの枠組で考えるべきだった.
・そもそも開戦を決断するに至ったのは,大東亜共栄圏建設を目指して,6ヶ国と対立を推進してきた結果であり,自存自衛,すなわち石油さえ購入できれば戦争目的は達成されたとするのは,それと矛盾する. ・要則において長期持久戦でありながら,実行において短期決戦を追及するのは,長期戦の本質を見失っている. (見失うことになった最大の問題点は,「長期戦の準備もできていないのに,アメリカと戦争になる可能性が高い国策を遂行してきたこと」) ・長期自給自足体制を確立するとうたっているにも関わらず,日本に輸送するための船舶とこれの護衛が重視されておらず,実際に準備もできていなかった. ・本戦争の本質がアメリカの継戦意思を放棄させることにあったにも関わらず,思想戦のくだりについては,アメリカの国家体制,国民性への無知が見られる. しかし、日本は太平洋戦争に際し,アメリカや周辺国と残らず敵対するような戦略を立てたのだから凄まじい。
そして、一番の問題は
米英との長期戦争に対する勝算,又は終結の目算が,明確に描かれていなかったことに問題があったのだろう。
願望で戦争し、現実に負けたのが日本である。
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戦争
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右系の方々主張する日中戦争、太平洋戦争は侵略戦争ではなく「自存自衛の戦争」とする根拠はこの要領に有ったのですね。経済戦の処には略奪戦である事が明記されているのに。地政学上、ソ連の存在が大きかった様ですね。米英の背後には共通して大西洋しか存在しませんが、日独の背後にはソ連が存在し、その不気味さに耐えかねてドイツは開戦して敗戦に追い込まれ、日本もまたソ連が参戦して来て敗戦に追い込まれる、日独共に不可侵条約をソ連と結んでいたとは言え、この米英との差が大きく効いた様にも思います。
2010/8/22(日) 午前 9:26 [ 憂国烈士 ]
憂国烈士さんへ
>その不気味さに耐えかねてドイツは開戦して敗戦に追い込まれ
余談ですが、ヒトラーの目標って最初からソ連なんですよ。
ドイツの生存圏の確保の為に、ウクライナの黒土地帯と、バクー油田を抑えたかったようです。
両所を確保する事で千年王国を建設するつもりだったようです。
2010/8/22(日) 午後 9:46 [ K9 ]
まぁ、願望で描かれた作戦要綱でしたが、太平洋戦争は侵略戦争ではなく「自存自衛の戦争」の面があるのは確かですね。
何せ、当事者自体が、勝算が疑わしいと思って開戦していますから。
侵略戦争なわけないですよね。
ただ、追い込まれた理由は、日本がアメリカを刺激し過ぎた事が原因なので、誇らしく自存自衛と言われても違和感を感じます。
2010/8/22(日) 午後 9:50 [ K9 ]